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単純心臓CTの有用性

玉城正弘

豊見城中央病院 循環器&ICU専属医
玉城 正弘

はじめに

心臓造影CT が隆盛である。特に64 列CT が普及することで、一般臨床における有用性が 広く認知されてきた。非侵襲的にわずか10 秒 以内に撮影を終え、得られる情報は多くある。 しかし、克服されないといけない2 つの問題が ある。撮影に伴う放射線被曝とヨード造影剤に よる造影剤腎症である。いずれも医原性に患者 予後を悪化させることさえなりかねない。特に 若年者や慢性腎疾患を有する際には、その撮影 の適応の有無は厳しく考える必要がある。そこ で、本稿では、被曝が胸部レントゲン1 枚程の 被曝(当院では平均0.25mSv)で済み、造影剤 を使用しない、単純心臓CT の臨床的意義を紹介したい。

1)冠動脈石灰化指数

過去20 年間、欧米を中心に千を超える冠動 脈石灰化に対する論文が発表されてきた。冠動 脈石灰化の存在は冠動脈硬化の確実な存在を意 味し、それを算定することで冠動脈の動脈硬化 量を推定でき、将来のイベントを推定できるのである。冠動脈石灰化指数coronary artery calcification score(以下CACS)として広く欧 米では用いられている。CACS は図1 で述べ たAgatston の方法を用いて算定され、重症度 分類は、CACS 0点が算定可能な石灰化なし、 1 〜 10 点が極軽度、11 〜 100 点が軽度、101 〜 400 点が中等度、401 点以上を高度としてい る。冠動脈疾患を有する危険群の同定と冠動脈 疾患関連のハードイベント発症の予後予測因子 として、各種ガイドラインにも引用されるよう になっている1,2)。具体的な活用法を述べる。

図1

図1 CT による冠動脈石灰化指数(CACS)の算出法

1)無症候の冠動脈イベント高リスク患者群を同定する

同群の同定には、年齢、性別、総コレステ ロール値、HDL コレステロール値、喫煙の有無、 収縮期血圧、糖尿病の有無を用いたフラミング リスクスコア(Framingham risk score, FRS) が有名である。冠動脈疾患が約4 倍日本より多 い欧米白人のデータから算出されているのでそ のまま適応するのは問題があると言われている が、欧米の生活習慣病の疾病構造に近い本県の 若中年者には使用できるかもしれない。算出は インターネットででき、10 年以内の冠動脈死、 心筋梗塞が算定できる(狭心症は含まれていな いことは注意を要する)。10 年以内のイベント リスクが10%以内の軽度群、10 〜 20%の中等 度群、20%以上の高度群の3 群が同定できる。 軽度群、高度群においてはその後のマネージメ ントには困らないが、実際の臨床の現場では中 等度群のマネージメントをどう行うか、困ると ころである。そのFRS で同定された中等度群においてCACS を適用することで、さらに軽 度群と高度群を同定できるのである。有用性は 特に女性において高いと言われている。

2)心臓年齢を推定する(図2)

 FRS において年齢と性別が最も重要な因子 と言われている。それを応用すると各年齢、性 別における心臓年齢を推定できることにもな る。同様なことをCACS の年齢、性別毎のパー センタイルランキングを使用し算出できるの で、患者説明の際の冠動脈硬化の重症度の理解 を助けることになる。

図2

図2 性別&年齢毎のCACS パーセンタイルランキング

3)負荷試験を実施すべき患者群の同定

FRS で同定された無症候性の高危険群にすべ て負荷試験を行うのは、事故誘発の危険性と多 くの人的資源が必要であるので、実際は難しい。 また、偽陽性者を拾いあげること(特に女性に おいては運動負荷試験で偽陽性者が多い)で無 用な検査、治療を追加することでコストが増え る、という問題が生じる。ある報告によると CACS が0 〜 10 点までなら負荷心筋シンチは すべて正常で、400 点以上なら46%も陽性であっ たということである。当院では、非心臓疾患の 手術前検査、特に運動負荷試験が実施できない 高齢者の整形外科術前患者においてCACS を頻 用している。図3 に、手術前にCACS を算出し 見つかった無症候性の重症冠動脈疾患者の典型 的な一例を提示する。このような例は稀ならず あるので、当院の外科系の先生方には手術前検 査として重宝される検査となっている。

図3

図3 手術前に見つかった無症候性重症冠動脈疾患の一例

4)CACSは負荷試験、冠動脈造影検査を上回ることもある

急性心筋梗塞、不安定狭心症のいわゆる急性 冠動脈症候群の68%は有意狭窄病変から生じ るのではなく、有意狭窄ではない75%狭窄未 満病変のプラーク破裂が大多数である。有意狭 窄病変を同定する負荷検査、冠動脈造影検査は 将来の急性冠症候群を発症する患者群を推定で きない、と極論する意見もある。Berman 等の 報告によると負荷心筋シンチ検査が正常である にもかかわらず、CACS400 点以上が31%も存 在したと報告している。CACS で評価しなけ れば、短期的には虚血を解除する侵襲的な治療 は不要であったにせよ、長期的には薬物療法の 強化を必要とする3 割もの患者が見逃された、 と解釈されるかもしれない。

5)高齢者においては、高度冠動脈石灰化は心不全の予測因子となる

無症候性の高齢者を6.8 年追跡したところ、 CACS > 400点以上はCACS < 10点に比し、 4.1 倍心不全発症の危険性があると最近報告さ れた3)。成因についての詳細は記載されていな いが、冠動脈イベントの予測因子以外の用いら れた方であり、興味ある報告である。

2)冠動脈石灰化以外にわかること

1)心臓のサイズ

MRI との左室容量、左室心筋量において 相関するといわれる。高血圧心、心筋症の 追加情報となる。

2)心筋脂肪変性

脂肪はCT 値が低くなるので、脂肪部が黒 く描出され、正確に脂肪変性を描出できる。 不整脈原性右室心筋症や時間を経て脂肪変 性をきたした陳旧性の心筋梗塞部を診断で きる。

3)大動脈弁狭窄症の重症度評価 (図4)

高齢者の大動脈弁狭窄症は、ほとんど動脈 硬化由来である。重症大動脈弁狭窄症の重 症度は、ほぼ大動脈弁石灰化の程度と相関 するので、慣れてくると定性的にその重症 度が推定できるようになる。心エコーと共 に用いるとより確実に重症度評価ができる。

図4

図4 重症大動脈弁狭窄症には高度石灰化がみられる

4)胸部大動脈径

正常の大動脈径は、大動脈根部2.5 〜 3.7cm、上行大動脈2.1 〜 3.5cm、下行大動 脈1.7 〜 2.6cm である。無症状である大動 脈瘤患者を早期に同定できるので、CACS 評価時には是非一度はみておきたい。

5)心外膜脂肪

メタボリック症候群の内臓肥満は腹部内臓 のみならず心臓周りにもあることがわかっ てきた。冠動脈硬化と心室拡張能への関与が 報告されている。CT にてその沈着量の計算 値は高い再現性があるので定量測定できる のである。内臓肥満と心臓疾患との直接的な 関連を評価できることに注目されている。

終わりに

被検者負担が少なく、コストパフォーマン スの高い単純心臓CT を有効活用することによ り、効率の高い医療を提供できると思われる。 特に生活習慣病を有する患者群から虚血性心疾 患をスクリーニングするには、エビデンスレベ ルも高くなっているので、検査被曝が胸部レン トゲン数枚で済み、ヨード造影剤を用いない本 検査の有効活用を提言したい。

参考文献
1. Using noncontrast cardiac CT and coronary artery calcification measurements for cardiovascular risk assessment and management in asymptomatic adults. Vascular Health and Risk Management 2010:6 579-591
2. Comparison of Novel Risk Markers for Improvement in Cardiovascular Risk Assessment in Intermediate- Risk Individuals. JAMA 2012 Aug 22;308(8) 788-95
3. Coronary calcification and the risk of heart failure in the elderly: the rotterdam study. JACC Cardiovascular imaging 2012 Sep;5(9):874-80