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消化器内視鏡会会長 奥島憲彦先生

Q1. 昨年の本誌3 月号の分科会研究会からの報 告コーナーでは沖縄消化器内視鏡会の活動な どご紹介を頂きました。そこで今回は先生に 直接お会いしてお話しをお伺いできる機会を 作って頂くことになりました。初めに会長に 就任されてこれまでを振り返って頂きます と、どのようなご感想をお持ちでしょうか。

○奥島先生 沖縄消化器内視鏡会は、開業医 の先生を中心に昭和38 年に発足しました。当 時は熱心な先生方が沢山おられて、全国の一流 の先生を招いて仕事を終えてから内視鏡の実技 を指導してもらっていました。初めは胃カメラ 同好会だったのですが、それから消化器内視鏡会になりました。

現在、会の活動の中心は毎月1 回第4 水曜日 19 時30 分から沖縄県医師会館で例会をやって おります。県内の病院が当番で毎回2 例〜 3 例 の症例を持ちより検討をしています。毎回、勉 強になる症例が多いのです。そういった会を続 けながら5 年おきに記念誌を発行しています。 45 周年記念誌は前会長の県立中部病院慶田先 生が中心になって作っており、今年は50 周年記念誌を作る事になっております。

○出口先生 奥島先生は内視境会に入会されて何年くらいですか。

○奥島先生 25年ぐらいになります。それま での時代は、歴代の会長大城毅先生、喜屋武朝章 先生、幸地昭二先生、金城綱一先生、前田憲信先生、 山内義正先生、佐久本健先生、高里良孝先生など ほとんど開業医の先生方が通常の診療を終えて 夕方頃から集まって、夜を徹して実技の講習をし たりと一生懸命会を盛り上げてきました。凄い情熱のある先生達です。

○出口先生 内視鏡会の歴史をお伺いしてい ますと、県内の開業医の先生方の内視鏡の導入は全国的にみて早かったと感じますが。

○奥島先生 そうですね、早かったと思いま す。開業医の先生方が中心となって消化器の診断とか治療をやっていました。

○出口先生 普通、新しい医療技術とかは総 合病院とか大学病院とかから入ってきて段々と 開業医の先生方に入っていくようですが、本県の場合は違うようですね。

○奥島先生 おそらく、その当時は大学病院 はまだできてなかったからかもしれませんね。 県立病院はありました。その当時県立病院は救 急が主体なので救急の内視鏡は発達していたと 思います。開業医の先生が立ち上げ、その後琉 球大学、県立病院、総合病院が主体となってきました。

○出口先生 奥島先生は11 代目の会長にご就任されてから何年経たれたでしょうか。

○奥島先生 1期2年なので今、1 期を終えて2 期目に入っています。

○出口先生 会長になられて変わられたことなどはありますか。

○奥島先生 毎回例会に出ないといけないの で患者さんの具合が悪い時のスケジュール調整 などで大変な所もありますが、見た事もない症 例があり多くの事が勉強になります。最近の傾 向としては20 代、30 代の先生方が積極的に参 加するようになり、月によって差はありますが 参加人数が20 人から多いときでは40 人参加して頂いています。また、若手の先生の積極的 な発言を聞いていると色々な病院で診療に教育に頑張っている事を感じます。

Q2. 沖縄消化器内視鏡会における最近の話題などをお聞かせ頂ければと思います。

また、今後の展望や課題などについてもお聞かせ頂ければと思います。

○奥島先生 内視鏡はがんの早期発見、早期 治療が大事な事の一つだと思いますが、早期の がんを一括で切除する技術が最近ようやく確立 されてきて、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術) が最初に胃がんで発達してきたのですが、食道 がんに適応になって、去年から大腸がんが保険 適応になりました。大腸は技術的に難しい事が あって最後に適応になりましたね。

沖縄県には県外のトップクラスの先生方が指 導にいらしているので、そういう機会は結構多 くて各施設で積極的に行われるようになってい ます。例会の症例に関しても難しい食道がん、 胃がん、大腸がんのESD の症例が増えていま す。これは安全に技術的に確実にできる事が大 事です、そこで「おきなわクリニカルシミュレ ーションセンター」に術達者の先生をお招きし てトレーニングが受けられるよう、当会が勉強 の架け橋にならないといけないのではと思いま す。それが実現できたら治療のレベルの方もア ップしていくと思います。

他に、診断技術も発達してきていて、NBI (Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)とい う狭い波長の青と緑の光を当てて観察する方法 があります。これは表面より細かい血管が緑、 茶色として浮き出てきて微細な模様が浮き出て きてきます。例えば食道がんでは昔はルゴール をかけないと分らなかったのですが、色素をか けなくても瞬時に内視鏡の光をNBI に変える と見えやすくなる。特に頭頸部がんと食道がん の早期発見の発見件数が増えてきています。

○出口先生 県内でも増えてきているのでしょうか。

○奥島先生 県内でも少しずつNBI 付きの 内視鏡が導入されてきています。もうひとつは、 拡大内視鏡が発達してきています。90 倍に拡大して血管網のパターンを読んで、悪性か良性 か、これは粘膜がんだとか粘膜下層がんだとか の深達度診断が大まかにできてきています。内 視鏡で病理診断までしていく流れにあります。 これが今のトピックで、県内でもカンファレン スとかによくでてきます。微小血菅の血液の流 れが見えるのには感動します。

○出口先生 学術的、臨床的に話題を頂きましたが、会としてはいかがでしょうか。

○奥島先生 新しい活動はなかなか無いので すが、最近は若手が増えてきたのが大きいです ね。もともと開業医の先生が中心でしたから、 経験豊富な先生方からのアドバイスとか知恵は 非常に重要ですね。やはり診断に関しては経験 が物を言う事が多いですからね。

○出口先生 近年は認定医や専門医などの資格が増えてきていますが、資格取得についてはどうでしょうか。

○奥島先生 昔は指導医とか専門医が少なかったのですが、最近では琉球大学や総合病院の勤務医を中心に急激に増えてきています。とても心強いですね。これは単に資格をとるという事ではなくて高度の診断技術、治療技術を持った指導医が増えているのは最近の傾向かもしれませんね。

○出口先生 資格試験を受ける為に必要な知識とかそういった経験を積む為にも内視鏡会に入会して症例検討会にでるということは大きなメリットになるという事ですね。

○奥島先生 そうですね、学会に行く事も大 事なことですけれども前会長の慶田先生も毎回 例会に出てコメントで「こういう症例は初めて 見た」とか、「珍しい症例にあって自分は来て良 かったと思っている」という様な事をおっしゃ います。私自身も毎回参加していますが、忙し い時間を割いて行って、そういう珍しい症例を見てディスカッションをする事で勉強になり、 毎回行って良かったと思う会になっています。

○出口先生 会では沖縄県医師会館をよく活用していただいているとのことですが。

○奥島先生 以前は浦添の方でやっておりま したが、今は広々として勉強がしやすいような 環境になってます。高速からも近いですので北 部から参加される先生方にとっても非常に便利 になったと思っています。内視鏡会が開催する 講演会も会館を貸して頂いて集まりがよくなっている気がします。

○出口先生 最近の話題と言いますか、情報 誌で見たのですが、内視鏡でフリーランスをし ているドクターがおられて、何曜日の午前中は ここの病院に行くとか、そのような仕事のやり方が出てきているようですが。

○奥島先生 これは資格があれば件数である 程度の給料が出せるので、可能だと思うんです。 例えば子供さんがいる女性の消化器内視鏡医を 採用して、この日の午前中だけでというのは実 際に行われています。内視鏡も上部の内視鏡と 下部の内視鏡がありますので、それが両方でき れば申し分無いと思います。

○出口先生 女性医師の新しい仕事のやり方 として内視鏡の資格をとってフリーランスをやるっていうのはいいかもしれませんね。それに は最低限でも専門の資格がないといけないという事ですね。

○奥島先生 そうですね。そういった契約は 今後もできる領域ではないかと思います。しっ かりした診断技術と資格。それとカメラの検査 は侵襲的な検査になるので患者さんに辛い思い をさせない様に努力する事は非常に大事な事で すよね。それも魅力的な技術の一つなのです。

Q3. 症例の検討や技術の錬磨などの勉強会とし ての活動以外に、業績を纏めた記念誌を発行 されたり、全会員施設のデータを纏められて いるなど研究や学術面での活動も活発に行わ れているようですが、この点についてもお聞 かせ下さい。

○奥島先生 そうですね、先達が5 年おきに 記念誌を出しております。業績とかは琉球大学 の金城福則先生にお願いし、各理事の先生方が 例会の症例や資料を集めたりした後、特別講演 をしていただいた先生の資料を掲載しています。

この記念誌にあわせて5 年に一度は全会員に 協力していただき疫学調査を掲載しています。 前回は消化性潰瘍とGIST でした。今回1 つは バレット食道です。今、GERD が増えている ので逆流性食道炎がバレットをつくるのではな いかという説がありまして、では沖縄の人では どれ位の頻度なのか1 年程かけて前向き調査を しています。2 つ目は、胃がんの調査もおこな います。

○出口先生 前向き調査ですか。学術的に評価が高いですね。

○奥島先生 なかなか難しいですけれども ね。そういう事をやる事が地域の内視鏡会とし ては意味があると思います、沖縄県を網羅して いる訳ではないのですが大まかな施設は参加し ていると思いますので、意味があると思います。

Q4. 新しい臨床研修制度が始まり10 年目を迎 えますが、それ以前と今では消化器内視鏡に おいて資格の取得や教育において何か変化し た事はあるでしょうか。

○奥島先生 昔だと1 年目ですぐ消化器内 科、消化器外科に入って研修をして、2 年目く らいから内視鏡を触って2 年目の終わりにはか なりの内視鏡ができるようになっていました。 今は3 年目から始めます。技術修得のスタート は遅くなりますが初期研修で色々な科の勉強が できるというのはいい事だと思います。

○出口先生 初期研修では内視鏡の手技は実際にはやらないという事ですね。

○奥島先生 検査には付きますけども実際に患者さんに施行するという事はないです。

○出口先生 それならシミュレーション教育などはどうでしょう。

○奥島先生 そうですね大事だと思います。 出口先生がおっしゃっていたおきなわクリニカ ルシミュレーションセンターは研修医も使える のでそこを有効に使っていけばいいですね。特 に診断もそうですけれども治療内視鏡に関して 整備がされてくれば有用だと思います。治療に 関してのシミュレーションモデルはまだ少ない のでそういうのも対応してもらえたら非常にいいなと思います。

○出口先生 そうなるとシミュレーションセ ンターをフルに活用して、先生方が行かれて指導されるということですね。

○奥島先生 そうですね、内視鏡会がリーダーシップをとってセミナーとかができるといいですね。

Q5. 県医師会や各会員に対するご要望などがございましたらお聞かせ下さい。

○奥島先生 新しい会館ができてとても助か っています。今後は会に病理医に参加して欲し いと考えています。以前、浦添の会館で症例検 討会をやっている時は医師会にプレパラートを 持ってきて投影する器械があって、病理の先生 が参加されていました。そういう器械を今の医 師会館に置いて欲しいですね。皆でプレパラー トを持ってきてディスカッションしたいですね。

あと、第4 水曜日の午後7 時半から医師会館 で例会をしております。当番が決まって症例を 提示するのですが、医師会・内視鏡・消化器の 先生方で困った症例などがあれば優先的に検討 する事になっています。時々持ってこられる先 生もいますので飛び入り参加で構わないので是 非参加をして下さい。

○出口先生 それは内視鏡会員じゃなくても大丈夫ですか。

○奥島先生 大丈夫です。いろんな病院のベ テランの先生もいますので解決策が必ず見つかると思います。

それと、今はまだ僕だけしか沖縄でしてい ませんがPOEM(内視鏡的筋層切開術:Per- Oral Endoscopic Myotomy)という食道アカラ シアの手術があります。腹腔鏡の手術では3 本4 本腹部に穴をあけてやっていたんですが、 ESD の技術を利用しています。食道粘膜を切 開してスコープを粘膜下層に入れてトンネルを 胃までつくります。次に内輪筋を切開してクリ ップで閉じるので体表には傷が全くつきませ ん。これまでにこの手術を5 例しました。技術 的になかなか難しいところもありますが、昭和 医大の井上晴洋教授が開発したいい方法です。 今後は先進医療に申請しようと思っていますの で、医師会の先生方にも知って頂きたいと思っ ています。

Q6. このコーナーでは最後に座右の銘やご趣 味、そして健康法などをお伺いすることに事 になっています。奥島先生と言えばやはり剣 道、そして琉大第一外科の講師をされていた ころには、毎年、新入医局員や研修医を引き 連れて那覇マラソンに参加されていた印象が 強いのですが、ご近況なども含めてお聞かせ下さい。

○奥島先生 マラソンですが、出口先生もご 存じのとおり外科医は忙しいのでなかなかスト レス発散の方法がないのと、立っている仕事な ので足腰を鍛えるのが必要だと考えて走り始め ました。県医師会の宮城信雄会長は凄いですよ。 会長はマラソンを3 時間位で走るのですが、僕 はギリギリの6 時間かけて走るタイプです。で も10 回くらい完走しました。何年か前に左膝 の半月板を損傷してからフルマラソンは控えて います。新研修制度が始まってからは、ハート ライフ病院では自由参加ですが全員、久米島マ ラソンの10 キロの部に参加しています。研修 医の1 期生はホノルルマラソンに連れて行きま したが、時間もかかるし「指導医がホノルルに 行った事がないのになんで研修医がホノルルに 行っているんだ」と凄いお叱りを受けました。 それから2 期生以降は久米島マラソンになりま した、公立久米島病院はうちの初期研修医の研 修病院の一つですので、村田院長にも前日に離 島医療の講話をしていただいています。久米島 では走る以外にシュノーケリング、バーベキュ ー、温泉にもはいり、楽しい時間を過ごしてい ます。マラソンの成績はいつも僕が最後尾です。

○出口先生 剣道の方はいかがですか。

○奥島先生 ハートライフ病院に2 年前にや っと剣道部ができました。4 人しかいませんが、 部長の當銘事務部長は7 段です。女性の整形外 科医の後藤先生は3 段です。西原体育館で月1 回稽古をしています。親川クリニックの親川先 生、今井クリニックの今井先生など院外からの参加もあります。

○出口先生 以前、先生は大会によく出られていたようですが最近はどうでしょうか。

○奥島先生 今でも医師の剣道大会に毎年出 ています。去年鳥取、今年は仙台であります。 全国から大体100 人ぐらい集まります。この 試合は勝ち負けを争う勝負ではなく、拝見試合 で互いのレベルに合った人と試合をして最後に 優秀選手、優秀試合を選びます。去年の鳥取の 大会では全く予想していなかったのですが、優 秀選手の1 人に選ばれました。6 人くらい選ば れるのですが、皆凄い人が多いです。

○出口先生 県内医師会には剣道部はあるのでしょうか。

○奥島先生 沖縄県の医師剣友会がありま す。2 ヶ月に1 回県立武道館でやっています。 棚原恵教八段にご指導をお願いし、沖縄県剣道 連盟の七段の先生も多く参加します。こちらも 人数が少ないのですが豊見城中央病院の整形外 科部長の永山先生、西崎病院の名嘉佳代先生、 南部徳洲会病院の赤崎院長、琉大医学部の剣道部も来ています。

○出口先生 本日はお忙しいところインタビューに答えて頂きましてありがとうございしました。