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アレルギー性鼻炎に対する手術治療について
〜アレルギー週間(2/17 〜 2/23)に因んで〜

上原貴行

琉球大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
上原 貴行

はじめに

アレルギー性鼻炎は、発作性反復性のくしゃ み、水様性鼻汁および鼻閉を3主徴とする疾患 で近年増加傾向にあるとされています。一般に アレルギー性鼻炎は通年性と花粉症に体表され る季節性があるとされ、2008年の全国的な疫 学調査ではその有病率は通年性で39.4%、花 粉症では29.8%とされています1)。沖縄県では スギに代表される花粉症の有病率は低いとされ、 一方でハウスダストを主因とする通年性アレルギ ー性鼻炎の割合が高いことが知られています2)。 アレルギー性鼻炎の治療には、抗原の除去と回 避、特異的免疫治療(減感作療法)、薬物治療 といった保存的治療が主体となる一方、鼻閉型 で鼻腔形態異常を伴う症例や保存的治療に抵抗 性を示す例や長期に薬物治療を要する症例での QOL 改善などを目的として手術治療が選択されます(表1)。そこで今回は、アレルギー性 鼻炎に対する手術治療について述べさせて頂き ます。

表1 通年性アレルギー性鼻炎の治療

表1

アレルギー性鼻炎に対する手術治療

1)下鼻甲介粘膜凝固術

比較的低侵襲および簡便な日帰り手術として 行われ、また反復治療も可能なことから耳鼻咽 喉科診療で広く行われるようになってきていま す。ただし本治療はアレルギー性鼻炎に対する 根本的な治療ではなくあくまでも対症療法の一 つであることから、多くの場合約1 〜 2 年で効 果が消えてしまうことを治療前によく説明して おく必要があります。

・レーザーによる下鼻甲介粘膜凝固術

一般には、CO2、KTP レーザーなどが用い られ、アレルギー反応の場である下鼻甲介粘膜をレーザーで凝固することで物理的に減量 し、熱作用により粘膜下組織を凝固変性させ、 鼻閉・鼻汁・くしゃみなどの症状の改善を目 的として行われます。

・コブレーションシステムによる下鼻甲介粘膜凝固術

下鼻甲介粘膜に焼灼用プローブの先端を刺入 し、高周波電流によって低温で粘膜固有層を凝 固させる治療です(図1)。粘膜表層の変性を 抑えながら深部の粘膜下組織を十分凝固できる ため、他のレーザー治療と比較し術後の痂皮形 成が少ないなどの利点があり、症状改善の長期 成績が良好との報告があります3)。現在当科で もレーザー治療に代わり、主に外来診療の場で の日帰り手術として行っています。

図1

図1 コブレーションシステムによる下鼻甲介鼻粘膜凝固術

2)下鼻甲介切除術

下鼻甲介切除術の術式は一様ではなく、下鼻 甲介粘膜切除術、下鼻甲介粘膜下切除術、粘膜 下下鼻甲介切除術などがあります(図2)。保 存的治療に抵抗性の特に鼻閉型のアレルギー性鼻炎がよい適応と考えられます。本手術は鼻内 視鏡下に行うのが一般的で、多くは鼻中隔矯正 術や鼻副鼻腔手術に併用して行われます。術式 が多様な理由としては、下鼻甲介粘膜のもつ加 湿や加温機能といったエアコンディショニング や繊毛輸送機能などの生理機能の障害に配慮し た上で術式を使い分ける必要があると考えられ ます。低浸襲性の治療であるレーザー治療など と比較し、特に鼻閉症状については長期の改善 効果が期待できますが、一方で鼻内ガーゼパッ キングを含めた術後の処置・入院管理を要する ことや術後鼻出血のリスクがあることなどが欠 点として挙げられます。

図2

図2 下鼻甲介切除術の方法

3)後鼻神経切断術

主に難治性のくしゃみ・鼻汁過多に対して施 行され、下鼻甲介粘膜下骨切除術や鼻中隔矯正 術と併せて施行することで鼻閉にも有効とさ れ、アレルギー性鼻炎の症状改善に有用とされ ています。鼻腔側壁の知覚は前2/3 が三叉神経 第1 枝由来の前・後篩骨神経、後1/3 が三叉 神経第2 枝由来の後鼻神経からなり、また鼻腔 側壁への遠心性副交感神経はすべて後鼻神経の 支配となっています(図3)。後鼻神経の切断 によって鼻腔側壁後1/3 の知覚とすべての副交 感神経が遮断されることとなります。鼻汁分泌 は鼻粘膜に対する直接作用が20%、神経を介 する間接作用が80%とされており、後鼻神経 切断によってこの間接作用の鼻汁分泌が改善さ れることとなります。渡邉らは、後鼻神経切断 術に下鼻甲介粘膜下骨切除を併用した症例での 検討で、アレルギー性鼻炎の長期における症状消失・著名改善例が90%であったと報告して おり5)、有効性の高い治療と考えられます。

図3

図3 後鼻神経の切断部位(内側から鼻腔側壁から見た図)

まとめ

アレルギー性鼻炎の外科治療について解説し ました。アレルギー性鼻炎は有病率の高さから 国民病と位置づけられるようになり、また最近 では発症の低年齢化が問題となっています。根 治的な治療としては特異的免疫治療の臨床への 応用が待たれるところですが、現状では保存的 治療に抵抗性を示す症例には手術的治療の果た す役割は大きいものと考えられます。たかが鼻炎ですが、患者様からするとQOL に大きく影 響する疾患でもあります。当科でも上述の手術 治療を積極的に行っております。お困りの患者 様がおりましたらぜひ一度耳鼻咽喉科での御相 談を勧めていただければと思います。

参考文献:
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレ ルギー診療ガイドライン2009 年度版(改定第6 版), ライフ・サイエンス, 東京,2008.
2) 知念 信雄・他, 沖縄県における鼻アレルギーの実態, 琉大保医誌 3, 387-394,1981.
3) 谷 鉄兵・他, コブレーションシステムによる下鼻甲 介粘膜焼灼術の治療成績- レーザー焼灼術との比較検 討-. アレルギー 57(8):1053-1060,2008.
4) 小泉めぐみ、石尾健一郎, アレルギー性鼻炎 Q&A; アレルギー性鼻炎に対する下鼻甲介切除術の適応と有 効性について. JOHNS 25(3):409-411,2009
5) 渡邉 昭仁・他, アレルギー性鼻炎Q&A;アレルギー 性鼻炎に対する後鼻神経切断術の適応と有効性につい て. JOHNS 25(3):423-424,2009.
6) K Ikeda et al, Functional inferior turbinosurgery (FITS) for the treatment of resistant chronic rhinitis. Acta Oto-Laryngologica 2006;126:739- 745.