皮膚科領域における金属アレルギー
～アレルギー週間（2/17 ～ 2/23）に因んで～
高宮城皮フ科 髙宮城 敦
はじめに
多くの微量金属は生体にとって蛋白の一部の 構成因子としてまた補酵素として必要不可欠な ものである。一方でハプテンとして生体の蛋白 と結合し抗原性を発揮、様々な症状を呈するこ とがある。金属アレルギーはかぶれなど非常に 身近なものではあるが実はその機序については 良くわかっていない。ネックレスやピアスなど の装飾品や時計、ベルトのバックルなどの生活 用品による直接的なかぶれが一般的であるが、 時に歯科金属や食事性に摂取する金属によって 全身的な症状が出現する。皮膚科領域において 金属アレルギーが関与する全身症状として汗疱 （異汗性湿疹）、掌蹠膿疱症、亜急性、慢性痒疹、 扁平苔蘚、貨幣状湿疹、自家感作性湿疹、汎発 性湿疹（アトピー様）、あるいは元々あるアト ピー性皮膚炎の増悪などがあげられるが、医療 関係者においても知らない場合が少なくない。 当院では2000 年に開業して以来、金属アレル ギーの関与の可能性のある患者には積極的に金 属アレルギー検査を行ってきた。今回その結果、 集計から金属アレルギーの現状の把握の手助け になればと、注意喚起の意味も含め報告する。
金属アレルギー検査の対象と方法
検査の対象となる疾患は手掌の汗疱（異汗 疹）、掌蹠膿疱症、全身の難治性湿疹、アトピ ー性皮膚炎の増悪などを主に年間50 人前後、 現在まで約600 人前後の症例について検査を 行っている。そのうち今回はH22 ～ 24 年の最 近3 年間の結果について集計を行った。3 年間 に168 人に対し金属アレルギー検査を行って おり、対象疾患の詳細な内訳を表1 に示す。
検査はフィンチェンバーや他のテストテープ を用いて行う施設がほとんどだと思われるが、 当院ではコスト面とテープかぶれが少ないこと からカブレステープ（共和）に統一した大きさの小ガーゼ片を載せ（図1）、それに鳥居薬品 の金属パッチテスト試薬（14 種）を1 滴しみ 込ませ、24 時間上腕内側、肩と肘の動きでず れ難い平たい部位に貼付、必要があれば追加の テープ、ネットで補強している。2 日後と7 日 後に来院してもらい判定する。2 日目はテープ 除去後30 分以上してから判定、場所のマーク をして7 日後に再度判定している。自家製のテ ストテープでも再現性があるし特に問題はない ものとおもわれる。
表1 金属アレルギー検査施行患者内訳
図1 パッチテスト
判定は国際接触皮膚炎研究グループ （ICDRG）判定基準（表2）の＋～＋＋＋を陽性 とした。
表２ 国際接触皮膚炎研究グループ(ICDRG) 判定基準
結 果
結果を図2 に示した。1 種でも陽性を示した 患者さんは168 人中110 人（65.5％）であっ た。その中で突出していたのがニッケル陽性で 41.7％であった。続いて陽性率の高かったのが パラジウム（13.7％）で、以下コバルト（13.1％）、 水銀（12.5％）、金（5.4％）、スズ（5.4％）、亜 鉛（4.2 ％）、銅（3.0 ％）、マンガン（2.4 ％）、 イリジウム（2.4％）、インジウム（1.8％）、ク ロム（1.8％）、アルミニウム（1.2％）で銀で 陽性を示した者はいなかった。
疾患別の詳細については今回は省いた。機会があればその際に触れたい。
依頼によりチタン粉末による直接パッチテス トも何例か行ったがすべて陰性であった。
図2 金属アレルギー検査結果
陽性患者さんに対する指導
パッチテストが陽性の方には装飾品や生活用 品が直接肌に接触しないように指導する。特に 発汗した場合は金属のイオン化が促進され皮膚 に浸透しやすいことを指導する。強陽性で難治 な全身疾患と関連性が疑われる場合は再度パッ チテストを施行し再現性を確認する。その上で その金属を多く含む食品が過度にならないよう に指導したり、歯科用材が疑われる場合は歯科 医へ紹介、必要があれば他の素材へ変更しても らっている。
考 察
Allergy（アレルギー）とはvon Pirquet が学 者によって見いだされた各種の変化した生体の 反応性のうち特に過度に増幅された反応性の総 称として用いた造語とある（ステッドマン医学 大事典、改訂第2 版、p44）。簡単に言えば生 体が皮膚表面を含め体内に入ってくる環境物質 に折り合いがとれなくなって（緩衝できなくな って）生体に有害事象が生じた場合の反応であ る。金属アレルギーについては身近によく見か ける事ではあるが、その機序については不明な 点が多い。接触アレルギーについても通常4 型 アレルギー反応と思われているが、実際のパッ チテストでは4 型アレルギーと思われる48 時 間後に反応が出ることも多いが5 ～ 7 日後に反 応が表れることも多い。その感作機序について も不明な点が多いが、最近東北大学のグループ がニッケルアレルギーが細菌の構成成分、エン ドトキシンをアジュバントとして感作、増強さ れることをマウスを使って明らかにしている1 ～4）。 これらのことから口腔内や皮膚において細 菌とくに炎症を伴った場合に容易に感作、増強 されるようだ。ニッケルは加工しやすく錆びに くく、しかも比較的安価なため広く使用されて いる。イヤリングやネックレス、指輪、ブレス レット、眼鏡のフレーム、ベルトのバックルな ど非常に多い。下腹部のベルトのバックルが接 触する部位のかぶれではほとんどがニッケルア レルギーである。検査施行した患者の41.7％ が陽性を示したことは驚くべき陽性率ではない だろうか。私は通常洗剤が主とされていた手湿 疹においても金属アレルギーの関与を疑い積極 的に検査を行ってきたが、ニッケルは50 円硬 貨（ニッケル25％、銅75％）、100 円硬貨（ニ ッケル25％、銅75％）、500 円硬貨（ニッケ ル8％、亜鉛20％、銅75％）などコインにも 多く含まれている。最近、子供の手湿疹患者の 46.8％が金属パッチテスト陽性で、そのうちニ ッケルの陽性率が最も高かったとする報告5）や レジの仕事や他にコインを扱う仕事ではコイン からのニッケルアレルギーによる皮膚炎の可能 性を指摘した報告がある6）。ニッケルは体内に おいては酵素の活性化など必要なものではある が（推奨栄養所要量、100 μg / 日）、生体の免 疫状態によっては粘膜や皮膚など特異な蛋白と 結合し抗原性を発揮、アレルギーを引き起こすことがあるようだ。ニッケルは前述したように 非常に広く使用されていることから徐々に我々 に暴露、感作される機会が増加しているものと 思われる。ニッケルはココナッツや青海苔、抹 茶、小豆、カシューナッツ、きび、はとむぎな どにも多く含まれており、全身症状を伴ったニ ッケルアレルギー患者においては食事指導も重 要になってくる。昨年鳥取大学から黄砂に含ま れるニッケルの濃度と皮膚トラブルの頻度が相 関するとの報告があった7）。装飾品や生活用品 などは注意して避けることができたとしても黄 砂など空気中に浮遊した金属の粉塵はなかなか 避けることは困難である。今回行ったニッケル アレルギー陽性率は41.7％とかなり効率で今 後増加していく可能性もあり、環境と皮膚のト ラブルも増加していく事が予想される。今後さ らにニッケルが広く使用され、黄砂など大気中 にも増えるようであれば、ニッケルアレルギー は社会問題へと発展する可能性も否定できな い。今後も注意深く観察し検討していく必要がある。
追 記
今回、外来診療中に県立中部病院の本竹先生 から執筆依頼の電話がありました。本竹先生以 外であったなら断っていたかもしれませんが、 本竹先生だったんで即答で了承しました。本誌 広報担当理事でもあられる本竹先生は私が県立 中部病院で研修中に若い外科スタッフの1 人 で、とても懐かしい思い出があります。インタ ーン時代最も過酷な数日間をすごした時の出来 事です。整形外科をローテートしていた時に、 日勤、病棟当直、日勤、救急室の準夜勤と連続 した過酷な数日が終わるはずでした。あいにく その日は台風で救急室は大荒れ、トタンで大腿 四頭筋を切断した患者と腸管に達する刺し傷で 運ばれてきた患者の2 例の緊急手術がありまし た。一睡もできない2 日間がやっと終わり食堂 裏の部屋に戻ろうとしていた時に、人手が足り ないとの事でそのまま朝まで2 例の手術を本 竹先生の前立ちで入りました。鬼軍曹と研修医 に恐れられていた本竹先生にあろう事か手術も 終わろうとした明け方、つい意識を失い「ゴツ ン」と上からかなり強い頭突きをくらわせてし まったのです。幸い手術には支障はありません でしたが、鬼軍曹の本竹先生は一瞬何事が起こ ったのか把握できないようで、一瞬間をおいて「高宮城、お前寝てたのか！」と一喝、怒鳴っ た後は妙に暖かい表情をしてくれたのをなぜか 鮮明に覚えています。私たち研修医の過酷な生 活を理解してくれていたのでしょう。その後し ばらくみんなから「ズツ宮城」と呼ばれていま した。そんな本竹先生の依頼をなんで断れるで しょうか！ 早朝の手術終了後、さらにope 室 から出ることなく、悪魔のような1st レジデン トのDr.K の指示で後縦靭帯骨化症と黄縦靭帯 骨化症のダブルの手術で、当時の整形外科部長 の長嶺先生の執刀手術にそのまま入り、一睡も しない状態が3 日目に入り、ろくに食事もとれ ず、低血糖と脱水症状で幻覚症状も現れ、朦朧 状態で終わったのが夜11 時半、麻酔科の国吉 先生の「麻酔がさめるまで寝てていいよ」の優 しい一言で血だらけの床に寝かしてもらいまし た。あの当時はみんな同じような研修時代を送 ったのじゃないでしょうか？ 良く死ななかっ たものです。
参考文献
1） Kinbara M, Sato N, Kuroishi T, Takano-Yamamoto T, Sugawara S, Endo Y： Allery-inducing nickel concentration is lowerd by lipopolysaccharide at both the sensitization and elicitation steps in a murine model. Br J Dermatol. 164（2）： 356-62. 2010.
2） Tanaka R, Goi Y, Ishihara K, Ueda K, Narushima T, Ohtsu H, Hiratsuka M, Hirasawa N： Enhancement of nickel elution by lipopolysaccharide-induced inflammation. J Dermatol Sci. 62（1）： 50-7. 2011.
3） Takahashi H, Kinbara M, Sato N, Sasaki K, Sugawara S, Endo Y： Nickel allergy-promoting effects of microbial or inflammatory substances at the sensitization step in mice. Int Immunopharmacol. 11 （10）： 1534-40. 2011.
4） Huang L, Kinbara M, Funayama H, Takada H, Sugawara S, Endo Y： The elicitation step of nickel allergy is promoted in mice by microbe-related substances, including some from oral bacteria. Int Immunopharmacol. 11（11）： 1916-24. 2011.
5） Belloni Fortina A, Romano I, Peserico A, Eichenfield LF： Contact sensitization in very young children. J Am Acad Dermatol 65（4）： 772-9, 2011.
6） Thyssen JP, Gawkrodger DJ, White IR, Julander A, Menne T, Liden C： Coin exposure may cause allergic nickel dermatitis： Contact Dermatitis 2012 July 5；
7） Onishi K, Otani S, Yoshida A, Mu H, Kurosawa Y： Adverse Health Effect of Asian Dust Particles and Heavy Metals in Japan. Asia Pac J Public Heaith. 2012 Aug 2.