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「アナフィラキシーについて」
〜アレルギー週間(2/17 〜 2/23)に寄せて〜

高良剛ロベルト

沖縄県立中部病院 地域救命救急センター 救急科
高良剛ロベルト

アナフィラキシーとは

食物や薬物、自然毒等による即時型アレルギ ー反応のひとつで、皮膚、粘膜、呼吸器、循環 器、消化器など多臓器にまたがり症状が出る場 合を特にアナフィラキシーと呼ぶ。アナフィラ キシーは命にかかわる危険な状態であるが、迅 速で適切な対処・治療により事なきを得ること が出来る。

IgEを介するものが主であるが、造影剤によ る反応など、IgE を介さず、アナフィラキシー と同様の症状を出すものを別にアナフィラキシ ー様反応と分けて呼ぶ場合もある。

この他、原因食物を摂取後運動することによ ってアナフィラキシーが引き起こされる食物依 存性運動誘発性アナフィラキシーもあり、給食 後の昼休みに遊んでいてアナフィラキシーを起 こす生徒さんもいるため、学校現場でも注意が 必要である。

アナフィラキシーと似た症状を呈する状態も 幾つかあり、診断に苦慮する場合がある。例え ば、アレルギー性以外の血管性浮腫(遺伝性血 管浮腫= HAE など)も存在し、この場合治療 が異なるため、注意が必要である。

他にも「ヒスタミン中毒」と呼ばれるものも ある。いわゆる青魚(サバなど)には「ヒスチ ジン」というアミノ酸が多く含まれ、それをヒ スタミン産生菌が増殖し分解することによっ て、魚の体内に多量のヒスタミンが蓄積され、 それを食するとアレルギー様の症状を呈するこ とがあり、これは「アレルギー様食中毒」と呼 ばれる。

歯科治療時に局所麻酔として用いられるアド レナリン添加リドカインによるアナフィラキシーもよく知られるが、その中にはアドレナリン による動悸や胸部不快感をアナフィラキシーと 受け取られている場合も存在すると言われる。 また、処置時の緊張や恐怖、痛みによるパニッ ク発作や迷走神経反射も含まれ、診断が難しい ケースが存在する。

アナフィラキシーの現状

厚生労働省の人口動態統計によると、アナフ ィラキシーによる死亡数は年間おおよそ50 〜 60 名である。死亡には至らずとも重篤な状態 になる方はこの何倍もいると予測される。

沖縄県立中部病院救命救急センターにおい て、2011 年5 月からの1 年間にアレルギー反応・ アナフィラキシー(疑い含む)と診断されたケ ースは61 例であった。そのうちアドレナリン を投与されたものは10 例であった。3 日以上 の入院を要したのは1 例のみであった。その他 は救急センターに1 泊入院、あるいは数時間の 経過観察の後、帰宅となっている。

院内では静注の薬剤、抗菌薬、造影剤、輸血 などによるアナフィラキシー、あるいはアナフ ィラキシー様反応も経験するが、救急も含め死亡例は無かった。

アナフィラキシーの緊急治療

アナフィラキシーが疑われ、複数臓 器に症状を有する場合、あるいはABC(airway,breathing,circulation)のいずれかに異 常がある場合、迅速かつ適切な対応が必要となる。

原因物質がわかっている場合、速やかに除去 を試みる。静注薬剤なら、直ちに中止し、他に輸液ルートが確保されていれば、薬剤投与した 輸液ラインごと抜針する。

高流量の酸素投与を開始し、気道、呼吸、循 環の評価を行う。それと同時にアドレナリンを 用意する。アナフィラキシーの既往があり、携 帯用アドレナリン(エピペン)を処方されてい る場合は直ちに大腿四頭筋外側に筋注する。エ ピペンは処方された本人が自己注射できる。本 人が注射できない状態の場合、保護者や保育士、 教師、救急救命士が代わりに注射することも認 められている。

アドレナリンは成人では0.3 〜 0.5mg(小児 では0.01mg/kg)を筋注、ショック状態で静脈 内投与が可能な場合は10 倍希釈のアドレナリ ン(0.1mg/mL)の静脈内投与も考慮する。効 果が認められない場合は5 〜 20 分おきに再投 与を行う。

上気道の浮腫などによりストライダー(吸気 時喘鳴=上気道狭窄)がある場合は窒息の危険 性があり、早期に熟練した医師による気管挿管 にての気道確保を行う。挿管困難となることも 予想されるため、外科的気道確保も出来るよう 準備をしておく。呼気時喘鳴のみの場合は気管支拡張薬のネブライザー吸入を行う。

低血圧に対してはアドレナリンなどの血管収 縮薬の投与の他、大量の細胞外液の輸液が必要 となる。

その他の薬剤としては、アドレナリンの効果 がない場合の血管収縮薬としてノルアドレナリ ンやバソプレシンなども考慮される。β遮断 薬を使用中の患者であれば、グルカゴンの投与 を行う。

併用する薬剤として、他に抗ヒスタミン剤 (H1 ブロッカー、H2 ブロッカー)、ステロイド の投与も考慮する。

アナフィラキシーはほとんどが一回の反応で あるが、数%に二相性の反応が認められる。数 時間から12 時間ほどで2 回目の症状が現れる が3 日後までは起きる可能性があると言われ る。そのため、治療後しばらくの経過観察が必 要である。

投薬など医療行為に関連したアナフィラキ シーの場合、迅速かつ適切な処置にて治療で きなければならない。そのため、アナフィラ キシー対応マニュアルなど整備しておくこと が望まれる。