開 会
宮崎県医師会立元常任理事より開会が宣言さ れた後、稲倉正孝九州医師会連合会会長(宮崎 県医師会長)より、次のとおり挨拶があった。
挨 拶
九州医師会連合会会長挨拶 稲倉正孝
本協議会では、横倉会長から中央情勢につい てご講演いただくことになっているが、例年、 日医に対する意見・要望を九州各県に照会し、 それらに対する日医の見解を含めてお話を伺っ ている。本年度も同様に照会したところ、「医 師事務作業補助者」「医師確保」「基準病床数に 係る算定式」「ICT 等を活用した診療情報連携」 「広報活動」「有料老人ホームなどへの訪問診療 における問題点」、以上6 題の広範囲にわたる 要望、質問を頂いた。
先般、10 月の日医代議員会、11 月の都道府 県医師会長協議会において、種々の問題について質疑が行われたばかりであるが、本日は一歩 踏み込んだ形での日医の考え方や医療情勢の行 方等、本音の部分もお伺い出来るものと期待し ている。
山積する問題を我々の代表である横倉会長が どの様に考え、どの様に対処し、強い日医を創 っていくか、また、国民の地域医療を守ってい くのか、これらの課題に対する日医の戦略、戦 術についてお聞かせ願えれば幸いである。
座長選出
慣例により、稲倉正孝九州医師会連合会会長が選出された。
講 演
「中央情勢報告」
日本医師会長 横倉義武
4 月1 日に実施された日本医師会長選挙にお いて、九州各県の絶大なるご支援の下で会長職に就任した。早くも7 ヶ月が経過した。就任直 後から私の思いは、オールジャパン体制を如何 に創るか、医師会がもう一度団結を取り戻すた めにはどうすれば良いか、非常に苦心してきた。 幸いにして、各県の協力の下で、かなりオール ジャパン的になりつつある。
我々は国民の健康と生命を守る、強い専門家 集団として始動している。
○日本の医療は「国民皆保険体制」「現物給付」 「フリーアクセス」の三本柱で支えられている。 フランスやオランダでは、公的医療保険制度 を導入しているものの、GP への受診には申込 みから2 週間から20 日程度の期間を要する。 我が国では、国民皆保険でフリーアクセスが 確保されており、いつでも、どこでも医療が 受けられる良さを国民は理解して貰わなけれ ばならない。
○国民皆保険制度は、我が国の平均寿命と経 済成長に大きく寄与してきた。Conference Board of Canada が纏めた「世界の医療の評価」 でも日本の医療は安く高品質であると国際的 にも高く評価されている。この様な実績も広 く国民に周知していかなければならない。
○日本の医療保険制度は、「公助(公費)」「共 助(保険料)」「自助(患者一部負担)」の社 会連帯型で成り立っているが、様々な問題を 抱えている。公助は、日本は対GDP 公的医 療費が6.9%(2008 年)で、先進国のなかで 最下位の状況である。今回、高額所得者の所 得税率上限引き上げや消費税増税の方向性に ついては、将来、社会保障費財源が枯渇する ことを考えれば必要な措置だったと考えてい る。共助の中では、被用者保険の保険料率に は大きな格差があるため、協会けんぽの保険 料率にあわせ公平化すべきだと考えている。 今後更に保険料率を引き上げなければ運営が 厳しいとされており、くわえて2012 年度見 通しの数値に基づく単純な試算でも、協会け んぽの国庫補助(医療分)は、約2,500 億円の増額が必要とされている。自助の面では、 日本の患者一部負担割合は、公的医療保険が ある先進諸国と比べてかなり高い。フリーア クセスの良さが返って抑制の効かない状況を 生んでいる。今後どの様に考えていくかが課 題である。
○医療費は「保険料」「公費」「患者負担」で構 成されるが、新たな税金の投入や保険料の引 き上げが難しいことから、患者負担が注目さ れるが健康保険法本則において30%上限が規 定されている。これを変えることは至難の業 である。自助の割合を引き上げていくと、「民 間保険の拡大」と「公的給付の縮小」が連動 して起きるのではないかと心配している。
○我が国の医療の現状の中で保険のあり方につ いて、どう考えていくか、引いては市場主義 を何処まで許すかに繋がる。市場主義を出来 るだけ排除する形で、我々は主張を続けなけ ればならない根拠の一つである。
○日本医師会の目指す方向は、地域医療の再興 と質の向上である。国民皆保険の堅持を主軸 に、各地域の実情に応じた医療提供体制づく りだと考えている。そのことによって、国民 にとっても医療提供者にとっても望ましい医 療体制の構築が必要である。
○医療体制の構築にあたっては、IT を利用し た地域の医療連携を図っていくことが重要で ある。また、望まれる地域医療体制を構築し ていくためには、将来の人口推計を踏まえな がら、直面する高齢化について、各地域でど の様に対応していくか、それぞれの医師会に 課せられた課題である。
○地域医療の再興と質の向上には、1)「切れ目 のない医療体制」の維持、発展、2)地域の医 療ニーズの見極め、3)医療機能の役割分担と 連携、4)住民・患者の医療へのアクセスの堅 持、5)医師、看護職員等の生涯教育−等が挙 げられる。医師会の果たすべき役割として、 行政に対する医療現場の意見の反映や多様な関係者・職種間の協力体制の構築等が求めら れる。医師会は、医療提供者を代表する立場 から、地域の様々な関係者を取り纏め、連携 を進めることができる。
○そのため、日本医師会や日医総研の Intelligence 機能を活用し、患者を取り巻く 医療環境の時間的変化の把握、それぞれの地 域が抱える医療問題の空間的な把握(医療資 源・専門医師の分布)を行い、1)分析、2)解 決すべき項目の抽出、3)順位付け(有用性、 効率性、実効性)を行いながら、医療政策へ の反映や時代が必要とする医師を育成していくことである。
○また、多くの地域が抱える共通の問題は中央 での解決策を図り、地域特性による問題は、 その地域の主体性を活かした解決策が図られ るよう支援していく。我々は常に「全体の把 握」「部分の把握」「流れの把握」に注視しな ければならない。
○ 医学部入学定員は、2007 年度を基準に、 2008 年度は168 人、2009 年度は861 名、 2010 年度は1,221 人、2011 年度は1,298 人、 2012 年度は1,366 人増加している。新設医 学部の定員数を仮に100 人とすると、2012 年度までに既存医学部で増加した定員数 1,366 人は約13 大学分に相当している。
○昭和45 〜 46 年の田中角栄総理大臣時代に、 医師の地域偏在を無くすことを目的として、 各都道府県1 医科大学構想が立ち上がった が、入学がフリーアクセスであり、卒業後は それぞれの地元に戻ることが一般的であった 為、医師の地域偏在を無くすことにはつなが らなかった。このことを解決するために地域 枠が設けられている。地域の出身者が、その 地域の医学部に入学した場合、非常に多くの 方が残り、その地域で医療を行っていくとい うデータがでている。地域枠の人数は年々増 加し2011 年度は1,292 人となっている。
○この養成数を続けていけば、2025 年に医師数が36.4 万人になり、日本の人口1,000 人当 たり医師数は3.0 人になると見込まれている。 これは現在のG7 平均に相当する水準になる。 医学部を新設すべきとの意見もあるが、現在、 少しずつ人口1,000 人対医師数は増えている。 まずは、既存医学部における現在の定員数を 当面維持し、人口減少等を踏まえて、医師数 の在り方を検討すべきであると考えている。
○日本医師会が当面の改革案として考える臨 床研修制度の基本的方向性は、「基本的なプ ライマリ・ケア能力を獲得し、地域医療を担 うことができる医師を養成するため、地域社 会で充実した研修体制を整備する」、「研修希 望者数と全国の臨床研修医の募集定員数を概 ね一致させる。都道府県の募集定員は人口や 地理的条件など地域の実情を踏まえて設定す る」、「臨床研修医が単なる労働力として位置 付けられることなく研修に専念できる環境を 整備する」ことである。
○平成24 年度に研修医を対象に研修前と研 修後に希望する診療科を調べたところ、平 成23 年度の内科系の希望者は研修前後で 34.4%から33.1%と、やや減少しているが、 平成24 年度についてはやや増加している。 また、前年と比べて変化の傾向があったのは 救急で、前年は研修の前と後で希望診療科 は変わらないが、平成24 年度は3.0%から 2.2%に落ちている。その他の診療科は研修 前後の希望診療科に大きな変化はないが、外 科系がやや落ちており、麻酔科は増加してい る。また、小児科や産婦人科もやや落ちてお り、精神科がやや増加する傾向となっている。 研修前と研修後で、将来従事を希望する人数 に減少がみられる診療科では、研修プログラ ムを含め、処遇問題等を改善する余地がある と考えている。
○平成23 年度、県内医師の地域偏在が大きい、 へき地、無医地区が多い15 の道府県におい て、医師の地域偏在の是正など地域医療を担 う人材の確保を図るとともに、質の高い医療 サービスを実現し、国民が安心・信頼できる医療提供体制を確保することを目的に「地域 医療支援センター」が設置された。宮崎県に おいても宮崎県、宮崎県医師会、宮崎大学医 学部が協力し、平成24 年3 月31 日現在で 40 人のあっせん、派遣が行われている。
○ 2006 年2 月、福島県立大野病院の産婦人科 医師が、警察によって業務上過失致死罪と医 師法第21 条に規定する異状死の届出義務違 反容疑で逮捕、勾留、その後直ちに地検が起 訴するといった不幸な事件が発生した。そ の後、無罪判決が出るものの、産婦人科医師 を目指す医師が減少した。産科医療補償制度 の議論が進み、2009 年に運用が開始された。 その後、産科医師は増加傾向となるが、未だ に訴訟リスクの高い外科系の人材は不足して いる。これらのことから、真の原因究明と再 発防止に努め、医療現場が萎縮せず誠実かつ 積極的に医療の向上に取り組める医療事故調 査制度を早期に創設しなくてはならないと考 えている。
○医療事故調査制度に関する最近の状況は、平 成20 年6 月に厚労省より「医療安全調査委 員会設置法案(仮称)大綱案」が公表された。 救急学会、麻酔科学会などからいくつかの 反対意見がだされた。平成24 年2 月に厚労 省に「医療事故に係る調査の仕組み等のあり 方に関する検討部会」が設置され、医療事故 の原因究明及び再発防止の仕組み等のあり方 について幅広く検討されている。平成24 年 9 月〜 10 月にかけて日本医師会が「診療に 関連した予期しない死亡の調査機関設立の骨 子」案を提示したが、多くの反対意見がださ れ、現在、全国の医師会、医療関係団体等か らの意見をとりまとめている。医療関係団体 である四病協、全国医学部長病院長会議と日 本医師会等の担当役員間による意見交換を随 時行い意見を集約する。
○日本医師会の見解として、社会保障の機能強化 と持続可能性確保の方向性は同じである。そし て、安定財源を確保するための消費税引き上げ も、控除対象外消費税の解消を大前提として異 論はない。また、医療・介護・子育て分野の雇 用創出が経済成長に非常に効果が高いという 点でも同意している。しかしながら、営利産業 化を医療本体に持ち込むという事については、 いくつかの問題を指摘していく。
○我々が考える国民の安心を約束する医療保険 制度の基本理念として、すべての国民が同じ 医療を受けられ、支払能力に応じた公平な負担、 将来にわたって持続可能な制度であり、様々な 医療保険制度の案を政府へ提示してきた。
しかし、今問題となっているのが地域の国 民健康保険が破たん状況にあるという事であ る。市町村国保を都道府県単位に集約し、財 政基盤を強くしていく事が求められており、 悪戯に財政負担を国民に転嫁すべきではない と考える。
○こういう状況の下で社会保障制度改革推進法 が決定され、この中で消費税の引き上げによ り確保された安定財源が年金、医療、介護、 少子化のために充当する事が明確化された事 については評価できるが、消費税増税分の使 途や国民皆保険を堅持できるかという事につ いて日本医師会として懸念している。
○消費税増税分の使途については、社会保障以 外または赤字国債の穴埋めに使うのではない かという不安があるが、すべて社会保障とし て国民の皆様へ還元するという明確な表明を 要望しており、今回の各政党のマニフェスト ですべて社会保障として使う旨の明記がされ た事については評価している。
○控除対象外消費税の解消について、消費税を 8%へ引き上げると同時に仕入税額控除が可 能な課税制度へ改める旨を明記させたいと努 力しているところである。今まで医療の消費 税については、政府の正式な書類へ『問題あ り又は検討すべき』との記載は一度も無かったが、昨年末にようやく明記された。
そして先日、厚生労働大臣をはじめ政務三 役に税制調査委員会で議論をしていただく旨 の要望を申し入れ、政府側より確約を得た。 また財務省への要望も申し入れる予定である。 さらには消費税の10%引き上げ時には無論、 課税制度に改め、ゼロ税率ないし軽減税率で 適用する方向で対応していただく為にも今の うちの体制づくりが必要だと考えている。
○国民皆保険堅持の懸念事項として、特に健康 保険の適用範囲の縮小が起きないように日本 医師会として注視する必要がある。
○また医療・介護における雇用創出について、 雇用誘発係数が他の産業に比べて高く、就職 への道をつくる事が重要である。医療という ものは人と人との生業であると考えており、 医療費の財源の大半が人件費であるべきとい う事もしっかり主張していく。
○ TPP に関連するが対主要国別にみた貿易総 額の比較を見てみると、日本はアジア諸国と の貿易総額が比較的高い。これらの国々と手 を組むという方向性を作っていくべきであ り、米国へ依存しすぎる事には問題があると考えている。
○社会保障制度改革推進法等に対する日本医師 会の見解としては、公的医療保険制度につい て『原則として』という従来無かった文言が 三党合意により明記された事によって例外を つくる可能性があり、国民皆保険の崩壊につ ながる懸念があるので三党へ申し入れた。三 党による回答は、生活保護の問題がある為の 表現であるとの事であったが、日本医師会と してしっかり注視していかなければならない。
○ TPP については、日本医師会は反対の意見表 明をしているところであるが、TPP そのもの が全て駄目だというより日本の医療を市場化 する恐れのある一つだと認識をもっている。
現在、分野別のTPP の内交渉が進んでい る中で、特に保険の分野で『民間保険の参入』を強く望んでいる。また、診療報酬の中では 薬の値段交渉に米国の製薬メーカーを参入さ せるという圧力が強くあり、一部参入してい るところもある。米国の製薬メーカー及び医 療機器メーカーは、日本の公的医療保険制度 を利用し、高価格で取引をしようという方向 性が強くでている。
こうした中で日本医師会はTPP に対して懐疑的に表明していくところである。
○ TPP になると、1)中医協での薬価決定プロセ スへの干渉、2)私的医療保険の拡大、3)株式会 社の医療への参入と3 つの大きな危険性がは らんでいる為、日本医師会としてはこの危険性 に対して手当をする事で初めて理解を進めて いく事ができるのではないかと考えている。
○これまで米国からの医療に対する市場化要望 については、1985 年の『MOSS 協議』以降、 数々の要望が出ている。
米国の医療機器団体による新年パーティー に、厚生労働省の保険局経済課の方々や、歴 代の局長らが参加しており、こういった交渉 の過程で日本の行政の中に大きな人脈を作っ ている様子がうかがえた。
勿論、米国の医療機器を使わなければ日本 の医療が出来ないという現実も当然あるが、 国内医療機器の開発の促進をしっかり進めて いく必要がある。こうした米国との過度の癒 着に関して、米国民に提供される価格より高 価格で提供される事に我々は極めて違和感を覚える。
この他2011 年11 月に米韓FTA 協定が批准 されたあとの韓国側の反応は、医師のストラ イキ計画が持ち上る等大きな問題に直面して おり、こうした経緯の中で日本医師会も諸手 を挙げて賛成とはいかないと主張している。
○三党は、日本の公的医療保険制度はTPP の 対象ではないと言うが、我々は株式会社の参 入や中医協での薬価決定のプロセスへの干 渉、民間医療保険の導入を問題だと申し入れている。
○国民皆保険を守るには、1)公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、2)混合診 療を全面解禁しないこと、3)営利事業(株式 会社)を医療機関経営に参入させないことを しっかり明記していただく事が重要だと考え ており、さらに国民皆保険制度を継続してい くという事は、日本医師会に課せられた大き な使命であると考えている。
○この国民皆保険制度が崩れ混合診療になれ ば、新しい医薬品や治療法は自由診療の中に 組み込まれてしまう。最近の例でいうと重粒 子線治療があり、全てが公的医療保険で対応 が出来ておらず、自費部分を民間保険の特約 で対応するという事が増えている。本来、先 進医療を公的医療保険で対応していく方向に ならなければいけないが、そうすることによ って、十分な利益を確保できないといった声 があり、公的医療保険の給付範囲に対する不 満がでてくる事を懸念している。
○混合診療を全面解禁することは、一部の高所 得者のみしか先進医療や新薬を受けられず、 国として安全性、有効性に責任を負わない治 療や医薬品が普及する事になりかねず、公的 医療保険に対する信頼性の低下につながると いう問題がある。
○現在の日本では、『評価療養』・『選定療養』 といった混合診療が解禁されているが、慎重 な協議がなされた上で認められている為、た だ全ての混合診療を解禁することは公的医療 保険の崩壊につながる為、容認できない。
○規制制度改革やTPP がこのまま進むと、第 一の懸念は、公的医療保険がTPP の対象に なり、第二の懸念は、TPP をきっかけに医 療の市場化を容認する考えが広がる事にあ る。ひいては所得によって受けられる医療に 格差がある社会となる為、我々は全力をあげ て国民皆保険を守る。
○日本医師会は、『国民と共に歩む専門家集団 としての医師会』を目指し、世界に冠たる国 民皆保険の堅持を主軸に、国民の頂点に立っ た多角的な事業を展開し、真に国民に求めら れる医療提供体制の実現に向けて、これからも国民とともに努力していく。
7. 九州各県からの質問・要望事項
〔要 旨〕
すでに病院では医療クラークに対する点数が 設けられ、医師の過重労働の原因の一つとされ ている診断書記載を省くことで負担軽減が図ら れている。しかし現在の診療報酬では、診療所 への配置に対する点数が設けられてないため、 開業医からは病院と同等の点数設定を求める声 がある。当会としては、診断書の記載に対する 医師の負担感は開業医も同等であるとの認識か ら診療所における医療クラーク配置に対する点 数設定は当然のことと考える。
ついては、開業医師の負担軽減を図るために も診療所への医療クラーク配置に対する医療保 険点数の設定を要望する。
●日医回答
医療クラークに対する診療報酬は、平成20 年度の診療報酬改定から医師の事務作業を補助 する補助者を配置する体制を評価する入院基本 料加算が導入された。平成22 年度改定では、 加算の引き上げとともに、より多くの医師事務 作業補助者を配置した際の評価が設けられ、平 成24 年度改定では、補助者の人数配置に応じ た、よりきめ細かい評価がなされ、徐々に使い 易くする方法での改正が続けられている。
次回改定の要望として、診療所における医療 クラークの評価については、日本医師会として も当然要望していく。また、併せて、記載書類 の簡素化についても主張していきたい。
〔要 旨〕
公的医療機関(ハンセン療養所、障がい者医 療を担う施設を含む)の医師確保が極めて困難 な状況にある。
早急な対応、抜本的な施策が必要と考えられるが、日本医師会の基本的な考えを伺いたい。
●日医回答
医師の偏在解消については、医学部教育や初 期臨床研修システムの見直しを通じながら、地 域に定着する医師の育成を図っており、また、 医師のキャリアアップ形成や医療事故調査制度 の創設、医師の就業環境の整備に務めている。
また、地域医療支援センターの整備と活性化 を図るべく、都道府県医師会の関与をお願いし たい。
〔要 旨〕
基準病床数の算定方法については、医療計画 作成指針に基づき、療養病床および一般病床の それぞれの算定式により算出した数に都道府県 内外への流出入入院患者数を加えた数の合計数 を標準としており、以下の計算式となっている。
<療養病床>
{(当該区域の性別及び年齢階級別人口)×(当 該区域の性別及び年齢階級別入院・入所需要率) の総和−(介護施設で対応可能な数)+(0 〜 当該区域への他区域からの流入入院患者数の範 囲内で知事が定める数)−(0 〜当該区域から 他区域への流出入院患者数の範囲内で知事が定 める数)} ×(1/ 病床利用率)
<一般病床>
{(当該区域の性別及び年齢階級別人口)× (当該区域の性別及び年齢階級別退院率)の総 和×平均在院日数+(0 〜当該区域への他区 域からの流入入院患者数の範囲内で知事が定め る数)−(0 〜当該区域から他区域への流出入 院患者数の範囲内で知事が定める数)} ×(1/ 病床利用率)
一般病床の算定式においては、平均在院日数 が少なければ少ないほど、基準病床数が減少し、病床利用率の悪い地域では基準病床が多くなる 計算式に疑問を感じる。沖縄県では救急医療を 担う病院の病床不足が問題になっている。
また、療養病床から介護施設で対応可能な数 を引くのは妥当か。このようなことは療養病床 を減少させる結果になるのではないか。
日医として基準病床の算定式の検討や地域の 基準病床とはどのようなものかを行政と検討す る必要があるのではないか。
さらに、地域における基準病床の策定を今後 も続ける必要があるのかご検討いただき、日医 の見解をお伺いしたい。
●日医回答
非常に難しい問題だと感じている。現在も基 準病床の算定式の見直しについては常に主張し ている。特に厚労省が定めている『平均在院日 数、療養病床の入院・入所需要率、一般病床の 退院率』のブロックの単位がはたして適切なの かという見直しも必要であり、一般病床の算定 式の中には五年間に短縮する事を見越して、平 均在院日数に【0.9】をかけて算定するという 事についても、高齢化社会の中でふさわしいも のなのかを議論したい。また病床利用率や療養 病床の入院・入所需要率、介護施設の対応可能 な数についても、医療の病床削減とつなげてい いのかという基本的な問題も議論していく。
日本医師会では、2015 年の一般病床の必要 病床数を103.7 万床、2030 年は75 歳以上の高 齢者人口が増えるという事で116.4 万床と推計 している。
〔要 旨〕
地域連携の推進のためにはICT を使用した 診療情報連携が不可欠と思われる。各地域で各 種の連携システムが稼働しつつあるが、地域を 超えて連携が拡大する際に、各種のシステムが 混在していると混乱を生じ、広域の連携が阻害 される可能性が高い。今のうちに、連携のため の情報システムの基本概念を統一すべきと考えるが、日医の考えを伺いたい。
また、現在は地域中核病院の電子カルテを「か かりつけ医」が閲覧することができるというシ ステムが増加しているが、中核病院の当該患者 のすべての電子カルテ内容を閲覧しないと、重 要な診療情報の見逃し等の問題が発生し、医療 ミスを助長してしまうという懸念も指摘されて いる。また患者が連携の中に入ることを拒否す ることは患者の権利であるのか、もしくは診療 の妨害に当たる行為であるのかも不確かであ る。現在、増加しているいわゆる「閲覧システ ム」のデメリットも考察する必要があり、連携 に関する法整備も必要とも思えるが、日医の考 えを伺いたい。
●日医回答
日本医師会は相互連携の取り組みとして、異 なるシステム間でも正しい情報交換を可能とす るために、厚生労働省の標準化規格を策定して、 随時通知を発出している。日医総研メンバーも 対応しているので詳細をお尋ね頂きたい。また 厚労省のSS − MIX(厚生労働省電子的診療情 報交換推進事業)も始まっている。
次に、医療分野の個人情報保護へ向けた議論 の具体化であるが、医療等分野の個別法の議論 が具体化しており、日医役員も参加し報告書を 取りまとめている。この中で、患者の同意のあ り方についても触れており、今後さらに検討を 進めていく。医師と医療職の認証基盤について だが、現在、医師と偽って医療行為を行うとい う事件が起きており、医師又は医療職であると 認証する必要がある。日医では既に認証局とい うものが立ち上がっており、様々な地域でのモ デル事業を利用して頂いている。熊本大学から は医師の認証にあたって、日本医師会の認証局 を一緒に利用させていただけないかというご提 案があった。日医としては、この医師の認証局 を進めていかなければならないと考える。料金 的な面での反対の地域もあるが、10 年近く懸 案事項であるので、全国の医師を登録できるよ うな形にもっていきたい。また登録の際には照合が必要となるので各医師会へご迷惑をかける と思うが宜しくお願いしたい。
標準的なアーキテクチャについては、内閣官 房で検討中であるため報告書にまとめて報告し たいのでもうしばらくお待ちいただきたい。ま た進行状況については担当にお尋ね頂きたい。
つづいて大量の医療情報の考え方だが、これ までの紙の情報に比べると、電子の情報は手軽 に大量に持ち運べる。こうした中で連携の中の ルールを決めていく必要がある。連携のルール 作りについてもこれから検討していく予定であ る。患者によっては連携に入る事を拒否する事 があるので、そのあり方について、ご意見があ れば頂きたい。
〔要 旨〕
日本医師会でも、各都道府県医師会でも広報 活動は医師会事業の中で最重要事業の一つであ る。メディアを利用した対外広報は各都道府県 医師会でも行われていると思うが、鹿児島県で もラジオを利用した広報活動など行っているも のの、メディアを利用するには大きな予算が必 要で、十分な広報が出来ないでいる。日本医師 会として、もう少し予算をつけてテレビを利用 した医師会のイメージ戦略を全国的にしていた だきたい。対内広報も大事で、医師会組織の弱 体化が問われる中で、組織の活性化には若者、 ばか者、よそ者が必要といわれる。そこで、勤 務医、女性医師、研修医を含む若い医師を取り 込んでいく活動が必要ではないかと思う。お考 えをお聞かせいただきたい。
●日医回答
日本医師会では、現在、日医ニュースの刊行 (月2 回、全会員等に配送)、日医白クマ通信 の配信(※ E メールによる情報配信サービス)、 定例記者会見の実施(毎週水曜日)、テレビコ マーシャル、全国紙への意見広告掲載、テレビ 番組「鳥越俊太郎医療の現場!」の企画・提供、 日医ホームページの開設(http://www.med.or.jp/)等の広報活動を行っている。テレビを 利用した医師会のイメージ戦略を全国的に展開 したいと考えているが予算の確保が難しい。各 都道府県医師会から少しでも費用負担をいただ ければタイアップというかたちで全国展開も可 能であると考えている。また、医師会組織率の 向上については、今期の勤務医委員会に対し、 「勤務医の組織率向上に向けて具体的方策」を 諮問した。鹿児島県医師会は全国でトップの組 織率を誇っている。そのノウハウをご教授いた だき、全国に広めていただきたい。
〔要 旨〕
今後我が国において、在宅医療の重要性は増 すばかりである。診療報酬上もその普及に向け て様々なインセンティブが施されてきた。これ も献身的に在宅医療を行ってきた先駆者の努力 のたまものである。しかしながら現在、自宅よ りも有料老人ホームなどの集合施設に赴いて訪 問診療が行われるケースが増えている。その際、 要介護度に関係なく一律に在医総管を請求して 全員に訪問診療を行うなど、不適切な医療行為 が行われている例が散見される。このままでは 健全な在宅医療の普及が妨げられ、また医療報 酬の面でも適正化の名の下に、締め付けがなさ れる可能性がある。訪問診療のあるべき指針を 日本医師会で作成し、医師のモラルハザードが 起きないように指導する必要があるのではない か。日医の考えをお聞きしたい。
●日医回答
各病院団体や在宅療養支援診療所の団体がバ ラバラな動きを始めていたため、前年度に在宅 医療連絡協議会を発足し、日医が中心となって、 各団体の取り組みを調整した。今後、地域包括 ケアの中に在宅医療が組み込まれていくと思わ れるが、在宅医療での主役は郡市区医師会であ る。日医としては、今後とも、在宅医療に対す る地域医師会の取り組みを支援する活動を推進 していきたいと考えている。
意見交換
大分県医師会
平成20 年6 月に厚労省より発表された「医 療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」 と民主党が作成した「対案」は、内容がまっ たく違う。その点について日医の考えをお聞 きしたい。
日本医師会横倉会長
基本的に「医療安全調査委員会設置法案(仮 称)大綱案」と民主党が作成した「対案」はあ まり変わらない。医療事故調査に関する検討委 員会は、答申「医療事故調査制度の創設に向け た基本的提言について」を発表し、全国の都道 府県医師会と郡市医師会にアンケート調査を行 った。その結果を踏まえて、「診療に関連した 予期しない死亡の調査機関設立の骨子(日医 案)」を提示した。現在、全国の医師会、医療 関係団体からの意見を取りまとめている。
沖縄県医師会玉城副会長
女性医師の生涯労働能力は男性を1 とすると私は0.7 だと考える。
医師数のカウントの中で現在、大学において 30%〜 40%が女学生であるが、外国のように 女性が第一線に立って働くという環境が日本に はない。日本医師会はこれから先、女性医師数 を踏まえ、医師数の伸びについてどう考えてい るかお聞きしたい。
日本医師会横倉会長
女性医師の生涯労働能力は国際的には平均0.6 とされている。私も親族に女性医師がいるが、 0.5 〜 0.7 あたりだと考えている。それを踏まえ るともう少し養成数を増やさなければならないか と考えるが、そうなった場合には、それぞれの地 域偏在を踏まえ、従来の自由開業制の見直しも含 め考えせざるを得ない。また、保険診療機関の指 定を医師会が勘案した仕組みづくりを並行してや らなければならない。単に医師養成数を増やすだ けでは、将来に禍根を残すと考えている。
福岡県医師会
飯塚病院では2 割程度が女性医師であるが、 結婚・妊娠・出産により偏在がうまれる。自 院では24 時間の院内保育所の設置やキャリア アップなど女性医師が働ける環境づくりを心掛 けている。その様なことから目いっぱい考えて 0.8%あたりだと考えている。