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巳年放射線科医のつぶやき

與儀 彰

琉球大学医学部放射線科 助教  與儀 彰

今年は巳年ですが、蛇の持つイメージはあま り良いものではありません。巳年生まれの性格 判断をネットで検索すると、出るわ出るわのマ イナスイメージ。ざっと見渡したところ、短所 はおおむね「猜疑心が強い」「嫉妬心の塊」、「粘 着質」、「非社交的」にまとめられます。ちょっ とウチアタイするのが悲しいですが、気を取り なおして諺や故事成語をみても、やはりその傾 向は明らか。曰く「薮をつついて蛇を出す」、「蛇 の道は蛇」、「蛇に睨まれた蛙」、「竜頭蛇尾」、「蛇 足」…云々。突然草むらから現れてにょろにょ ろと気色悪く動き、自らの体よりも大きな獲物 に喰らいつけば何時間かけてでも丸呑みする。 そんな動物は当然好かれることもなく、結果こ ういった言葉やイメージへと繋がっていったの でしょう。また旧約聖書の創世記にはアダムと イブが禁断の実を食したために楽園を追われた 話があり、ここでもイブを唆して実を食べさせ たのは蛇とされています(蛇に関しては諸説あ りますが、蛇はサタンの化身だったとする説も あるようです)。

こうして見ると全くもって迷惑千万な生き物 ですが、だが忘れてはなりません。アダムとイ ブが食したのは知恵の実(善悪の知識の実)で あり、少し強引に見方をかえれば、蛇が人類に 英知をもたらしたとも言えるのです。

私自身は放射線診断医で、CT や MRI の読 影をして他科の診療の手助けをしています。臨 床の先生方からすれば、画像診断医は時として 診断を混乱させたり〈サタンの蛇〉、本筋では ないが扱いが面倒臭い所見を明らかにしたり 〈やぶ蛇〉と、少し厄介な存在でもあるでしょう。 しかし、画像診断が医療にもたらした利益《知 恵の実☆》は非常に大きく、画像診断医が医療 の質の向上に果たす役割は年々増しています。

とりあえず巳年生まれ放射線科医である私と しては、自分の仕事が正しい知恵の実であるか どうかが気になるところです。料理人が客の反 応を見ながら技を研鑽していくのと同様、診断 医も臨床サイドと緊密に連絡を取りながら仕事 を重ねていかねばなりません。読影している放 射線科医の姿は「非社交的」に映るかもしれま せんが、実際はそんなことはありませんので、 お気軽にお立ち寄りください。

余談ですが、今回頂いた仕事の縁で蛇につい て調べたところ、意外なことが分かりました。 ギリシャ神話に「医薬の神 アスクレピオスの 棒」と呼ばれる棒があり、そこに蛇が巻き付い ているのです。偉大な医者だったアスクレピオ スは死者をも蘇らせたためにゼウスの怒りに触 れ、雷で殺されてしまいます。その後、彼は天 に昇ってへびつかい座となるのですが、蛇がア スクレピオスの、すなわち医薬の聖なる動物に あたるのです。全くのマイナスイメージだけで はないのですね。考えてみれば、我が国におい ても白蛇は神の使いとされ、我々に様々な啓示 を伝えるとされています。

昨年は山中先生の iPS 細胞研究がノーベル医 学賞を受賞し、再生医療に大きな光をもたらし ました。その業績と可能性は多くの研究者の励 みとなりましたが、そもそも研究成果は「粘着 質」でなければ挙げることは出来ません。巳年 の今年も多くの研究が行われるでしょう。また 大きな研究でなくても、医師一人一人の医療が 国民の日々の生活を支えています。これらの仕 事がくれぐれも「竜頭蛇尾」に終わらないよう、 不断の努力を続けていかなければなりません。