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巳年に因んで

島袋  毅

医療法人紺碧会みなみしまクリニック  島袋  毅

48 になる。AKB かとうける娘。48 歳。子供 の頃は相当な年齢(初老)に見えていた。今、子 供たちには、この年齢はどうみえるのだろうか。

これまで大方健康で過ごせたことに感謝して いる。生活習慣病予防のため、太ったらレコー ディングダイエットをしていた。そして気力、 体力維持のため、ウォーキングをしていた。

2008年10月糖尿病学会。特別講演で、「歩く スピードのジョギングを続けていけば、3 ヵ月 で必ずフルマラソンは完走できる」と 60 歳く らいの先生がお話された。自身が走っている写 真を示しながら。

……信じられない。本当にそうだろうか。お きなわマラソンに申し込んでみた。……

マ ラ ソ ン と い う と 苦 し い イ メ ー ジ だ。 42.195km を死にいく Go と読み替える人もい る。中学時代 5km の校内マラソン大会。最初 から全力疾走で非常に苦しかったが、部活生 の意地で上位をねらった。帰宅部の高校時代、 体力は地に落ちていた。10km走大会は地獄で、 高台の学校につく頃には「こんなことさせる な」と心から思った。国費試験の前日に駅伝 大会にかりだされ、海中道路をむりやり走ら されたのも思い出す。正直、なはマラソンが 開催されると聞いた時には、一般人が走って いい距離なのかと思った。

11 月、海に漕ぎ出すボートのように静かに、 秘かにスロージョギングが始まった。人間にも 慣性の法則が当てはまるのか、開始から数日間 は苦もなく続いた。歩く程度のスピードで、1 時間程度。ゆっくりなのでどこまでも走れそう な不思議な感覚をおぼえる。この頃 10km の大 会があった。完走後、整体師の方に、きんきん の氷嚢を火照ったふくらはぎに押し当てられ、 言いようのない快感を味わった。それからは、 1km 走った後でも、冷水マッサージ、たまには 氷嚢も準備、その後お湯で。足には最恵国待遇 を与えた。

12 月。ジョギングをはじめて 30 日。スピー ドが遅く疲れないせいか本当にいろいろと考え がめぐる。研修医時代、スタッフさんに、なは マラソンに申し込まれ、中間地点でリタイア。 足がパンパンで、筋肉、関節の痛みはひどかっ た。翌日、アクセルはかろうじて踏めたので、 わずか 100m の寮から病院までの距離を車で出 勤した。途中にある階段が下りられなかったか らだ。回診についていくのがつらかった(過去 には松葉杖できた先生もいたらしい)。これで はいけない。翌日の仕事に差し支えるようでは だめだ。練習時間も取れず、仕事に障るのでフ ルマラソンへの出場は避けていた。

誰にも邪魔されない自分だけの時間、いいス トレス解消である。だんだん気分爽快になって きた。この程度でも、エンドルフィンはでてい るのだろうか。中年の愉しみとなった。「自分 の体力を温存しつつも好タイムを狙う。マラソ ンは奥の深いスポーツだ」城下町で医業を営む H 先輩はいう。運動好きな先生は多い。私はア ル中(歩き中毒)とか、夜は忙しいので早朝 1 時間走るとか、睡眠時間を削れば走る時間は作 れるとか。

今はない MR さんとの会合。席上、「一緒に やりませんか人生の縮図とも言うし」と声を掛 けたが、「仕事で十分苦しいのでいいです」と 断られた。会合で 1 度休んでしまうとやはり慣 性の法則が働くのか、練習しない日が続いた。

2009 年正月 4 日。ぐうたらな年末年始から 抜け出し、晴れ渡る空の下、摩文仁の丘を走っ た。終わって芝生の上で横に。波の音と、冷 たい海風が心地よかった。その日から毎日最 低 10 分以上走った。3 時間で 15km が最高で、 10km 走は、週 1 度程度である。10℃を切るの 寒い日でも、重ね着と手袋をして走った。出張 先でも(写真)。だんだん走れるようになって きた。もしかしたら完走できるかもしれない。

2 月、おきなわマラソン本番に臨んだ。しか し米軍基地出口 31km 地点で、タイムアップ。 敗者の我々は、フェンス外に出され、強制収容 所にむかう捕虜のように、バスに乗せられた。 白く塩を吹いた顔は、どれも残念そうで、会話 もなかった。

私の場合、歩くスピードのジョギング約 3 ヶ月の練習では完走できなかった。報われな い努力も時にはある。サブ目標の、「翌日の仕 事に差し支えないこと」は達成できた。否、 むしろいつもより良く働いた。2009 年の挑戦 は終った。

うざがる息子にきいてみた。48 歳は、そん なにとしではないとの答えに意を強くした。 いつの日か 42.195 q地点へ。蛇のように這っ てでも。

市民ランナーのメッカ、皇居を走る。桜田門外の辺。