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明るい未来へ向けて
〜健康の保持増進のために〜

青木 一雄

琉球大学大学院医学研究科 衛生学・公衆衛生学講座  青木 一雄

新年あけましておめでとうございます。

今年で生を受けてから 60 年を迎えることに なり、未だ成長の姿を実感することなく今日を 迎えております。振り返れば幼少期、小学校、 中学校、高校、大学、大学院の 27 年間を東京 で過ごし、大学院博士課程修了と同時に、大分 医科大学(現大分大学医学部)に入学し、同大 卒業後、研修医、助手(現助教)、講師、准教 授と此の地でも 27 年間を過ごしました。医学 部医学科への入学は、今日で言うところの学士 編入学ではなく、また、教養科目や外国語など 他の大学で取得した単位認定もありませんでし た。医学部医学科の 6 年間を高等学校卒業間も ない 18 歳、19 歳の同級生たちの若い活気とエ ネルギーを感じながら 6 年間を過ごしたことを 昨日のことのように振り返ることができます。 その後、55 歳を迎える春、すなわち 2008 年 4 月 1 日から、琉球大学医学部に奉職し、主とし て衛生学、公衆衛生学、予防医学の研究、教育 に携わっております。その間、沖縄県医師会の 先生方や公衆衛生関連の行政の方々をはじめ、 地域の方々に多大のご支援、ご助力をいただき ながら職務をこなしてまいりましたが、月日の 経つのは早いもので、ここ沖縄での生活も今年 で 6 年目の春を迎えることになりました。東京、 大分、沖縄で数多くの辛苦を味わいましたが、 周囲の方々の暖かい励ましとご助力により乗り 切ることができ、また幸いなことに健康を保持 し現在に至っております。すでに 60 年の年月 を経たことに戸惑い、未だ還暦を迎える実感が 沸かず、自分では 20、30 歳代の若いつもりで おりますので、何か不思議な感覚に捕らわれて おります。

話を転じひと回り(12 年)前の 2001 年を振り 返りますと、2001 年はタンザニアプロジェク トを始めた年であり、この年から、ダルエスサ ラーム市、キバッハ郡、およびモシ市において ヘリコバクター・ピロリ感染とその背景因子に ついての消化器疾患調査を開始しました。プロ ジェクト開始年の 2001 年は、1 泊 700 円の安 宿に泊まり、マラリア感染予防のために夜間の 外出を控え、暑さの中、長袖、長ズボン、そし て毎晩、蚊取り線香を大量に炊きながら 2 週 間を過ごしたことを思い出します。それからの 12 年は、今振り返りますと正に激動の 12 年で あったように思います。

最も大きな転機は、何と言っても 2008 年 4 月 1 日に琉球大学医学部に赴任したことです。 その後、5 年間で十分な研究成果をあげること なく、早いもので 6 年目の春を迎えることにな ってしまいました。今後、これまで以上に社会・ 経済環境が大きく変化することが予想されて おり、研究環境もますます厳しくなると思われ ますが、与えられた環境の中で最善を尽くして いきたいと考えております。また、衛生学、公 衆衛生学の研究者としては、研究活動とともに 社会に少しでも貢献ができればと考えており、 2010 年から開始されたエコチル調査(子どもの 健康と環境に関する全国調査)のフィールドの ひとつである宮古島市での活動にはこれまで以 上に力を注ぎ、宮古島市の皆さま方や沖縄県、 さらには日本の皆さま方に少しでも明るい未来 をもたらすことに貢献できればと考えておりま す。そして、地域や職域の皆さま方に、健康と 環境に関する質の高い情報を的確に発信してい き、現場での教育、啓蒙活動に積極的に取り組 んで行こうと思っております。また、次代の地 域医療の担い手である医学生への教育において は、up-to date で的確な情報提供を行うことは もちろんのこと、臨床的視点と社会医学(公衆 衛生学)的視点が車の両輪であり重要であるこ とを理解し、実感していただくことに重点を置 きたいと思っております。情報過多の時代だか らこそ、情報の質が問われておりそれら情報の 良否を判断できる情報の取捨選択能力の向上を 培う教育にも力を注ぎたいと思っております。

さて、今年で人生 80 数年のひとつの区切り である還暦を迎え、残りの人生を少しでも有意 義に過ごさなければならないとは思うのです が、あまり気張らずに、これまで通り焦らず、 飽きず、諦めず(私はこれを「3A」と言ってい ます)、一歩ずつ小さな目標の達成に向けこつ こつやり遂げていければ良いのではないかと考 えております。これまで地域住民や産業現場の 方々、大学を含めた研究機関、医師会の先生方、 そして保健所をはじめとした自治体や国の機関 である労働局、検疫所の皆様から学ばせていた だいた知識や経験を地域や職域の皆様に少しで も還元していくことが責務ではないかと考えて おります。この 5 年間、沖縄本島はもとより八 重山や宮古地域で多くの活動をさせていただい てきましたが、今後はさらに多くの場所、地域 に伺い、公衆衛生や環境保健、産業保健の向上 に寄与したいと考えております。沖縄県医師会 の先生方には、今後ともご協力、ご助力をいた だきますよう、お願い申し上げる次第です。ど うぞよろしくお願いいたします。