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予防接種の基礎

浜端 宏英

アワセ第一医院 浜端 宏英

はじめに

VPD とは Vaccine Preventable Diseases(ワ クチンで防げる疾患)の略である。予防接種の 意義をわかり易く伝えてくれる言葉であり、現 在 VPD には感染症だけでなくガンまで含まれ ている。近年、わが国のワクチン事情は世界か ら約 20 年遅れているいわゆるワクチンギャッ プが明らかになった。平成 24 年 7 月 31 日「日 本再生成長戦略」が閣議決定され、ワクチン ギャップ解消が目標のひとつとして掲げられ た。今後、予防接種法改正を経て、WHO 推奨 の予防接種が次々に定期接種に組み込まれて行 く予定である。現在のところ 7 ワクチン(子宮 頚がん、ヒブ、小児用肺炎球菌、水痘、おたふ くかぜ、成人用肺炎球菌ワクチン、B 型肝炎) が定期接種になる予定である。急激に増加する 予防接種を適切な時期までに終了させるには、 小児科医だけでは困難である。多くの医師がワ クチンとわが国の予防接種について十分理解 し、積極的に関わっていくことが求められてい る。今回、予防接種を行う際の基礎を中心に記 載した。

ワクチンの準備

ワクチンは一定の低温温度で管理する必要が ある。一般に生ワクチンは 5℃以下、不活化ワ クチンは 10℃以下で保管する。ワクチンを保 管する冷蔵庫内温度は毎日チェックする必要 がある。佐藤計量器社製の「SATO デジタル 最高最低温度計 PC-3500」は冷蔵庫内の最低・ 最高温度を庫外で確認でき、ワクチン管理に欠 かせない。台風等で停電が予想される時の対策 も考えておく必要がある。

予防接種の種類

日本の予防接種には、予防接種法で規定され た定期接種、自費で受ける任意接種、ヒブなど の緊急促進事業で行われている行政措置接種の 3 つがある。それぞれに接種費用の出どころや、 健康被害に対する対応に違いがある。

ワクチンの種類と特徴

ワクチンは大きく生ワクチンと不活化ワクチ ンに分けられる。生ワクチンは BCG や麻疹ワ クチンなどで、接種後 4 週間以降から次の接種 が可能である。通常 1 回または 2 回接種である。 不活化ワクチンは DTP や日本脳炎ワクチンが あり複数回接種する。接種後 1 週間以降から他 のワクチン接種が可能であるが、同じワクチン 同士は規定の接種間隔を守る必要がある。

同時接種

全てのワクチンは同時接種できることが一般 原則(ゼネラルルール)である(米国 CDC)。ひ とつ例外があるが日本未承認のワクチンである。 同時接種では、生ワクチン同士(MR ワクチンも 同時接種である)や、生ワクチンと不活化ワク チンの同時接種も可能である。同時接種に生ワ クチンが含まれている時には、次の接種は 4 週 間以降になる。

生後 6 か月までに必要な予防接種は急速に増 えており、同時接種を行わなければ適切な時期 までに必要な接種の完了は難しい。保護者に対 し、同時接種を選択出来ることを伝えることは、 医療機関の義務と考えている。

接種部位と方法

平成 24 年度版の予防接種ガイドライン、日 本小児科学会では接種部位について大腿前外側 部を初めて記載した(図 1)。乳児接種におい て大腿部接種は接種が容易で、痛みも少ない。 同時接種で一つの肢に接種する時は 2.5cm 以上 離して接種を行う。BCG 接種方法についても 示した(図 2)。

図 1 予防接種の部位

図 2 BCG 接種部位(上腕外側)

接種時のコツ

接種をスムーズに行うためのコツを紹介したい。

1. 接種部位の確認。最初に接種部位を確認して おく。特にBCGの接種部位確認は大切である。

2. 接種部位の決定。同じ不活化ワクチンは左右 交互に接種する。DPT は右、左、右と接種 する。いくつかのワクチン 1 回目を左右どち らかに決めておくと良い。DPT と肺炎球菌 ワクチンの 1 回目は右、日本脳炎や MR の 1 回目は左と決めておく。

3. ワクチンは痛くない順番で。

注射ワクチンは生ワクチンの次に不活化ワク チンを行う。BCG は最後に接種する。ロタワ クチンは経口のため、最初または最後に行う。

4. 複数人の接種は年長児から。

兄弟で接種する時は、年長児から接種した方 が良い。人数が多い時は、接種時の間違いを 無くすため、最初の 1、2 名を行ってから次 の接種を行う。

接種スケジュール

表 1 に 1 歳未満の接種スケジュールを記載し た。平成 24 年 11 月より DTP-IPV(不活化ポ リオ)混合ワクチンが使用可能となっている。 生後 6 か月までに接種したいワクチンは 15 接 種あるが、生後 2 か月から同時接種を行うと計 4 回の来院で終了することになる。産婦人科で の啓発が大切であると考えられる。

表 1 1 歳までの推奨予防接種スケジュール

副反応について

副反応がどの程度出てくるのか知っておく必 要がある。多くは前もって伝えておくことで安 心して接種後に備えることが出来る。発熱は一 番心配な副反応である。小児用肺炎球菌ワク チン(プレベナー)では 38 度以上の発熱は約 10%、39 度以上の発熱は最大 2%で、通常半 日で治まる。

接種間違いを防ぐために

表 1 の接種間隔は 4 週間であるが、生後 2 か月すぐに接種を行うと 4 週間後は 3 か月に達 していないことがあり注意が必要である。間違 いが多いヒブ・小児用肺炎球菌ワクチンのスケ ジュールを示した(表 2)。肺炎球菌ワクチン 4 回目は 1 歳に達してから行う。4 回目接種が 1 歳未満で行われた例があり、接種医師だけでな く、市町村担当者も間違えたことが報告されて いる。

表 2 ヒブ・小児用肺炎球菌ワクチンの接種スケジュール

終わりに

予防接種の目的は VPD から守ることであり、 『適切な時期までに必要なワクチン接種』が基 本である。今後増加して行く予防接種に関して、 小児科医だけでなく、多くの医師がワクチンに 対する理解を深め、自信を持って接種を行って いただきたい。

参考:VPD を知って子どもを守ろう

http://www.know-vpd.jp/