常任理事 宮里 善次
去る平成 24 年 10 月 28 日、沖縄県医師会館 に於いて『平成 24 年度沖縄県医師会感染症・ 予防接種講演会』を開催し、川崎医科大学附属 川崎病院小児科部長(教授)の中野貴司先生に「ポ リオと予防接種〜不活化ポリオワクチンの導入 にあたって〜」と題したご講演をいただいた。
ポリオワクチンが 9 月 1 日から不活化ワク チンに切り替わったとともに、11 月 1 日から DPT + iPV の 4 種混合ワクチンが採用される のを考えると、時宜を得たテーマと開催日であ ったと思う。
ポリオは 1960 年に日本で大流行し、多くの 子供達が犠牲になったがその事をきっかけにし て、アメリカから開発されたばかりの生ワクチ ンを輸入し、それ以後の流行を阻止してきた歴 史がある。
しかしながら、弱毒株とはいえ生ワクチンで あるため、神経毒を復帰する事例や糞便を介し て他人に伝播する事がみられ、不活化ワクチン の必要性が求められていた。
ポリオは VPD として、ワクチンが著効する 疾患なので、ほとんどの小児科医が疾患そのも のに遭遇することはない。
演者はアフリカや中国で多くのポリオ患者に 接し、ポリオ絶滅に尽力されてきた経歴から、 講演内容はポリオの歴史及びウィルス特性、感 染経路や感染部位等による多彩な症状、ワクチ ンの特性や効果、安全性、投与方法等、多岐に 渡った。
不活化ワクチンは生ワクチンに比べると、感 染阻止能力は劣るものの、副作用がないのが利 点である。
その不活化ワクチンも単独投与と 4 種混合で は効果に有意差はなく、十分に感染阻止出来る ことが証明されている。
厚労省は 11 月 1 日から供給される 4 種混合 ワクチンは、8 月以降に生まれた子供達を対象 に考えており、8 月以前に生まれた子供達には DPT と単独の不活化ポリオワクチンをやって 欲しいとのメッセージであった。
8 月以前に生まれた子供達に対して、一回接 種で済む 4 種混合ワクチンが出るのを待って、 投与を控えさせているケースがあるが、待って いる間に百日咳等に罹患する可能性があるの で、投与控えをしないようにとの忠告があった。
最終的には 4 回の投与が必要だが、最初に投 与したパターン(4 種混合か、単独不活化のい ずれか)で続けるよう注意があった。
最後に演者も述べられていたが、余りにも多 い予防接種の回数を考えると、国内で安全な多 価ワクチンの開発を急いで欲しいと感じたの は、会場の先生方も同感だろうなという印象を 受けた講演会であった。
経口生ポリオワクチン (oral polio vaccine,OPV) は、ポリオ予防のための 優れた手段である。わが 国では、1961 年ポリオ 大流行の最中に緊急輸 入され、瞬く間にポリ オを制圧した。1988 年から始まった世界ポリ オ根絶計画においても、OPV が果たしてきた役 割はきわめて大きい。しかし、頻度は低いなが らも、副反応であるワクチン関連麻痺(vaccine- associated paralytic poliomyelitis,VAPP) と い う 問題点がある。麻痺は不可逆性で後遺症を残し、 看過できない副反応である。また、OPV 投与者 が発症する以外に、糞便中に排泄されたウイル スが周囲の者に感染し麻痺を起こす場合もある。
海外の先進諸国では、定期接種で用いていた OPV を不活化ポリオワクチン(inactivated polio vaccine,IPV)に変更する国が 10 年ほど前から増 えた。その理由は、野生株ウイルスによるポリ オ患者の減少に伴い、OPV の副反応である神経 病原性復帰がもたらす麻痺が問題視されるよう になったからである。IPV は欧米を中心に広く 普及し、良好な免疫原性が確認され、安全性の 点でも評価が高い。わが国でも 2012 年 9 月から 単独 IPV、11 月からは DPT(ジフテリア・百日咳・ 破傷風)ワクチンに IPV を混合した四種混合ワ クチン(DPT-IPV)が定期接種に導入となった。
IPV、DPT-IPV の接種年齢・回数・間隔は、 従来の DPT ワクチンのそれと同様となってい る。過去のワクチン接種歴によって、使用する 製剤の種類や接種回数が異なることに注意を要 する。また、OPV よりも接種の回数が増える ので、近年過密になりつつある乳児期の予防接 種スケジュールへの配慮も求められる。講演で は、IPV と DPT-IPV の円滑な導入に向けての 対処策を紹介した。