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カミキリムシと菩提樹 (後編)

長嶺 信夫

長嶺胃腸科内科外科医院  長嶺 信夫

6. カミキリムシの正体

ところで、菩提樹を枯れ死させたカミキリム シ(英名:Longhorn beetle)とはどんな昆虫 なのか。

よく知られているのは、シークァーサー(ヒ ラミレモン)などの柑橘類の被害である。みか ん農家の害虫対策で最も気を使うのがこのカミ キリムシの食害で、成虫は梅雨時によく見かけ る(写真8)。しかし、ガジュマルと同じ「ク ワ科の植物」である菩提樹にカミキリムシの食 害があるとは考えもしなかった。なぜなら、ガ ジュマルは台風で根元から倒れることはあって も、カミキリムシの被害で枯れたということは 聞いたことがなかったからである。

写真 8. ゴマダラカミキリの成虫、浦添市牧港の自宅庭で(2012 年 6 月 10 日撮影)

みかんの場合、カミキリムシが産卵し、幼虫 が幹に侵入すると、侵入口に小さな穴が開き、 その穴からオガクズ状の白い糞が排出される。 カミキリムシの幼虫は樹に入ると、樹の組織を 食べながらトンネルを掘り、生長する。このた めトンネル部の樹皮は少し膨らみ、剪定鋏の先 や針金でこすると、容易に樹皮がはげ、樹皮下 に白いイモムシ状の幼虫を発見することができ る。樹根に近い幹を観察することで、被害に気 付くことが多い。

しかし、菩提樹の場合は樹皮が厚く、オガク ズ状の糞の排出はなく、幹や枝が枯れるまで、 被害に気付かない。傷んだ枝や幹の樹皮をはが して、樹皮下に幼虫を発見してはじめてその被 害に気付く。その時はすでに手遅れである。オ ガクズ状の糞は茶色に変色し、樹皮と木質部と の間にたまっている。

ゴマダラカミキリの幼虫の期間は 2 年といわ れている。今回発見された幼虫は数ミリから数 センチまでの大きさがあり、2010 年から 2011 年にかけ、複数回にわたって産卵したことがわ かる。カミキリムシの被害を最小限にするに は、防虫剤の散布のほか、肥培管理を徹底し、 樹勢を強くすることである。すなわち、万一幼 虫が幹に穴を開けて進入しても、樹勢が強いと ヤニなどで甲虫類の幼虫は生育できないといわ れ、また成虫は樹勢が衰えた幹に産卵する傾向 があるので、肥培管理に気をつけて樹勢を強く することが予防につながるといわれているから だ(Wikipedia)

7. 枯れ死の原因と今後の対策

結論として、菩提樹苑の菩提樹はこの 2 年間 台風時にもネットを張らず、肥料も与えなかっ た。菩提樹は度重なる台風で傷めつけられ、そ の後も自然の成り行きにまかせたことで樹勢が 衰え、カミキリムシの食害を防ぐことができな かったのである。

3 本の菩提樹のうち 2 本が枯れてしまったの で、母木から非常用に取り木で育てていた樹齢 4〜 5 年の菩提樹を 2012 年 2 月 16 日と 3 月 18 日に移植し、かろうじて枯れ死をまぬがれ た残り 1 本の菩提樹は枯れた先端部分を切り除 くことで対応した。

菩提樹が枯れた原因から次の対策をとること にした。

1)台風時の強風と塩害を防ぐため御影石の塀を 2mから4mにかさ上げし(写真 9)、それ に加え、台風時には上部に更にネットを張る ことで対応する。折れた「オオバアカテツ」 の防風林のかわりに「フクギ」を植樹する。

写真 9. 塀をかさ上げした菩提樹苑。菩提樹を贈呈したスメダ尊師とともに(2012 年 5 月 13 日撮影)

2)肥料を与えないのではなく、肥培管理で樹勢 を強くし、万一、カミキリムシが産卵し、幼 虫が樹に侵入しても、その後の成長を極力阻 止する。

3)カミキリムシ対策として、樹根に近い幹にネ ットを張り、少なくとも、樹根部分の産卵・ 食害を防止する。薬剤は幼虫にはほとんど効 果がないことがわかった。

4)インドボダイジュは沖縄在来の樹木ではな く、県内に移入されてから年月が経たない。 そのため、本当の意味でのボダイジュの専 門家は沖縄にはいない。インドのスメダ師 は「自然のなりゆきにまかせたほうがいい。 菩提樹は祈りと線香の煙で育つ」と言って いたが、沖縄は台風のないインドと風土や 生育環境が異なるため、沖縄の風土・環境 にあわせた樹木管理をしなければならない。

5)スリランカのスマナサーラ師は「むやみに 枝を切るのはよくないことだが、樹を守るた め剪定するのはやむをえない」と言っていた。

6)植物専門家や自称専門家と称する人の意見を 鵜呑みにせず、日頃から樹を観察し、管理し ている自分の経験を優先する。

新たに移植した菩提樹は新芽を出し、枝も張 り出してきている。枯れ死をまぬがれた菩提樹 も芽を吹き出した。数年もたつと以前のように 樹も大きく育っていることだろう。

8. おわりに

以上が菩提樹枯れ死騒動の顛末である。

この機会に、あらたにかさ上げした菩提樹苑 の4mの塀にかこまれた構内に、自宅で育てて いた沙羅双樹と無憂樹(アショカ)の樹を移植 した。沙羅双樹は沖縄海洋博記念公園・熱帯ド リームセンターにもない。仏教三大聖樹が一箇 所に植樹されているのは、県内では沖縄菩提樹 苑だけである。ドライブの際に、菩提樹苑を訪 問し、樹の成長を観察することを希望します。

追記:一時枯れ死をまぬがれていた、1 本の菩 提樹も 2012 年 9 月 29 日に襲来した強烈な台 風 17 号によって著しいダメージを受けたため、 11 月 4 日に掘り起こし、新たに取り木苗を移 植した。11 月 11 日に、ダライ・ラマ法王 14 世が菩提樹苑を訪問する予定である。(沖縄菩 提樹協会会長)。

参考文献

1.長嶺信夫:古文書にみる「聖なる菩提樹」の歴史、沖縄県医師会報 2008 年2〜3月号

2.玄奘著 水谷真成訳注:大唐西域記、第 8 巻、平凡社、1999 年

3.カミキリムシ http://ja.wikipedia.org/wiki/ カミキリムシ

4. カ ミ キ リ ム シ http://www.sc-engei.co.jp/navi/gaithu08.html