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「HIVの現状と展望-臨床医がすべきこと-」
〜世界エイズデー(12/1)に因んで〜

谷口 智宏

沖縄県立中部病院感染症内科医師 谷口 智宏

毎年 12 月 1 日は、世界保健機関(WHO)が 定めた「世界エイズデー」です。これは世界 規模でのエイズ蔓延の防止、AIDS 患者や HIV 感染者に対する差別や偏見の解消を目的として 1988 年に制定されました。レッドリボン(図 1)は HIV 感染者への連帯を表すシンボルです。 皆さんもこれを機に HIV について考えてみま せんか?

1.HIV の歴史

ごく簡単に HIV の歴史をまとめます。まず 1981 年にカポジ肉腫が米国ニューヨークの男 性同性愛者の間で多数発生しました。それまで カポジ肉腫は、特定の地域にのみ発症するまれ な風土病と考えられていましたが、若い男性の 間で多発し、しかもカポジ肉腫以外にも様々な 日和見感染症を合併しました。米国疾病予防セ ンター(CDC)は、この疾患を後天性免疫不全症 候群(AIDS)と名付け、世界に警告を発します。 その翌年には、フランスのパスツール研究所で 原因ウイルスが発見され、後年ヒト免疫不全ウ イルス(HIV)と命名されました。1987 年に日本 人が世界初の抗 HIV 薬の開発に成功し、新薬の 開発が飛躍的に進み、1996 年から抗 HIV 薬を 多剤併用する治療法(HAART)が始まり、HIV 感染者の死亡率が激減します。そして 2008 年、 HIV 発見者にノーベル賞が授与されました。

当初 HIV は、男性同性愛者にのみ感染する 特殊な感染症と誤解され、感染者への差別と偏 見が生まれましたが、その後血液、精液、膣分 泌液、あるいは産道と母乳を介して感染するこ とが確認されました。つまりは性行為以外の日 常生活では感染しません。

2.HIV の現状と展望

2009 年のデータでは世界人口 68 億人の中で 3,300 万人、つまり 200 人に 1 人が HIV に感 染しています。3,300 万人のうち、1,400 万人 が成人男性、1,500 万人が成人女性、250 万人 が子供です。1 年間の新規感染者は 260 万人、 AIDS 死亡者は 180 万人でいずれも数年前に頭 打ちになりました。地域別では、3,300 万人の うち 2,200 万人はサハラ以南のアフリカで、日 本を含めたアジアでは 410 万人です。有病率 で表すとアジアでは 0.3%ですが、アフリカの 特に南部では 15%を超えており、性交渉と薬 物使用が主な感染経路です。

日本の現状は、2011 年のデータで累計 2 万 人を突破し、沖縄県は人口 10 万対で 0.928 人 と全国 6 位、AIDS 発症者では 0.785 人で全国 1 位です。男性が 90%を占め、感染経路は同 性間性行為が 73%です。年齢別には 30 代が最 多ですが、60 代での感染もあります。

現在は、抗 HIV 薬の進歩のおかげで AIDS を発症してもほとんどの場合治療が可能となっ ており、AIDS を乗り切った後は、抗 HIV 薬 服用継続による慢性期となります。さらに早期 に HIV 感染を発見できれば、AIDS を発症さ せないことも可能となりました。

これまでに様々な抗 HIV 薬が開発されてき ましたが、残念ながら HIV 感染を治癒させる 薬はなく、今後も出てこないだろうと予想さ れています。したがって、新規の HIV 感染者 が増加しつづけている本邦では、抗 HIV 薬投 与継続による慢性期の HIV 患者が増えていき、 かつ高齢化していきます。

3. 臨床医がすべきこと

我々臨床医がすべきことは、診断されてい ない HIV 感染者を早期発見することです。そ のためには、AIDS を発症する前の段階で HIV 感染を疑って見つける必要があります。そのタ イミングとしては、梅毒、淋菌、クラミジア、 単純ヘルペス、B 型肝炎、A 型肝炎、アメーバ 赤痢、尖圭コンジローマなどの性感染症をみた とき、基礎疾患のない人の口腔内カンジダ症や 繰り返す帯状疱疹など免疫低下をみたとき、さ らに原因不明の発熱、体重減少、全身性リンパ 節腫脹、慢性下痢、認知機能低下、汎血球減少、 肝機能障害、間質性肺炎をみたときや、結核と 悪性リンパ腫を診断した際にも HIV 感染の有 無を確認すべきです。

いざ HIV 感染を疑ったら、まず患者の同意 を得てからHIVスクリーニング検査を提出し、 もし陽性ならPCRとウエスタンブロットで確 認検査を行います。HIV スクリーニング検査 の偽陽性率は 0.3%と極めて低値ですが、感染 がまれな集団(例えば 10,000 人に 1 人が感染) では、スクリーニング陽性でもたった 3%の確 率でしか真の陽性ではありません。

確認検査によって HIV と診断した場合には、 本人にのみ感染を告知します。プライバシーへ の配慮から、医師からは家族に告知しません。 そして HIV 感染症は 5 類感染症ですので、7 日以内に保健所に発生届けを提出し、沖縄県の エイズ医療拠点病院である琉球大学医学部附属 病院、県立南部医療センター、県立中部病院の いずれかに紹介していただきます。拠点病院も 今後の感染者数の増加と共に、拡大していく必 要に迫られるかもしれません。

最後に、HIV 感染症は、B 型肝炎や C 型肝 炎などと同様に、慢性疾患となっていることを 全ての医療従事者が理解すべきです。HIV 感染 症をいつまでも特殊な疾患とみなしているうち は、HIV への差別と偏見は減っていかないでし ょう。

図 1 (レッドリボン)