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那覇市立病院 院長 照喜名 重一 先生

照喜名 重一 先生

那覇市を中心とした地域で の保健医療体制の充実のため に、独法化という組織で頑張 っています。

Q1. 那覇市立病院院長就任、誠におめでとうご ざいます。就任されて約 8 カ月が過ぎました が、ご感想と今後の抱負をお聞かせいただけ ますでしょうか。

ありがとうございます。ほんとうにあわただ しいような数ヶ月でした。4 月 1 日が日曜日で したので、二日月曜日午前 9 時に那覇市役所で 翁長市長から地方独立行政法人・那覇市立病院 理事長の辞令書をいただきました。以前にも副 院長就任時に市長から辞令書を交付されたこと はあったので、交付式そのものは二度目という こともあり、それほど緊張することもありませ んでした。すぐ病院へとって返し、以前にはな かった法人としての新年度のもろもろのセレモ ニーが始まってからです、緊張しだしたのは…。 60 数名の新採用職員と昇任者への辞令書の交 付式。一人づつに辞令を読み上げ手渡している うちに、しだいに緊張感が高まってきました。 これはタイヘンな仕事を引き受けてしまったよ うだぞと(笑)。やっと半年を過ぎた頃から理 事長という管理職業務に慣れてきたように思い ます。地方独立行政法人化というのは沖縄県内 では初めてですし、全国的にも 50 数カ所の自 治体病院が採用しだしたばかりの目新しい組織 形態です。前任者の與儀院長の下で、4 年前に 以前からの地方公営企業法・全部適用の組織形 態からこのあたらしい独法へ移行したものでし た。この 4 年間の間に 2 度の診療報酬改定が あったのですが、その改定に合わせて必要なマ ンパワーの増員などに迅速に対応でき、いわば 「独立」した行政運営のメリットが実感できた ものでした。新しい組織形態でしたので、與儀 理事長ともども職員の皆さんも運用の仕方を、 それこそ「勉強」しながらの緊張した 4 年間だっ たとも思います。今後は独法のメリットを生か した組織運営を心がけたいと思います。二代目 理事長になったら、失速したとなっては皆様に 申し訳ないですからね。

Q2. 那覇市立病院は、平成 17 年 1 月厚生労働 省より沖縄県の南部医療圏における「地域が ん診療連携拠点病院」として指定を受け積極 的にがん医療を行っており、平成 22 年から、 6 種類の地域連携クリニカルパスが稼働して いるとお伺いしておりますが、その内容を詳 しくお聞かせ下さい。また今後の課題があり ましたらお聞かせ下さい。

厚生労働省はガン対策を大きな目標のひとつ に掲げて医療計画を立ててきています。これは 増え続けるガンの対策として、全国的にその診 療の質を高めるために診療側の体制の強化を図 り、すべてのガン患者は全国どこに住んでいて も質の高いガン治療を受けられるようにし、患 者、家族の安心を目指そうという遠大なもので す。その一環として二次医療圏に一つづつ地域 がん診療連携拠点病院を指定しています。当院 は平成 17 年に沖縄の南部医療圏の地域がん診 療拠点病院の指定を受けて活動中です。また併 せて、それらを統括するものとして都道府県に ひとつ、がん診療連携拠点病院を指定していま す。沖縄県では琉球大学医学部附属病院が指定 されています。活動は多岐にわたりますので、 各拠点病院、沖縄県の行政、医師会、薬剤師会、 看護協会、有識者で構成されている沖縄県がん 診療連携協議会のもとに、部会を設けて精力的 に活動しています。ちなみに部会は 7 つあり、 (1)緩和ケア(2)がん政策(3)がん登録(4)相 談支援(5)研修(6)地域ネットワーク(7)普 及啓発にわかれ、それぞれ分担して活動してい ます。当院はすべての部会にスタッフが参加し 忙しく活動しています。

ご質問の地域連携クリニカルパスの説明を簡 単にいたします。医師会員の皆さんのイメージ では連携といいますと、ある特定の患者さんに ついてふたつの医療機関どうしで紹介しあうと いうものでしょう。このがん患者さんを対象と したクリニカルパスは胃・大腸・肝臓・肺・乳房・ 前立腺という代表的な 6 つのがんに関して拠点 病院だけではなく連携可能な地域のすべての医 療機関が参加できるものとし、共通のフォーム で情報提供書などを作成し相互に利用するとい うものです。また患者さん側にも「私のカルテ」 として情報を共有するように作製されておりま す。平成 22 年からこのパスの運用を開始して いますが、まだまだ参加が少のうございます。

課題としては、がん診療にともに参加いただ ける連携医療機関がなかなか増えないことで す。沖縄県全体では専門施設 17、かかりつけ 医療施設 50 が参加登録していただいておりま すが、まだまだ少ないです。これは全国的にも 事情は同様でクリニカルパス連携の認知度が低 く、私たちの普及啓発活動が不足していると反 省しております。医師会員の皆さんには、これ を機会に是非ご協力とご参加いただきますよう に、この場を借りてお願いいたします。

他の主な部会の活動状況についてもかいつま んで説明いたしましょう。緩和ケア部会は、す べてのがん診療に携わる医師が緩和ケアに習熟 できるようになることを目標に定期的に各地で 研修会を催しています。この研修会にもぜひご 参加いただきたいですね。研修を受けますと厚 労省から認定証が発行されます。

またがん登録システムが全県的にうまく稼 働するようになれば、いろいろなガンについ て正確な生存率情報なども明らかになり皆様 にも有用な情報提供ができるようになります。 また「がんフォーラム」として各地でがんに 関する講演会を催し、市民への啓発も積極的 に行っています。

Q3. 臨床研修指定病院として熱心に指導されて おりますが、貴院の特色をお聞かせ下さい。
 また研修医の反応はいかがでしょうか。

平成 13 年に厚労省から臨床研修病院の指定 を受け独自のプログラムで研修医を採用してお りました。あたらしい初期臨床研修システムが 平成 16 年に制度化された際に琉球大学医学部 附属病院を中心とした RyuMIC に参加し、那 覇市立病院 RyuMIC 研修プログラムとして研 修医指導にあたって現在に至っております。医 学部附属病院や RyuMIC 参加の研修協力施設 でもプログラムの一端を研修することもできる のを特徴としています。

この新しい研修システムは厚労省から「品質 保証」のために(笑)、チェックを受けることに なっており、一般目標、行動目標、経験目標と 3 項目がありそれぞれ、その内容が細かく例示 され到達すべきものとされています。幸い当院 は救急病院として年間 4 万数千名の救急患者さ んを受け入れており、研修すべき症例にはこと かきません。たくさんのコモン・ディジーズへ の対応が経験できます。プログラムの一端の例 ですが、指導医や上級研修医によるモーニング レクチャーや Case-based Learning なども充実 しております。また今では聴診器に勝るとも劣 らないといわれたりする超音波機器による検査 法の体験研修もあります。これは 1 泊 2 日の日 程での合宿でして飲みニケーションも兼ねてお り好評です。

さきほどお話ししたように、この新しい研修 プログラムは厚労省により盛りだくさんの到達 目標が掲げられているために、開始から数年 たってみると研修医によっては「消化不良」を おこしたり「息切れ」を訴える者もでてきまし た。そんなわけで、コモン・ディジーズだけで はなく、行動目標にもそれとなく触れられては いるコモン・センスも教えなければならない時 代になってきており、研修医たちとは世代差の ある指導医たちもタイヘンです(笑)。臨床研 修プログラムの管理を担当している大城副院長 が現在研修医と指導医の間に立って奮闘してい る箇所でもあります。

Q4. 医師・看護師不足の中、急性期医療の中核 病院として、小児科を始め複数の診療科を 24 時間 365 日救急体制で維持されており、 大変なご苦労があるかと思いますが、現状、 今後の課題がありましたらお聞かせいただけ ますか。

若い医師会員の皆さんは、もうご存じないか と思いますので、簡単に那覇市の救急体制の沿 革についてお話します。那覇市与儀にあった那 覇市救急診療所が古くなったので、昭和 60 年 那覇市立病院内の地下 1 階構内に移転新築され ました。琉大病院の先生方、各地区医師会の先 生方にはずいぶんと業務を分担していただき当 直業務に当たっていただきました。あらためて 感謝申し上げます。

ついで、また平成 11 年 4 月にはこの診療所 を組織替えし市立病院組織へ吸収合併しまし た。あらたに急病センターとして名称も変えて 急患対応するようになりました。

さて、本題に戻りますが、この平成 11 年は 10 月には NICU も新設されました。それ以来 救急患者は増え続け、センター施設の狭さが業 務に支障を来すようになったために平成 16 年 12 月には診察室などを増設しリニューアルし て現在に至っております。

ご指摘のように 24 時間 365 日救急対応を 謳って各診療科の協力のもとでその業務は維持 されております。日勤帯はセンター担当の寺田 医師を中心にして若い研修医たちのローテー ションにより、また症状によっては各診療科の 通常外来の医師の協力の下で対応されていま す。それやこれやの采配指揮などもこなしても らい、多忙な寺田医師にはほんとうに頭がさが ります。また、さらに特筆すべきは時間外・夜 間の小児の急患対応をほぼすべて小児科医が 担っていることです。救急を扱っている医療機 関は多々ありますが、小児救急を夜間もすべて 小児科医だけで対応しているのは県内では市立 病院だけです。かれら小児科医は通常外来もこ なし、NICU を含めた入院患者にも対応し、ほ んとうに過酷ともいっていいスケジュールをこ なしてもらっています。それにもかかわらず若 い小児科医師たちが、続々と当院へ勤務してい ただいています。これはひとえに小児科グルー プを統括する屋良副院長の人徳の賜物であり、 いくら感謝してもしきれないほどです。

そう言えば、肝心の救急患者数についてお話 しませんでしたね。ちなみに、昨年度の救急患 者数は 4 万数千人です、数年前のピーク時は 5 万人を超えていましたからやや落ち着いてきて います。そのうちわけは 44%を小児患者が占 めます。ついで内科患者が 34%でした。

課題といえば、コンビニ感覚での救急室受 診患者への対応で困っています。これは救急 を扱っているどこの医療機関でも同様なことで しょうけど。緊急な症状にいつでも対応できる ようにと私たちは、乏しいマンパワーをやりく りしながら、設備や組織体制を、また 24 時間 体制を構築してきたわけですが、このようなコ ンビニ感覚の受診が増えると担当医たちのモチ ベーションは確実に下がるばかりです。このあ たりは県医師会が市民への啓発広報していただ くとありがたいですね。

Q5. 県医師会に対するご要望等がございました らお聞かせ下さい。

救急の話のところですこし触れましたが、 県民、市民の救急室利用、救急車利用も含め てですが、コンビニ受診は控えるようにとい う啓発広報を是非県医師会レベルでも担って いただきたいですね。急患のタライ回しがな いというのが沖縄県の救急医療現場の誇りで したからね。他府県の例ですが、救急担当医 たちのモチベーションが下がってしまい、救 急を扱う施設が減り出すと、残って救急を担っ ている医療機関へまた患者が殺到し、そこの 担当職員たちが疲弊し…またそちらもつぶれ ていくという悪循環ができてしまい、一気に その地域の医療体制の崩壊がすすむというこ とがあります。医師の初期研修関係で医師会 が指導力を発揮したように、救急の件でもぜ ひ関与していただけるとありがたいです。救 急を扱っている公的病院の医師たちの過重な 負担と疲弊は、わたしにはそろそろクリティ カルなフェーズに入ったという印象です。

Q6. 大変ご多忙の身でありますが、日頃の健康 法、ご趣味、座右の銘等がございましたらお 聞かせください。

このような質問が一番困るんですよねー。健 康のために何かをするというのは、いままでな いんですね。ゴルフもテニスなどもしませんし、 ジョギングもしません。なにもこんなに強調す ることでもないんですが…(笑)。テニスをして いる女房にいわせると、あなたはズボラなただ のモノグサですと、一笑に付されていますが… いくら女房でもそこまで言うかと、反論もした いのですが、当たっているだけに一言も返せま せん(笑)。

趣味はというと、昔はオーディオと答えていま した。あなた、知ってます?あの、落としたら われてしまう黒いレコード盤の全盛時代を…?

針圧はいくらにしてとか、カートリッジは、 今夜はオルトフォンにして、いやシュアーが いいかなーとか、レコードのゴミをテイネイに ぬぐってターンテーブルにセットし、おもむろ にカートリッジをおろして云々…だったのです が、某年某月、レコードプレーヤーのベルトド ライブの修理がもうきかないといわれてお蔵 入りしてしまいました。それ以来便利な CD 再 生、それも BGM 扱い…とても趣味とは申せま せん。

さて、しいてあげるとすれば、ここ数年は、 庭や野菜畑の雑草取りですね。今年は適当に 雨が多く、そして天気にも恵まれて雑草も実 にスクスクとまた青々と育ちました。鎌とヘ ラを使って雑草を取っているとおもしろいで すよ、無心になれます(笑)。近くを通りすが りの後輩連中が「先輩!いい除草剤があり便 利ですよー」とか、「モーター付き草刈り機貸 しましょうか」とか外野スジがうるさいので すが、ソレは断固として無視することにして います。ところどころにタンポポがあったり、 スミレなどが咲いていたりするのですが、ど うして君たちは雑草扱いされて、あの 50 円均 一のポット苗とどう違うんだとか哲学的思索 にもひたれます…(笑)。

さて、座右の銘も今はありません、すみませ ん、話が盛り上がらなくて…(笑)。


この度はお忙しい中、ご回答頂きまして、誠 に有難うございました。

インタビューアー 広報委員 友利 寛文