那覇市立病院 外科 宮国 孝男
人 間 ド ッ ク に お け る 頸 動 脈 超 音 波 検 査、 PET-CT による癌検診、乳癌検診時に合わせ て行われる頚部超音波検査などに際して甲状腺 結節が発見される頻度は極めて高い。志村によ ると超音波検査を用いたスクリーニングでは甲 状腺腫瘤の発見率は 6.9 〜 31.6%と報告されて いる 1) 。触診による発見率 0.78 〜 5.3%と比べ ると非常に高く、甲状腺腫瘍の検診に超音波検 査は有用であると言える。しかしながらそのほ とんどは良性腫瘍であり、甲状腺癌の発見率は 触診が 0.08 〜 0.9%、超音波検査で 0.1 〜 1.5% である。見つからなくても不都合のなかった腫 瘤が見つかることで無用な心配を与えたり、不 必要な穿刺細胞診(FNA)などを行わないよ う注意することも必要となってくる。検診で見 つかった甲状腺結節の取り扱い、甲状腺癌の早 期発見の意義および治療法について概説する。
甲状腺の悪性腫瘍には乳頭癌、濾胞癌、髄様 癌、未分化癌、悪性リンパ腫があるが、そのほ とんどが分化癌である乳頭癌と濾胞癌で占めら れ、その他の癌は非常にまれである。また、未 分化癌と悪性リンパ腫は急速増大することが多 く早期発見は難しいため、今回は乳頭癌と濾胞 癌を中心に解説したい。
甲状腺癌はそのほとんどが無症状である。あ る程度進行しないと症状がでず、頚部に腫瘤を 自覚したり、頚部の違和感が出現したときはリ ンパ節に転移をしていたり、前頚筋に浸潤して いることも珍しくない。また嗄声はすなわち反 回神経への浸潤を意味する。術後の障害を起こ さないためにも自覚症状が出現する前に発見し たいものである。前述のように人間ドックや検 診を受ける機会のある方は良いが、受けない方 の甲状腺結節を無症状のうちに発見するにはど うすればよいか。何らかの理由で医療機関を受 診した際に頚部を触診してみる以外に方法はな いと思う。特に内科の先生には初診の患者には 是非頚部の触診を行っていただきたい。1cm 以 上の結節であれば触知できることが多いので積 極的に頚部を触診することで、より早期に甲状 腺癌を発見することにつながると考えられる。 甲状腺結節に対するスクリーニングとして超音 波検査を行うことが必ずしも推奨されている わけではなく、海外のガイドラインでは甲状腺 結節のある患者、結節の疑われる患者に甲状腺 超音波検査を行うことを推奨し、超音波検査を スクリーニングに用いることには反対をしてい る。わが国ほど手軽に超音波検査を受けられな いという事情があるのかもしれない。
検診等で発見された無症状の甲状腺結節を見 た場合、FNA による精査が必要かどうかを判 断しなければならない。甲状腺腫瘍診療ガイド ライン 2010 年度版において、FNA は手技が簡 便で感度・特異度が高いことから甲状腺腫瘤の 術前診断として強く推奨されている。超音波ガ イド下に施行することで小さな腫瘤にも正確に 穿刺することが可能である。しかし、FNA を 施行しても濾胞癌と濾胞腺腫、腺腫様結節を鑑 別することは困難である。また、5mm 未満の 結節に対する FNA は意義が明らかでないため 施行を慎むべきと考える。アメリカ甲状腺学会 のガイドラインは、超音波で甲状腺癌が疑われ る所見がある場合は 5mm 径以上から、異常頚 部リンパ節がある場合はすべての結節に、充実 した結節で低エコーなら 1cm 径以上、低エコー でなければ 1.5 〜 2cm 径以上の結節に施行する ことを規定している。
乳頭癌は微細石灰化などの特徴的な超音波所 見を有し、細胞診でも核溝や核内封入体などの 所見から比較的容易に診断が可能であるが、甲 状腺癌の診断で最も難しいのは濾胞癌の診断で ある。濾胞癌、濾胞腺腫、腺腫様結節は触診所 見、超音波所見が類似することが多い。濾胞癌 と濾胞腺腫の鑑別は病理組織検査で被膜浸潤の 有無が決め手となり、個々の細胞の所見に差異 が見られないことから FNA による鑑別は困難 とされている。そのため FNA で悪性所見が得 られない腫瘤でも濾胞癌の可能性があるため注 意が必要である。濾胞腺腫として経過観察して いた症例に遠隔転移が発見され濾胞癌に診断が 変更されることもそう珍しい話ではない。その ため以下の条件に適合する場合は手術を検討し たほうが良いとされている。
1)最大径が 3 〜 4cm 以上と大きい
2)増大傾向がある
3)圧迫感などの自覚症状を有する
4)整容性に問題がある
5)細胞診や超音波検査で癌が否定しきれない
6)縦隔内へ結節が進展している
7)機能性結節である
8)サイログロブリン値が 1,000ng/dl 以上
次に甲状腺分化癌の治療であるが、基本的に 手術を行う。2cm 以下で発見された分化癌の場 合は病側腺葉と峡部を含めて切除する葉峡部切 除が施行される。以前によく施行されていた対 側腺葉の下 1/3 も含めて切除する亜全摘術は最 近ではあまり施行されなくなってきた。腫瘍が 大きい場合、リンパ節転移が著名な場合、遠隔 転移を伴っている場合は甲状腺全摘術が適応と なる。1cm 以下で発見された微小乳頭癌に対し てはただちに手術を行うのではなく非手術経過 観察を行うことも許容される。明らかなリンパ 節転移や遠隔転移を認めず、甲状腺被膜外浸潤 を伴わない微小乳頭癌がその対象となる。本邦 では剖検例の 10 〜 28%に甲状腺癌(ラテント 癌)が見つかり、そのほとんどが 1cm 以下の 微小癌であることから 2) 、検診で発見された無 症状の微小癌に対して手術を行わずに経過観察 する試みが行われるようになった。癌研病院の 杉谷らは微小乳頭癌と診断された患者のうち、 臨床的に明らかなリンパ節転移や反回神経麻痺 による嗄声といった症状のない無症候性のもの 35 例 44 病変に対し非手術経過観察を行った。 その結果 50%以上増大した症例は 18.2%、不 変 65.9%、縮小 15.9%でリンパ節転移や腺外 浸潤、遠隔転移が出現した症例はなかった 3) 。 他にも同様の報告が見られ、微小乳頭癌に対す る非手術経過観察の妥当性が示されている。
甲状腺癌を早期発見するために超音波検査に よるスクリーニングを行い、発見された結節す べてに FNA を行うことは勧められない。海外 のように触診による検診が妥当であるとの意 見もあるかもしれない。しかし、超音波検査 は手軽で簡便な検査方法で有用であることは間 違いない。発見された結節に対する取り扱い、 FNA の適応について十分に理解することが必 要だと考える。
参考文献
1) 志村浩己:日本における甲状腺腫瘍の頻度と経過―人間ドックからのデータ、日本甲状腺学会雑誌 2010;1(2):109-113
2) 藤本吉秀:内分泌疾患―概念から外科治療まで、中外医学社 1989;p55
3) 杉谷 巌、鎌田信悦:甲状腺微小乳頭癌の対処法:非手術経過観察の妥当性、頭頚部腫瘍 2001;27:102-106