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関節リウマチ治療の進歩

徳山 清之

医療法人清心会  徳山クリニック 院長  徳山 清之

関節リウマチ(RA)は関節滑膜を主座とし た慢性進行性炎症性疾患である。自己免疫によ るリンパ球活性化、滑膜増殖による関節炎が進 行すると骨・軟骨破壊を介して関節機能の低下、 ADL、QOL の低下、生命予後の短縮がおこる。 有病率は0.2 〜 1.1%と報告されており、我が 国の患者数は60 万〜 70 万人と推定され、男 女比は1;3 ― 4 である。

RA の発症には遺伝的要因と環境要因があり、 遺伝的要因ではHLA ― DR 遺伝子が考えられ ているがその他の遺伝子多型との関連性も多数 報告されている。環境因子としては性ホルモン、 喫煙、歯周病などの感染症が注目されている。 特に喫煙は重要なリスク因子で重症度、治療効 果への関連が報告されている。病態形成には炎 症性サイトカインが大きく関与している。

RA の臨床経過は以前は関節破壊(骨びらん) は徐々におこると考えられていたが、発症6 か 月以内に出現し、最初の1 年間の進行が顕著で ある。関節炎発症早期の薬剤感受性が高く、寛 解導入率が高い期間をWindow of opportunity (治療機会の窓)と呼び、早期治療の重要性が 強調されている。RA の治療目標は以前は疼痛 などの臨床症状の改善であったがメソトレキ サート(MTX)と生物学的製剤の登場による パラダイムシフトで臨床的寛解、画像的寛解、 機能的寛解が可能となり、薬剤中止寛解をめざ せる時代となってきた。早期の治療開始がRA の治療成績を著明に改善する。そのため、早 期の診断基準が重要であるが、1987 年の米国 リウマチ学会(ACR)の改訂分類基準は平均 罹病期間が約7.7 年のRA 患者のデータをもと に作成されていたので早期診断には不適であ る。このような状況を受けて、ACR/EULAR の2010 年関節リウマチ新分類基準が作成され た。(図1)。1 つ以上の関節腫脹を認めること (他の関節腫脹をきたす疾患の鑑別が必要)が 必須でRA が疑われる場合は1)罹患関節の分布 と数、2)血清学的因子(リウマトイド因子ある いは抗CCP 抗体の有無)、3)関節炎の持続期間、 4)炎症反応(CRP あるいはESR の有無)の中 からスコアリングして10 点満点中6 点以上を RA と分類する。今後この分類基準の早期診断 の感度、特異度の検証が必要であるが現在のと ころ概ね有用との評価である。

図1. 2010 年RA 分類基準(ACR/EULAR)

臨床検査では抗シトルリン化ペプチド抗体 (抗CCP 抗体)は現時点ではRA を診断する 上でもっとも特異性の高い血清学的マーカーで ある。リウマトイド因子は多疾患でも陽性に なりうるが疾患活動性のマーカーとなるので DAS28 などと共に経過観察に重要である。

MMP ― 3 は炎症性サイトカインなどの刺激に よって分泌される中性プロテアーゼで、関節滑 膜細胞や軟骨組織で産生され、関節破壊の予後 予測のマーカーとして有用である。しかし、他 の膠原病で上昇するため診断的価値は低い。関 節滑膜の量を反映すること、PSL 使用、腎疾患 等でも上昇するので注意が必要である。免疫異 常の指標として免疫グロブリン、リウマチ因子 を、炎症の指標としてCRP,ESR、関節破壊の指 標としてMMP3 等により定期的に治療効果の評 価を行い、また、MTX 使用時は肝機能、骨髄抑制、 酸素飽和度等の副作用チェックが大切である。

RA の画像検査として関節エコーの有用性が 示されている。非侵襲的で、患者負担が少なく、 診断精度の向上や炎症所見や関節破壊の進行抑 制の評価を経時的に行い治療経過、薬剤効果判 定、薬剤中止時期の判断などに取り入れられて きている。今後、関節エコーの標準化が待たれる。

RA 治療の基本戦略は発症早期からの寛解導 入と寛解維持をめざすTight control である。 MTX は抗リウマチ薬のなかでは即効性があり、 有効率、継続率も高く、2011 年2 月から公知 申請により第一選択薬として最大用量16mg/ 週まで使用が可能となった。しかし、その使用 に際しては感染症、肝障害、骨髄抑制、急性び まん性肺障害、リンパ増殖性疾患などの有害事 象への配慮が必要であり、定期的な慎重なモニ タリングが重要である。

生物学的製剤は現在、本邦で使用可能な製剤 は6 種類である。作用機序によりTNF 阻害薬 が4 種類、IL-6 阻害薬、T 細胞活性化阻害薬 がある。MTX をはじめとした抗リウマチ薬に よる治療効果不十分の場合は積極的な導入が必 要である。

高齢者、間質性肺炎合併、腎障害合併例は第 一選択薬であるMTX や生物学的製剤の使用に 際し治療選択に苦慮することがある。その他の 抗リウマチ薬としてタクロリムス、ブシラミ ン、スルファサラゾピリジン等が有用である。 2010 年EULAR リコメンデーションに基づく RA 治療戦略を図2 に示す。

図2. 2010 年EULAR リコメンデーションに基づくRA の治療戦略

寛解基準として関節所見(圧痛、腫脹)、医 師評価、患者評価、血清所見(ESR,CRP) の4 つの評価による従来から使用されている DAS28(ESR)、DSA28(CRP) 以外により 高い寛解をめざすためCDAI,SDAI、Boolean 寛解等の新寛解基準が提唱されている。

2010 年、RA 治療におけるTreat to Target (T2T)リコメンデーションと治療アルゴリズムが 発表された。(表1)、(図3)。T2T とは診療にお いて治療目標を明確にして戦略的に治療を展開 していくという概念である。従来、糖尿病、高 血圧症などの治療ではHbA1C, 血圧値目標が 設定されT2T に基づく厳重なコントロールに より合併症や予後の改善が明確になりT2T の 普及が進んだ経緯がある。RA 治療においても オーストリアのSmolen 教授らがその概念を提 唱し世界的規模でRA 治療のT2T が進行中で ある。今後のRA の予後改善に大きく貢献する 事が期待されている。

RA の寛解導入、長期的予後の改善を目指す には早期診断、早期治療、Tight control に大 きく左右されるのでプライマリ・ケア医にお ける関節痛患者への対処は非常に重要である。 4 〜 6 週以上持続する関節痛、関節腫脹、朝の こわばり30 分以上、リウマトイド因子または 抗CCP 抗体陽性のいずれかが該当すればRA 専門医への紹介を考慮する。現在、RA 治療は 劇的な変化を続けており、以前にも増して膨大 な専門的知識が要求されている。リウマチ専門 医による診断確定、その後、MTX を中心とし た抗リウマチ薬による治療導入が強く推奨され る。その後、治療目標である寛解ないしは低疾 患活動性への導入の達成はリウマチ専門医の重 要な役割である。治療目標に到達すれば次の目 標はその状態を長期間にわたり寛解維持するこ とが重要であり一般内科医との連携が必要にな る。今後、RA の基幹病院、リウマチ専門クリ ニック、かかりつけ医による地域連携、病診連 携をどのように構築していくかが課題である。

表1. T2T リコメンデーションの基本的な考え方

図3. T2T リコメンデーションの治療アルゴリズム