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日本産婦人科医会
第35回 性教育指導セミナー全国大会

宮良 美代子

美代子クリニック 宮良 美代子



7 月24 日、日本産婦人科医会主催の第35 回 性教育指導セミナー全国大会が、福井県県民ホ ールで行われました。昨年に続き2 回目の参加 となります。

今年は「いまの性教育のあり様をみつめ、ど うすべきか考えよう!」をメインテーマに、教 育講演2 題、特別講演1 題、ランチョンセミナ ーを挟んで午後からシンポジウムというプログ ラム構成でした。

教育講演1 は「子宮頸がんの予防と検診 〜 HPV ワクチン接種を迷っているあなたへ〜」 として、子宮頸がんの原因となっているHPV の特徴、感染の自然史やHPV ワクチンの有用 性などについての解説と、演者の病院職員を対 象としたワクチン接種プロジェクトの紹介があ りました。

教育講演2 は「思春期は“今” …反抗しない 若者たち」。子どもが親として成長する(親性の 発達)過程においては、思春期におこる第二次 反抗期の存在が重要であるとの視点から、2002 年と現代とを若者の反抗のあり方を比較検討し た内容でした。元来、若者は反抗する対象とな った親との間で、相互の呼応関係を通して「人」 との距離感、付き合い方、「人の優しさ」「自分 自身の存在の意味」を学習していくものと解説 し、近年は反抗しなかった(できなかった)ま たは、反抗する必要がなかった若者が増加して いて、その後の「優しい関係」をつくる基盤と なっているとしています。昔の「優しさ」は「人 事と思えない」と言って、他人と積極的に関わ ろうとすることであったのに対して、今の「優 しい関係」の「優しさ」は他人と積極的に関わ らないこと、自分も他人も傷つかない関係を維 持しようとする事と述べています。そして、反 抗しない(できない)若者が思春期本来の発達 課題を何時どのように獲得していくのか、今後 検討していく必要があると述べています。

特別講演は筑波大学大学院人間総合科学研究 科教授、宮元信也先生の講演で、「子ども虐待 死の検証 〜 1 ヶ月齢を迎えられない子どもたち 〜」として、厚生労働省社会保障審議会児童部 会の下に設置された「児童虐待等要保護事例の 検証に関する委員会(検証委員会)」の虐待死 の報告について、第一次(平成15 年7 月〜 12 月)から第七次(平成21 年4 月〜 12 月)まで の内容をまとめたものです。今回の講演の目的 を児童虐待の統計的なデーターを数学的に分析 して、その結果を客観的に示す事としています。

検討した6 年8 ヶ月間に、385 人の虐待死が 報告されていて、その年齢分布を表1 に示しま した。さらに詳細を見てみますと、図1 のよう になります。虐待死全体の44.2%(170 例)が 0 歳児で、その内の45.3%(77 例)が0 ヶ月児、 さらにその87.0%(67 例)が出生当日の0 日 齢での死亡例となっています。0 ヶ月死亡例の 多さから、その詳細を調査した結果では、0 日 死亡例の実母の平均年齢は28.4 歳で、19 歳以 下が16 例(24.6%)と最も多く、次いで35 〜 39 歳が多くなっていました。平成21 年の出産 全体に占める19 歳以下の母親の割合は約1.3% しかなく、いかに0 日死亡例の実母に未成年者 が多かったのかが分かります。さらに、0 日死 亡例では、望まない妊娠が54 例(80.6%)と 多く、知的障害が3 例(4.5%)あります。ま た、過去に遺棄の経験がある者も13 例(19.3%) 見られています。

表1 虐待死亡時の年齢

図1 死亡時年齢の詳細

この調査結果から浮かび上がってきた虐待死 亡例の加害者となった10 代の母親の特徴は、 初回の妊娠で、家族は妊娠に気付いておらず、 本人も誰にも相談できないままで、殺害・遺棄 には計画性がなく、衝動的に死亡させてしまっ た、と言うものでした。0 日死亡例では妊婦検 診を受けていない場合も多く、出産も全例医療 機関以外で行われています。従って、妊婦健診 や1 ヶ月検診、乳児家庭全戸訪問事業(こんに ちは赤ちゃん事業)などでは、0 日齢児の虐待 死を防ぐことは出来ません。この事態に対処す るためには、十代への適切な性教育や望まない 妊娠に関しても気軽に相談できる体制を充実さ せていく事が必要であるとまとめています。講 演を聴いて、不幸にも虐待死の加害者となって しまった若い母親の姿が目に浮かび、心が痛く なりました。

ランチョンセミナーは「これからの健康教育 〜女性のライフプランを応援しよう〜」の演題 でした。少子高齢化の進む我が国において、社 会を活性化するためには、女性の力が労働力と して期待されると共に、子どもを産み増やすこ とも重要です。そのため女性のライフプランが 日本の行方を左右すると言っても過言でないと 述べています。性教育の分野から出来る対策と して、ジェンダー教育と、女性のライフサイク ルの教育をあげ、これにより男女が対等な関係 性を構築して等しく労働と家事・育児に担い、 望んだ数の子どもを産み育てることが出来るよ うなること、女性がキャリア形成・維持のため に妊娠を先送りする事なく、出産・育児をより 適切な年齢に生活設計できるようになることを 支援します。各分野で男女共同参画に関わる活 動をされている演者らしい講演内容でした。

午後からはシンポジウムとして、「地域の現 状を踏まえた性教育に求めるもの」をテーマに、 教育関係者からは学校現場の性教育に関する講 演、警察関係者から性犯罪被害者の現状と支援 に関する課題、泌尿器科医よりSTD に関する 性教育のあり方、産婦人科医からは性教育との 関わり方についての医師へのアンケート調査の 結果報告がありました。これらは、どの地域に おいても共通する問題で、性教育もまだまだ課 題が多くあまり前進していないように思われま した。