沖縄赤十字病院 血液内科 朝倉 義崇
はじめに
沖縄県における骨髄バンクのドナー登録事業 ならびに造血幹細胞移植においては、沖縄赤十 字血液センターに多大なご尽力をいただいてお ります。
ところが、わずか2 年前後の猶予期間ののち に造血幹細胞移植における血液センターの技術 協力が不可能となることから、県内で新たな造 血幹細胞移植の体制を構築する必要に迫られて います。
本稿では、沖縄県における骨髄バンクと造血 幹細胞移植の現状および今後の問題点について 概説します。
骨髄バンクと同種造血幹細胞移植
1991 年12 月に骨髄移植推進財団の発足以 来、2011 年で骨髄バンクは設立から20 周年を 迎えました。2012 年7 月までに1 万4 千人以 上の患者さんに造血幹細胞移植が実施され、ド ナー登録者数は累計で約55 万人に上ります。
本県は人口当りのドナー登録者数は全国一 で、これはドナー登録をされた県民の皆様はじ め、骨髄バンクドナー登録の啓蒙活動に尽力し て下さった沖縄赤十字血液センターの皆様、沖 縄県骨髄バンクを支援する会の皆様のおかげで す。この場を借りて深く御礼申し上げます。
他者の造血幹細胞を移植する「同種」造血幹 細胞移植は、用いられる幹細胞のソース別に骨 髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植に分類 されます。骨髄バンクでは、以前は名前の通り 骨髄移植のみでしたが、2011 年度から末梢血 幹細胞移植も開始されました。これら三つの幹 細胞ソースは、血縁者ドナーの有無、HLA 一 致の程度などにより優先順位があり、いずれか のソース由来の幹細胞を患者さんごとに選択し て移植を行います。
造血幹細胞移植の成功率がもっとも高いの はHLA 一致の血縁者ドナーからの移植ですが、 それが難しい場合には骨髄バンクドナーからの 移植を検討します。臍帯血移植はドナーの負担 が少ないのが利点ですが、HLA 一致の骨髄バ ンクドナーからの移植に比較すると明らかに成 功率が劣るため、骨髄バンクドナーの次に考慮 されます。全国的な高齢化と少子化の影響から 血縁者ドナーは減少する一方であり、骨髄バン クドナーのニーズは今後さらに増加していくこ とが予想されています。
沖縄県における造血幹細胞移植の現況と問題点
沖縄県では、2010 年に琉球大学医学部附属 病院に骨髄移植センターが設立、2011 年から ハートライフ病院が骨髄バンクの認定施設とな り成人における骨髄バンクドナーからの移植が 再開されるなど、今まさに造血幹細胞移植を本 格的に行う体制が整いつつある状況です。
上述したように、沖縄赤十字血液センターか ら骨髄バンクドナー登録において多大なご尽力 を頂いていますが、実際の造血幹細胞移植にお いても血液センターのスタッフの方々には少な からぬ御協力を頂いております。特に末梢血幹 細胞を用いた移植の場合、その採取から、処理、 凍結、保管、そして移植までの全てのステップ において血液センターの協力が必須です。
ところが、日本赤十字社の方針により、わず か2 年前後の猶予期間をもって血液センターの 協力が不可能となってしまうことが分かりまし た。今後は、琉球大学医学部附属病院を中心と した沖縄県における新たな造血幹細胞の移植の 体制を構築していく必要がありますが、難しい 問題が山積しています。
沖縄県における新たな造血幹細胞移植の体制構 築のために
現在、県内の造血幹細胞移植においては、沖 縄赤十字血液センターから様々な機材や設備お よび技術的な協力を得ています。
機材や設備としては、代表的なものだけでも 血液成分分離装置、無菌接合装置、遠心分離器、 クリーンベンチ、フリーザーなどが挙げられま す。これらの装置を扱うには技術的な知識はも ちろんのこと、何よりも豊富な経験が最も重要 であり、沖縄県の造血幹細胞移植に長年に亘り 携わってきた血液センターのスタッフの方々の 経験が安定した移植成績を支えてきたと言って も過言ではありません。
こうした現状を鑑みると、2 年という僅かな 猶予期間で新たな体制を構築できるのか、県内 の血液内科医・血液小児科医を中心に議論を続 けていますが、見通しは未だ極めて不透明です。
造血幹細胞移植を必要とする全ての沖縄県民の ために
成人・小児の血液・悪性腫瘍の患者さんには、 造血幹細胞移植を必要としておられる方が多数 おられます。例えば沖縄県は、難治性白血病で ある成人T 細胞白血病(ATL)の多発地域で すが、現時点でATL に対する唯一の根治的治 療は造血幹細胞移植であり、高齢発症の疾患で あることから今後さらに患者数が増えることが 予想されています。
血液センターから機材・設備の提供や技術協 力が得られなくなった後は、それぞれの病院で 造血幹細胞の処理を行うことになりますが、不 十分な設備や経験不足の結果、必要な量の造血 幹細胞の採取ができない、不潔な細胞処理や不 適切な凍結保存により造血幹細胞が死滅するな ど、さまざまな弊害を来す可能性があり、いず れも直接的に患者さんの生死に関わります。
このような状況下では、患者さんが安心して 県内で造血幹細胞移植を受けることが出来ず、 患者さんや御家族が肉体的、精神的、そして経 済的に重い負担に耐えながら、県外で移植を受 けざるを得なくなります。
造血幹細胞移植を必要とする全ての沖縄県民 のために、豊富な経験を持った人員と十分な機 材や設備を備えた新たな体制が必要です。しか し、それを2 年で達成することは難しく、少な くとも5 年以上は要するのではないかと私個人 は考えております。県内の医療関係者の皆様方 にも、こうした状況をご理解頂けると幸いです。 どうか今後ともよろしくお願い申し上げます。