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「骨と関節の日」(10/8)にちなんで
〜ロコモティブシンドロームと骨折〜

松元 悟

ハートライフ病院整形外科 松元 悟

日本整形外科学会では、平成6 年国民の皆様 に整形外科の医療内容をもっとよく知って頂く 為に、10 月8 日を「骨と関節の日」と制定し ました。人が健康で働くことが出来る源は、健 康な内臓はもちろんですが、脊骨・手・足など の全身の運動器官を造りあげている骨・関節・ 筋肉・靭帯・腱・脊髄・神経などがうまく働 いてくれることにあります。整形外科はこの運 動器官の病気とけがを扱う専門医学です。なぜ 10 月8 日に制定したのでしょうか。骨→ホネ →「ホ」の字が「十」と「ハ」にわけることが でき、10 月10 日の体育の日(平成12 年から ハッピーマンデー法の制定により10 月の第2 月曜日になっています)にも近いことが記念日 を10 月8 日と定めた理由です。平成24 年度 は10 月8 日が体育の日になっています。

世界保健機構(WHO)から2000 年1 月に「骨 と関節の10 年」として世界に発信されました。 以来、各国でさまざまなキャンペーン活動が催 されておりますが、日本では「運動器の10 年」 と置きかえてキャンペーンをしています。日本 整形外科学会では、10 月8 日の「骨と関節の日」 に1 年ごとにテーマを決め、マスコミへの説明 会、各種の講演会、電話相談などを行っていま す。2000 年から2010 年までの10 年間のキャ ンペーン事業でしたが、高齢化社会となり、介 護予防や生活習慣病対策でも運動器疾患治療の 重要性が見直されており2011 年以降も形を変 えて継続されています。2012 年のテーマはロ コモティブシンドロームと骨折です。

ロコモティブシンドローム(運動器症候群) は、2007 年日本整形外科学会が提唱しました。 運動器の障害による要介護の状態や要介護のリ スクの高い状態をいいます。ロコモティブとは 移動を意味する英語で機関車という意味もあ り、骨・筋肉・関節など人間の身体を動かす「運 動器」の意味もあります。

高齢者人口の増加に伴い、脆弱性骨折も増加 しています。脆弱性骨折の原因は骨強度低下と 転倒です。骨強度の低下については一般の関心 も高く、骨粗鬆症はよく知られています。骨塩 量は骨の強度と相関があり、骨密度が低下する と骨の強度は低下します。近年、有意に骨密度 を上げ、骨粗鬆症を改善する治療薬が普及し、 骨粗鬆症の治療は進歩していますが、転倒につ いては関心が薄いです。骨折は骨に加わった衝 撃によって起こるものがほとんどですが、転倒 など大きな力が加わったときに骨折します。骨 は弱くても転ばなければ骨折するリスクは少な いため、骨を丈夫にするだけではなく、転ばな いための努力をすることも大事です。バランス 力の改善にはフラミンゴ療法(片脚立ち)が有 効とも言われています。

脆弱性骨折の主なものには大腿骨頚部骨折、 腰椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折が挙げられます。 特に大腿骨頚部骨折は歩行能力を低下させるこ とから日常生活動作(ADL)の自立が失われ ることが多く、その為、全身状態が許す限り治 療の原則は手術です。特に受傷前に歩いていた 人はすぐに手術し、すぐに歩行訓練を開始する ことが予後をよくします。リハビリテーション も急性期病院で充分な入院期間が確保できない 場合は回復期リハビリテーションと連携し、リ ハビリテーションを続けることが大事です。

骨粗鬆で骨が弱くなり脊柱の椎体が圧迫骨折 を起こしてしまうのが腰椎圧迫骨折です。転倒 など大きな外力でなくとも、しりもちをつく程 度の軽微な外力で圧迫骨折を起こすことも頻繁 にあります。治療としては殆どが保存治療で治 りますが、圧迫骨折が進行して神経を圧迫し 徐々に下肢麻痺・膀胱直腸障害をきたすことが あります。この場合は神経の圧迫を除く手術(降 圧術)を行います。偽関節を形成し腰痛が強い 場合、骨セメントを骨折部に注入して安定化さ せる手術(椎体形成術)を行うことがあります。 また、圧迫骨折の初期に疼痛の除去、離床まで の期間を短縮するために同様な手術を行う場合 があります。

橈骨遠位端骨折は手をついて転倒した際に骨 折することが多く、どの年齢にも起こり得るが 特に高齢者に多く見られます。転移のある骨折 は麻酔下で整復しギプス固定を行いますが骨が もろい為、骨折部で短縮を起し手関節が変形す る場合があり日常生活動作に不自由をきたす場 合がある。近年ではロッキングプレートによる 固定が行われるようになり手関節の変形もほと んどきたさず早期リハビリが開始出来、術後の 成績も良いです。

今年の「骨と関節の日」キャンペーンの新聞 紙面座談会は沖縄タイムス、琉球新報両社に10 月3 日(水)掲載されます。市民公開講座は10 月7 日(日)14:00 〜 16:00 沖縄県立博物館 で催されます。

以上ロコモティブシンドロームと骨折につい て述べましたが、何よりも予防が大事でありロ コモティブシンドロームに陥らないように日頃 からよく運動を楽しみ、健康寿命を伸ばしまし ょう。