田仲医院 (南部地区医師会理事) 田仲 秀明
糖尿病週間にちなみ南部地区医師会が南部福 祉保健所そして南部糖尿病ネットワークと協力 して推進している南部における糖尿病連携につ いてご紹介したいと思います。
わが国において糖尿病の療養治療が大きな問 題となっている背景には、糖尿病患者数の激増 (昭和30 年の30 倍超)があります。糖尿病専 門医は慢性的に不足・偏在し、一般内科のみな らず他科の先生方のお力を借りなければとても カバーできないのが現状です。一方で、日進月 歩で変化する治療薬やデバイス、大規模研究の 新しい知見が出るたびに変貌する治療戦略に至 るまでキャッチアップするのは容易ではありま せん。
平成12 年には日本糖尿病療養指導士(CDEJ) 制度が発足し、コメディカルの専門的なサポー トが得られるようになりました。しかし10 年 以上経過してなお保険点数上の裏付けを欠き、 認定や更新に要する多大な努力に見合うインセ ンティブが得られずCDEJ の資格を返上して しまう例が後を絶ちません。
糖尿病療養治療に関する沖縄県の問題とし て、これまでも外来受診率の低さ(全国最下位) と死亡率の高さが指摘されて来ました。都道府 県別の糖尿病による年齢調整死亡率(厚生労働 省大臣官房統計情報部)で沖縄県は平成12 年 に男女とも2 位、平成17 年には男女とも全国 1 位となっており、糖尿病管理が適切になされ ていなかったために心筋梗塞や脳梗塞、あるい は人工透析の増加を招いたのがその原因と考え られています。
さて、ご存知のように平成20 年4 月から特 定健診、特定保健指導がスタートしました。特 定健診そのものは予防レベルの人々を対象にし ており、重症者は受診勧奨として医療の対象と なります。前述のように糖尿病外来受診率が全 国最下位の沖縄県では特定健診後、大量に掘り 起こされる糖尿病患者の扱い(連携パス)をど うするのか?またその際の治療の質はどうする のか?という問題が生じました。
南部地区では特定健診の開始を受け、平成 20 年5 月に第1 回南部地区糖尿病連携会議(DM 連携会議)が開催されました。これは当時の高 江洲均南部福祉保健所長の呼びかけで、特定健 診の主体である南部地区3 市4 町の国保と協会 けんぽ、それに受け手である南部地区医師会、 南部地区歯科医師会、その他関連団体の担当者 が南部福祉保健所で一堂に会したものです(図 1)。席上、保険者から受診勧奨者が紹介先で受 ける糖尿病治療の質を医師会で担保して欲しい との要請がなされました。
第1 回DM 連携会議の要請に応えるかたち で、同年6 月南部地区医師会地域糖尿病対策委 員会(現 地域糖尿病・慢性腎臓病対策委員会、 以下DMCKD 委員会)が発足、7 月に行われた 第2 回DM 連携会議において南部地区医師会 として以下のような方針を回答しました。
1) DMCKD 委員会により、糖尿病一次(対象 患者HbA1c JDS 6.1 〜 7.9%)、二次(同 8.0%以上)、三次治療機関、眼合併症治療機 関、脳心血管治療機関を認定し、保険者にそ の情報を開示する。
図1 南部地区糖尿病連携会議(DM連携会議)の構成
2)一次治療機関は南部地区医師会会員であるこ とを条件に診療科に拘らず広く手上げ方式で 募集し、DMCKD 委員会が主催する認定講習 会受講を以って初回認定とする。
3)認定更新の要件は、南部糖尿病ネットワーク に規定回数以上出席することとする。
ここで南部地区における糖尿病連携のキープ レーヤーである南部糖尿病ネットワークについ てご説明いたします。
前身は平成10 年、県立南部病院においてコ メディカル向けCDEJ 受験対策の勉強会とし て発足しました。その後、近隣医療機関のコメ ディカルや市町村保健師も参加するようになり 次第に活動も活発となっていきました。平成 12 年、第1 回目のCDEJ 試験終了後も会の存 続を望む声が強く、南部地区CDE 勉強会とし て活動を続けることになりました(写真1)。
平成14 年には南部地区のDM 専門医も参加 するようになり、名称も現在の南部糖尿病ネッ トワーク(NDN)に改められました。平成20 年には、南部マクロアンギオパシー研究会を合 併し、DM プライマリケアに興味のある循環器 専門医も参加する組織へと拡大しています。
現在、南部地区医師会DMCKD 委員会と共 催し、隔月年6 回の教育講演(うち1 回は特別 講演)を南部地区医師会館で行っています(写 真2)。
南部地区でこれまで培われてきた糖尿病連携 のエッセンスが、南部地区医師会から「糖尿病・ 慢性腎臓病診療ガイド」、DM 連携会議からは 「南部地区糖尿病連携マニュアル」として冊子 にまとめられており、病診・病々・診々連携に、 またコメディカルや保険者との共通のツールと して利用されています(写真3)。
このように南部地区で糖尿病連携が比較的ス ムーズに行われている背景には、10 年以上に わたるNDN の地道な活動があります。DM 連 携会議がそれぞれの立場を代表するオフィシャ ルの顔とすれば、NDN は職種の垣根を越えた カジュアルの顔です。と言うのもこの二つの集 まりは、ほぼ同じメンバーによって構成されて いるからです(図2)。
図2 DM連携会議とNDNの関係
写真1 南部地区CDE 勉強会の立ち上げ(平成12 年)
写真2 NDN 教育講演の様子(南部地区医師会館)
写真3 南部地区糖尿病連携マニュアルと診療ガイド