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「麻酔の日」(10/13)に寄せて

島尻 隆夫

豊見城中央病院 麻酔科 島尻 隆夫

10 月13 日は「麻酔の日」です。そのそもそ もの由来は…

「麻酔の日」はまだ世間一般に認知されてい ないので「麻酔の日」について説明する時、麻 酔科医は皆、上記のようにまずその由来につ いての説明から始め、何十行かその説明に費 やしたのちに本題に入ることになる。ただ幸 いにというか、その前後の記念日、鉄道記念 日(10 月14 日)や国際防災の日(10 月12 日) のように割と知られている記念日は重なって いない。10 月13 日は引っ越しの日とサツマイ モの日がそれであるが、いずれも麻酔の日と同 程度の認知度と思われるのでその中に埋もれる ことはない。

それ程認知されていない麻酔の日ではある が、その意義を考えると二つあげたい。ひとつ は麻酔というものの啓蒙である。沖縄県では琉 球大学医学部麻酔学教室が中心となってこの日 に公開講座などを開いて啓蒙を行なっている。 麻酔というあまり患者さんと接触のない分野を 理解してもらうのはなかなか大変なようだ。

もうひとつの意義はわれわれ麻酔科医自身が もう一度麻酔というものを見直す日だと思う。 日頃日常生活に埋もれて麻酔という医療行為を 繰り返している中で、今のままでいいのか、改 めて問い直す日にしたい。

ここから先は個人的な話ではあるが、私は今 年大病をして手術を4 回も経験した。以前読ん だコラム(五木寛之だったと思う)でがんセン ターの院長がガンで亡くなった、ガンの専門医 でもガンで亡くなるのか、皮肉なものだという 趣旨だったが、世間の人はそういう見方をする んだなと妙に納得したことを憶えている。その 論理から考えると私は麻酔科なのに麻酔を4 回 も受けたということだ、それも麻酔の種類は大 まかにに言って全身麻酔、腰椎麻酔、硬膜外麻 酔、神経ブロックがありこの4 つでほぼ7 〜 8 割を占めるが、この4 つ全て経験した。

経験してわかったが、見るのと聞くのとでは 大違いということ。

昔の歌謡曲に男と女の間には深くて暗い河が あるという歌があったが、医療者と患者の間に も同様の溝があることを痛感した。分かってい るつもりでも、どうしてもわかり合えない部分 がでてくる。

しかし男が女の気持を本当に分るためには性 転換しかないが、医療者の場合がんになれば患 者になる、そして患者さんの気持ちを理解する。 よく患者さんの身になって考えなさいと言われ るが、本当の患者になってその立場を実感した のだ。

私のような例は少なくない。医療者は数多い し、何しろ今は国民の三人に一人はがんになる と言われているのだから。

痛みは主観的なものと言われその客観的評 価が難しいとはよく言われるが、その通りだと 思う。病気により失うものが大きい場合、例え ば一家の大黒柱だったり、幼い子供がいたりし た場合は痛みを強く感じるだろう。

日露戦争のとき負傷した兵隊が痛みをあまり 訴えないという話を聞いたことがあるがそれは 負傷すると生きて母国へ帰れることを知ってい たからだということだ。

今までも手術中の安全な麻酔と術後の痛みを できるだけ除去しようとやってきたつもりでい たが、まだまだ患者さんのためにやれることは 数多くあり、また初心に戻ってやっていきたい と考えている。


上記のことは私の個人的な体験のことで大病 しない医療者は患者さんの本当の気持ちがわか らないというつもりはない。病気しなくてもわ かる方もいるし、わからなくても速いか遅いか の違いでいずれ分かるようになると思う。

いずれにせよ改めて麻酔科医という仕事の意 義を痛感した。

まだまだやるべきことは数多くあるので、も うしばらく頑張ってみようと考えている。