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県立精和病院 院長 伊波 久光 先生

伊波 久光 先生

国の方針である「入院治療 から地域生活へ」や「5疾病 5事業」の地域医療計画の策 定を見据えながら、時代に叶 った公的精神病院としての精 和病院を模索して行きたいと 思います。

Q1. 県立精和病院院長就任、誠におめでとうご ざいます。就任して半年が経ちますが、ご感 想と今後の抱負をお聞かせいただけますでし ょうか。

14 年間の中部病院精神科、1 年間の県庁職員 健康管理センターを経て、平成16 年4 月に精 和病院へ副院長として就任しました。その後の 県立病院を取り巻く一連の激動はもう皆様もご 存知でしょうが、現在、特に経営的持続性の観 点から経営形態について検証委員会で論議が継 続しています。それに並行して精和病院の場合 は、長い間、困難な環境の中で公的任務を果た して来たものの、非効率的、時代遅れ、劣悪の 環境など様々な面で厳しい指摘を受け、病院の 機能のあり方も問われています。前院長と共に、 できる範囲での改革を試みてきましたが、精神 科医療を取り巻く昨今の状況や社会的なニーズ の変化に充分に答えているとは言えませんし、 経営的にも赤字の状態が続いています。ただ、 そのことを持って現在担っている重要な役割が 軽視され、これまでの功績や存在を否定される ことは理にかないませんし、今後の県の精神科 医療政策についても大きな損失だと考えていま す。内外の理解・協力を得ながら、時代に叶っ た公的精神科病院としての役割を今後も模索し て行きたいと考えています。

Q2. 貴院は県立病院唯一の精神科単科病院であ り、本県の精神科医療の中核的機能を担う病 院として、県全体の精神医療・保健・福祉の 向上にご尽力されていますが、今後の公立病 院精神科病院の役割なりビジョン等をお聞か せください。

当院は、戦後の沖縄県の精神科医療が劣悪で あった昭和36 年に障害者援護会によって「財 団法人沖縄精和病院」として開設され、復帰後 の昭和48 年に県立病院として移管されて現在 に至っています。当時は民間の精神科病院病床 も少なく、これまで国立琉球病院と共に県内精 神科医療の中核的な役割を果たしてきたのは周 知な事と思います。沖縄県は多くの離島を抱え る離島県であり、本土とは医療状況が出発時点 から現在も異なっていると言えます。そのため、 通常の本土県にあっては、県立病院は、基幹病 院(一般病院)1 施設と単科精神科病院1 施設 の組み合わせが基本的な形だと言え、両者に充 分な投資がなされてきました。沖縄県では中部 病院を始めとして五つの県立一般病院と単科精 神科病院である当院が存在しています。一般医 療に於は、高度化、専門化し、救急医療・地域 医療の充実化が求められる中で、県立病院は、 今でも県全体あるいは地域の中核病院として頑 張り続けています。

精神科医療政策は一般医療政策とは異なった 道を歩んできて、全国的に35 万床の精神科病 床が現在も維持されています。民間精神科病 院が90%のシェアーを占めていて、その事を 無視した精神科医療政策は成り立たない状況に 至っていると言えます。沖縄県でも民間精神科 病院の発展は目覚ましく、施設アメニティや医 療体制の面でも精和病院をはるかに凌駕するに 至っています。精神保健福祉法第19 条の2 の 規定により、都道府県は精神病院を設置するこ ととされており単科精神科病院として精和病院 が存在していますが、地域的および現実的な ニーズ、医療特性により南部医療センター、宮 古病院、八重山病院にも精神科病棟が設置され ています。現在、沖縄県の約5,500 床の中で、 県立病院が占める精神科病床は355 床(精和 250 床、南部医療センター5 床、新宮古病院は 50 床の予定、八重山50 床)です。昨今、国の 精神科医療政策は病床縮小、機能分化へ舵を 切っており、民間にとっても公的病院にとって も厳しい状況になってきているのは間違いない でしょう。平成16 年の「入院治療から地域生 活へ」の国の方針を受けて、精和病院は病棟縮 小と機能分化を行い、300 床から50 床の病棟 削減と急性期病棟の開設を行ってきました。本 来の役割(処遇困難、司法関連、精神科救急など) では、不十分ながらも中心的な役割を果たして いると思います。最近は、特に医療観察法関連 の業務は増えつつあり、治療抵抗性統合失調症 治療薬の導入も始めたところです。ただ、先進 的な分野である児童・思春期精神科医療、精神 科合併症治療、薬物依存、認知症対策に関して は、不十分なままです。精和病院が現在の貧弱 な体制のままで、これらの全てを担うべきかど うかは疑問の余地があり、現実的とは思いませ んが今後の検討は必要でしょう。現在、県の検 証委員会で全県立病院の経営形態について論議 中であり、加えて精和病院は将来的な機能のあ り方、存続・統合まで議論が及ぶ可能性があり ます。精和病院が現在も担っている機能の充実 を図りながら、新たにどの領域をどこまで担う のか、そのためには何が必要なのか、更なる病 床縮小が必要かどうか、一般病院と統合すべき かを関連機関と慎重に協議して行くべきだと考 えています。

Q3. 精神疾患の患者数は、近年のうつ病や認知 症患者の増加により医療計画に記載されてい る現行4 疾病で最も多い糖尿病の237 万人 をも上回り、国民に広く関わる疾患となって おります。
次期医療計画では精神疾患が5 番目の疾病 として位置づけられ「5 疾病5 事業」になる ことについて、本県の精神科医療も含めてど のようなことが期待できるのでしょうか。先 生のお考えをお聞かせください。

ご存じの様に地域保健医療計画では、4 疾病 として糖尿病、がん、脳卒中及び急性心筋梗塞、 5 事業として救急医療、周産期医療、小児医療、 災害医療及びへき地医療について現状と課題に ついて調査・分析がなされ、各医療圏毎に詳細 な連携体制図と達成目標計画が策定されていま す。その中で精神科医療対策については、精神 科医療状況、精神科救急医療システム、自殺対 策などの現状が言及されており、保健医療の数 値目標として、入院患者の退院(地域移行)目 標と自殺死亡の減少等が掲げられています。今 回、4 疾病の中に精神疾患が加わったが、他の 4 疾病が具体的な疾病であるのに対して、精神 疾患という漠然としたものになっている点と 「入院医療から地域生活へ」の改革ビジョンと の整合性の関連が曖昧で、現時点での評価は困 難と言えます。ただ、現状を整理することによっ て、福祉を含めての県全体・各地域医療圏の問 題点と課題がより具体的となると思います。そ の際、公立病院としての精和病院の果たすべき 課題、民間病院との連携や役割分担がより明ら かになると思います。

Q4. 県医師会に対するご要望がございましたら お聞かせ下さい。

これまで県医師会に直接関連した活動として は、中部病院時代に「認知症」に関する伝達講 習会を行った事と、うるま市の介護認定審査会 に参加した事だけですが、普段は県医師会の会 員として医師会報を愛読させて頂いています。 県医師会の中で多くの精神科医が活躍している のをみて、精神科医療が社会的にも一定の評価 を受けている証としてうれしく思います。一口 に精神医療と言っても、大学精神科、民間精神 科病院、一般病院精神科、精神科クリニック、 そして公立精神科病院など多彩であり立場も異 なります。今後も、こうした精神科医療に対す る県医師会のご理解とご支援を期待したいと思 います。

Q5. 最後に、ご趣味や座右の銘などはございま すでしょうか。また、ストレス解消はどのよ うになさっておられますか。

中部病院時代は時間をやりくりして、フルマ ラソンを10 回完走したり、オカリナ愛好会で 楽しんだりしましたが、現在は通勤(石川から 南風原)に時間がかかり、精神的余裕も無く、 無芸徒食状態で僅かに庭の草刈で休日に汗を流 す程度です。座右の銘も過去にはあれこれ考え ましたが一貫性が無く、その都度の現状(心情) を追認する語句を胸に描く程度でした。最近は、 「人生に四季あり、○○にも四季あり」と呟く 程度です。幸い、加齢と伴に物事に対する執着 心が薄まってきて、ストレスを楽しむまでは至 らないまでも、それなりに受け入れる心境が芽 生えつつあるのが幸いと言えるでしょうか。


この度はお忙しい中、ご回答頂きまして、誠 に有難うございました。

インタビューアー:広報担当理事 本竹 秀光