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若手外科医の子育てと仕事の両立

中須昭雄

沖縄県立中部病院 心臓血管外科
中須 昭雄

医師になって早8 年。心臓血管外科医として はまだ2 年目であるが、この間3 人の子宝に恵 まれた。

我が家では毎日小さな戦争が起きている。あ っちで誰かが泣き、こっちで誰かが牛乳をこぼ し、そっちではトイレに間に合わず床におっし こが・・・。しかし、子育ては楽しい。子供達 の仕草、言葉、泣き顔、その全てが愛おしく、 一日一日少しずつ成長していくことに親として の喜びを感じる。

私の一日は朝6 時半の起床から始まる。身支 度を済ませ、寝ている3 人の寝顔にバイバイを して車で病院へ向かう。到着後は重症患者や術 後患者の簡単な回診をし、7 時半からはカンフ ァレンスである。1 時間のカンファレンスの後、 手術室へ向かう。手術は、もちろん症例によっても違うが、概ね15 時か16 時に終了し、患 者をICU へ届けた後、軽い食事を済ませ午後 の回診となる。当直は月に7、8 回。それに加 えて急患が来れば何時であろうとオンコールで 呼ばれる。緊急で呼ばれた場合はほとんどが手 術となり、最低7、8 時間は帰れない。当直と 当直の間の日にオンコールで呼ばれた時は、正 直言って辛い。3 日間で家に滞在した時間が約 8 時間だったこともある。

長男は私が研修医3 年目の後半に生まれたの だが、この時は後期研修医だったこともあり朝 は5 時半起きでもちろん息子は寝ていて、帰る 時も22、23 時が当たり前でもちろん息子は寝 ている。土、日も当直あるいは夕方に帰る事が 多く、あまり息子と触れ合うことはできなかっ た。当直は月に8 〜 10 回。寝返り、つかまり 立ち、歩行は全て嫁からの事後報告であり、し まいには抱っこをしても息子は号泣する始末。 息子からしたら私は「土、日にたまに家に居る、 やけにお母さんと親しいおじさん(いや、お兄 さん?)」くらいの認識なのであろう。人見知 りは当たり前である。私でも同じリアクション を取ると思う。

正直この時期は本気で外科医を辞めようと思 っていた。実の我が子の成長を知る事もなく、 触れ合えもせず過ぎていく忙しい日々。自分の 知らないうちにどんどん成長していく息子と、 それに立ち会えない自分。親としての喜びを感 じる事が出来なかった。自分の子供よりも、他 人に自分を捧げていることに疑問を感じたので ある。

なんとかこの厳しい研修医としての期間を自 分をだましながら乗り越え、5 年目から石垣島 の八重山病院へ転勤となった。これが私の考え 方を大きく変えた。八重山病院では当直はきつ かったものの、何事も無ければ勤務は17 時で 終了し帰宅できる。帰宅後は子供と遊ぶ時間は 存分にあった。海・山などの大自然は言うまで もなく素晴らしく、休日は存分に家族で満喫す る事が出来た。また、同僚や上司にも恵まれ、 医師としても父親としても非常に有意義な時間を過ごす事ができた2 年間であった。この時、 長女が誕生した。

石垣島での時間は、親としての自分を再確認 させてくれただけでなく、医師としての自分を 見つめ直す良い機会にもなった。患者を最初か ら最後まで主治医として責任を持って担当させ て頂く事で医師の醍醐味を味わえたし、責任の 大きさの“大きさ” に気付く事ができた。特に 癌の患者さん達には医師として様々な事を教え て頂いた。少なからず別れもあったが、強烈な メッセージを私に残してくれたのである。

そして去年より沖縄県立中部病院で心臓血管 外科として働かせて頂いている。わずか1 年ち ょっとのキャリアだが、既に数10 例の大手術 を術者として経験させて頂き、患者が劇的に良 くなる姿に医師としての喜びを感じ、また上級 医より叱咤激励を毎日頂きながら何とかもがい ている毎日である。

そして最近次女が誕生した。私も妻も内地出 身であるため近くに親戚がいない。そのため私 がいないときは子育ての負担は全て妻が背負う 事になるので、私が家にいるときはなるべく妻 の負担を減らすよう努力しているつもりであ る。当直明けであろうが、休日は子供達を連れ て公園へ行き、雨の日には屋内施設で思いっき り遊ばせる。正直疲れるが、何とも言えない充 実感がある。

昔ながらの先輩医師は皆口をそろえて自分が 研修医の時の忙しかった自慢をする。子育てに はほとんど参加しなかった、と。笑い話ではあ るが、それに違和感を抱くのは私だけであろう か。私は医師である前に父親であり、家族があ ってこその今の自分である。私が留守の間、3 人の子供の面倒見てくれる妻、理解ある上司に 改めて感謝するとともに、今後ますますパワー アップしていくであろう子供達の成長を、一番 近くで見守って行きたい。