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人生ゲーム〜いかに偶然を楽しむか〜

長田光司

ながた内科クリニック 長田 光司

子供のころよく遊んだボードゲームが「人生 ゲーム」でした(その当時は、テレビゲームや ファミコンはありません)。子供なりにまだ見 ぬ将来どんな人生を歩むのか、わくわくしなが ら友達と遊んだものです。職業は何か、子供が 何人できたと一喜一憂し、株券とか保険とか一 人前に楽しんでいました。最終的には儲けた金 額が勝負になるのですが、途中での出来事(株 で得したり、保険に入って助かったとか、石油 を掘り当てたなど)が楽しかったです。いま考 えると現実的なゲームでもありました。ゲーム で就く職業には、公務員、科学者、学校の先生 もありましたが、みんなが一番なりたかったの が医師でした。一番給料が高いので最終的にお 金が稼げて有利になるからです。しかし、実際 に自分がなってみるとゲームとは違うようです (笑)。ゲームでは参加者の行方はルーレットで 出た偶然の数字に左右されます。では私たちの リアル人生はどうでしょうか。毎日毎日、新し い日(マス目)がやってきて、起こる事象に対 して行動を選択し、物事を処理していきます。 その選択や行動がまた次の事象につながってい きます。ゲームでは次はこのマスに止まりたい とか、避けたいとか、ある程度希望をもってル ーレットを回しますが、リアル人生ではすぐ先 のマスに何があるか見えない分、さらに難しい です。ゲーム同様、リアル人生でも偶然が大き く関係します。人生は偶然の積み重ねです。私 たちは偶然世界の中にいます。あらゆる出来事 に偶然が作用し、偶然が運を運んできます。し かし、偶然に対して何かしら影響を与えているものがあります。それが私たちが行う選択や行 動です。よく、サッカーの試合で相手のオウン ゴールで勝つことがあります。確かにラッキー といえますが、相手ゴール前までボールを運ん だから相手のオウンゴールを引き出したので す。運も実力のうちと言いますよね。また、選 択には知力と経験が重要です。ご存知の方もい ると思いますがこんな問題があります。

問題

テレビのバラエティ番組で、回答者は3 つの ドアのうちのひとつを選ぶ。その背後のどれか には当たりの車が隠されている。あなたがもし A のドアを選択したとする。番組の司会者は、 どこに正解の車が隠されているか知っていて、 不正解のC のドアを開ける。そして、あなた に「このままA のドアでいいですか、それとも、 B のドアに変えますか」と聞く。さて、あなた はA のままでいるか、それともB のドアに変 えるか、どちらが正しいか?

A でもB でも確率は同じようですが、正解 は「B のドアに変えるべき」です。B に変える と当たる確率はなんと2 倍になります。詳細 は省きますが、確率の計算ではそうなるので す。この問題は、「モンティ・ホール問題」と いう有名な問題です。確率のように、当たり前 だと思っていることが実は間違っている場合 が多いようです。競馬でも、もっとも「合理的」 と思える判断を積み重ねていくと、必ず破産す るそうです。偶然や確率をめぐっては、自分で も気づかないカン違いがそこらじゅうに隠れ ています。

このように、偶然と言いつつ人間の論理的選 択が反映したり、勘違いがあったり、何か人為 的なものが関与したりして100%の偶然は思っ たより少なさそうです。ただ選択の際、あまり 自分の信念や考えに縛られないことが大事で す。人間は自分自身が下した決断からなかなか 自由になれません。思考の柔軟性は必要です。 一度決定したことでも、環境や状況の変化に伴い、いくらでも変化させることです。また、大 きな問題が起こった時、できるだけすぐに判断 せず、事態の流れをみていくつかの選択肢が排 除されてから選択しても遅くないようです。相 撲でも双葉山が「後の先」という戦い方で連勝 を続けました。相手の出方をみてから一瞬遅れ て立つことにより逆に相手より先手を取る方法 です。偶然を良いもの(幸運)にするか悪いも の(不運)にするかは、できるだけ選択肢を減 らして柔軟な思考で、事態の流れをみて臨機応 変に対応することがいいのかも知れません。そ うすれば、偶然が必然になります。難しそうで すが、このように偶然世界の中を進んで行けた らきっと、リアル人生ゲームは楽しいものにな るでしょう。偶然や運については、古今東西お もしろい話があるので、今後も皆様に紹介でき たらいいと思います。

参考文献
集英社新書 植嶋啓司著 「偶然のチカラ」
集英社新書 植嶋啓司著 「生きるチカラ」
光文社新書 小杉俊哉著 「ラッキーをつかみ取る技術」