沖縄赤十字病院 神経内科
嘉手川 淳
美術館巡りが趣味の一つなので、旅行となれ ば事前に当地の美術館情報を入手し、時間が許 せば赴くようにしている。西洋美術の鑑賞が主 な目的である。最近は人生も半ばを過ぎたので、 体力と知力があるうちになんとか、美術館事情 が充実しているパリとウィーンに行くことを切 に願っている。しかし諸事情を考えると実現の 可能性はまだまだ厳しい。
旅行とは言っても、もっぱら出張の合間を見 て美術館へ赴いている。出張先はどうしても東 京が多いので、東京に多数の美術館があるのは 好都合である。開館時間は通常は17 時までで あるが、金曜日はどこも20 時までやっており、 終業後に行くことも可能である。加えて東京独 自の美術館情報やスマートフォンを利用した展 覧会クーポンが、インターネットを通じて入手 可能となっている。その他の情報源としては、 NHK の「日曜美術館」や有名男優のナレーシ ョンによる「美の巨人たち」などのテレビ番組 のチェックも重要である。
さて東京とその近辺には、三つの国立美術館 と二つの都立美術館、その他多数の公立および 私立美術館がある。所蔵や賃貸の西洋美術品の 充実度ではどうしても、国立美術館に軍配が 上がるので、真っ先にそれらの情報に目が行くことになる。
美術館は一般に、建物自体も建築物としての 評価が高いものが多かったりするので、建物探 訪も楽しみの一つである。例えば地方都市に有 名建築家の設計による思いのほか立派な美術館 があると、展覧会の内容はともかく、思わず足 を運んでしまうことがある。また美術館内には レストランが併設されていることが多く、展覧 会には行かなくても利用することができる。レ ストランには従来型のパッとしないものが生き 残っている一方、美術館の新築を機にフレンチ やイタリアンを新設することがある。しかし残 念ながら後者はあまりうまくいっていないよう で、不幸にも閉店することもある。後者のレス トランについては、美術鑑賞後に美食を楽しむ という発想からかも導入されたのかもしれない が、富裕層も減った今は閑古鳥となっているの かもしれない。そもそも美術品と、水回りのあ るレストランなどの湿気が合うはずもないよう に思うが。さらにミュージアムショップといわ れる売店も併設されており、画集や美術関連の 書籍のほかに、気の利いた小物やお菓子など多 くの商品が置いてあり、お土産を買うのによい。
東京の代表的な美術館について
まずは国立西洋美術館から。上野公園内にあ り、JR 上野駅下車すぐと立地は良い。建物は かの有名なル・コルビュジエによるもので、世 界遺産の登録申請もされたようだ。ただやはり 古いので、バリアフリーという発想はあまりな く、企画展では階段の上り下りが必要で、多少 の体力が要る。所蔵品は質量とも充実している ようで、常設展示の中にも見るべきものは多い という印象である。また近隣にはリニューアル オープンとなった東京都立美術館や上野の森美 術館、東京藝術大学大学美術館があり、時間が 許せば美術館の梯子となることもあり、愛好家 としての満足度は高くなる。
東京国立近代美術館は北の丸公園にあり、東京メトロ竹橋駅が最寄りであるが、企画展によ っては東京駅からのシャトルバスの往復があ る。建物はやや新しいようで、一応バリアフリ ーとなっている。以前は館内に有名レストラン もあったが、閉店してしまった。近隣には東京 国立近代美術館工芸館があるが、その名の示す 通りの工芸品が主なので赴いたことはいが、皇 居周辺の環境がいいところなので、散歩がてら に行くのはいいかもしれない。
国立新美術館は六本木にあり、東京メトロ乃 木坂駅直結で、六本木駅からも近い。近隣には サントリー美術館や森美術館がある。今のとこ ろ最新の国立美術館であるが、なぜ東京に三つ 目の国立美術館が必要なのか、とのご指摘もあ る通りなのかどうか、なんと所蔵品を持たず(美 術館と言えるのかどうか?)、企画展のみを行 っている。当然企画展へは力が入るのか、同時 に二つの大きな企画をすることがあり、朝一番 から人であふれかえっている。昼になっても人 が多いのだが、よく見ると併設のフレンチ(か の有名なポール・ボキューズ)に並ぶ長蛇の列 であった。併設レストランが成功している例で はある。前述の通り最新の施設なので、完全バ リアフリーで、資料室もかび臭くない。その他 のカフェもしゃれており、美術鑑賞そっちのけ といった感じで、館内にはやたらと人が多い。
日本の美術館の多くは率直に言って、所蔵品 のみによる集客は困難な状況であるので、企画 展が重要であることは言うまでもない。よほど の美術館好きでもなければ、やはり企画展の下 調べが重要である。但し所蔵品の中に見たいと 思えるものが一枚でもあれば、それを目当てに 美術館に足を運ぶというのも、またいいのかも しれない。私事で言えば学生の頃に、東京のあ る私立美術館が所蔵するサルバドール・ダリの 大作を見る機会があった。いつの間にかその美 術館は閉館し、この件は忘れていた。最近にな って、その作品が今は福岡市美術館にあること が分かったため、早速出張の機会を利用しその絵との再会を果たしたという次第である。