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幼児用ハーネスのすすめ

小嶺幸弘

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
小嶺 幸弘

私は神経内科医なので子供は診ませんが、当 院待合で図の子達を見ました。子の背中にある ものは、欧米では多く見られる幼児用ハーネス です。医療器具ではなく育児用品に過ぎないの で、整形外科や小児科でも知らない人がいても 不思議ではないですが、これにまつわる想い出 を紹介します。

医師2 年目研修を神戸市の中央市民病院で受 けました。現今の充実した指導と異なり、救急 は綱渡りでした。例えば、発熱・腹痛の中年男 性に紅斑があり、バラ疹と考え調べて抗生剤ク ロマイセチン投与し、翌日、腸チフスは稀なの で年配の内科部長に怒られました。しかし、そ の後で腸チフス菌の保因者と判明しました。こ れはビギナーズ・ラックでしたが、ある日、そ の部長に鳥取に近い田舎の民間病院に1 週間行 くよう言われました。院長病気のための代診で した。当時1 年目でも「アルバイト」で1 人当 直もしていたとはいえ、今考えれば超法規的措 置でした。

そこに2 歳前の子が連れてこられました。ま だ話せず診察指示にも全く応えないのです。肘 の脱臼疑いで動かすと痛がるどころか顔色一つ 変えません。大丈夫として帰しましたが、他院 で整復したと、2 回目の派遣の時に聞きました。

整形外科講義では専門医しか使わない骨切術 などたくさん習いましたが、大学の講義ノート を見直しても、肘の整復は習った覚えがありま せん。1970 年代、大学の講義は実践的でなか ったのです。この話を聞いた熟達の外科医松本 廣嗣先生(県立八重山病院長)はさすがに違い ます。この場合、子を後ろから支えて、子が抱 っこを求めて親に手を伸ばす位置に置くのだそ うです。もちろん、手を伸ばせば正常です。

歳月は流れ、妻の祈りがかない、我が家にも ヨチヨチ歩きの子ができました。幼児からすれ ば、歩くのも精一杯なのに、片手を親に取られ ると自然な腕振りができずバランスが悪いので す。つまずくと簡単に引手を亜脱臼します。先 の経験から、妻にハーネス作成を頼みました が、彼女と初めて会ったのが整形外科病棟であ ったにもかかわらず、元看護師の彼女はあえな く拒否。少し恥ずかしかったですが、私が手芸 店を巡ってパラシュート隊員風のハーネスを作 りました。これはとても良く、子がよろける瞬 間、上に引くだけで転倒防止できました。しか し、この使用を拒んだ妻が、2 回、子の肘を脱 臼させ医院で整復してもらったと後日分かりま した。いつの時代も正論が受け入れられるとは 限らないものです。

ハーネスを使用すると、子は両手が自由に使 え腕振りも自然なので転倒も減り、もし、つま ずいても肘の脱臼が防止できます。既製品もあ りますが、幼児用のベストがあれば後襟近くに ループを縫い付け、そこに脱着できる紐をつけ るだけで良いでしょう。多くの母親がハーネス の使用に目覚めてほしいです。コータ君、リョ ウマ君、君たちのおかあさんは偉い!