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真鯛の棒浮釣り

仲西常雄

協同にじクリニック所長 仲西 常雄

魚釣りを趣味にしている。7 年程前に、長崎 に診療応援に行く機会があり、そこで非常に珍 しい興味深い釣りに出会った。なんと2m 近い 長い棒のような浮を使って真鯛を釣るのであ る。大相撲で優勝した横綱の祝いの席など、日 本ではおめでたい時に欠かせない、あの大真鯛 である。沖縄で釣っている、タマン(ハマフエ フキ)、シルイユー(シロダイ)、アカジンミー バイ(スジアラ)、ガーラ(カスミアジ)、カジ キ、マグロ、カツオ、グルクン(タカサゴ)釣 りなどとは全く違う釣り方であり、奥深くおも しろい釣りである。

釣りの世界では、真鯛(マダイ)は見た目に 姿よし、釣って引きよし、食して味よし、と三 拍子そろった最高の釣魚とされている。「日本 の釣り百科」(西東社)によると沖縄と北海道 を除く、全国各地の沿岸で釣れている。祝い事 には欠かせない鯛は古くから日本人の生活と密 着しており、釣り方もそれぞれの地方で違い、 テンヤ釣り、シャクリ釣り、カブラ釣り、胴突 き仕掛けなど様々な仕掛けや工夫がされている ようである。

中でも長崎の棒浮つり(又は、棒浮ながし釣 り)は独特である。「日本の釣り百科」には紹介されていないので、オキアミをまき餌として 使うようになった最近(ここ20 年位)になっ て編み出された釣法だと思われる。

さて、その仕掛けであるが、ハリス6 号とい う細い糸を10 尋(約15m 位)使い、2m 毎に ビーズを入れ、枝針を5 〜 6 本付ける、枝の長 さは腕の長さ位。針は鯛バリ12 〜 13 号を使う。 テンビンを介して道糸に結ぶ。テンビンにはエ サかごを付け、80 号の鉛を下げる。その重り に耐えるように、2m 近い長い棒浮と浮止め用 のビーズを道糸に通しておかなければならな い。リールは流し釣り用の電動リールに新素材 糸6 号を200 〜 300m 巻いておく。竿は80 号 の3.5 〜 5m の長めの物がよい。

釣りは魚と釣り人の知恵くらべ、だまし合い である。真鯛は海底ではなく、中層を泳いでい るらしい。真鯛が泳いでいる深さまで仕掛けを おろすのであるが、この鯛が泳いでいる水深を 予想する棚とりが一番難しいのである。棚を深 くすると鯛以外の魚に餌を盗られてしまう。餌 の盗られ方を見て、棚の深さを1m 単位で調整 していく。潮の流れや、海水温の変化などによ って鯛が泳いでいる棚は変わっていくので、そ れにどう合わせるのか釣り人の技量が問われる ところである。

竿を振って餌カゴから振り出したまき餌が、 テンビンの先のエビを付けた枝針を巻き込んで 流れてくれれば、まき餌に誘われて寄ってきた 真鯛が針の付いたエビも間違ってのみ込んでし まう確率が高くなる理屈であるが、実際はなか なか単純ではない。まき餌と枝針をうまく同調 させるには、餌カゴからのまき餌の振り出し具 合、枝針のハリスの長さ、潮の流れ具合などが 絡んでくる。潮の流れは時間単位で変わってい く、鯛が泳いでいる棚も午前と午後では違うの で、同じ仕掛けでいつも釣れるというわけでは ない。たかが釣りとはいえ、なかなか奥深く面 白いのである。

鯛は動きのある餌に瞬時に反応する習性があ るらしいので、置き竿より竿を持って誘いをか ける方がだまし易い。針を結ぶ糸は細いほどよいが、あまり細いと大きい魚が喰った時に切ら れてしまうリスクがある。喰い渋る時は糸をさ らに細くして、「これならどうだ」とかけひき も必要になる。糸がよじれていたりすると、警 戒し喰わなくなるので、常にピンと張ったキズ やよじれのないハリスに変えるなど細心の気配 りが要求される。鯛は周年釣れるが、九州では 産卵期前の3 〜 4 月、鮮やかなピンク色の「さ くら鯛」のころが旬である。養殖真鯛とはちが い、きれいなピンク色をしてる。この時期は産 卵を前に採餌活動が活発になるので、漁師は「乗 っこみ」状態になったという表現をする。

「乗っこみ」の時期を狙って、この7 年間長 崎の真鯛に餌を配りにいっている。準備を整え て、今年も4 月中旬に長崎に遠征釣行となった。 初日は天気晴朗なれど波高し、出港をあきらめ て、花見に変更。2 日目は、絶好の好天に恵まれ、 午前3 時半に出港。5 時過ぎには、ポイント到着、 まだ薄暗い。しかし、既に20 数隻の釣り船が 場所取りをしている。船長はポイントを定めて 素早くアンカーを打ち、船を固定する。夜明け とともに、第1 投の仕掛けを流す。ワクワクし て、期待に胸がふくらむ瞬間である。いよいよ 真鯛との駆け引きと格闘であるが、残念ながら 字数が足りなくなりました。すみません、今年 も大漁でした。クール宅急便で運んでもらった 天然真鯛(1.5 〜 3.0kg)を、さしみ、あら煮、 うしお汁、西京焼き、鯛めしなど鯛づくしパー ティーを十分に楽しむ事ができました。