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「愛の血液助け合い運動」月間(7/1 〜 7/31)に寄せて

玉城和光

沖縄県立中部病院 内科 血液・腫瘍内科部長
臨床研修管理委員会委員長 玉城 和光

私は1995 年から1998 年までの3 年間、米 国アイオワ州にあるアイオワ大学病院で血液・ 腫瘍内科専門研修(クリニカル・フェローシッ プ)を受けた。その間、輸血部のローテーショ ンを1 ヶ月行った。しかし、たった1 ヶ月とは 言っても、そこでの経験は非常に濃密で、米国 での血液供給体制、大学病院における輸血部運 営、輸血専門医を育て上げる教育システム等々 数多くのことを学び、知的刺激を溢れるほど浴 びた1 ヶ月であった。今回の稿では私が垣間見 た米国での輸血医療の優れた点を紹介する形で 日本の輸血医療はこうあってほしいという私の 希望を述べさせていただくことにする。読者の 皆様が自分達も受けるかもしれない輸血医療の あり方を考えるきっかけになってくれれば幸い である。

(1)アイオワ大学病院輸血部の体制と輸血専門 医を育て上げる教育システム

米国では臨床に直結した基礎医学は全て病理 に含まれ、日本でいう病理学のみならず法医学、 臨床検査医学、そして輸血医学も病理に所属す る。とても合理的なシステムだと思う。私がい た当時、アイオワ大学病院輸血部の医師は教授 以下4 人のスタッフ、輸血専門医を目指す専門 研修医(フェロー)1 人、ローテーションして くる病理レジデント1 人、私の様に血液腫瘍内 科フェローなど他科からローテーションしてく る者1 人から成っていた。さらに輸血専門の資 格を有する技師(Specialist in Blood Bank, 略 してSBB)が4 〜 5 人いた。この技師たちが 非常に優秀で、しかも良い教育者であった。私 は積極的に彼らとコンタクトを取り、教えを乞いたものである。輸血を必要とする患者は全て 登録管理されていた。輸血関連の副作用報告は 徹底されており、少しの痒みや発熱でも全て報 告する義務があった。それらの報告をフェロー、 レジデント、私とでレビューし、手分けをして 直接患者の元に出向いて情報収集を行った。全 ての患者を診終わった後、我々3 人、指導スタ ッフ医師と技師たちが集まり、カンファレンス が行われる。そこで3 人が患者のプレゼンテー ションを行い、一人一人について議論がなされ る。徹底した議論がなされ、我々3 人にとって はそこが学びの場であった。もちろん、議論の 内容は主治医にもフィードバックされ、患者ケ アに生かされる。上記の内容から輸血を受ける 患者のケアがいかに素晴らしいものであるかが 理解できるであろう。

(2)厳しい監査で輸血医療レベルが保たれている

(1)でも述べたような非常に質の高い輸血医 療の提供は厳しい監査によってそのように仕向 けられていると言っても良いだろう。監査機関 は保健社会福祉省(Department of Health and Human Services:DHHS)、食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)等々複数あり、 輸血関連の副作用報告が徹底されているか、カ ンファレンスが多職種で行われているか、輸血 専門医とSBB が適正数配置されているか等々 とクリアしなければならない事項も多いと聞 く。特にFDA は抜き打ちで監査を行うことも あり、内容も厳しいと聞いている。必要事項が 満たされてなければ、遠慮なく認定が取り消さ れ、それは病院で輸血が行なえないことを意味する。大変な事態であり、どうしてもそれだけ は避けたい。だから皆必死で認定されるよう努 力する。そして、それが輸血医療の質を高めて いるのである。

(3)複数の血液供給団体が協力し合って全地 域に必要量が供給される体制を築いている

日本では日本赤十字社が唯一の血液供給団体 であるが、米国には米国赤十字社以外にも複数 の団体が存在する。米国赤十字社は現在、45% の供給率と聞いている。稀な血液型や複数の不 規則抗体出現等により、適合血が見つけ出しに くく、しかも大量に必要な場合であっても、近 隣州だけでなく遠く離れた州からも直ぐに取り 寄せられる協力ネットワークがしっかりしてお り、必ずと言っていいほど集められる体制にな っている。

(4)院内では輸血の適応も厳しくチェックさ れ、必要ならいつでも指導する体制を敷いている

輸血部には輸血を必要とする患者は全て登録 管理されており、登録の際には適応があるのか どうかもチェックされている。さらに輸血を繰 り返している患者に対しても適応については適宜チェックが行われており、漫然と輸血したり、 無駄に不必要な輸血がなされないように輸血部 が厳しく管理している。私も3 年間の研修の間 に何回も輸血部スタッフやフェローから輸血の 適応についての電話を受け、議論を交わしたも のである。輸血が必要な理由を理論立って、し っかり説明できなければ、遠慮なく中止させら れる。それも自分にとっては大事な教育の機会 であったと、今振り返って、しみじみそう思う。 ただただ感謝である。

以上、まだ全てではないが日本の輸血医療に 対する私の希望はある程度伝えられたと思う。 読者の皆様はいかが感じられたであろうか。輸 血の必要な方々が理想の輸血医療を受けられる 日が近い内にやって来ることを願いつつ筆をお くことにする。

参考文献
1)アメリカ合衆国における輸血専門医の教育制度ならびに輸血部運営システムについて 大島喜世子 
  Japanese Journal of Transfusion Medicine, Vol.46. No.6 46(6):511―516, 2000
2)HIV と血液供給:危機意思決定の分析(1995 年)
  THE NATIONAL ACADEMIES PRESS