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どう違う?沖縄と全国の肝癌
〜肝臓週間(7/23 〜 7/29)に因んで〜

岸本信三

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
岸本 信三

1.はじめに

2008 年がん診療連携拠点病院による都道府 県別の癌データをみると、表1 のように沖縄 県は、もっとも肝癌が少ない県であることがわ かります。これは、後に述べるように、肝癌の 主因がC 型肝炎ウイルスであり、沖縄県の罹 患率が低いこと(全国1%:沖縄県0.3%)、ま た、もう一つの肝炎ウイルスであるB 型肝炎 ウイルスでは、沖縄県は罹患率が高いにも関わ らず(全国1%:沖縄県4%)、遺伝子型が本土 と異なり(全国のB 型肝炎ウイルス遺伝子型 C90%:沖縄県の遺伝子型Bj60%)、これによ りウイルスが量産しない状態となり、比較的肝 障害が進行しないためです。

表1 都道府県別肝癌数

表1

2.肝癌の現状

さて、平成23 年2 月19 日に行われた第38 回沖縄肝臓研究会では、ハートライフ病院(城 間丈二らの報告)、琉球大学と関連施設(柴田 大介らの報告)、当院を含めた3 施設から、肝 癌の現状報告がなされました。従来から指摘さ れていることでもありますが、おおよその沖縄 の肝癌の現状は全国調査のそれと異なるもの であり、下記のようにまとめる事が出来ます。

今回は、第18回全国原発性肝癌追跡調査報告(2004 〜 2005 年)と比較しています。

1) C 型肝炎ウイルス由来の肝癌が、本土に比較し少ない。(HCV 抗体陽性率 全国67.7%: 沖縄3 施設17 〜 36% 表2)

表2 全国と3 施設の肝炎ウイルス陽性率

表2

2)沖縄では肝炎ウイルス以外の成因が多い。 これはアルコールやNASH(NonAlcoholic SteatoHepatitis:脂肪肝から脂肪肝炎に進展 するもの)などが考えられている。(肝炎ウ イルス以外 全国17.3%:沖縄3 施設44 〜61%)

3)肝機能の状態は進行したものが多い。(Child- Pugh 分類A:B:C 全国:71.0:23.6:5.4% 沖縄 3 施設:40 〜 68.2:23 〜 35.7:7.9 〜 19.3 % 表3)

表3 全国と3 施設のChild-Pugh 分類

表3

4)当院では、肝癌の大きさは大きい傾向がある。
肝癌の大きさ0 〜 2cm:2.1 〜 5cm :5cm 以上 全国33.5:45.5:21.1 %、3 施設15 〜40:34 〜 49:15 〜 48%(表4)

表4 全国と3 施設の肝癌の大きさ

表4

5)治療方法は全国に比し、肝切除が少ない。(全国31.7%:沖縄3 施設6 〜 10% 表5)

当院では、肝動脈塞栓療法が多い。(全国31.7%:当院65%)

表5 全国と3施設の主な治療法

表5

6)進行した肝癌が多い。(表6 表7)

表6 全国と3施設のSTAGE別割合

表6

表7 全国と沖縄県を比較した肝臓のSTAGE
(がん拠点病院からのDATA)

表6

3.今後の課題

肝癌診療ガイドライン2009 年版では、リス クに応じた対応を決め、超高危険群(C 型/B型肝硬変)では、3 〜 4 カ月ごとの超音波検査 と腫瘍マーカー測定(AFP/PIVKAII/AFP-3 分画)、高危険群(C 型/B 型慢性肝炎か肝硬変 いずれか)は、6 か月ごとの同様な検査を提案 しています。一方、肝癌既往歴のある場合、再 発率は1 年目20%程度、5 年後には80%と高 い再発率が指摘されています。よって、肝癌根 治治療後1 年間は、2 か月ごとの超音波検査と CT ないしGd-EOB-MRI が推奨されています。

沖縄では、肝炎ウイルス以外からの肝癌発 症が多く見られることより、絞り込みとして は、アルコール多飲と脂肪肝の人が対象となり ます。脂肪肝でかつ肝酵素の高い症例やアルコ ール多飲者などには、腹部エコー検査を定期的 に実施してほしいと思います。次に精査として CT、MRI(造影剤投与による動脈相と平行相 の比較は必須)をリスクに応じて実施し、早期 発見と治療に結びつけられれば、肝癌の予後を よりよくすることが期待されます。

最後に多発肝癌患者の1 例を紹介します。

症例:74 歳 男性

既往歴:#高血圧症  # 2 型糖尿病 ノボリン30R 自己注射

病歴:2007 年に検診で肝腫瘍を指摘されて、 当院外科へ紹介。HBs 抗原陽性で、肝機能は 保持され(Chil-Pugh A)、腫瘍マーカーは AFP4.5、PIVKAII 60 と軽度上昇。腹部エ コー、CT、MRI を実施され、肝左葉外側区に 6cm1 個、右葉に1 〜 2cm 大の腫瘍が6 個認められた。また、FDG-PET 検査では肝左葉の腫 瘤は、軽度のFDG/ 集積亢進であった。遠隔 転移は認められず、肝動脈塞栓術が実施された (2007/9 月(図1・2))。その後も再発に対し て塞栓術を繰り返し実施。(2007/11 月、12 月、 2009/11 月、2010/6 月 この時点で計5 回)そ の後、腫瘍が胃壁に浸潤出血し、内視鏡的止血 術と血管止血術を実施(2010/6 月〜 7 月)。3 か月後に再出血を生じ、血管止血術、内視鏡的 止血術+ 胃バルーン圧迫止血などでも止血困難 となり(図3)、肝部分的切除+ 胃全摘術+ 胆 嚢摘出術(2010/10 月)にて、救命された。そ の後も残肝にCT にてS6:25mm、S5:17mm、 S5/8:TAE 後辺縁再発、S8:1cm 再発があり肝 動脈塞栓術実施(2011/4 月 6 回目)、さらに S3/4、S1:1cm 大の再発を認め、A4、尾状葉に 動注3ml(ADM50mg+ リピオドール8ml 作製 2011/11 月)実施。

図2

図2 肝動脈塞栓術後CT(初回)

図3

図3 上部内視鏡:体上部に血腫と出血

上記のように頻回の再発に対して放射線科医 と外科医の協力のもとで、肝動脈塞栓術や手術 を実施してきている。ご本人は現在も海外での 医療指導を行うなどの国際的な貢献を継続さ れ、当院への外来も通院中である。

参考文献
肝癌診療マニュアル 第2 版
肝臓  51 巻8 号 460 〜 484 第18 回全国原発性肝癌追跡調査報告
第38 回 沖縄肝臓研究会 プログラム・抄録集
がん診療連携拠点病院 院内がん登録 2008 年症例 全国集計
Orito,et al. Geographic Distribution of Hepatitis B virus (HBV) Genotype in Patients With Chronic HBV Infection in Japan Hepatology.2001;34:590-594
Sakugawa H. et al. Preponderance of hepatitis B virus genotype B contributes to a better prognosis of chronic HBV infection in Okinawa, Japan. J Med Virol.2002 Aug;67 (4) :484-9