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合法ハーブ?脱法ドラッグ?いいえ、違法ドラッグです!
〜「ダメ。ゼッタイ。」普及運動及び「6.26 国際麻薬乱用撲滅デー」に因んで〜

譜久山民子

沖縄県南部福祉保健所
所長 譜久山 民子

宮城信雄会長をはじめ、会員のみなさまにお かれましては、沖縄県の麻薬行政に対し、日頃 から深い御理解と御協力をいただき、厚くお礼 申し上げます。

今日、薬物乱用問題は全世界的な広がりを見 せ、人間の生命はもとより、社会や国の安全や 安定を脅かすなど、人類が抱える最も深刻な社 会問題の一つとなっています。

このため、国連では、平成21 年3 月の国連 麻薬委員会において、新政治宣言「新国連薬物 乱用根絶宣言」を採択し、平成31 年までに薬 物乱用を根絶することを目指すこととしていま す。毎年6 月20 日から実施される「ダメ。ゼ ッタイ。」普及運動は、国民一人一人の薬物乱 用問題に対する認識を高め、併せて、国連決議 による「6.26 国際麻薬乱用撲滅デー」の周知 を図り、内外における薬物乱用防止に資するこ とを目的として行っているものです。

さて、薬物と一口にいっても、乱用される薬 物には様々な種類があります。麻薬、覚せい剤、 大麻はもちろんのこと、医療に使用される向精 神薬や、塗装用ペンキの溶剤であるシンナーな ども乱用されることがあります。

そして最近、「合法ハーブ」や「脱法ドラッグ」 と称されて販売されている「違法ドラッグ」が テレビや新聞で連日報道され、大きな社会問題 となっています。

「違法ドラッグ」とは、「脱法ドラッグ」、「合 法ドラッグ」などと称し、多幸感や快感を高め たり、幻覚作用等を有するもので、ビデオクリ ーナー、芳香剤、観賞用植物、ハーブ、お香な どを装って販売されていますが、中には大麻や 麻薬と類似成分が含まれているものもあり、人体への使用により重大な危害が発生するおそれ があるものです。

このような危険な物質を麻薬に指定し、厳し く取締まることはできないのでしょうか?麻薬 及び向精神薬取締法など、刑罰を伴う厳しい法 律で薬物を規制するためには、物質の構造の特 定や毒性試験を実施し、依存性を検討するなど の科学的根拠を収集する必要があり、数年の時 間を要します。

そこで、「麻薬」として指定するまでの間、 製造、輸入、販売等の流通を規制するため、平 成19 年に指定薬物制度が薬事法に導入されま した。薬事法では、中枢神経系の興奮もしくは 抑制又は幻覚の作用を有し、かつ、人の身体に 使用された場合に保健衛生上の危害が発生する おそれがあるものを「指定薬物」として規制し ており、概ね1 年程度で「指定薬物」として規 制することができます。この「指定薬物」は、 製造、輸入、販売、授与等を禁止しており、違 反者には懲役や罰金などの重い処罰が適用され ます。しかし、「指定薬物」の化学構造をわず かに変えた新種の成分が次々に製造され、法で 規制するよりも早く市場に出回っているため、 事実上、販売規制が困難な状況になっています。

販売店はあくまで香りを楽しむための「ハー ブ」や「お香」と称して販売しており、「人体 への摂取を行わないこと」、「吸引目的での購入 お断り」などと表示していますが、客はこれら 「ハーブ」等をジョイントと呼ばれる紙巻タバ コ状にしたり、水パイプなどを使用して吸引す るなど、摂取目的で購入しているのが実態です。

これらの製品に含まれている新種の成分は、 麻薬や大麻、指定薬物の化学構造をわずかに変えただけであるため、人体に摂取されたとき、 それらと同様の作用を及ぼし、時として生命の 危機を伴う重大な影響が現れる可能性もあり、 大変危険です。

昨年から、全国各地で違法ドラッグによる健 康被害で救急搬送される事例が相次いで発生し ており、今年2 月、違法ドラッグの摂取が原因 と疑われる死亡事例が名古屋で発生しています。 県内でも、販売が疑われる24 店舗が確認され、 繁華街に店を構えていたり、インターネットや 電話で注文を受けて配送するなど、違法ドラッ グが入手しやすい環境にあり、救急搬送の事例 も報告されていることから、県は県警と合同で 立入調査を実施し注意喚起を行っています。

また、近年、偽造処方せんによる向精神薬の 詐取が目立ってきており、厚生労働省の統計に よると平成22 年は全国で33 件報告されてい ます。

偽造処方せんは、カラーコピー、パソコン等 により偽造されているものが多く、詐取した向 精神薬をインターネットで密売している事案も 報告されており、本県でも昨年向精神薬処方せ んを偽造した容疑で男性1 名が書類送検されて います。

県としましては、麻薬や向精神薬の適正な取 扱いについて、監視・指導を強化するとともに、 指定薬物を含め違法ドラッグ対策など新しい課 題に県警察等関係機関と連携して取り組んでい くこととしております。

会員のみなさまにおかれましては、薬物乱用 の無い社会環境づくりを目指し御協力いただく とともに、違法ドラッグによる健康被害事例を 把握した際には、県薬務疾病対策課(TEL:866- 2215)あて報告いただきますようお願いいたし ます。

写真:「指定薬物が検出された製品」
厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課提供