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「言葉で治療する」鎌田實著 朝日新聞出版

浦澤林太郎

ちばなクリニック小児科 浦澤 林太郎

日々の診療にあたる際、患者さんや家族との コミュニケーションは欠かせない。いくら進ん だ医療技術を提供したとしても、納得が得られ ていないならば虚しいものになってしまう。「病 にかかったとき、患者さんと家族は医師や看護 師にかけられる言葉しだいで、治療を受ける 日々が天国にも地獄にもなる」と著者は述べて いる。コミュニケーションを図ることによって、 安心感を得ることができる。患者さんの心に寄 り添うことが大切になる。

著者が青年医師だった頃に、40 代のがんの 末期患者さんに「がんばろう」と声がけして病 室を出ようとしたところ、涙を流されてしまっ た。がんばってきた患者さんがもうこれ以上が んばれないと心を傷つけたのだ。「がんばろう」 という言葉も、状況により相手を傷つけること もあるのだと著者は気が付いている。そしてシ チュエーションに応じた言葉の使い方が大切で あると述べている。シチュエーションを理解す るためには、医療者側の想像力が必要になる。

患者さんへの説明の仕方により不安の与え方 に差が生じることに触れている。「今の体の状態 はとてもいいです。体力もあり、問題ないと思 います。しかし、治療の経過のなかでは合併症 が起きることや、大きな副作用が出る可能性が あります。ご了解をいただきたいと思います」、 不安の残る説明である。対して、「これからの手 術や抗がん剤治療によって合併症や副作用が出 る可能性はありますが、今の体の状態や体力な らば、まず大丈夫だと思います」、同じ内容の説 明でも不安の与え方が少ない印象になる。言葉 の使い方で患者さんに与える印象に大きな違いが出ることに気を配るべきだと感じさせる。

患者さんからの言葉も大切である。「よくなっ たありがとう」「救われた」「感謝する」、このよ うな言葉が医療を立ち直らせ、よくしていくき っかけになると述べている。医療者、患者さん 双方向のコミュニケーションが大切である。

またいわゆる「ムンテラ」について述べてい る。正確には「ムントテラピー」で、「言葉で癒す」 という意味である。相手の心理状況を考慮しな がら、丁寧に分かりやすい言葉で、具体的に説 明することが大切だと述べている。患者さんや 家族を癒す気持ちを持ちたい。

本書の最後に著者なりの良医の条件が紹介されているので引用したい。

1)話をよく聞いてくれる医師
2)わかりやすく説明してくれ、つらい話でもショックを与えず伝えてくれる医師
3)食事や運動や仕事等、生活上の注意をしてくれる医師
4)必要があれば、ただちに専門医を紹介してくれる医師
5)家族の気持ちまで考えてくれる医師
6)患者さんの不安やつらさを理解してくれ、こころを支えてくれる医師
7)ほかの医師の診察を快く受け入れ、情報をすぐ貸してくれる医師

忙しい医療現場であるが、以上の7 条件を満 たすように心がけたい。それが、患者さんの癒 しや納得につながり、受ける側も提供する側に も良い医療となると考える。

本書を通して、日常診療でのコミュニケーションの大切さを改めて認識した次第である。