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ハンセン病を正しく理解する週間(6/24~6/30)に因んで

新城日出郎

国立療養所宮古南静園
園長 新城 日出郎

1.はじめに

ハンセン病研究所の調査では、日本でのハン セン病の発症は2011 年で4 人、内2 人は沖縄 となっています。これでも分かるように、日本 における疾病としてのハンセン病は、ほぼ解決 していると言えます。世界的に見ても、1985 年 には人口1 万人あたり患者数が1 人以上の国が 122 カ国ありましたが、2012 にはブラジル1 カ 国となっています。WHO の調査でも1985 年 の全患者数は5,351,408 人ですが2010 年には 192,246 人にまで減少しています。これから分か るように、世界規模でもハンセン病は解決に向 かっていると言えます。それでは何がハンセン 病の問題かというと、ハンセン病への誤解と患 者・回復者への差別という事になると思います。

日本においても、程度の違いは分かりません が、やはり同様の問題を抱えています。日本の ハンセン病問題は、ハンセン病療養所の入所者 問題と、退所して社会で生活しているの退所者 問題に分けた方が良いように思います。

2.ハンセン病療養所の入所者

日本におけるハンセン病療養所への入所者 は、2011 年5 月現在、国立13 施設、私立2 施 設で2,275 人となっています。入所者の平均年 齢は81.6 歳です。私立の2 施設は数人ですから、 大半は国立の13 施設で生活していることにな ります。ちなみに宮古南静園における平均在園 期間は50.3 年で最長在園者は80 年となってい ます。これからも分かるように、1)長期間にわ たって社会と隔てられた状態が続いてきた事、 2)それによって、親族を始め社会との繋がりが 希薄なまま高齢となり、3)高齢の帰結として入所者の人数が急速に減少している事が、入所者 が直面している問題と言えます。僚友と呼び合 い、数少ない繋がりである仲間が急速に周りか ら居なくなっているのです。これらの問題に対 処するためにハンセン病問題の解決促進に関す る法律(ハンセン病問題基本法)が制定されま したが、具体的な構想、実施はこれからです。

3.退所者

厚生労働省の調査では、2012 年2 月20 日 現在で、日本全国の退所者数は1,257 人で、内 542 人が沖縄県となっています。療養所では地 域との交流が増えつつありますが、交流に参加 する人々はハンセン病に理解のある人々です。 しかし社会での生活はそういう訳にはいきませ ん。宮古南静園あるいは宮古島では、地域が狭 い事と熱心なボランティア活動の成果もあり園 と退所者との交流も盛んです。また情報収集も 他地域より容易です。退所者の社会への対応は 個々人によって様々で一括りで論ずる事はでき ません。しかし対応に差があるとは言っても、 トラウマを抱えて、程度に差はあれ何某かの怯 えと緊張感の中で生活していることは共通して いるように見えます。特に問題となるのは、深 刻なトラウマや困難を抱えている人ほど潜在化 しているように思える事です。県や市が退所者 問題に対処するため、退所者代表、入所者代表、 ボランティア代表、宮古南静園代表を集めて話 し合いを持ったりしていますが、方向性がつか めていないのが現状です。

4.終わりに

入所者は社会からの差別に直接さらされる機会は少ないですが、その代わりに社会との繋が りがなく、高齢化と入所者の減少でさらに孤立 化が深刻になっています。

退所者は個々人で差はあるものの、有形、無形の差別に怯えと緊張感の中で生活しています。

日本財団は2012 年1 月30 日に、世界医師会、 50 カ国の医師会の賛同を得てグローバルアピ ールを行いました。その中で、「ハンセン病に 関する迷信や誤解は数多く存在します。医療専門家として、私たちには、まずもって、このよ うな誤った認識を正す責任があると考えます」 と記されています。そして「私たちは、ハンセ ン病患者・回復者が、地域社会の一員として、 すべての人と同等の機会と人権を享受し、尊厳 ある人生を送る権利を擁護します」と結ばれて います。本文は日本財団のホームページに掲載 されています。