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めまいの診断

鈴木幹男

琉球大学大学院医学研究科
耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
鈴木 幹男

はじめに

めまいは眩暈と書くように、目がくらんで ボーとしてしまう状態を指します。自分や周囲 が動いていないのに動いているように感じる運 動感覚ですが、患者さんの訴えるめまいは、はっ きりとした回転感を伴っためまい(vertigo)、 ふらつき(dizziness、 floating sensation)、眼前 暗黒感・立ちくらみ(faintness)、転倒感など 様々です。耳鼻咽喉科では、主に内耳に由来するめまいを診察しますが、問診、理学所見から 疾患の大まかな診断を行い、必要に応じて耳鼻 咽喉科検査、平衡機能検査、画像検査などを行っ て診断を確定してゆきます。本プライマリ・ケ アコーナーではめまい診断のポイント・ピット ホール、代表的なめまいについて概説します。

めまい疾患診断のポイント・ピットホール

めまい診療において最も大切なものは問診で す。まずめまいの性状(回転性めまい、ふらつ き、立ちくらみ、転倒感など)、めまいの頻度・ 持続時間、めまいが生じる頭位、めまいに随伴 する症状(難聴・耳鳴などの蝸牛症状、視野異常・ 構音障害・頭痛・意識障害などの中枢神経症 状、嘔気・嘔吐などの自律神経症状)、を問診 します。図1 に示すように問診に基づいて疾患 を予測し、理学所見、各種検査を行って診断を 確定します。一般市中病院耳鼻咽喉科へめまい を主訴として受診した患者さんの疾患別の統計 では、最も多いめまい疾患は良性発作性頭位め まい症で疑い例を入れると約40%に上ります。 しかし、診断のつかないめまい症も約20%あ ると報告されています。1)内耳疾患によるめま い症例ではめまい発作期には眼振が観察できる ことが多いのですが、めまいがおさまると眼振 所見は消失し、めまい症としか診断できないこ ともあります。めまいの診断には初診時の眼振 観察、記録が特に重要であることがご理解いただけると思います。

図1

図1

眼振は、急速相と緩徐相の2 相から構成さ れます。眼振の方向は急速相の方向と定義され ています。例えば、眼球がゆっくり右側へ動い た後、早い動きで左側へ移動した場合は、左向 き眼振と表現します。この眼振と間違い易いの は、不随な眼球の動き(急速相と緩徐相がなく、 いわゆるキョロキョロした眼球運動)と先天性 眼振(激しい振り子様の眼球運動が生じ、固視 させても眼球運動は持続しますが、左右へ固視 点を動かすとある点で眼振がほぼ消失する静止 位が存在する)です。先天性眼振は激しい眼球 運動が観察されますが、通常はめまい感を伴い ません。眼振を観察する場合には、指などを固 視させながら各眼位での眼振をみる注視眼振検 査、フレンツェル眼鏡を使用して観察する自発 眼振検査(眼位は正中で観察)、頭位眼振検査 (ベット上で仰臥位にさせ、左右、懸垂頭位に して眼振を観察する)、頭位変換眼振検査(懸 垂頭位から座位、座位から懸垂頭位にする)を 行います。フレンツェル眼鏡は固視による眼振 抑制を取り除く効果があり従来型の凸レンズを 用いたものと赤外線を用いたものがあります。 フレンツェル赤外線眼鏡は凸レンズのものより 眼振を誘発しやすく、さらに眼球運動を記録で きる利点があります。救急外来で専門医が不在 の場合でも眼振記録をおこなっておくことによ り、off-line で正確な診断を行うことができま す。平成24 年度の診療報酬改訂ではフレンツェ ル赤外線眼鏡検査が新設されましたので、めま い患者さんをみる機会が多い先生方は眼振記録 を行っていただきたいと思います。

良性発作性頭位めまい症

本疾患は、前庭(耳石器)の耳石膜から半規 管へ、特に後半規管へ、耳石が迷入することに より生じます。2)半規管内に迷入した耳石が頭 位変換により半規管内を移動し内リンパ液の移 動を生じる、あるいはクプラと結合して頭を動 かした時にクプラを大きく偏位させる、ことに より眼振を伴うめまいを生じます。後半規管型の場合、病側を下にした懸垂頭位にすると病側 へ向かう眼振が生じます。眼振は懸垂頭位にし た数秒後から生じ、持続時間は1 分以内です。 懸垂頭位から座位に戻すと反対側へ向かう眼振 が観察されます。抗めまい薬の投与で改善する ことが多いのですが、患側が明らかであれば頭 位変換法(頭の位置を変えることにより半規管 内迷入耳石を前庭へ戻す)も有効です。3)診察 室にストレッチャーや車イスで入室してきた患 者さんが頭位変換法をおこなった後、普通に歩 いて帰宅することもよく経験します。頭位変換 法は原因半規管を正確に診断しなければ有効で ないため、眼振の詳細な観察が必要です。また、 高齢者のめまい、椎骨脳底動脈血流不全などで も頭位性めまいを主訴に受診することがありま す。上述した特徴のある眼振を確認することが 本疾患の診断に必須といえます。また、めまい にともなう耳鳴や難聴はありません。

メニエール病

繰り返す回転性めまいに反復消長する蝸牛症 状(耳鳴、難聴、耳閉感など)を伴います。同 様の症状を示す中枢性・末梢性疾患を除外し診 断します。メニエール病は人口10 万人あたり 15 名前後であり、決して多い疾患ではありま せん。メニエール病めまい発作の特徴は、数時 間持続し、嘔吐などの強い自律神経症状を伴い、 発作時には著明な自発眼振を生じることです。 本疾患の本態は特発性内リンパ水腫(内耳に内 リンパ液が増加した状態)であるため、蝸電図 検査、脱水検査(グリセロール検査)などで内 リンパ水腫があることを確認します。初期には 難聴や耳鳴の程度は軽いため、めまいが主訴と なりますが、めまい発作を繰り返してゆく間に 難聴が進行し、固定します。約30%で両耳が 罹患するため、長期経過後は難聴が主訴となっ てきます。

前庭神経炎

数日以上持続する強い回転性めまいとして発 症します。原因は不明のことが多いのですが、一側の前庭機能が高度に障害されており、頭位 を変えても方向が変わらない定方向性の注視眼 振・自発眼振が数日以上持続します。眼振は健 側向きに生じます。メニエール病との鑑別が必 要ですが、メニエール病では1 日を超えて眼振 が持続することはありません。また、難聴・耳 鳴をともなわないことが特徴です。時に、前下 小脳動脈の閉塞でも同様の所見を示すことがあ り注意が必要です。ステロイド投与が眼振消失、 前庭機能回復に有効であるとされています。

めまいをともなう突発性難聴

前庭神経炎と同様のめまい症状・眼振所見を 示します。また発症早期はめまい症状が強く難 聴や耳鳴りを訴えないこともあるため、初診医 は指こすり試験でもよいので聴覚の左右差を検 査する必要があります。めまい発作にて救急病 院に運ばれたあと、強いめまい症状が1 週間程 度で改善した頃に難聴・耳鳴に気づき突発性難 聴とわかることがあります。突発性難聴は初期 治療が聴力予後に重要であることから、注意が必要です。

おわりに

めまい症状で医療機関を受診する患者さん は、耳鼻咽喉科だけでなく、内科、脳神経外科、 救急外来も受診します。めまい疾患を正確に診 断し、有効に治療するためには初診医の診察が 最も重要です。中枢疾患、心血管系疾患などに よるめまいを見逃さないためにも、きちんとし た問診と所見をとることが大切です。

参考文献
1)宇野敦彦, 長井美樹, 坂田義治ら:市中病院耳鼻咽 喉科における最近のめまい統計. 日耳鼻104: 1119-1125,2001
2) Parnes LS, McClure JA: Free-floating endolymph particles: a new operative finding during posterior semicircular canal. Laryngoscope 102: 988-92, 1992.
3) 板谷隆義, 北野博也, 矢沢代四郎, 他:頭位変換法で の良性発作性頭位めまい症治療. 耳鼻臨床88: 857-862, 1995