常任理事 真栄田 篤彦
平成24 年3 月2 日、県医師会館で標記講演会を開催したので概略を報告する。
講師の奥田弘美先生は精神科医師として臨床 に従事する傍ら、医療・健康分野へのコーチン グの応用を提唱し、医療コミュニケーションの ための「メディカルサポートコーチング法」、 ストレスケアのための「セルフサポートコーチ ング法」などを体系付け、執筆・講演活動など で紹介している。現職は相州メンタルクリニッ ク相模大野勤務。高知大学医学部非常勤講師。 メディカル&ライフサポート研究会主宰。
1.コーチングの歴史
コーチングは、アメリカで1960 年代に体系づけられた。
背景には、スポーツのコーチが使っていた指 導スキルをベースに、心理学、カウンセリング学、接遇学、リーダーシップ論、成功哲学などが組 み合わさって体系付けられた云われている。
2.コーチングの基本理念
COACH の語源は馬車。「その人が望むとこ ろまで送り届けること」という意味があるとさ れている。コーチングは「人は無限の可能性を 持っている」「人が必要とする答えは、その人 の中に眠っている」という基本理念に従って「ひ との目標や希望を達成するために、その人の中 に眠っている答えを引き出し、自発的行動を促 していくコミュニケーション法」と云える。
3.メディカルサポートコーチングとは?
本家アメリカでも、その方法や理論については、様々な流派がある。
日本で紹介されているコーチングも、それら を輸入したプログラムが殆どで、やり方や方法は流派によって異なるし、本体がビジネス領域 向けの内容。
「メディカルサポートコーチング法」は、筆 者が現役医療者としての感覚をいかしてアレン ジし、医療・健康・美容現場向けに体系づけし なおしたコーチング法で、医療現場をサポート していくコーチング法ということから、メディ カルサポートコーチングと名付けた。
基本としてマスターすべきことは「聴くこと」 「質問すること」「伝えること」に大別する3 つ のコアスキル。
1.コアスキル1 「聴くこと」
人は自分のことを聴いてくれないと、相手の 言うことも受け容れられないという特性を持っ ている。「聴く」意味を理解し実践することは、 基本的な信頼関係と親密度を構築するために非 常に重要。
○スキル1「ゼロポジション」
会話の際、相手の話をしっかりと受け止める聴き方の基本中の基本。
・相手に対する先入観を排除して会話に臨む。
・聴きながら自分の思考を極力抑える。
「こうすべきなのに」とか「それは、おかし いだろう」といった自分の内的思考は無視し て、とりあえず相手の話を最後まで聴く。
・相手の話の途中で、話しださない。
・沈黙を利用する。
○スキル2「ぺーシング」
「合わせる」という意味のスキル。人間は、 同じと言うことで安心感を高める特性を持っている。
まず、視線を合わせる、視線の高さを合わせる。 声の調子、高低、大きさ、テンポ、相手のムー ドなどもできるだけ合わせてみること。
○スキル3「頷きと相づち」
会話中、温かい頷きと、相づちをできるだけたくさん入れることで、「あなたの話をもっと聴かせて」といメッセージを送る。
○スキル4「オウム返し」
相手の語尾を繰り返すことで、「あなたの話 を受けとめてます」というメッセージを送る。 例「今日は調子がいいですね」→「調子がいいのですね」
2.コアスキル2 「質問すること」
コーチング的な質問手法を使って、相手の中 から、さらにアイデアややる気を引き出す。種々 スキルが沢山あるが、骨子となるところは以下のポイント。
○スキル1 オープン型質問を有効に使う
「はい」「いいえ」で答えが完了しない質問の仕方をオープン質問という。
「どう思うか?」「どう考えるか?」といった、質問の仕方。
相手が自分の言葉で話そうとするため、話題や情報が得られやすい。
⇔クローズ型質問
「はい」「いいえ」で答えが完了する質問。答えやすいが、会話が広がらない。
○スキル2 未来型、肯定型の質問を活用する
焦点を未来に向けた、否定語句を含まない質問で、やる気や行動力を引き出す。
例「さらに良くするためには、何が必要だとおもう?」
「今後、どんな行動が有効になってくるでしょう?」
⇔過去型、否定型の質問
過去に焦点が向かうと、アイデアややる気が起きにくい。
否定語句が含まれると、責められている気持が起こりやすい。
例「なぜ、〜できなかったの?」
「どうして失敗したの?」
○スキル3 魂をほぐす
漠然とした言葉の魂を、オープン型質問を多用してほぐしていく。
相手との言葉の壁(微妙なニュアンスやイメージ)を薄くすることができる。
例「まあまあ良くなった」
<ほぐす質問>
3.コアスキル3「伝える」
しっかり聴き、自分のために質問してくれた 相手に対しては、話し手も「あなたの言うこと なら、耳を傾けましょう」という気持ちになるもの。
有効な伝え方のスキルを使って、さらに相手 に受け入れやすい言い方ができれば、コミュニ ケーションは完璧。
1)スキル1「I メッセージで承認する」
例「私は、あなたが頑張ってくれるので、とてもうれしい」
「私は、あなたの心遣いに、心から感激している」
「私」が主語になる言い方で、相手の行動や 態度によって、自分にどのような影響を与えた か、自分がどんな気持ちになったかを伝える。 メッセージが評価や断定という側面を持たない ため、相手の心にそのまま届いてくれる。
⇔ YOU メッセージ
「あなたは、〜ですね」という言い方だと、断定や評価をされていると感じられてしまう危険性あり。100%の真意が伝わりにくい。
2)スキル2 「許可を取る枕詞を使う」
例「これは、私の意見ですが、聞いてきいてもらえますか?」
「ちょっと耳に痛いことなんだけど、言ってもいいかな?」
相手に許可を求める枕詞を使うと、その後のメッセージのとおりが非常によくなる。
クッションになり、ショックも和らげる。
実際のメディカルサポートコーチングには、 今回紹介できなかった様々なコーチングスキル が沢山あるので、詳しくは「医者になったらす ぐ読む本〜医療コミュニケーションの常識とセ ルフコーチング〜」(日本医事新報)「輝くナー スのためのパーフェクトコーチングスキル」(学 研)にまとめてあるので参考にして頂きたい。
当日は、パワーポイントによる具体的なスキルの実践の紹介が多くあり非常に参考になった。
医師は日頃の医療行為のなかで、外来で患者 さんや家族の方との問診の在り方や、手術前後 の説明などで、十分に理解してもらうために専 門用語を使って、決め付けた聞き方や、一方的 な質問をして、簡単に返事を端的な医学用語に 変換してカルテに記載するというパターンが多 くあることに気付かされた。
十分なインフォームドコンセントを共有する ためには、言葉のスキルも重要な役割を果たす ということを理解した。今後自分も外来での患 者との会話の中にも取り入れてみたいと思った。