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第25回世界禁煙デーに思う

安次嶺馨

沖縄県立中部病院・ハワイ大学卒後医学臨床研修事業団
ディレクター 安次嶺 馨

1 世界禁煙デーのキャンペーン

今年25 回の節目を迎えるWHO(世界保健 機構)の禁煙デー(5 月21 日)が、間もなく やってきます。WHO は毎年、この日に合わせ て世界にテーマを発信し、禁煙の啓発活動をし ています。今年のテーマは、「Tobacco industry interference(タバコ産業の妨害)」です。WHO は「たばこの規制に関する世界保健枠組み条約 (FCTC)」を弱体化させようというたばこ産業 の悪質で攻撃的な企てを明らかにし、それに対 処するために定めたとしています。

2 赤ちゃんから始める禁煙活動 〜童(わらび)どぅ宝(たから)〜

WHO の向こうを張って、昨年11 月25 〜 27 日に開催された「第6 回日本禁煙科学会学 術総会in 沖縄」のキャンペーンとして掲げた のがこのテーマです。

過去のWHO のテーマで、子どもを取り上 げたものは3 回あります。第3 回と第11 回が 「Growing up without tobacco(子どもに無煙環 境を)」、第21 回の「Tobacco-free youth( 若 者をタバコから守れ)」です。禁煙活動の主な ターゲットは大人であり、その主な担い手は内 科医です。タバコの害として問題にされるのが 癌・心臓血管病・高血圧等いわゆる成人病と呼 ばれる生活習慣病ですので、それも当然だと思 います。

しかし、今や、生活習慣病発症のリスクは、 既に胎児期や乳児期に芽を出していることが分 かってきました。成人病胎児期発症説FOAD (Fetal Origins of Adult Disease, Barker 仮説) やDOHaD(Developmental Origins of Healthand Disease, Gluckman & Hanson)が脚光を浴 びています。生活習慣病のリスクファクターは、 胎児期と子どもの成長の各時期に存在します。 私は、これを生活習慣病ツリー(図1)と長寿 ツリー(図2)という図を作成して説明しています(安次嶺馨編:赤ちゃんから始める生活習 慣病の予防、ニライ社、2007)。

図1

図1 生活習慣病ツリー

図2

図2 長寿ツリー

人間の一生は胎児期から始まりますが、胎児、 新生児、乳児、幼児という最初の2 〜 3 年以内 に起こった生活環境が生涯にわたって健康に影 響を及ぼすことを示しています。

日本人の喫煙率が年々低下しているのは喜ば しいことですが、若い女性の喫煙率、さらに妊婦 の喫煙率の高さは憂慮すべきことです。表1 と 表2 には母親の喫煙が胎児・幼児に与える影響 について示しています。私は、このことをいか に若い人々、特に女性に伝えるか、いつも腐心 しているのですが、ある聡明な小学生の新聞投 書に教育の重要性を知り、希望を見出しました。

表1 妊婦の喫煙が胎児に及ぼす影響

表1

表2 タバコの煙は子への虐待

表2

「たばこの害でこわい病気に。」大城紗里(小4)沖縄タイムス「ぼくも私も」欄投稿。2010年 7月17日

8 日の2 時間目に、たばこについての話を聞 きました。たばこを長いこと吸い続けると、肺 が真っ黒になって病気になるそうです。この病 気はとてもこわい病気で、こきゅうができなく なったり、死んでしまったり、血管がちぢんで 足がくされてしまったりするそうです。おかあ さんのおなかの中に赤ちゃんがいる時、お父さ んがたばこをすうと、お母さんもそのけむりを 吸ってしまって、血管がちぢんですみずみまで えいようが運べなくなって、赤ちゃんが小さく うまれてくるそうです。その赤ちゃんが大人に なると、おなかがすいたままうまれてきたから、 あれもこれもいろんなものを食べてしまって、 メタボリックという病気になるそうです。その 話を聞いて、わたしはとてもびっくりしたので、 たばこはぜったい吸いたくなく、周りの人もす ってほしくないです。今日のお話はとてもため になりました。

皆さん、いかがですか。これほど簡潔明瞭に タバコの害について書かれたものを私は知りま せん。私が数ページを費やして長々と説明して も、これだけの説得力は持ち得ないと、恥じ入 るばかりです。

3 タバコ川柳の公募と作品集の発刊

第6 回日本禁煙科学会に伴う事業として、タ バコ川柳を公募しましたが、小学生から成人ま で1,123 句の応募がありました。全作品を月桃 紙に印刷し、学会期間中、会場に展示しました。 かなり好評でしたので、学会終了後、入選作を 「タバコ川柳作品集」(図3)として発刊しまし た。その中から、一部を紹介します。

図3

図3 タバコ川柳 作品集

うれしいな すわないパパは いいにおい (小学一年)

たばこ買う お金あるなら 旅行へGO (小学六年)

父さんへ たばことかぞく どれえらぶ (小学五年)

その煙 流れの先は 子どもの肺  (小学五年)

ちゅらかーぎー タバコ吸ったら やなかーぎー (中学生)

タバコは害 吸わないあなたは ナイスガイ! (中学生)

禁煙ね 長くあなたと いたいから (高校生)

そのタバコ かわいいあなたに 似合わない (高校生)

妊婦さん 赤ちゃんないてる 吸わないで (高校生)

たばこはさー 吸ったら体が でーじなる (高校生)

この作品集は、タバコクイズ30 題に回答と 解説を加え、禁煙指導の教材として用いられる ようにしています。県医師会・県歯科医師会・ 県薬剤師会・学校・市町村等に配布しました。 日本禁煙科学会本部からも沖縄で始まった「赤 ちゃんから始める禁煙活動」を推進するため、 この作品集を全国に向けて発信するとの連絡を 受けました。

4 長寿県沖縄復活の鍵は子どもたちの健康にあり

いったんタバコを吸うと常習化しやすく、そ こから抜け出すのは困難を極めます。特に子どもはタバコ常習者になりやすく、従って、最も 大切なことは、最初の一本を吸わないよう子ど もたちに指導することです。

「命どぅ宝」は、沖縄の人びとなら誰でも知っ ている言葉です。日本一出生率の高い沖縄県は、 日本一子どもを欲しいと思う人びとの住む土地 のはずです。しかし、この地で子どもたちは大 切にされ、健康に育っているのでしょうか?

子どもは未来であり、何にも勝る宝として健康な体に育てるのは、私たちの義務です。

童(わらび)どぅ宝!!。沖縄の禁煙スロー ガンとして、これほどふさわしい言葉はありま せん。長寿県沖縄の復活のために、タバコ病の ない次世代を育てましょう。