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琉球大学医学部附属病院地域医療教育開発講座
 教授 阿部 幸恵 先生

阿部幸恵先生

シミュレーション教育の普及と実践という人材育成を通して地域医療の再生に関わります。「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」は、臨床研修医から専門医まで幅広く利用できる施設となれるように多様な教育プログラムを提供していきます。

Q1.この度は、琉球大学医学部附属病院地域 医療教育開発講座教授ご就任おめでとうござ います。今の率直なご感想と今後の抱負をお 聞かせください。

3 月1 日付けで地域医療教育開発講座の教授 を拝命しまして、まことに身の引き締まる思い でいっぱいです。琉球大学医学部附属病院の地 域医療教育開発講座は沖縄県の寄附講座として 平成22 年12 月に新設されました。国の地域 医療再生事業の一環であり都道府県が開設する 形です。

本講座の役割は、シミュレーション教育とい う新しい教育法の普及とシミュレーション教育 の指導者の養成、臨床研修医から専門医まで幅 広く利用できるシミュレーション教育プロラム の開発にあります。そして、それらを通して、 去る3 月25 日に開設となった「おきなわクリ ニカルシミュレーションセンター」の充実した 展開を目指すことです。

私は、これまで、医学教育を中心に、看護学、 薬学など医療者教育におけるシミュレーション 教育のプログラムの開発・実施を行ってきまし た。それらの経験とそこで得た知見を活かして、 沖縄県での「シミュレーション教育」の充実の ために、力を尽くしていきたいと思っています。 そして、シミュレーション教育を中心とした活動を通して、沖縄県での地域医療の再生や再構 築に少しでもお役に立てるように、がんばりた いと思っています。

Q2.おきなわクリニカルシミュレーションセ ンターの設置により、質の高い医師や医療従 事者の養成のみならず復職支援においても非 常に期待されるところですが、当講座は同セ ンターにおいて、具体的にどのような役割を 担われるのでしょうか。

「おきなわクリニカルシミュレーションセン ター」は沖縄県のすべての医療系学生および医 療職を対象としてシミュレーション教育を展開 していく場です。

シミュレーション教育は、医療の様々な現場 を模擬的に再現した環境と人体の一部をリアル に再現したシミュレータやコンピュータで制御 して生体反応を忠実に表現できるマネキンタイ プのシミュレータ、模擬患者などを利用します。 そしてその中での学習者の体験や学習者と指導 者の体験後の振り返りのディスカッションを繰 り返し行うことで医療者個人のスキルの向上や チーム連携強化を図るという教育です。

指導者が一方的に知識を教えたり、技術の一 連の流れのみを学習者が体得する学習とは異な り、臨床で遭遇する患者の状態や状況に対して個人や医療チームがどのように対応していくの かを主体的に学習者が考えながら問題解決能力 やコミュニケーションスキルを向上していくこ とがこの教育の特徴です。つまり、この教育の 充実した展開には、建物や機材などのハード な部分だけでなく、学習者が主体的に学ぶこと を支援できる指導者の養成や教育プログラムの 開発といったソフトの部分が非常に重要な鍵と なります。当講座は、このソフトの部分での役 割を担っています。センター開設前からシミュ レーション教育を指導できる指導者養成のプロ グラムをピッツバーグ大学、ハワイ大学の支援 をうけながら展開してきました。指導者養成の 研修会に参加して下さった医療者の方々は、の べ1,000 人を超えています。これからも学習者 の主体性を引き出すことのできる指導者を養成 するプログラムを展開していきます。また、臨 床研修医から専門医までが学ぶことのできる多 様な教育プログラムを各科の指導医のご意見や アドバイスを受けながら、開発していきたいと 思っています。さらに、医療以外の分野とも連 携をとり、シミュレータの開発や、遠隔でのシ ミュレーション教育などのシステム作りにも力 を入れていきたいです。

Q3.去る3 月25 日(日)に同センターのオー プニングセレモニーが盛会に行われたところ です。阿部先生は、当センターの設立に大き く関わっておりますが、設立に至るまでのご 苦労話等がありましたらお聞かせください。

特に苦労と感じたことはありません。昨年こ ちらに赴任してから多くの方々と関わる中で、 感じていることは、堅実で、実直な県民性が大 きな力となるということです。設立に向けては、 皆さまと様々なことを話し合い、決めて、具体 的に実行していかなければなりません。シミュ レーション教育の普及という大事業です。とて も一施設や個人レベルでできることではありま せん。「ALL 沖縄で取り組みたい」という私の 願いを県内の指導医の方々が受け止めてくださ り、施設を超えて支援して下さったことに本当に感謝しています。センターの開設準備を通し て、県立群、群星群、琉球大学群の指導医らが「シ ミュレーション教育」の充実のために、話し合 いの場を共有し活動していくことで心を一つに していく様子はすばらしく、本当に頭が下がり ます。小さなことも確実に、個人や組織が与え られた役割をきっちりと果たしていく姿から沖 縄県の医療の発展への思いの強さ、そして、沖 縄県を愛する心、「絆」の強さを感じています。 その感動の大きさに比べれば、苦労など一つも ないと思っています。

Q4.県医師会に対するご意見、ご要望がありましたらお聞かせください。

当講座は県内の多くの施設や組織との関わり 合いの中で、「おきなわクリニカルシミュレー ションセンター」を中心としたシミュレーショ ン教育の普及とセンターでのトレーニングの充 実を目指していきたいと考えています。セン ターに県内の多くの医師たちが集い、研修医の 指導や、専門医の育成を考えていくことで沖縄 県から多様で斬新な医師養成のシミュレーショ ン教育プログラムを国内外に発信していくこと ができたらよいと考えています。そして、施設 や組織を超えたALL 沖縄の医師養成の取り組 みが、沖縄県の魅力となって地域医療の再生や 充実に貢献していくことを願っています。県医 師会には、センターの開設準備から現在にいた るまで、多くの支援を受けて参りました。広報 から具体的なトレーニングの場の提供まで、多 岐に渡ります。とくに、本年度(平成24 年度) に県内の施設に採用された研修医全員を対象と したシミュレーショントレーニングにおいて は、毎月、指導医らの話し合いの場を提供して 下さり、具体的なご指導をしていただきました。 このような県医師会のご理解とサポートがあっ て、我々は歩みを進めていくことができると感 謝しています。今後とも、県医師会のご指導、 ご鞭撻を賜るとともに、全面的なバックアップ をお願いしたいと思っております。

Q5.先生の座右の銘、日頃の健康法やご趣味 などをお聞かせ下さい。

座右の銘は、「継続は力なり」です。与えら れた場所で、与えられた役目を誠実に、コツコ ツと行い続けることが、力になっていくと思っ ています。日頃の健康法は、特別なことはして いません。強いて言えば、逆境はチャンスだと 思うように、すべて、その日にあったつらい事 や残念なことも、ポジティブに受け止めること のできる「心」、そして「心八分目」のゆとり を持つようにしています。そして食事です。で きるだけ、県の食材を使ったヘルシーな料理を 心がけています。島どうふ、ニガナ、ハンダマ、田芋、ナーベラーなどをよく使います。また、 おやつには、黒糖とタンナファークルーがマイ ブームです。沖縄の食材は、豊かな太陽と土の 恵みから、いのちを頂き育ってきたのだと感じ ます。きっと栄養だけでなく、このいのちの力 強さが元気を与えてくれるのだと思います。趣 味は、いろいろありますが、今は琉球料理を学 ぶこと、沖縄県の歴史を紐解く読書が余暇の大 半となっています。

この度は、インタビューへご回答頂き、誠に有難うございました。

インタービューアー:広報委員 金谷 文則