沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 5月号

九州医師会連合会諸会議

(2)九州ブロック日医代議員(含・次期)連絡会議

開 会

佐賀県医師会の徳永剛専務理事より開会が宣言された。

挨 拶

九州医師会連合会池田秀夫会長(佐賀県医師 会長)より、日医各種委員会委員および今回報告いただく委員の先生方へ感謝申し上げる旨の 挨拶があった。

座長選出

慣例により、九州医師会連合会池田秀夫会長が座長に選出された。

報 告

1)地域医療対策委員会 安里哲好 委員(沖縄県)

日本医師会の原中会長より、「国民医療を確保 するための地域特性と地域連携の在り方」につ いて諮問を受け、8 回に亘る委員会を経て、地 域医療対策委員会報告書(案)を纏めたとして、 報告書(案)に基づき報告が行われた。

なお、報告書の項目にある「地域医療再生基 金について」と「東日本大震災の経験から〜岩 手県から〜」については省略された。

1.これまでの委員会経緯と医療提供体制について

平成18・19 年度委員会では、「地域医療提供 体制の今後と医師会の役割」について諮問を受 け、1)医師の絶対数の問題と医師不足への対応、 2)新医師臨床研修制度について、3)地域医療対 策協議会の役割、4)女性医師バンクの創設、5) 地域医療データベース化の必要性、6)研修医の 偏在対策として、都道府県単位で研修病院定員 を卒業生数と同数、7)医師の偏在対策として、 臨床研修修了後のへき地や医師不足地域への勤 務等の提言がなされた。

平成20・21 年度委員会では、「地域社会ニー ズと医療提供体制の在り方」について諮問を受 け、OECD 平均医師数である3.0 人/1,000 人は、 2025 年頃に達すると述べ、適切な医学教育環境、 少子化における医学部学生の質の確保、人口減・ 高齢化等も考慮し、医師養成数の増員は慎重に あらねばならないと提言された。また、医師の 偏在解消として、大学医学部地域枠の設定や奨 学金の設定が提案された。

平成22・23 年度委員会では、「国民医療を確保するための地域特性と地域連携の在り方」に ついて諮問を受け、1)2 次医療圏の意義・デー タベース、2)4 疾病5 事業、3)在宅医療、4)地域医療再生基金、5)東日本大震災より、へき地 における災害医療について検討が行われた。

2.地域連携における医療圏のあり方

2 次医療圏の現状として、2 次医療圏は「一 帯の区域として病院等における一般の入院医療 を提供する単位」であり、全国に349 の2 次 医療圏がある。

4 疾病5 事業は、疾病・事業毎の医療圏とな っているが、既存の2 次医療圏をベースにした 考え方にとらわれている例が見られる。

2 次医療機関の集約化が各地で行われてお り、2 次医療機関の病床に休床が見られることが多い。

今の2 次医療圏は、救急医療の医療圏として 機能している一方、病床規制を行うための医療 圏となっている。

今後の医療圏のあり方として、2 次・3 次医 療圏と「4 疾病5 事業」毎の医療圏があり、全 般的に地域の医療体制を考えていく場合は、2 次医療圏が適当である。

また、将来の人口減少や高齢化の進展、過疎 化をも考慮する必要があり、医療需要と供給の 把握も行う必要がある。

介護と医療圏については、医療と介護の連携 は2 次医療圏より狭い範囲を中心とした1 次医 療圏的範囲で行われることが望ましいとし、救 急医療と医療圏、財源と権限、4 疾病5 事業と 2 次医療圏、急性期病床群についても検討が行 われた。

急性期病床群は、高度急性期と一般急性期を 合わせた概念と思われるが、医療適用体制の充 分な機能分化と連携が整わなければ国民は戸惑 うと思われる。

3.4 疾病5 事業の現状と課題

(1)4 疾病5 事業への医師会の関与、(2)地 域医療対策協議会の4 疾病5 事業に果たす役割、活性化策について、(3)今後の「2 次医療 圏」のあり方について、(4)民間医療機関の4 疾病5 事業に果たす役割、(5)公的医療機関、 社会医療法人が4 疾病5 事業に果たす役割につ いて、(6)地域医療支援病院、特定機能病院の 4 疾病5 事業に果たすべき役割について、(7) 現行の4 疾病5 事業について、(8)数値目標 について、それぞれ検討を行った。

なかでも、(3)今後の「2 次医療圏」のあり方 については、身近な医療と救急重篤分野に分け、 前者を2 次医療圏とすることや人口が少ない面 積の狭い圏域は廃止・統合して医療機能を集約化 するとの提案、更には、既存の医療圏によらず 県下をより大きく分けたブロック単位で地域の 医療提供体制を構築しているとの報告があった。

4.在宅医療について

(1)高齢化と疾病構造の変化、(2)在宅医療 の定義、範囲、(3)地域連携(後方病床)、(4) 在宅療養支援診療所、(5)多職種間の連携:訪 問看護ステーション、(6)在宅医療の医療圏は 小・中学校レベルで人口1 万人程度の圏域、(7) 多死社会と在宅医療、(8)医療保険制度と介護 保険制度について検討が行われた。

なかでも、高齢化の進展に伴う高齢者の増加 から支える側の減少に変わること、後期高齢者 の急増による「生活支援型医療」を必要とする 患者の急増、在宅療養支援診療所の届出数の微 増、訪問看護ステーション数の横ばい状況、将 来の死亡者数の推移等が報告され、我が国では、 急速な高齢化・多死社会を今までに経験したこ とがなく、高齢者特有のサービス・ケアシステ ム問題は、今後15 〜 20 年が勝負となってい ると報告された。

5.地域の医師不足について

(1)総論

平成22 年12 月31 日現在、人口10 万人対 医師数は230.4人で、G7 の平均にかなり近づき、 米国とほぼ同規模になった。

(2)地域偏在

1)都道府県別偏在

都道府県別にみた医療施設に従事する人口 10 万対医師数によると、福島県や岩手県は平 均以下となっており、千葉県、茨城県、埼玉県 は更に低い数値を示している。

2)都道府県内の偏在

北海道と宮城県における都市部と地方の格差 とみると、北海道全体では全国平均219.0 人と ほぼ同じで218.3 人、札幌、旭川では322.6 人 となっている。札幌、旭川以外では145.6 人と 2 倍以上の差がある。

宮城県全体では全国平均219.0 人とほぼ同じ で210.4 人、仙台市では326.7 人となっている。 仙台市以外では109.3 人と3 倍以上の差がある。

3)中大都市圏域と小都市圏域

中大都市圏域と小都市圏域における大学帰学 率をみると、臨床研修制度発足前は、地方都市 にある大学の方が大学に残る率が高く、都市部 大学69.4%、地方都市大学74.2%であった。

平成18 年には、臨床研修制度後、初めての 修了者の大学復帰率は中大都市が62.6%に対 し、地方都市大学は33.2%と、中大都市部で は影響が出なかった反面、地方では極端に落ち 込み、制度発足前の半数以下となった。

これにより、地方の大学において地域医療支 援機能はほぼ消失し、地方の地域医療崩壊に臨 床研修制度が関与していることは明らかである と報告している。

(3)診療科間偏在

麻酔科1.5 倍、精神科1.4 倍、皮膚科・眼科 が増えている。一方、産婦人科や外科は低い状 況にある。

(4)医師偏在解消にむけて

地域偏在の解消については、地域枠入学者の 定着率89%に対し、一般入学者の都道府県定 着率が54%で明らかに差を認めていることから、地域枠入学制度は地域定着の方策の一法で あると考えられる。

診療科偏在の解消については、仕事量とキャ リアパスと診療報酬の3 点セットで対処する以外ない。

2)労災・自賠責委員会 大橋輝明 委員(福岡県)

日本医師会の原中会長より、「地域医療再生 における労災保険、自賠責保険の役割」につい て諮問を受け、労災保険および自賠責保険に係 る問題とその対応について、それぞれ以下のと おり、整理し提言を行った。

労災保険に係る問題とその対応について

1.労災診療費について

1)実質的な労災独自の診療報酬としていく

2)全ての労災レセプトに係る審査業務は、医師 会が専門性を発揮して正確で公平な審査会を 目指すことが必要

3)労災診療費算定基準の改定については、平成 22 年度診療報酬改定の労災診療費への影響 と時期改定への要望(前期の要望含む)を重 点要望10 項目として会長へ提出した

4)労災保険情報センター(RIC)の問題につい ては、事業仕分けの結果、事業規模を縮小さ れるものの、貸付業務等は存続する

2.労災・自賠責保険に係る研修、広報活動の重要性について

○若い医師の関心のなさから、算定基準への理解不足やルールを逸脱する事例も散見されるようになった。

○医学生、研修医、一般の医師に対する研修実施の必要性を確認し実行していくこと

○直接、労災・自賠責診療に係らない一般の医 師に対しても、本委員会の活動状況や労災診 療、交通事故診療の現場で起きている問題等 について情報提供を行うこと

3.労災かくしについて

前回の答申同様、医療提供側の考え、改善策等を提言

4.労災医療の長期化、症状固定と治療の問題について

患者の状態および疾病により療養期間は異な り、長期に亘る医学管理が求められる疾病も多 い。一方、骨折および関節の傷病等により3 年 以上療養を継続している患者がいることも事実 であるため、個々の事案について慎重かつ適切 に対応する。

5.天災地変による災害における労災保険の取扱い等について

東日本大震災に関連して「天災地変による災 害における労災保険」の対応も極めて重要で、 周知が必要である。

自賠責保険に係る問題とその対応について

1.交通事故診療における健保使用問題について

健康保険使用に至る主な要因は、1)法律上、 交通事故診療に対し自賠責保険を優先的に適 用することの明確な規定がない。2)損保会社ま たは損保代理店による指示・誘導。3)人身傷害 補償保険など主にこれらの要因が複合して交 通事故診療における健康保険の使用につなが っている。

指摘されている健保使用に係る問題として、 1)制限診療につながる健康保険を適用するこ とで、結果的に十分な治療ができず、被害者の 不利益につながる医療提供に係る問題。2)療養 担当規則や医療保険各法に規定されていない 対応を求められる診療費の請求・支払及び事務 負担等に係る問題。3)自賠責保険への適切な求 償がなされていない健康保険財政に係る問題 がある。

今後の対応として、交通事故診療においては、 原則、自賠責保険を優先して適用することを明 文化した新たな通達を発出させ、周知徹底を図ることが重要である。また、交通事故診療に係 る保険適用の考え方を分かりやすく整理させ、 広く国民に対し周知を図り、理解を得ることが 肝要である。

今後の課題は、交通事故診療において健保使 用を制限することは、交通事故の診療報酬基準 の合理性が厳しく問われる可能性があること。 また、交通事故診療を適切に評価した合理性の ある独自の基準構築と法制化について考える必 要があるのか検討する必要がある。

2.交通事故診療に係る健保使用問題に関する調査

交通事故診療における健保使用の問題に関 し、都道府県医師会の協力のもと、健保使用の 実態調査を行った。実施期間は平成23 年3 月 〜 4 月中旬である。

47 都道府県全ての3,254 施設にアンケート を求め、1,733 施設の回収を得たうち、有効 1,655 施設(病院674 施設、診療所946 施設、 その他35 施設)をもって検討した。

全体の健康保険の使用率は19.9%となってお り、損害保険料率算出機構の公表使用率10.7% の約2 倍という結果であった。

また、医療機関種別を見た場合、病院全体 が23.6%、診療所が10.8%であった。入院・ 外来別では、入院全体で58.1%、外来全体で 17.2%となっている。

健康保険による診療を求める理由としては、 「加害者(損害保険会社)から指示(要望)が あったため」が57.3%、「患者本人が加入する 任意保険会社から指示(要望)があったため」 が24.6%で合わせて約80%を占めている。

加害者(損害保険会社)から患者への説明内 容については、「患者さん側の過失が大きいた め」との回答が最も多く52.3%、次いで「健 保を使用しても一部負担金の支払いはない(損 保会社が負担する)」が30.1%と、本来、医療 機関にとって関係のない過失割合という概念を 治療費に持ち込み、健康保険のルールを無視し た案内をしている実態が浮き彫りとなった。

「第三者行為による傷病届」提出の確認につい ては、71.4%の医療機関が「確認している」と 回答しているものの、20%を超える施設がレセ プトに「表示していない」との回答で、保険者 による求償への影響が懸念される。

 健保使用時の損保会社所定の書類(明細書、 診断書)の依頼状況等では、健保を使用してい るにもかかわらず、70.4%の施設が損保会社所 定の書類作成を求められ、60%の施設で作成義 務のない書類を作成し、事務負担が大きくなっ ている。

人身傷害補償保険を使用する際に健康保険使 用を強要されることはないとの「申し合わせ」 については、70%近くの医療機関が「知らない」 と回答しており、人身傷害補償保険の利用を理 由に健保使用を求められた場合、多くの医療機 関がそのまま応じてしまっているのではないか と推察される。

医師会を通じて、より一層会員への周知が求められる。

3.後遺症の認定基準について

後遺症の認定基準の問題点として、1)障害等 級の決定(後遺症認定)の際、認定基準に則っ た適切な認定がなされていないのではないか。 2)認定基準自体が実態に即していないのではな いかというがある。

その対応策は、労災保険における「障害等級 認定基準」の改正を待たずとも、柔軟な対応が 可能となるよう、関係省庁の中に検討会等を設 置し、賠償責任の観点から独自の認定基準の設 定、運用について検討していくことである。

4.医療類似行為に係る問題について

自賠責保険から給付されている交通事故に係 る1 件あたりの平均診療費は、約16 万円で推 移している。一方、数年前より、柔道整復師等 の医療類似行為に係る施術費用等の占める割合 が伸びてきている。

自賠責保険においても施術費等の支払適正化に向けた一層の取り組みが求められる。

5.交通事故に係る周辺問題について

日本損害保険協会(各損害保険会社)及び損 害保険料率算出機構との意見交換会を開催し、 双方から持ち寄った議題、1)日医基準案の普及促進と定着、2)柔道整復師の施術事案、 3)交通事故診療における健保使用問題、4)人身事故証 明書入手不能理由書の取扱いを中心に協議を行った。

印象記

副会長 玉城 信光

平成24 年3 月10 日佐賀市で行われた。昨年の会には出席できなかった。平成23 年の3 月12 日開催されたのだが、東日本大震災の医療派遣を検討していたのである。あれから1 年が過ぎて いた。

今年は日本医師会の役員改選がある。九州からの理事は宮崎県の稲倉会長と熊本県の福田会長 が推薦され、裁定委員、議事運営委員、財務委員も提案通りに推薦が承認された。

今年は日本医師会長の選挙の年である。過去2 年間日医副会長として活躍してこられた横倉義 武先生が立候補した。今年の九州医師会は一枚岩で横倉先生を応援することが確認された。優し い人柄のために激しい立候補宣言ではないが、国民と共に歩む専門家集団としての日本医師会を 目指して戦うことが宣言された。理念と行政との連携の両方の資質をもった横倉先生の当選を九 州医師会連合会として確認をした。また常任理事候補には長崎の今村定臣先生と佐賀の藤川謙二 先生を推薦し当選を誓った。

その後、安里哲好先生から日医の地域医療対策委員会の報告がなされた。医療圏のあり方につ いても検討され医療体制を考える場合には2 次医療圏が適当であるとのことであるが、人口の増 減や高齢化率、医療施設などや医師、看護職員等も加味し見直しが必要であると報告された。

4 疾病5 事業も1)現状の把握、2)課題抽出、3)解決のための数値目標の設定、4)そのための施 策の策定、5)定期的な評価、6)進捗状況の評価、7)必要に応じた見直し、8)これらの情報の公開 というPDCA サイクルの推進を図ることを厚労省は求めているとのことである。

日本にはいろいろな医療情報のデータベースがないので予防注射をしても本当にインフルエン ザが減ったのか、他の要因で減ったのかなど検討もできないのである。そのためにも医療情報の データベース化が必要でもある。臨床試験や薬の副作用などの疫学調査にも使えるようになる。

沖縄県でも現在すすんでいる脳卒中や糖尿病の連携をもとにしながらデータベースの構築がで きると沖縄の医療に大変貢献できると考えられた。

次いで福岡県の大橋輝明先生から労災・自賠責委員会の報告がなされた。損害保険会社も損害 保険を使わずに、医療保険で交通事故などの診療をすすめたりしている実態が浮き彫りになった。 しかし、交通事故に対して自賠責保険を優先的に適応することの明確な規定がないために、損保 会社が健保使用への指示・誘導があるらしい。健康保険の財源を守るためにも損害保険の適応を きちんとするべきであると考えた。

日医の委員会も大変面白い議論をしており、答申は会員であれば閲覧できるので皆さんも勉強 すると頭の整理ができてくると思う。