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女性医師支援事業連絡協議会

松原忍

沖縄県女性医師部会委員 松原 忍

去る2 月17 日(金)日本医師会館に於いて、 「女性医師支援事業連絡協議会」が開催され、 本部会役員3 名(玉城信光副会長、依光たみ枝 部会長、私)、事務局2 名参加した。協議会で は、これまでに「女子医学生、研修医等をサポ ートするための会」を開催してきた都道府県医 師会の中から代表して9 都県(1)青森県、2)東京都、3)神奈川県、4)愛知県、5)島根県、6)岡山県、7)広島県、8)愛媛県、9)鹿児島県)より 支援状況等の事例報告が行われた。以下に会議の模様を報告する。

挨 拶

羽生田俊女性医師支援センター長より概ね次のとおり挨拶があった。

厚労省委託事業として実施している女性医師 支援センター事業の中核である女性医師バンク が先月5 年目を迎えた。就業実績(研修含む) は、この5 年間で295 件になる。これも偏に 医師であるコーディネーターが各求職者の事情 に合わせたきめの細かい対応をしてきた成果で ある。

「女子医学生、研修医等をサポートするため の会」については、都道府県医師会や学会・医 会等との共催により、年々開催箇所数が増加傾 向にある。今年度は57 箇所で開催することが できた。

また、日医では医師会が主催する研修会等に 託児サービスを併設するための費用補助を行っ ているが、未だ全てに情報が行き届いておらず、 今後助成金を活用した託児所の設置促進を促し ていきたい。

ご存知のとおり医師国家試験の合格者にお ける女性の割合が1998 年以降30%を越えている。女性医師が活躍して頂けることが男性医師 にとっても勤務環境改善に繋がるものと考えて いる。

本協議会では、資料発表を含めて12 都道府 県より「女子医学生、研修医等をサポートする ための会」の事例発表をお願いしている。各県 も是非参考にしていただきたい。

挨拶の後、保坂シゲリ常任理事より、昨日女 性医師バンクの就業実績が300 件に到達した 旨報告があった。

事例発表

(1)青森県医師会 冨山月子常任理事

青森県では、医師の未来を考える取り組み事 業として、1)女子医学生と女性医師との交流会、 2)研修医をサポートするための病院訪問会を行っている。

1)については、平成20 年度から毎年1 回の 割合で学生が興味を示すテーマを取り上げなが ら、就労継続のためのモチベーション向上・維 持に向けた交流を図っている。また、男女とも に働きやすい環境を作ることが肝要であるとの 視点から平成22 年度より男子医師学生や男性 医師にも参加して貰っている。2)については、 女性医師支援事業を広く周知させることを目的 に、県内の研修病院を訪問し、研修医、指導医、 病院管理者等と意見交換を行いながら、各病院 の現状を踏まえた就労継続支援について検討を 行っている。

今後も当訪問会を継続し、意見交換と情報提供を行いながら必要な支援を探って行きたい。

(2)東京都医師会 小島原典子次世代医師育成委員会委員

東京都では、平成19 年度より毎年1 回「女 子医学生、研修医等をサポートするための会」 を開催しており、本年度で5 回目を迎える。毎 年概ね50 名程度の医学生や研修医が参加して いる。今年度から本講習会の対象者を女性に限 定せず、男子学生や研修医にも幅を拡げた。名称も「女子」という文言を省いたが、当日の参 加者は50 名に留まり、託児所の利用者はおら ず、参加率の向上には繋がっていない。

今後の取り組みとしては、これまで労働条件 などの話題に偏りがちであった内容を医師とし ての使命感や道徳感を触発するようなものに主 眼を置き進めていきたいと考えている。また、 都内臨床研修病院の研修医代表を集め、互いの 施設の状況について情報交換ができる機会を設 けることも検討している。来年度より本講習会 を都内13 大学において順次開催する方向で検 討を始めた。大学における教育課程に本講習会 を導入させることができれば、より良い講習会 へステップアップできる。

(3)神奈川県医師会 増沢成幸理事、山本勇夫勤務医部会幹事

神奈川県では、平成21 年度よりサポートす るための会を毎年1 回開催している。会の形態 は、基調講演、シンポジウム、ディスカッショ ンを行なっている。これまでの経験上、女子だ けの議論は問題提起にはなるが、根本的な解決 には結びついていない。今年度から「女性」の 文言を省き、男性の病院長や管理者に参加いた だき意見交換を行なうことができたことは一つ 収穫であった。

女子医学生、研修医の問題解決には、男子医 学生や病院長・管理者等の意識改革に加え、社 会の意識改革も重要であると痛感している。

若手医師の医療資源を有効利用するために も、男女を問わず就業改善への提案や医学生が 今後直面する問題解決に向けた多様なモデルの 提案を行なう必要がある。今後日医の取り組み にも期待したい。

(4)愛知県医師会 齊藤みち子愛知県医師会男女共同参画委員会委員長

愛知県下4 つ大学における医学生の合計は 2,400 人である。女子医学生の占める割合は平 均31.7%であり、全国平均より少し低いかと思う。

愛知県では、平成18 年度より毎年1 回「女 子医学生・研修医等をサポートするための会」 を開催して来たが、学生の参加が芳しくなかっ たことから21 年度より開催場所を大学に移し た。講習会の内容も二部構成へと変更し、前半 は愛知県医師会における女性医師支援の取り組 みについて説明し、後半は開催する大学におい て独自に企画して貰うことにしている。

その他の取り組みとしては、就業選択の際の 参考情報として、病院内保育所の現況について アンケート調査を実施した。調査結果について は了承を得た施設のみホームページで公開した。

また、教育の現場での男女共同参画への理解 と認識を深めて貰うべく、平成24 年度より藤 田保健衛生大学において講座を開設することが できた。今後、他3 大学へも広げていけるよう 進めていきたい。

以上、4 都県からの事例発表の後、保坂シゲ リ常任理事の進行のもと、発表に関する質疑応 答が行われた。主な意見は次のとおり。

■和歌山県医師会

青森県では大勢の学生が講習会に参加してい るとの報告があったが、単位を付ける等の工夫 をしているのか。それとも義務化しているのか。

□青森県医師会(冨山月子常任理事)

大学が一ヶ所という事もあると思うが、医学 部長が積極的に呼びかけを行っていることが功 を奏していると思う。決して義務ではない。

■栃木県医師会

日医への提案である。日医が認定している産 業医研修会を有効活用して、若い医師への意識 改革ができないか伺いたい。

□日本医師会(保坂シゲリ常任理事)

日医も縦割り行政であり、予算の出所が違う 点はご理解頂きたい。産業医研修会は、産業医 の養成が目的の会である。しかしその中に、ワ ークライフバランスを加えていかなければなら ないことは当然理解している。女性医師にスポ ットを当てるようなことも、今後我々が執行部を継続しておれば進めていきたい。

また、医師全体へ働きかけ行くことの必要性 については我々も理解している。しかし、地域 によっては女性医師にスポットをあてた支援を 懸命に行うことが、最終的に色々な環境改善に 繋がることもあり得るので、地域の実情に応じ て対応していただきたい。

また、大学教育の中に講義を入れていくこと については、カリキュラムにライフワークバラ ンスが入ったので、今後文科省と内容を詰めて、 実現できるよう取り組みたい。

(5)島根県医師会 春木宥子男女共同参画委員会委員

島根県医師会では平成18 年6 月に男女共同 参画委員会を設置し、これまでに、1)男女共同 参画フォーラム、2)女性医師の勤務環境の整備 に関する病院長、病院開設者・管理者等への講 習会、3)女性医療職キャリア継続のための講 演会(共催:島根大学)を開催してきた。この 他、県内の病院を対象としたアンケート調査を 実施し、正規雇用短時間制度や複数担当医制の 導入、院内保育施設の設置状況など各病院で行 なわれている女性医師支援の取り組みについて 伺った。また、女性医師のための「応援宣言集」 冊子を作成した。同冊子には、アンケート調査 で各施設より頂いた病院のアピール文等も掲載 した。今後は育児等のサポートシステムも掲載 していきたい。

(6)岡山県医師会 神ア裕子理事

岡山県医師会では、平成23 年度より「立 場が違えば興味も違う」の考えのもと、「参加 してもらいたい対象者を絞る」、「キャリア形 成ができる会を開く」、「対象者自身に企画案 を出してもらう」ことを柱とし、女性のキャ リア支援活動を積極的に行っている岡山大学 MUSCAT(MDs and Undergraduates Support & Care Attractive Women’s Team)と連携を取 り、「Doctor’s Career Cafe in OKAYAMA」と 銘打ったミーティングを開催している。第1 回目は「医学生を対象」としたミーティングを行 なった。会では岡山大学MUSCAT Jr. と山口 大学en-JoY から、それぞれの活動状況を報告 してもらい、他県の女子医学生同士が交流を図 った。第2 回目は「育児中の女性医師が勉強す る場を設ける」ことを目的に、皮膚病理カンフ ァレンスとミニレクチャーを行なった。その後、 子連れ専門医試験体験談と題した講演を行い、 子育て中の悩みについてディスカッションを行 なった。来年度は、男子学生の参加を促すと共 に、各診療科を対象としたミーティングを開催 したい。また、現在、研修医を対象としたミー ティングも企画中である。

(7)広島県医師会 檜山桂子女性医師部会部会長

広島県医師会では、広島大学男女共同参画推 進室との後援により、過去2 回(H21、H22)「女 性医師へのフォロー体制等に関する広島大学各 講座・診療科へのアンケート」を行った。

 その結果、女子医学生は、ワークライフバラ ンスが保ちやすいと考えられる診療科(眼科、 皮膚科、耳鼻咽喉科等)を選択する傾向にあり、 「診療科の勤務環境」はより重要な因子である と考えられる。また、女子医学生は、結婚・出 産時に仕事を中断することを想定している傾向 にある。これは就労継続を実際以上に困難と考 えている可能性が伺えた。女子医学生が育児不 安への解決策として最も望むものは、職場のフ ォロー体制であり、これは全群で望まれている ことが分かった。よって、診療科の選択には、 職場のフォロー体制の情報が必要であると考え ている。また、女性医師のキャリア形成阻害要 因と考えられているものは、個人の問題よりも 職場環境の問題を挙げており、ロールモデルの 有無、女性医師への評価に対する情報が必要で ある。女性医師の声は意思決定に反映されにく いため、入局する診療科の男女共同参画に対す る意識が重要となってくる。

アンケート調査を通じて、多くの講座が積極 的な女性医師支援への取り組みを表明したが、全講座まで万遍なく行き届いておらず、ポジテ ィブアクションの必要性を痛感した。

(8)愛媛県医師会 今井淳子理事

愛媛県医師会では平成20 年より「女子医学 生、研修医等をサポートするための会」を本年 度までに3 回開催し、その中で女性医師部会の 活動紹介や先輩医師の経験談、女性医師の勤務 環境の現状に関して報告を行なった。

また、愛媛大学では、女性医師キャリア支援 プログラムとして「地域のマドンナ・ドクター 養成プロジェクト」を実施しており、離職防止 や復職支援を通じ医師確保を図っていきたい。

今年度愛媛県医師会に設置された「女性医師 就業支援窓口」の周知徹底を図り、県の周辺部 で奮闘されている女性医師の就業支援に注力したい。

(9)鹿児島県医師会 鹿島直子女性医師支援室長

本県では、平成18 年から本年1 回「女子医 学生・研修医をサポートするための会」を開催 しているが、年々参加者は減少の一途を辿って いる。女子医学生や研修医は、医師会の活動に 関心がないのではと考えている。

今年7 月に医師を目指す中・高校生を対象と した公開講座を開催したところ、286 名の参加 があり好評であった。

この他、本会では鹿児島県内の保育園を訪問 し、サービスや特徴などを医師会報を通じて紹 介する「保育園訪問記」をシリーズ掲載してい る。今後は、保育サポート等を通して学生や若 い医師が医師会に興味を持つ様なシステムを提 供していきたい。

以上、5 県からの事例発表の後、保坂シゲリ 常任理事の進行のもと、発表に関する質疑応答 が行われた。主な意見は次のとおり。

■茨城県医師会(伊東良則常任理事)

本県では女性医師を集めるのに苦慮している。産業医研修会や勤務医部会等とも連携して、 女性医師支援を行っては如何か。また、他県で 良い事例があれば紹介いただきたい。

□日本医師会(保坂シゲリ常任理事)

他の部会を巻き込んでということについて は、組織が大きくなればなるほど難しい。地域 であれば可能かもしれない。

□島根県医師会(春木宥子男女共同参画委員会委員)

学生であれば、公衆衛生学の講座で男女共同 参画問題を取り上げ、女性医師支援に関心を持 って貰うことができる。

□愛知県医師会(斉藤みち子男女共同参画委員会委員長)

大学のカリキュラムに取り入れて貰う方法と しては、各大学によって異なると思うが、女性 医師支援に理解のある先生を委員に取り組むこ とである。

■秋田県医師会(蓮沼直子女性医師委員会委員長)

岡山県では、県外の学生と交流したとの報告 があったが、その際の交通費などはどの様に対 応したのか。

□岡山県医師会(神ア裕子理事)

山口県の学生には交通費を支給した。関西医 科大学の学生は帰省中とのことであったため支 給は行なわなかった。

■宮城県医師会(櫻井芳明副会長)

男女共同参画問題は日本独特の問題だと聞い た。となると、この問題は文化の問題と位置づ けられる。果たして医師会や大学が関わること で文化を変えることができるのか。この問題は 社会全体の問題として取り上げるべきである。

□日本医師会(保坂シゲリ常任理事)

日本の現状を変えるためには、身近な所から 一つ一つ地道に積み上げて変えて行かなければ いかない。日々の努力が文化を変える。

■新潟県医師会(庭山昌明理事)

平成24 年10 月5 日より第6 回多職種連携 教育と協働実践の国際会議(ATBH)が神戸市 で行われる。日本における地域医療や女性医師 の現状について発表する予定である。世界の現 状を知る良い機会になると思うので、是非ご参 加いただきたい。

■沖縄県医師会(依光たみ枝女性医師部部会長)

本県の活動について紹介する。ユニークな取 り組みとして、プチフォーラムを開催している。 プチフォーラムとは、本部会役員が県内の医療 機関を訪問し、医師としてのキャリアアップや キャリアパス形成・女性医師の勤務環境の現況、 今後必要となる対策等の説明を行い、本バンク の活用を促している。また、女性医師の情報共 有や伝達の場としてメーリングリストを設けて おり、現在までのメーリングリスト登録者数は 234 名となっている。

印象記

沖縄県女性医師部会委員 松原 忍

女性医師支援事業が始まって5 年が経過し、節目の協議会となりました。全国津々浦々から担当者が集まった中、9 都県の発表と3 件の資料提示があり、とても熱気にあふれた会議でした。

どこの地区でも育児支援や復帰トレーニングなどの「結婚した」女性医師に対する支援から始 まり、女性医師本人のキャリア形成に対する取り組み、医学生のうちから将来を見据えて計画す ることへとすすみ、最終的には「医師全体」のサポートへとテーマが変化してきていました。沖 縄県女性医師部会の立ち上げの際に玉城信光先生、依光たみ枝先生、仁井田りち先生が「女性医 師について考えるということは、最終的には男性を含めた医師全体の支援を行うということにつ ながる。小さい単位の取り組みがうまくいくと全体へ発展させることができる」と熱く語ってい らしたことを思い出しました。

各地でフォーラムや講習会が行われたり、医学生を対象とした講演会を行っていますが、その 地域の医師全体の充足状況によって支援のすすみ具合に違いがあるように感じました。

沖縄は離島が多いというハンディキャップがあるものの、対人口比として比較的恵まれた医師 数を有するそうです。女性医師支援事業として年1 回のフォーラムに加え、主立った病院へ役員 が出向いて行うプチフォーラムが開催されています。加えて「メーリングリスト」作成への取り 組み、それを利用して就業にいたるケースがあるなど、先進的な試みを行っています。小さな県 であること、離島が多いことを有利にとらえ、今後は男性を含めた「医師全体」へ拡大していく ことで、沖縄は現在の医師を取りまく環境へ一石を投じることができる地区だと思いました。

総合討論のおわりに「現状をかえるのは『文化を変える』ことに匹敵する」との発言があり、 女性医師部会はとても大変なことに取り組んでいるのだと認識を新たにしました。この5 年間の 取り組みで状況が変化し、さらに国や医師会をあげての支援が行われるようになりました。それ らを上手に利用し、よりよい医師の勤務環境を得ることが可能になりつつあります。家族の都合 や体調の問題などで一時的に仕事を離れることがあっても、医師という職業が希望に満ちあふれ 最終的に自分のもっている知識や経験を社会に還元していきたいと考える医師を増やすことで現 状をかえていくことができると思える会議でした。