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第2回シンポジウム
「会員の倫理・資質向上を目指して」
―ケーススタディから学ぶ医の倫理―

當銘正彦

理事 當銘 正彦

去る2 月15 日、東京・日本医師会館にて標題シンポジウムが執り行われた。

原中日医会長の開会の挨拶に引き続き、「会 員の倫理・資質向上委員会」の森岡恭彦委員 長が登壇した。森岡委員長はスライド(1 〜 5)を用いて“医師の倫理問題”に関する歴史的な経緯と日医の取り組まれた活動の紹介 をされたが、「医師主導の職業規範に関する世 界医師会マドリッド宣言・2009 年」(スライ ド5)の中で、professional autonomy こそが、 医師の基本的な職業規範であることを強調さ れた。

スライド1

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スライド2

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スライド3

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スライド4

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スライド5

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続いて大阪府医師会理事の齋田幸次氏から、 「第21 回会員の意見調査」の結果として、異 状死の届け出義務の問題、そして医療事故調査 機関のあり方についてのアンケートが報告され た。診療所長、病院長、勤務医の3 者に分けて アンケートの結果を整理しているが、意外な感 じを受けたのは、病院長と勤務医の間における微妙な意識ずれである。「診療関連死を異状死 に含めるべき」(スライド6)や、「刑事訴訟の 証拠として使用されてもやむを得ない」(スラ イド7)の判断において、病院長よりも勤務医 の方が高い比率を示している事は、俄には信じ がたい結果である。

スライド6

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スライド7

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スライド8

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さて本題のシンポジウムであるが、実際に医 療現場で起こった3 事例を取り上げて、これを 全国から集まった会員を6 つのグループに分け て討論を行い、後ほど各グループでの討論内容 を発表し、全体の討議に賦すという形式で行わ れた。

昨年の第1 回目は参加していないので詳細は 知らないが、会員にアンケートを実施して、そ れを元に議論をしたとのことであるが、2 回目 の企画である今回は、全国から集計した実事例 の中の3 例を提示してグループ討論を行った訳 である。10 人前後の小グループという気安さ も手伝って、忌憚の無い活発な意見交換ができ、 有意義な中にも楽しいシンポジウムの企画であ ったと感じた。

因みに、シンポジウムに提示された3 例を紹介する。

1)判断の正常でない高齢医師

A 市では医師会、看護協会の協力で夜間診療 所を開いている。ある看護師から医師会長宛に 「ときおり診察に当たるX 医師(80 歳)は認知 症ではないか」という疑問が通報された。そこ で医師会長はX 医師と面談し、その通報は妥 当なものと判断し、X 医師に対して専門医の診 断を受けるように助言して、万一の場合は引退 の可能性を考えて欲しいと示唆した。ところが X 医師は医師会長の助言にも関わらず診療を継 続している。

2)わいせつ行為を訴えられた医師

50 才の女性が下腹部痛で外科の診療所を受 診した。患者に発熱はなかったが、右下腹部に 圧痛を認めたので、医師は虫垂炎や子宮付属器 炎を疑い、直腸診および婦人科内診を行った。 受診後、患者から診察はわいせつ行為で許せな いとの訴えが医師会にあった。診察時、看護師 などの介助者は席を外していて、内診に関する 説明の有無は不明である。

3)診療時間内に来所したのに診療を断った医師

子どもの目の治療で、土曜日の午後1 時前(受 付時間は午前9 時から午後1 時まで)に眼科の 診療所に行き診察を求めた。ところが、医師は 他の患者の検査に時間がかかるとの理由で他の 眼科を受診するように受付の職員を介して家族 に伝えた。「診療時間内にもかかわらず受付で 断られた。少しでも医師に診て貰えれば納得す るが、診もせずに他院に行くように言われたこ とに納得できない」という訴えが家族から医師 会に寄せられた。

さてこれら3 題であるが、何れも普通に有り そうな事例である。会員の皆さんはこの様な時、 どの様に考え、そして行動するでしょうか。元 より正解というのは有りませんが、シンポジウ ムで飛び交った意見の一端を紹介すると、

1)に関しては、

・先ず家族に話して、診療を止めるように説得 して貰う。それがダメなら医師会でテストをする

・年齢制限(定年制)を布く

・夜間診療所は罷免できるが、個人の診療所は どうするか。やはり家族からの説得が優先さ れると考えるが、医師会としての積極的な関 与も必要。個人としてのみならず、医師会と いう組織としてのprofessional autonomyの発 揮が必要である

(2)に関しては、

・外科医だから問題で、産婦人科医であれば問 題ないのか。産婦人科医であっても、現状は 必ず介助者をつけることになっている

・介助者が居ない場合や緊急事態の場合は、その 旨を患者にキチンと説明してから内診をする

・そもそも外科医が内診をやって良いのか?
医師であれば、当然診察の一環としてやって良いという考えが主流

3)に関しては

・診療契約が成立していないのだから、医師側か ら断っても良いという意見や、患者の権利意識が強すぎる、と云った意見も聞かれたが、

・受付時間内に来診しているのだから、応召義務以前の問題として診療する義務がある

・もし診療終了が1時を過ぎて不都合であれ ば、その旨をできれば医師が、そうでなけれ ば看護師が患者・家族に説明するべきであ り、受付で断るのは良くない、という意見が 主流であった

以上の様なディスカッションであった。

社会的使命を負う職業を遂行するに当たって の自己規律を“professional autonomy”といみ じくも表現したマドリッド宣言であるが、科 学・技術の進歩、個々人の権利の拡大、価値 観や文化の多様性が揺らめく現代社会にあっ て、屹立した倫理観を貫くのは決して容易なこ とではない。だからこそ我々も、医師としての professional autonomy を普段から鍛えなくては ならない時代状況であると痛切に感じ入る。そ の意味からも今回、日医が「医師の倫理・資質」 というテーマでシンポジウムを企画した労は、 大なものと評価したい。

最後まで読んで頂いたお礼に、シンポジウム の座興として出題された米国の医師国家試験で 倫理観に関連した2 題を紹介する。

(1)あなたは、あなたのクリニックで複数の病 気を抱えた高齢の女性を受け持っている。彼 女の家族は、あなたの診察に深く感謝してお り、家で作った食事、ケーキとスカーフをあ なたに持ってきた。あなたはどうするべき か?

1)そのプレゼントを受け取るが、それを報告する
2)そのプレゼントを受け取る
3)食事については金銭の支払いを申し出る
4)プレゼントの受け取りを拒否する
5)食事を残りのスタッフと分けるのであれば、プレゼントを受け取るのは倫理的である
6)食事は受け取るが、スカーフは断る

(2)87才の男性があなたの許へ、数週間前に罹 った軽い脳震盪の具合を診て貰いにやってき た。大した事故では無かったが、彼は自動車 に乗っていて事故に遭い、頭をダッシュボー ドにぶつけたものの、意識を失うまでには至 らなかった。その患者は緑内障と若年性難聴 を患っていた。彼は運転免許を郵送の手段に よって2年前に更新しており、唯一の制約は 眼鏡をかけなければならない、というものだ った。あなたは、その患者が運転すべきかど うか、確信が持てない。あなたはどうすべき か?

1)患者の家族に知らせ、彼が運転することは彼自身にとって危険であるから、家族の方で止めさせるよう説明する
2)脳のMRI 検査をする
3)神経検査を行う
4)患者の記憶を改善させるために、アリセプ トの処方を開始する
5)この問題について患者と話し合い、別の交通手段を探すよう勧める
6)彼の運転免許証を取り上げる
7)警察に義務的報告を行う

さて正解はお分かりでしょうか。理由の解説 まではなかったが、正解は(1)2)、(2)5)との ことでした。会員の皆さん、米国の倫理観は如何ですか?