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平成23年度日本医師会医療情報システム協議会

佐久本嗣夫

理事 佐久本 嗣夫

去る2 月11 日(土)12 日(日)、日本医師 会館大講堂において、「災害時における強い情 報システムはどうあるべきか?」をメインテー マに、標記協議会が開催されたので、以下のと おり報告する。

○ 1 日目:平成23 年2 月12 日(土)

日本医師会石川広己常任理事の司会により会 が開かれ、冒頭、原中勝征日本医師会長(代理: 石川広己常任理事)並びに稲倉正孝運営委員会 委員長(宮崎県医師会長)より、下記のとおり 挨拶が述べられた。

挨 拶

原中 勝征日本医師会長
(代理:石川 広己常任理事)

昨年は、3 月11 日に発生した東日本大震災 による巨大地震、巨大津波が太平洋に面した東 北三県および周辺地域を襲い、死者・行方不明 者をあわせ約2 万人の犠牲者と多くの街に壊滅 的打撃を与えた。さらに、福島第一原子力発電 所事故による放射能汚染が一向に解決の方向が 定まらない中、大震災発災後直ちに動き出した 医師会によるJMAT の活躍に国内外から賞賛 の評価が寄せられた。

そして現在も、被災者の心のケア、生活支援、 衛生環境の整備や伝染病予防、医師不足地域へ の支援などを目的にJMAT Uを立ち上げ、全 国の医師会や医療の各団体のご協力を頂いてい る。今年度の協議会は、「災害時に強い情報シ ステムはどうあるべきか」をメインテーマに取 り上げ、未曾有の被害をもたらした東日本大震 災を教訓として、医療界、医師会の災害時にお ける対応やシステムの現状、および今後のある べき対応策について論議し、多くの医師に検討 していただけるようなプログラムを用意した。

また、医療分野におけるIT 化に関しても日 本医師会はこれまで「セキュリティ等適切に活 用すれば、医療現場がより効率的で便利になる」 という視点から、ORCA プロジェクトを始めとする医療のIT 化について、積極的に取り組ん できた。本協議会では、「ORCA プロジェクト」 について報告し、ORCA の将来像も含め先生方 との相互理解を深めてゆきたいと考えている。

医療分野におけるIT 化は、安全で効率的な 医療提供体制を実現するための手段であり、医 療と患者に貢献するIT 化であってこそ推進す る価値があるものと確信している。この協議会 が、先生方にとって有意義なものとなることを 祈念して、挨拶とさせていただく。

稲倉正孝運営委員会委員長(宮崎県医師会長)

今回メインテーマに「災害時に強い情報システムはどうあるべきか」とさせて頂いた。

二日間と長丁場になるが、活発なご発言を頂きたい。

シンポジウム

T「医師会事務局の災害時対応は大丈夫か?」

(1)「全国の医師会事務局の防災体制の現状と その問題点−平成23 年度医師会事務局情報 化調査報告−」

名古屋工業大学大学院准教授横山淳一先生 より、平成23 年9 月下旬から11 月にかけて、 全国の都道府県および郡市区医師会事務局を対 象にウェブ上で実施した「平成23 年度版都道 府県・郡市区医師会事務局の情報化調査」の結 果について報告があった。

本調査は、「医師会および医師会事務局の防 災体制」、「非常用設備の現状」、「東日本大震災 後の防災対策等の見直し・検討内容」等につい て全国の医師会および医師会事務局の現状を知 ることを目的に実施されており、全国937 医 師会のうち491 医師会(回答率52%)から回 答が得られたと報告があった。

調査結果では、東日本大震災を契機に防災体 制について考える医師会が増加していること や、行政との訓練は、他の団体・組織と比較し て実施されているが、医師会員、都道府県医師 会と郡市区医師会との訓練は実施されていない 状況等が示され、どのような災害を想定するか災害時に医師会は何をするのか、等災害時の具 体的な対策を検討する必要があるとの考察が示 された。また、医師会の規模に関わらず、情報 収集(職員及び会員の安否確認)、医師会の状 況の情報発信、情報収集及び発信ができるイン フラ整備等の必要性が示された。

(2)「東日本大震災における宮城県医師会事務局の対応報告」

宮城県医師会事務局の手嶋正浩氏より説明が あった。

始めに、今回の大震災直後は、全県停電によ り安否確認で使用するメーリングリストが2 日 間使用不可の状態であり、モバイルPC も回線 が混雑し繋がりにくい状態であった旨報告があ った。

宮城県医師会では、平成16 年に宮城県の補 助を受け設置したMCA 無線を使用し、毎月第 1 及び第3 月曜日に宮城県医師会と郡市医師会 で通信訓練を行っていた。地震発生直後に被害 状況確認のため、携帯型MCA 無線で郡市医師 会へ一斉送信を行った際には、県内18 ある郡 市医師会のうち、9 の医師会より返答があった との報告があった。

最後に大震災を経験した立場から急性期にお いて必要性が高いものとして1)地震に強い建物 (職員等の避難所等)2)確実な通話ができる災 害時優先電話(有線・携帯)と公衆電話3)自家 発電装置、発電機4)ガソリン等の各種燃料の備 蓄、緊急車両登録対象となるよう行政や県警と の調整等が示された。

(3)「災害における情報収集・活用の重要性に ついて−東日本大震災における医師会対応報告−」

兵庫県医師会事務局の安慶名正樹氏より説明 があった。

兵庫県医師会では、3 月17 日に宮城県医師 会より連絡要請があり、石巻市へ支援に入るこ とが決定し、JMAT 派遣前の情報収集について はGoogle ポータルサイトやTwitter(ツイッ ター)/Facebook 等で情報収集を行ったが、情報の真偽や時間軸に注意する必要があったとの 報告があった。JMAT 派遣後には携帯電話でも 利用できるメーリングリストを設置し日報並び に現地の状況を逐一報告できるような体制をつ くり情報の共有化を図ったとの報告があった。

最後に兵庫県では台風による水害や土砂災害 があったため、大規模災害のみならず、地理的 要件を踏まえ、地域における災害の特性を加味 する必要がある等課題が示された。

(4)「江東区医師会における災害時対応−東日本大震災における医師会対応報告−」

江東区医師会防災担当理事・防災部長竹川勝 治先生より説明があった。

江東区医師会では、ほとんどが0 メートル地 帯の埋立地であり、東京都の中でも災害時に被 害が特に大きくなる地域である旨危険性が示さ れ、震災発生時には食糧不足や帰宅困難者の対 応を行ったとの報告があった。

また、江東区医師会が作成した災害時マニュ アル「江東区医師会医療救護サイトファイル」 の紹介があり、災害時の行動チャート等が紹介 され、様々な災害を想定し各医師会所属の医師 がどのように行動をすればいいか等マニュアル 化されているとの紹介があった。

(5)「札幌市医師会における災害時の対応について」

札幌市医師会事務局木工明氏より説明があった。

札幌市医師会では、災害時の医療情報などの 拠点施設となるため、札幌市医師会館を劣化状 況及び耐震診断に基づき、耐震補強改修工事を 実施したとの報告があり、夜間急病センター (WEST19)では、災害時に待合室のイスをベ ッドにすることが可能である等、災害時救護施 設の説明があった。

また災害時における情報システムとして、電 子メールにより緊急情報を交信する「札幌市医 師会緊急連絡システム」を構築している。本シ ステムは「会員の安否情報(診療の有無・医療 機関の被害状況・ライフライン状況)」、「災害時基幹病院・後方支援病院情報(傷病者の受入・ 受入可能病床数・診療の有無・医療機関被害 状況・ライフライン状況)」「医療救護班出動 可否情報(安否情報・医師会館への出向可否・ 医療機関の被害状況・ライフライン状況)」な どを収集し、札幌市と札幌市医師会などが設置 する医療対策本部において、情報を整理し医療 救護班の派遣先などの決定に基づき、本システ ムにより派遣要請を行うものであるとの説明 があった。

さらに、本システムには、役員への情報提供 をはじめ職員に対する安否情報なども含まれて おり、被災時の医師会事務局機能を継続させる ためのシステムとして使うことができる。また、 この度の東日本大震災において、十四大都市医 師会災害時相互支援協定書に基づき、「支援本 部対策室」を設置し、各医師会に対して情報提 供と連絡調整を行ったとの紹介があった。

U「ORCA プロジェクトについて」

(1)「ORCA の評価と今後」

医療IT 委員会副委員長・京都府医師会理事 藤井純司先生よりORCA プロジェクトの中核 である日医標準レセプトソフト(日レセ)の評 価及び今後の展開等について報告があった。

日レセはプログラム公開から10 年が経過し た現在、1 万を超えるユーザが導入、運用して おり、またレセコン市場においては現在第3 位 のシェアを占めており、これまでの取り組みを 高く評価したいとの意見が述べられた。なかに は日レセ開発の費用は会員の会費であり、「無 駄にお金をつぎ込んでいるのではないか」、「利 用していない会員もいるのに不公平ではないの か」という意見もあると報告があった。

しかし、オープンソースとして公開された日 レセは、大手メーカーの囲い込みにより導入費 用、運用費用が高止まりの状態であったが、日 レセ登場以来レセコンの市場価格は大幅に下落 し、メーカー製レセコンを運用している多くの 会員も確実に間接的なメリットを享受している との意見が述べられた。また、「ORCA のネッ トワークを利用して医療機関からデータを収集し、日医の医療政策立案に役立てる」ことも当 初からの大きな目的であり、既に感染症サーベ イランス事業も開始しており、これらの事業が 軌道に乗れば、医療全体に大きく寄与すること になるとの展望が述べられた。

今後の方向性については、サポートセンタ の経費を受益者負担とするための「ORCA 事 業運営費」徴収、サポート事業所の質の向上と 質の差異の均一化、災害時に備えたデータバン クの提供、そして、クラウド時代に対応した SaaS 型日レセの開発と、さまざまな視点から 検討した結果を提案していると説明があった。

(2)「ORCA の現状と今後」

日医総研主席研究員上野智明氏より説明があった。

日レセの稼働状況は、2012 年1 月16 日現在 11,637 施設で稼働しており、業界3 位になっ ていると報告があった。

今後はサポートサービスの更なる向上のた め、問い合わせ等のサポートに関しては有償に してはいかがか、また、非会員価格についても 検討していきたいとの意見が述べられた。

クラウド化への考察については、災害による ハードディスクの障害をなるべく減らすため、 様々な形でクラウド化を進めていきたいとの展 望が述べられた。

(3)「日医認証局の稼働」

医療IT 委員会副委員長・愛媛県医師会常任理事佐伯光義先生より説明があった。

始めに、これまでの認証局事業の経緯が述べ られ、認証局の必要性、課題等について議論を 重ねてきたとの説明があった。日医認証局の機 能説明では、電子文書に印鑑を押す「電子署名」 の機能、ネットワークやデータベースに接続し ようとする者が正当な利用者であるか検証し、 本人性を確認する「認証」機能の2 つの機能に ついて説明があり、本機能については、厳密な 「医師資格審査」を行いIC カードに格納した 電子証明書を発行する等、詳細について説明が あった。

また、日医認証局は、既に保健医療福祉分野 のルート認証局である厚労省HPKI 認証局と の接続も開始し、これまでの実証実験でノウハ ウも十分に蓄え、いつでも本格的な事業として 運用開始可能な状態になっているとの報告が あった。

今後電子データをやり取りして医療連携を行 っていくために、認証局は必要不可欠なもので あり、厳密で正確な医師資格審査を行えるのは 医師会だけで、民間企業の参入を許すべきでは なく、今後も日医で事業を継続していくべきで あるとの意見が述べられた。

(4)「認証局について」

日医総研主任研究員矢野一博氏より説明があった。

始めに、保健医療福祉分野の信頼基盤となっ たHPKI(Healthcare Public KeyInfrastructure) の仕組みについて紹介があり、現在実証フェー ズを超え、実運用のフェーズに入っているとの 報告があった。また、日医認証局は経産省の医 療情報化促進事業の中の医療認証基盤、地域医 療再生計画の中の根本を担う認証基盤など、幅 広い展開が始まっており、本稼働は、開始され ていると言っても過言ではないとの意見が述べ られた。

(5)「ORCA プロジェクトの今後」

医療IT 委員会委員長・岐阜県医師会副会長川出靖彦先生より説明があった。

ORCA プロジェクトは多額の経費が費やさ れてきたことから、今後の事業継続について問 題視する意見が日医執行部内にも存在すること を聞きており、過去の費やされた経費の妥当性 と、結果の良否、今後の事業継続の可否につい て検証結果の報告があった。 

検証結果は、仮に日医がこれらの事業を実 施せず、市場に任せて放置したならば、会員 の負担すべき費用は遙かに膨大になっていたと の意見が述べられた。今後は会員の衆知を集 め、ORCA プロジェクト本来の目的達成に向け、 計画実施をするべき時期が来たと結論したいとの意見が述べられた。

○ 2 日目:平成23 年2 月13 日(日)

シンポジウム

V「東日本大震災の情報システムはどうだったか」

(1)「非常時の情報伝達手段としてのアマチュア無線活用」

岩手県医師会副会長の石動孝先生より説明があった。

始めに、「今回の大震災・大津波直後は、停 電のためFAX、電子メール等は使えず、また 電話も回線混線のため使用できない状況であっ た。衛星電話、携帯電話及び携帯メールは辛う じて使用可能であったが、岩手県全域にわたる 情報を得ることはできなかった。」と報告があ り、そのような状況下において、岩手県山田町 では、アマチュア無線を活用することで、実際 に人命救助等が行われたと報告があり、災害時 におけるアマチュア無線の活用方法とその有用 性等について説明が行われた。

岩手県においては、日医会員の岡崎宣夫先生 のご努力で、室根山頂に中継局が設置され、携 帯無線機で岩手県全域が交信可能となってお り、これにパソコンを利用したWiRES ノード 局を併用することで全国と交信できるようにな っていると説明があり、非常事態に備え、医師 会や医療機関が無線装置を整備し、キーパーソ ンとなる人物には常に無線機を携帯させ、また、 行政・医療機関・医師会等の職員にアマチュア 無線技師資格を取らせる等とした組織的なシス テム作りが重要ではないかと意見された。

(2)気仙沼災害医療における情報システムの脆弱性と危機耐性

気仙沼市立病院・宮城災害医療コーディネーターの成田徳雄先生より説明があった。

今回の東日本大震災における気仙沼の特徴と して、「宮城県では、大規模災害時における緊 急連絡網としてMCA 無線を災害拠点病院に整 備していたが、気仙沼は基地局が遠いという物 理的理由により配備されておらず、その代替として衛星携帯電話が配備されていたが、不具合 が生じ使用不能となっていた。電話・インター ネットでの情報発信が可能となるまでに発災か ら1 週間を要した。」と報告があり、このよう な状況下において、気仙沼では、気仙沼市役所 に開設された宮城県庁災害対策本部との電話回 線により、宮城県医療災害対策本部と気仙沼市 立病院との一日3 回の定時連絡を行うという形 を取り決め、電話回線が回復するまで、この仕 組みで情報発信を行っていたと説明があった。

災害時においては情報の伝達が非常に重要で あり、超急性期では、少ない情報を基に限られ た医療ソースを適切に分配し、迅速的・効率的 な対応を求められるが、亜急性期では、過多な 情報を整理し膨大な医療ソースをコントロール することが必要になると説明があり、想定外危 機に対応する要件として、「オープンでフラッ トな情報共有管理体制の構築」や「現場の自主 性を重視した任務の調整・分配」、「柔軟かつ迅 速な目的志向型チーム医療」や「効率的なロジ スティックス」、「多元化した指揮命令系統の調 整機能」を整理検討しておく必要があると意見 された。

(3)「福島県医師会における東日本大震災から学ぶ情報の整備」

福島県医師会常任理事の星北斗先生より説明があった。

福島県医師会では、発災直後の3 月11 日午 後3 時30 分に、会長を本部長、副会長を副本 部長とした災害対策本部(他、救急医療対策委 員会担当常任理事、庶務担当常任理事、事務局 職員で構成)を立ち上げ、事務局は24 時間体 制で、会員の安否確認や多くの問い合わせ等に 対応していたと報告があった。

初期の安否確認では、電話による確認を行っ たが、被害の大きな地域においては、電気及び 通信網の復旧が遅く長期間を要したと説明が あり、またE メールを利用した安否確認につ いても、会員情報システムに登録されていたE メールアドレス1,062 件に対しメール送信を行 ったが、登録されたアドレスが現在のものと違う場合(220 件がエラーで送信不可)や、イン ターネットに接続できないため回答ができない 等の理由から、133 件の回答しか得られなかっ たと報告があった。

その他、Google 掲示板や出身大学の医局に よる安否確認、連絡がとれた先生の情報による 安否確認等も並行して行ったと報告があった。

しかし、その問題点として、個人情報保護 等により連絡先を教えていただけない場合や、 昨今の電話による詐欺事件等のため不信感を 持たれることもあったと報告があり、今後、日 頃から緊急時の連絡先(電話、携帯電話、E メ ールアドレス、スカイプ、MCA 無線)を登録 いただくとともに、予め安否確認の必要性を周 知し、メールの一斉通知や会員側からのアプロ ーチが得られるようにしておく必要があると 意見された。

(4)1)「いわき市医師会における震災時の情報ツール活用」

いわき市医師会副会長の長谷川徳男先生より説明があった。

いわき市医師会では、発災直後より電話と FAX による連絡網は寸断されたが、電子メー ルやSNS、Facebook、Twitter 等は利用可能 であったため、それぞれの情報ツールを活用 し、災害関係や被曝医療の情報交換を行うと ともに、3 月19 日からは医師会ホームページ 上の事務局通達ページを会員に開放し、会員用 SNS に不慣れな会員も情報交換できるような 取り組みを行ったと報告があった。

災害時の経験から、現在では、会員の情報登 録項目に、携帯電話番号とメールアドレスを追 加し、大規模災害時でも携帯電話で緊急連絡が 取れるような体制構築に向け取り組みを行って いるところであると報告があった。

(4)2)「東日本大震災での福島高専MCS(SNS)の実践報告」

いわき市医師会医療情報ネットワーク委員会 外部顧問・福島工業高等専門学校の布施雅彦先 生より説明があった。

福島工業高等専門学校では、平成19、20 年 度に学生支援GP(Good Practice)で採用され た「マルチメディア活用型ピアサポートシステ ム」として、学内SNS を中心としたWEB2.0 の利用が進められており、特にシステムの中 核となる「福島高専MCS(マルチメディア・ コミュニケーション・サービス)」は、学生・ 教職員・卒業生の間で相互に情報交換可能な SNS になっていると説明があり、今回の発災 時においても、約9 割近い学生が本システムに アクセスし組織的な情報連絡が行えたことで、 学生の安否確認や被災状況の調査、震災情報の 連絡・情報共有等が可能となり、大きな役割を 果たしたと説明があった。

このような状況から、災害時に備え、Facebook やTwitter、Mixi 等、複数の情報ネットワーク を日頃から活用するとともに、様々なコミュニ ティの構築を模索しておくことが重要であると 意見された。

(5)「日本医師会からの報告」

日本医師会副会長の横倉義武先生より説明があった。

日本医師会では、3 月11 日の発災直後に災 害対策本部を設置し、役職員による24 時間体 制で対応に当たるとともに、18 組織34 団体の 医療・介護関係団体に糾合し、政府機関も参加 する「被災者健康支援連絡協議会」を創設し、 被災県の医師会、行政、大学とのTV 会議を行 い、情報の把握共有に努めたと報告があった。 また、被災地の医療機関等の状況の把握並びに 適切な復興支援のため、全国の医療、薬事関係 者に協力をいただき、「被災地域の医療機関に 関する情報共有システム」の施行を行ったと説 明があった。

情報共有に係る今後の課題として、今回の大 震災では情報の混乱が生じたことから、正確な 情報の把握と共有が大きな課題であると意見さ れ、今後の災害に備え、複数の通信手段を確保 するとともに、超急性期から急性期及び復興期 と、それぞれの時期における正確な情報把握や 情報を共有していくための仕組みづくりが重要になると意見された。

(6)「日本医師会からの報告」

日本医師会常任理事の石井正三先生より説明があった。

日本医師会では、東日本大震災の1 年前に 当たる平成22 年3 月にJMAT の創設を提言 しており、発災後の平成23 年3 月15 日には JMAT の結成を決定、その後、各都道府県医師 会にJMAT の派遣を要請し、結果、各都道府 県医師会の協力により約180 チームをJMAT 及びJMAT Uとして被災地に派遣したと報告 があった。

災害時への対応としては、「どのような安全 対策を講じていたとしても、想定を超えた事態 は常に起こり得る。想定を超えた事態では、予 め立てた対策が通用せず、マニュアル通りには いかない。強力なリーダーシップの下、迅速な 行動をとり、被害の拡散を防止し、二次的な被 害を回避することが重要である。そのためには、 リアルタイムに情報を得ることが重要となる。」 と意見され、具体的な対応策として、現地のコ ーディネート機能の下で関係者間の情報共有を 行うことや、情報共有手段としての「避難所 チェックシート」及び「トリアージカード」の 改善及び認知度の向上、広域災害・救急医療情 報システム(EMIS)の充実等が課題として挙 げられると説明があった。また、日本医師会で は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との連携 による、衛星通信回線を活用した情報通信シス テムの構築を図っているところであると説明が あり、今後も災害時における情報共有のあり方 について検討を行っていきたいと意見された。

W「レセプト情報電子化による利用の功罪−光と影」

(1)「ナショナルレセプトデータベース利用の現状」

東京大学大学院情報学環准教授の山本隆一先生より説明があった。

高齢者医療の確保に関する法律の中で設置が 定められた「ナショナルレセプトデータベース」が2009 年から稼働し、既に50 億件以上のレ セプト情報や特定健診情報が蓄積されていると 説明があり、本DB は、本来の目的である医療 費適正化計画のために厚労省が用いるだけでは なく、2009 年より本来目的以外の公益利用に 関する検討が開始され、2011 年からは本来の 目的以外の公益利用についても本DB が活用さ れていると報告があった。

NRDB の利用については、医療サービスの 質の向上等を目指した正確なエビデンスに基づ く施策の推進として、「感染症等の疾患の実態 把握に基づく施策」や、「介護給付費と医療費 の実態把握に基づく施策」等、またそれらの施 策に有益な分析・研究や、学術研究の発展に資 する目的で行う分析・研究について利用可能と なっており、利用申請後、日本医師会や日本歯 科医師会、日本薬剤師会の委員を含む有識者会 議によって審査されることになっていると説明 があった。

第1 回目の提供審査では、43 の応募があり 6 申請が許可されたと説明があり、許可数が少 ないことについて、「現状では、探索的研究は 不許可にせざるを得ず、探索的研究を可能とす るためには、より安全なサブセットの検討や、 安全性確保のための法的裏付けを明確にする必 要がある。」と意見され、今後、公益性とプラ イバシーのバランスを慎重に考慮する必要があ るとともに、確実なデータベースセキュリティ の確保や匿名性の定量的な評価基準を設けるた めの機構の設立等が望まれると意見された。

(2)「レセプト情報の電子化の意味」

広島大学病院医療情報部教授の石川澄先生より説明があった。

電子レセプトの普及状況として、2011 年 11 月現在で、レセプト総数の89.6%が電子レ セプトとなっており、400 床以上の病院では 99.6%、400 床未満の病院では98.6%、診療所 では80.6%が電子レセプトに対応していると 説明があった。

その背景には、医療機関と健康保険基金及び 保険者との事務のやり取りの効率化や、医療費の詳細な分析につなげるという点があるが、レ セプトを電子化することで、時系列でのデータ 分析や、疾病別の医療費の分析、生活習慣病の 成り立ちの詳細な構造分析等も可能となり、更 には健診データや各種データと突合させること で、職種別、地域別、年代別のコホート分析等、 新たな疾病構造分析等にも活用することができ るようになると説明があった。

厚生労働省では、2012 年3 月より、健康保 険請求する医療費の明細書全てを電子的に縦覧 点検と突合点検することとしており、それによ り、数百億円から数千億円を超える「無駄遣い」 を抑えるということをその効果として期待して いるようであるが、重複受診が判明した場合に、 どのようにその結果を医療機関にフィードバッ クするのか、また異なった日の同一検査につい て誰がそれを制限するのか、またそれらの指摘 事項を、誰にどのような形で是正を促すのか等、 検討すべき課題も多く残っていると意見され、 患者、医療機関、保険者等が、相互に結果を評 価し、それぞれが成り立つ解決策を立案してい く必要があると意見された。

(3)「レセプト情報電子化の光と影」

日医総研主席研究員の上野智明氏より説明があった。

始めに、「オンライン請求の完全義務化であ った国の施策は、大幅に要件が緩和され、現在 は電子レセプトデータ利用に焦点が移った。そ の結果、懸念していた通り、分析に即したレセ プト書式への改変要求が高まりつつある。レセ プトの公益目的の協力は当然であるが、医療機 関側の手間やコストも考慮し、現場に混乱をも たらすことのないよう注意深い制度の変更を 期待したい。」と意見があった。また、レセプ トの利用については、患者並びに医師・医療機 関のプライバシーにも十分な注意が必要であ ると意見され、そのためには、国民ID の施行 に併せて予定されている番号法、並びに個人情 報保護法の医療の個別法に期待したいと意見 された。

電子レセプトを活用した疫学的な統計や地 域の医療計画への反映等については、今後、 ORCA プロジェクトにおける定点調査が活用 できるような体制整備を検討したいと説明があ り、また、いずれ複雑になりすぎた診療報酬体 系の再構築が必要となる時期も来るであろうと し、その際は、日本医師会が主導となれるよう 準備しておくことが理想であると意見された。

印象記

理事 佐久本 嗣夫

去った2 月11 日と12 日の2 日間日本医師会館において「災害時に強い情報システムはどうあ るべきか」をメインテーマに上記協議会が開かれた。報告書のとおり東日本大震災時の応援や通 信の対応策について各地区からの報告があったが、改めて被災地の悲惨な状況を痛感した。情報 収集発信には各地区とも難渋しMCA 無線や衛星携帯電話、アマチュア無線、インターネットで のFacebook やツイッターが有用だったようだ。

しかし、今回のような大災害、停電時ではどの通信手段も必要十分なものはなく適時各通信手 段を使いわける必要があると思われた。またORCA プロジェクトについては現在もユーザーは増 加傾向で10 年後にはシェア1 位になるだろうとのことである。またクラウドORCA も導入され るようでそれにも大いに期待したい。本会でも今後災害時の対応策を再検討しつつ医療界のため 地域住民のための安全、正確、かつ効率的なIT 医療を推進していく所存である。