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未成年者飲酒防止強調月間に因んで

村上優

琉球病院 院長 村上  優
アルコール病棟 医長 福田 貴博

1.未成年者の飲酒問題

沖縄県警の発表によると、平成21 年の未成 年者の飲酒による補導は1,775 名で、人口千人 あたりでは全国平均の約5.2 倍、平成21 年時 点で、飲酒による補導は5 年連続ワーストであ ったという。中高年の毎日晩酌するパターンと 異なり、未成年者の飲酒態様は、急性アルコー ル中毒に代表されるような「回数は少ないが、 短時間に多量の飲酒をする」パターンが問題と なる。

アメリカでは、州によって法律が異なるた め、飲酒開始年齢が州によって異なる時期があ った。18 歳から飲酒が許される州と、20 歳か ら飲酒が許される州とがあった。この2 種類の 州の比較では、18 歳から飲酒が許される州の 若者の自殺率が8 %高かったと言われている。 県内においても、近年の年間自殺者数は350 人 を超えており、男性に限れば全国ワースト3位、 20 代の自殺率は全国平均の約2 倍である。ま た、県内20 代男性の不慮の事故死が多いのは、 酩酊状態での事故死が疑われる。自殺率、事故 死が多いことを併せて考えると、飲酒開始が早 いことが、高い死亡率に関与していると考えざ るを得ない。さらに、飲酒開始年齢が早けれ ば、身体的な影響も大きい。県内30 代男性の 肝硬変は、全国平均の約5 倍も高く、その影響 の大きさが容易に推測される。

2.飲酒運転問題

当県では長らく飲酒運転撲滅が叫ばれ、そ の甲斐もあり平成21 年に「飲酒運転根絶条 例」が制定されるに至った。県警発表による平 成23 年の県内の飲酒運転の数字を挙げると、人身事故6,788 件のうち飲酒絡みの事故は126 件(1.86 %)であり、22 年ワースト、全国平 均の約3 倍である。飲酒絡み死亡事故の割合は 43 件中5 件で11.6 %で、2 年連続2 位(こち らは平成21 までは15 年連続ワーストであっ た)。平成19 年の全国的な道交法の厳罰化や 飲酒運転根絶条例の成果で、飲酒がらみの事 故や検挙は減少傾向ではあるが、全国比でみる と厳しい現状が続いている。一方、県内で一度 飲酒運転で検挙されると、罰金や通勤が出来 なくなることで生活が破綻してしまう事例が相 次いでいると耳にする。

沖縄県警と協力して当院が平成20 年に実施 した飲酒運転調査がある。対象は運転免許停止 処分者649 人と運転免許取消処分者562 人、 アルコール問題で受刑した者97 人で、アルコ ール依存症スクリーニングテストの一つである AUDIT(WHO が開発、推奨しているテスト。 当院HP でも実施可能)を用いて飲酒問題を評 価した。国内でのAUDIT 得点の意味を図1 に示す。

図1

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この調査において男性に限れば、AUDIT15 点以上の問題飲酒群が、免許停止者の33 %、 免許取消者の43 %、受刑者の58 %を占めた。 これは男性の全国平均の5 %を大きく上回って いる。飲酒運転の多くが、アルコール依存症の 疑いのある問題飲酒者により引き起こされてお り、彼らに対して厳罰化のみでは行動の修正は 図れない。現在、問題飲酒に対する医療的介入 の必要性から、受刑者や保護観察対象者にアル コール依存症に対する認知行動療法に基づくプ ログラムが実施されている。当院でも、那覇保 護観察所と協力して、対象者が専門医療へつな がることを目的とした相談事業を平成23 年よ り実施している。

3.飲酒による健康問題

沖縄県の女性は、長寿日本一として有名であ るが、一方の男性は平成12 年、長寿第1 位か ら26 位まで順位を落とした。糖尿病、肥満者 が全国一多く、壮年男性の死亡率が高いことが その原因である。これまで死亡率が低かった心 疾患、脳血管疾患、肝疾患、糖尿病などの生活 習慣病の死亡率が30 〜 50 代の若い世代で順 位を下げている。特に、肝疾患による死亡は全 国ワーストである。ちなみに、他府県では肝疾 患の原因としてC 型、B 型肝炎がほとんどであ るが、県内はアルコール性が40 %を占めてお り、アルコール性肝疾患による死亡率も全国平 均の約2 倍であるそうだ(県立中部病院消化器 内科部長菊池馨先生によるデータ)。

ここで、問題飲酒者に目を向けてみると、全 国に80 万人いると言われる依存症者の内、2 〜 5 万人しか専門医療を受けていない。また、依 存症には至っていないが、何らかの健康被害が 予測される多量飲酒者(一日平均泡盛1.5 合程 度飲酒する者)は860 万人に上ると言われてい る。その大部分が精神科以外の内科等で治療を 受けていると思われる。当院では、平成19 年、 中北部の基幹となる4 つの総合病院での外来受 診者へAUDIT を実施した。対象は、20 才以 上65 才未満の男女で、男性200 名女性221 名 から回答が得られた。健康障害が疑われる問題 飲酒群を10 点以上、アルコール依存を強く疑 う群を20 点以上と設定した。男女合わせてア ルコール依存症疑いは4.5 %、問題飲酒群は 21 %である事が判明した。男女年齢別に検討 すると、男性では40 代、50 代の働き盛りの 8 %がアルコール依存疑い、26 〜 33 %が問題 飲酒群であった。一方、女性では20 代、30 代 に、アルコール依存疑いが3 〜 10 %存在して おり、若年女性のアルコール問題が顕在化して いる。身体疾患を有して内科を受診する者の 1/4 にアルコール問題を有する。これに対して、 一般病院受診者の中の隠れた依存症者を早期に 専門医療へ導入する、あるいは飲酒により身体 的疾患を来たしている者へ飲酒量低減プログラ ムを実施する目的で、県立中部病院内で、入院 患者、通院患者とその家族を対象に、アルコー ル相談事業を展開している。

さらに、県内の一般住民に対しても飲酒問題 の調査を行った。平成23 年、今帰仁村及び同 保健センターの協力の下、特定健診受診者へ AUDIT を実施し、男性484 名、女性374 名か ら回答を得た。病院受診者の調査と同じく、問 題飲酒群を10 点以上、アルコール依存疑い群 を20 点以上と設定した。男女合わせてアルコ ール依存症疑いは2 %、問題飲酒群は15 %で ある事が判明した。男女年齢別に検討すると、 男性では30 代、40 代、50 代の働き盛りの31 〜 37 %が問題飲酒群以上であった。一方、女 性では50 代以上では約70 %以上が非飲酒者で あった。さらに、問題飲酒者がそうでない者に 対する肝障害を有するオッズ比は4.9、同様に、 高尿酸血症2.9、メタボリックシンドローム 2.4、高脂血症1.6、肥満1.3、高血圧1.2 であ った。運動不足や脂肪摂取ばかりではなく、飲 酒が生活習慣病に対する大きなリスクであり、 ひいては壮年男性の高い死亡率にも影響してい る。逆に非飲酒者が多い女性が長寿を支えてい ると推測される。また、特定健診は問題飲酒に 対する早期介入に最適な場である。

4.早期介入:飲酒量低減のための「HAPPYプログラム」

海外では、すでに早期介入に関する研究が盛 んに行われ、エビデンスも蓄積されつつある。 国内では、肥前精神医療センターの杠らが開発 した「HAPPY プログラム」という飲酒量低減 のための包括的プログラムがある。このプログ ラムは1)健康被害の危惧される多量飲酒者や、 すでに健康を害している多量飲酒者に飲酒問題 の評価を行い、教育と適切な早期介入、指導を 行う為の教材とプログラム2)アルコール依存 症を疑われるものを早期に専門医療機関受診に つなげるためのプログラム3)アルコール問題 の専門家でなくても、医師、保健師、看護師、 薬剤師、栄養士など幅広い職種のものが平易に 使用できる教材とプログラムで、パソコン上で 自動的に学習を補助できるようになっており、図2 のような構造を有している。

図2

図2

国内での実施状況を見ると、職域での取り組 みが成果を上げている。先の飲酒運転問題に対 しても、免許再交付を受ける際に、HAPPY プ ログラムを改変したプログラムを受けるという モデル事業が全国4 都市で行われており、すで にその効果がみとめられ、早ければ平成25 年 度には全国の都市でも実施が予定されている。

当院でも、既述の那覇保護観察所、中部病院 での相談事業の中にも、問題飲酒者には HAPPY プログラムを導入している。今帰仁村 の特定健診においてもAUDIT10 点以上の者の 中で、希望者には、村内で当院スタッフ、村保 健センターの協働でHAPPY プログラムを実施 している。さらに、HAPPY プログラムを実施 出来る人を養成するための研修会も6 月には予 定している。

また、地域の行政、福祉との連携も重要であ ると考え、アルコール問題地域研修会を定期的 に開催し、地域との連携の強化を行っている。

沖縄はアルコール関連問題について多くの課 題を抱えている。であるからこそ、アルコール 問題への先駆的な介入を試みる場にもなりえ る。アルコール関連問題は精神科医療を超えて 医療総体が、また未成年者の飲酒問題や、飲酒 運転問題を超えて生活の全てが総合的に関わる べき課題である。