脳神経外科会 会長 石内 勝吾
はじめに
脳神経外科分科会(通称四金会)の歴史につ いては最近刊行された沖縄県医師会史2 1972 ⇒ 2008 の161 頁〜 163 頁に第4 代会長の吉井 與志彦琉球大学名誉教授による詳細な記載があ るので割愛させていただく。ここでは2009 年 6 月より私が第5 代会長を引き継いでからの活 動を報告したい。四金会は年4 回開催され25 年の歴史をもち本県における最も伝統のある学 術集団の一つである。昨年、琉球大学医学部脳 神経外科故六川二郎初代教授は医師会分科会 活動により叙位叙勲(従四位瑞宝中綬章)され た。本年2 月24 日には記念すべき第100 回目 の四金会が開催された。出席者は36 名、福岡 大学脳神経外科井上享教授の特別講演「脳卒中 外科とリハビリロボット」及び会員による3 席 の症例報告が行われた。写真はこのときの記念 撮影である。社団法人日本神経外科学会の専門 医制度のクレジットが認定されておりactive な 会員は現在(2011 年12 月)68 人、会員同士 の症例のやり取りは日常的に行われている。会 員構成は逆ピラミッド型で、50 歳以上が30 名、40 歳代が24 名、30 歳代12 名、20 歳代が 2 名である。女医1 名である。急速に高齢化が 進んでいる中、会員たちは、県内の基幹施設で 昼夜を問わず忙しい生活を余儀なくされている が皆生き生きとしている。今後若い世代をどう 取り込むかが本会の大きな課題であり、編集局 からの依頼もあり若い研修医に向けて脳神経外 科の魅力をアピールしてみたい。
何でもこなす日本の脳外科医は病院の要
脳神経外科医は今はやりのgeneral mind をもった総合臨床医の対極にある木を見て森を見 ない専門医の代表ではない。脳神経外科学は神 経科学(ニューロサイエンス)の一分野であり 魅力ある学術体系を基盤とし脳卒中(脳梗塞、 脳出血、くも膜下出血)、外傷、脳腫瘍、小児 奇形、脊髄、機能外科を主として扱う。とくに 脳卒中は現在日本人の死因の第2 位であり、脳 神経外科医がいない病院では救急車を断るしか ない。診断・治療、血管内手術の適応、救命の ための外減圧術は脳外科医なくして進まない。 手術ばかりではない。麻痺がある患者に有効な 超急性期リハビリ(入院日から開始する)は脳 外科医がいなければ状態が安定してからと後回 しにされてしまう。今後急速に進むであろうニ ューロリハビリテーション、特に経皮的なシナ プスに対する直接刺激は脳機能モニタリングを 手術時に行う脳外科医の得意分野である。難易 度の高い手術をしなくとも1 人脳外科医がいる だけで救急、患者の急変対応の要となり経営学 的にも重要な存在である。もちろん難易度の高 い手術は高い保険点数が付いている。血管障害 ばかりでない。脳腫瘍も同様である。めまい、 耳鳴り、シビレといったジェネラルな主訴から 瞬時に鑑別し詳細な画像解析を行い診断・治療 を請け負う。高齢化社会ではがん患者が急増中 で、癌は最期に脳に転移するので転移性脳腫瘍 は増加の一途である。転移性脳腫瘍の救命手術 の適応、補助療法の選択には脳外科医の役割が 大きい。患者は生命の岐路にありその決定は重 大で一刻を争う。主要臓器のがん治療も脳外科 医は請け負っているのである。つまり、われわ れ日本の脳神経外科医は、さまざまな脳疾患に ついて予防、診断、治療のみならず治療後のリハビリや長期予後管理まで一貫して行ってい る。ここが欧米の脳神経外科医との大きな差異 があり、手術に特化し、術前診断は診断医、術 後治療は腫瘍内科医といった分業化された医療 体系では経験できない多くの知識の修得や充実 感があるのである。総合的な臨床の素養があ り、かつ専門医としての特殊技能を有するばか りではなくsubspeciality としてさらに特意と する分野(同業専門医から一目措かれる分野の タイトルを持つこと)もこなすのが日本の脳神 経外科医である。専門性が高まるとfield が狭 くなるのではなく、専門性が高いほど分野や境 界を越えた知識を有するものである。
技術の修得も大切だが学問はもっと大切
豊かな時代である。Pubmed を引けば一瞬で 論文が手に入る。カラーコピーもやり放題であ る。やる気さえあれば上級医に指導を得て自分 の症例を解析し英語で論文化し専門誌に投稿し 世界に発信できる。若い時代は技術の取得のみ に走りやすいが、じっくりと学問をすることも 大切である。私自身の経験からも主任教授の助 言に従って臨床に入る前に1 年間、基礎医学 (外科病理学と実験病理学)を学んだ事は大い に役立った。高い専門性を修得するためには広 く長い裾野をもつ知識と地下を脈々と流れる大きな学問の泉が必要である。給料がよく仕事が それほど忙しくない研修病院はいまや学生たち の人気の的である。専門分野の選択には休日や 勤務後のプライベートな時間の確保の有無が主 要な選択肢の一つであるらしい。豊かな時代だ からこそ思う存分に20 代は寝食を忘れるくら い仕事に没頭し一生涯に渡りinterest(学問的 興味)をもてるものを見いだして欲しいと思 う。若い世代が琉球から新しい考えや技術を創 造し世界に発信して欲しい。
終わりに
四金会に今春新たに若い20 代の若者が2 名 加わる。離島医療は本県にとって重要な問題で 多くの会員の先生方の苦労が偲ばれる。離島医 療に指導医、専門医、研修医の3 階立てを実現 し専門性も総合性も学べる魅力的な体制づくり を四金会会員とともに作り上げたいと思う。
歴代会長
初代 嘉陽 宗吉(1978 年4 月〜 1980 年3 月)
2 代 嶺井 進(1980 年4 月〜 1985 年11 月)
3 代 六川 二郎(1985 年12 月〜1997 年6 月)
4 代 吉井 與志彦(1997 年6 月〜2009 年5 月)
5 代 石内 勝吾(2009 年6 月〜現在)
(敬称略)
最前列中央右側福岡大学井上亨教授を囲んでの記念撮影(於ハーバービューホテル)