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看とりについて考える県民との懇談会

玉井修

理事 玉井 修

式次第

司 会 玉井  修(沖縄県医師会理事)

1.挨 拶 沖縄県医師会長 宮城 信雄

2.懇 談
 1)在宅での看とりについて
  名嘉村クリニック副院長 大M  篤
 2)居住型施設での看とりについて
   有料老人ホームぶどうの木理学療法士
    (有)ケアエンドサービス代表取締役
                名嘉  淳
 3)看とりを希望する救急搬送について
   那覇市消防本部救急課長 比嘉 義樹
 4)病院での看とりについて
   沖縄赤十字病院救急部長 佐々木秀章

3.フロアとの討論

4.閉 会

県民との懇談会はこれまで、尊厳死、臓器移 植など医療を取り巻く社会的な問題にスポット を当てて県民と直接対話を行ってまいりまし た。少々重いテーマを扱う事が多いのですが、 毎回沖縄県医師会館ホールを満員にする程に盛 況です。

今回は平成24 年1 月22 日(日曜日)午後2 時から、看とりについて考える県民との懇談会 を開催しましたところ、予想以上の反応で、会 館ホールは当初準備した椅子では間に合わず一 時は立ち見の出る程でした。

死は、いつか必ず訪れるものですが、現代に おいて死を如何に迎えるかについては充分な議 論も、法整備もなされておらず、以前のように 普通に自宅で死を迎えていた時代と違い、死を 受け入れる家族も人の死を間近に経験する事が 少ない現状でいきなり身内の死を突きつけられ、 混乱の中で身内の死を迎える事が多いようです。

本人が生前DNAR( Do not Attempt Resuscitation)の意思表示があったにも関わ らず、その意思が充分周囲に徹底されていなか ったために、無為な救急搬送、心肺蘇生処置を 受け、場合によっては異常死の疑いに対して警 察に通報されるなど、何ともやりきれない現状 があります。救急搬送を行う救急隊にもやるせ ない思い、救急病院でもやりきれない思いを抱 えながらも救命措置を行わなければならない医 師の苦悩を語って頂きました。死を穏やかに迎 える事が出来ない現状は、団塊の世代が寿命を 迎える2025 年前後に大きな社会問題となるで しょう。人はどの様に死んでいくべきなのか、 自分はどの様に死にたいか、家族をどの様に看 とりたいかを考えるきっかけになった懇談会で あったと思います。

フロアからの質問には、看とる家族が誰も居 ない独居の方からの質問がありました。誰にも 迷惑をかけることなく、穏やかに逝きたいのだ が、その意志を誰に伝える事も出来ないのがそ の方の苦悩でした。老老介護、独居老人問題、 孤独死、家族力の喪失、地域コミュニティの崩 壊など多くの社会問題がこの看とりに深く関わ っているのです。

講演の抄録

在宅での看とりについて
大M篤

名嘉村クリニック副院長 大M 篤

もし、あなたが人生の最期を迎えるとした ら、どこで迎えたいと考えるでしょうか?でき れば、住み慣れた地域、家庭で、家族に囲まれ ながら笑って暮らしたい。そして苦しむことな く最期を迎えたい。そう考える方は多いと思い ます。しかし、現実はどうでしょうか?看とり の場所についての厚生労働省のデータがありま す。病院で最期を迎える人が全体の78.4%であ ります。かわって、自宅で最期を迎える人は昨 今減少傾向にあり、12.4%です。家族の形態が 変わって、自宅でなかなか最期を迎えられない 状態であります。日本は空前の超高齢多死社会 となりつつあります。現在、年間の死亡者数は 110 万人前後ですが、近い将来、団塊世代が寿 命を迎えると170 万人を数えると言われていま す。さらに死亡者数が50%増えれば病院で最期 を迎えるということは不可能にならざるをえな いと予想されます。特に癌は日本人の死因のト ップでありますが、在宅で看とる率はさらに減 り、8.3%です。これはいったい何故なのでしょ うか。癌の疾病の特徴として、末期になって急 激に生活自立度が下がる傾向にあります。この ことが患者さんや家族を不安にさせ、自宅では なく、どうしても病院に入院して安心したいと 希望されている場合が多いようです。また、非 癌の疾病においても、長期寝たきりの状態で療 養していた方が、終末期を迎える時にも同じこ とが言えるでしょう。では、どのような支援が あれば在宅(自宅や居住系施設)で看とることが できるのでしょうか。症状が急変する。例え ば、痛みが急に強くなる、突然嘔吐する、呼吸 や脈拍が弱くなってきたなどの症状が出た時、 それを緩和するための処置を行い、それと同時 に襲ってくる不安を解消するために、介護支援専門員やヘルパー等の他職種との連携を密に し、在宅医療スタッフ(在宅療養支援診療所・ 訪問看護ステーション)が24 時間、どんな時で も対応させて頂いています。それが私達の使命 だと考えております。2007 年厚生労働省が 「看とれる居住系施設の増加を」との方針を表 しましたが、居住系施設での看とりを当院では お手伝いをさせて頂いています。在宅の患者さ んが終末期及び現段階では終末期とは言えない が、今後終末期を想定した一種の事前同意書と して、もし心肺停止になっても蘇生術を行わな いように要望するかどうかの確認用紙をDNR シートと表現し、患者さん自身に、もしくは患 者さんに確認ができない場合は家族に確認をし ています。これは、急変時に救命のための心肺 蘇生を行わなず、自然に死を迎えたいという患 者さんの意志、また救命のための救急車を呼ば ず、穏やかに看とりたいという家族の思いを尊 重するためのものであります。大切なご家族の ためにまた、介護されるご自身のためにも悔い の残らない最期にしていただきたいものです。

このような当院における看とりの現状を紹介します。

居住型施設での看とりについて
名嘉淳

有料老人ホームぶどうの木 理学療法士
(有)ケアエンドサービス 代表取締役 名嘉 淳

■ノーマライゼーションの思想

障害や病気がどんなに重くとも、年老いて も、死が迫っていても、人間は「ふつうの生活」を送る権利がある。社会にはそれを支える 責任がある。というのがノーマライゼーション の思想である。一般社会の中で障害を持つ人が 「ふつうの生活」を送れるような条件を整える べきであり、障害を持つ人と共に生きる社会こ そノーマルである。という考えである。デンマ ークのバンク・ミケルセンが唱えた障害者福祉 の最も重要な理念である。

■ニーリエの8つの原理

ふつうの生活を測る物差しとして、ベンク ト・ニーリエは「8つの原理」にまとめてい る。その第1は一日のふつうのリズムだ。朝起 きて着替え、外出し、帰ってきて風呂に入ると いうあたりまえの暮らしである。第2は一週間 の、第3は一年の、それぞれふつうのリズム。 第4は一生のふつうの経験、第5は男女両性の 世界でのふつうの生活。第6はふつうに生活で きる収入があること。第7はふつうの住環境の 水準で暮らすこと。そして、第8が自己決定と 尊厳の原理である。

■会社を興した目的

リハビリテーションとは「人間らしく生き る」権利の回復です。リハビリテーションの最 終ゴールは、ノーマライゼーションの達成で す。私達にはふつうの生活を支える責任があり ます。私が理学療法士として病院勤務での13 年間で感じたことは、病院ではリハビリテーシ ョンは完成しないということでした。そこで、 病院でも家庭でもない第3の選択肢としての 「住い」が必要だと感じたのです。病院での入 浴介護は週2回のみです。それでは清潔(尊 厳)は保たれません。事業を立ち上げた目的は 「ふつうの生活を」保障してあげること。その 一つが入浴介護を毎日行うことでした。

■会社理念

わたしたちは

  • 一 快適な住まいと安心できる介護を提供します。
  • 二 個別のニーズに応じたサービスを提供します。
  • 三 介護する人を育成し地域社会に貢献します。

■利用者支援の具体的方策

  • 1.利用者の尊厳が守られ、自己決定権が正しく行使できるよう支援します。
  • 2.利用者の要介護状態の軽減、悪化の防止・予防に努めます。
  • 3.在宅療養支援診療所や訪問看護等と連携し家族の協力の下、看とり介護を行います。

■看とり介護の方針

ご本人の意思、ご家族の意向を尊重し、慣れ 親しんだ環境の中で最後まで尊厳を保ち、快適 に安心して過ごせるよう支援します。

■看とり介護の内容

  • 1.環境の整備:室温調整や採光、換気等、 環境整備には最善の注意を払います。
  • 2.清潔の保持:身体状況を確認しながら適 切な方法で清潔を保ちます。可能な限り全 身浴をします。足浴は最期までします。
  • 3.苦痛の解除:寝返り等できない方に対し て、安楽な体位を工夫し、必要に応じて体 位交換を行います。
  • 4.廃用性症候群の予防:日中は車椅子にて 座位を取らせ廃用性症候群(関節拘縮、筋 萎縮)の予防に努めます。
  • 5.食事(栄養):状態に応じた食事の提供 をします。また、ご本人が好きなもの、食 べられるものを家族に差し入れていただ き、可能な限り経口摂取を試みます。
  • 6.排泄:座位が保てる方には、可能な限り 座位姿勢での排泄の介助をします。
  • 7.精神的支援:ご本人の不安を取り除くた め、できるだけ一人にしないようにします。

■看とり介護の導入

  • 1.医師の診断:医師からご本人や家族へ状況説明と看取りの意思の確認をします。
  • 2.会議の開催:ケアマネから家族や関係する事業所に看取り介護に入った旨を告げます。
  • 3.看とり介護計画の作成:状態の変化に応じて変更します。

■看とり介護の実践

  • 1.精神的支援:看とりは家族が行います。 看とりに入った入居者には、24 時間できる 限り家族に付き添うようお願いしています。
  • 2.訪問看護・介護の導入:いつ召されても対応できるように訪問看護に入っていただきます。
  • デイサービスに通えない状況になった時 は訪問介護に入っていただきます。
  • 3.在宅療養支援診療所との連携:医師との 連絡、連携を密にします→家族の意思の変 更には柔軟に対応します(看とりをすると 決めていても救急搬送してほしいという家 族もいる)。

■看とりの際の取り組み

  • 1.死亡直前の対応:医師の指示に従い、随 時バイタルチェックし医師に伝えます。
  • 2.死亡時・死亡後の対応:呼吸が止まった 時点で医師と訪問看護事業所に連絡します →医師が死亡確認をした後、訪問看護師と ともにエンゼルケアを行います。エンゼルケ アを行う中で開いていた口も閉じ、死に化 粧をすることによって表情も整い、死体が 御遺体になります。看とり後のエンゼルケ アにおいて、訪問看護師は、死体を御遺体 に変えていく重要な役割を担っています。
  • 3.グリーフケア:エンゼルケア終了後、ご 遺体を前にして家族と関わった職員でお別 れ式を行います。死後2時間をめどに自宅 に送りますが、召された時間帯が夜間 (22 : 00 〜 5 : 00)の場合は、朝まで待 って(家族が一緒にいる)6時半に葬儀社 に来ていただき、お別れ式を行い、自宅に お見送りします。

■なぜ看とりを積極的に行うのか

現在は人生のスタートも病院、最期も病院で す。せめて人生の最期くらいは家族に囲まれて 静かに死を迎えたい。それが多くの方の「ふつ うの思い(感情)」ではないでしょうか。「最期 まで人間らしく生きたい、人間らしくありた い」それを支えるのがリハビリテーションで す。究極の介護(看とり)を支援できてこそリ ハビリテーションは完成をみるのです。

■終末期リハビリテーションとは

「加齢や障害のため自立が期待できず、自分 の力で身の保全をなしえない人々に対して、最 後まで人間らしくあるよう医療、看護、介護と ともに行うリハビリテーション活動である」(太 田)。看とりを支援できないリハビリテーショ ンは中途半端なリハビリテーションです。

看とりを希望する救急搬送について
比嘉義樹

那覇市消防本部救急課長 比嘉 義樹

看とりを希望する救急搬送についてと題して いますが、自宅で看とりを希望する傷病者の救 命処置(心肺蘇生法を行わない: DNAR)救 急搬送が実際の救急現場においてどのように行 われているのか、現状と問題点について救急の 現場において経験した事をお話させていただき たいと思います。

さて、普段の生活においては、よく耳にする救 急車のサイレンの音「ピーポー、ピーポーという 音」が聞こえると救急隊員が現場に向かっている、あるいは傷病者を医療機関に搬送していると 連想されると思いますが、その救急搬送がどのよ うな法律に基づき救急業務が行われているのか、 那覇市における救急出場の現状をお話して、自宅 での看とりを希望する傷病者の救急搬送の現状と 問題点について、お話をさせていただきます。

始めに、救急業務の沿革と消防の任務について話を進めたいと思います。

世界で最初の救急業務が行われたのが1881 年のウイーンのリングテアトル劇場の火災を契 機としたオーストリア救護協会の救急業務とい われています。

わが国では、昭和6 年10 月日本赤十字社大 阪支部で開始され、消防機関では昭和8 年3 月 に神奈川県警警察部が寄贈を受けた乗用車を改 造、横浜市中区山下消防署に配置され救急業務 が開始されました。一方、那覇市では昭和47 年6 月から警察所管の救急業が市町村消防へ移 管され2 台の救急車を譲り受け業務を開始し現 在に至っています。

救急業務とは「消防法第2 条第9 条」

災害により生じた事故若しくは屋外若しくは 公衆の出入する場所において生じた事故又は政 令で定める場所における災害による事故等に準 ずる事故その他の理由で政令に定めるものによ る傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急 に搬送する必要があるものを、救急隊によって 医療機関、その他の場所に搬送すること(傷病 者が医師の管理下に置かれるまでの間におい て、緊急やむ得ないものとして応急の手当てを 行うこと)をいう。

那覇市の救急出場の現状

当市では、市内6 署所に高度な救急資器材を 載せた高規格救急自動車を配置し、救急隊6 隊、専任救急隊48 人(うち救急救命士32 人) で市民の救急要請に対応しています。

平成22 年中の救急出動件数は15,762 件(う ち不搬送1,447 件)、搬送人員14,382 人で前年 と比較すると出場件数1,490 件、搬送人員が1,356 人(10.4 %)の増加となっており過去30 年間で最高の出場件数となりました。

一日平均の救急出動件数は約43 件で、約33 分に一回の割合で出場し約40 人の傷病者を医療 機関に搬送したことになり、また通報から現場 到着までの所要時間は平均で約8.3 分となって おり、交通情勢及び増加する救急要請で現場到 着所要時間が年々遅延する傾向となっています。

事故種別出動件数は、急病10,426件(66.1%) 次に一般負傷2,027 件(12.9%)、交通事故 1,341 件(8.5%)、その他「転院搬送」1,311% (8.3 %)、自損行為319 件(2.0 %)の順となっ ております。傷病程度別搬送人員は、死亡175 人(1.2%)、重症751 人(5.2 %)、中等症5,310 人(36.9%)、軽症8,134 人(56.6%)、その他 12 人(0.1 %)となっており、そのうちの約 300 人の方々が生命に危険を及ぼし、悪化する 症状の病態となり救急隊員が心肺蘇生法等の救 命処置を施しながら搬送が実施されております。

数は多くありませんが、そのうちの何症例か が、看とりを希望する家族又は施設職員から (心肺蘇生法を行わない: DNAR「Do Not Attempt Resuscitation」)である旨が伝えられ、 医療機関まで搬送してほしいと依頼される場合 がありますが、その場合に救急隊員が困ってし まう現状と問題点をご説明させていただきます。

看とりを希望する傷病者の救急搬送の現状

前記したとおり、救急業務とは、その症状が 著しく悪化するおそれがあり、生命が危険な状 態にある傷病者に対し、気道確保、心拍の回復 その他の処置を行いながら悪化を防止し生命の 危機を回避しながら医療機関に搬送することに なりますので、処置を施さないで搬送すること は救急隊員にとっては法律的にあり得ないこと をご理解していただいたと思います。

(心肺蘇生法を行わない: DNAR)につい ては、欧米では実施のためのガイドラインが公 表されていますが、日本においては患者の医療 拒否権について明確な社会合意が形成されたと はいい難く、実施のガイドラインも公的な発表はされていないことから家族、又は施設職員な どから、救命処置を施さず搬送依頼された場合 でも救急隊は救命処置を施しながら搬送するこ とが救急業務であることを説明し十分な説得を 行いながら、救命処置を施し医療機関へ搬送し ているのが現状であります。

問題となるのは、日頃看病にあたっているご 家族と看護に直接関わっていない家族間に考え 方に違いがあり、処置を行った場合(蘇生拒否 が侵害された)、処置を行わなかった場合(な ぜ処置を行わなかったのか)も訴えられる可能 性があることです。

施設において問題となるのは、夜間に (DNAR)である旨を伝えられても、かかりつけ 医師に連絡が取れず、DNAR 文書の有効性な どの確認が取れず現場滞在時間が長くなるなど が起ってしまうのです。

このような問題が起こらないように、救急隊 は家族及び施設職員に対して救急救命処置を施 しながら搬送することをインフォームド・コン セント(十分な説得と同意を得る)を実施し救 命処置を行いながら医療機関の医師に引き継ぐ 救急業務にご理解をいただきたいと思います。

最後になりますが、これからもより良い消防 行政を行ってまいりたいと思いますのでご理解 とご協力をお願い申し上げます。

病院での看とりについて
佐々木秀章

沖縄赤十字病院 救急部長
佐々木 秀章

その昔は自宅で亡くなる人がほとんどでした。高度成長の頃から病院で看とられる人が増え、 今では約8 割が病院で人生の最後を迎えていま す。では実際病院でどのように人生の最後を迎 えるのかイメージしていただきたいと思います。

沖縄赤十字病院は一般的な急性期病院です が、ここで昨年7 月から12 月の半年間に死亡 退院した101 名のカルテを調べてみました。来 院時に心臓も呼吸も止まっていた19 名を除く 82 名をみてみますと、病棟で最後の時に心肺 蘇生法の基本である胸骨圧迫(一般的には心臓 マッサージといわれています)を受けることな く自然に看とられたのは75 名(91.5 %)でし た(癌患者49/52、非癌患者26/30)。7 名に 胸骨圧迫が行われていますが、病棟での想定外 の急変、手術から間もない症例、家族が積極的 治療を希望した例、そして家族の同意がまだ得 られていない例などでした。

以前は病院は病気を治すところで、一生懸命 生きている限り治療を受けるべき、そこにいれ ば最高の医療、最高の最後を迎えられるという 考えがあり、安らかに看とることは主流ではあ りませんでした。しかしどんどん高齢化が進 み、医療の限界も感じられつつある現在、看と りは病院の大事な仕事の一つになっています。 病院で心肺蘇生を行わず自然のままに看とる 「DNR(=Do Not Resuscitate 心肺蘇生不要 の意)」は本人の希望が確認できる場合やご家 族の同意のもとに決まります。具体的には胸骨 圧迫、気管挿管(呼吸のために口から肺にチュ ーブを入れること)と人工呼吸器、電気ショックや強心剤、輸血などメリット、デメリットを 説明したのちに各々の方針を決めてもらうこと になります。もちろん積極的心肺蘇生を希望さ れる場合は、医学的常識の範囲内で意向に沿っ た治療を行います。なかなかご家族の意見がま とまらないときもですが、DNR の方針でも想 定外の突然の急変の場合には心肺蘇生する場合 もありますのでご理解ください。いずれにせよ やはり日ごろから自分の死生観、看とりについ ての希望を家族に伝えておくことが大切かと思 います。なお前述の82 名では、いよいよ最後 の時には家人のいない方や急変で間に合わない 場合を除き、ほとんど病室での付き添いが行わ れていました。

病院で扱う死にはもうひとつ来院時心肺停止 (CPA=cardiopulmonary arrest)があります。 この期間当院で扱ったCPA は19 名でした。内 訳は何らかの病気によるもの14 名、事故2 名、 自殺3 名です。CPA の場合、全例警察へ連絡 を入れます。警察は事件性の有無等を調べ、病 院では状況によっては死亡確認後のレントゲン やCT 検査などを行い原因を調べます。そして 原則として御遺体は警察に引き取られ検視の 後、ご家族のもとに戻ることになります。

さて癌で亡くなられた方は当院に通院されて いた方がほとんどですが、他の病院や老人ホー ム等の居住系施設から、急変や心肺停止のため 救急に来られる方もいます。今回も101 歳や 103 歳の方が搬送されていますが、昨今の救急 体制の問題にもなっています。こちらでは救急車で救急センターに送られてくるからには治癒 を目指した医療を求められていると考えざるを 得ず、疑問を抱きながらもそれなりの医療を行 います。その結果スパゲッティーといわれる体 中に点滴や人工呼吸器のラインのつながった状 態での集中治療室(ICU)ケアとなることもあ ります。しかし当然ながらなかなか改善せず、 人的物的医療資源を長期使うことになりベッド も占有されるため、次の救急車の受入れ困難が 慢性的に生じる一因となっています。在宅や居住系施設での自然な看とりが充実することは地 域の救急体制も救うことになるのです。

最後に、癌であろうとなかろうと死は必ず訪 れるものであり、人によっては心構えのないま まに突然の対応が求められます。本人、家族の 死生観に基づく人生最後の看とり方、看とられ 方の希望をしっかり考えて早期に表明していた だき、医療、介護を含めたすべての人にとって 納得のいく終末期につなげていただければと考 えています。

※懇談会終了後、懇談内容の検証と今後の対応に資するべく、講師間の意見交換会を行ったのでその概要を掲載する。

意見交換会

○玉井座長 皆様お疲れさまでした。フロア との討論では救急隊員が切迫していることが伝 えられてよかったと感じました。また、いくつ か質問ありましたが、多くの質問では自分の家 族や親の看とりを経験した上での質問が多かっ た印象を受けます。

中でも、告知しない方針の施設があるという 情報もあり驚きました。内容は「食道がんの末 期で今から抗がん剤の投与も始める状態の患者 で余命3 ヶ月と言われている、家族は告知しな いとすると、本人が余生を有意義に過ごすこと ができるのか疑問に思う。」という内容でした。

○佐々木先生 今時そんな施設があるんです ね。がんの良いところは、余命が把握できて患 者にとっては準備ができることがいいことなの におかしいと思います。

○大濱先生 そこは老人施設なんですか?

○玉井座長 抗がん剤を投与すると書いてありますから、少なくても病院と思いますが。

その他に、死因の明確でない場合については やっぱり警察に引き渡さないといけないのか? という質問も何件かありました。

○比嘉氏 家族にとって気になるところです ね。すぐ引き取りたいと思いますし。

○佐々木先生 特に夜間になると検視(検 案)する先生が午前外来を受けもっていたりし た場合、対応が午後になってしまうこともある んですよね。

○玉井座長 結局この質問は、ご家族として は速やかに死亡診断書を書いてもらい、速やか に葬儀を済ませたいのに、警察沙汰になるのは 納得がいかないという事だと思うのです。

○佐々木先生 そのためには、DNAR をしっかりとることですね。

○名嘉氏 私のところでも一昨年4 件あったんです。

○佐々木先生 みんな警察にいったら解剖されると勘違いしているかもしれないです。検視検案イコール解剖と。

○名嘉氏 ただ、事前に訪問診療等で先生が関わっていれば24 時間診ていなくても大丈夫です。

○玉井座長 そうですね。事件性がないこと を医師が判断すればいいですね。そういうことを速やかにやってほしいということですよね。

大濱先生に振った「訪問診療で突然亡くなっ た場合でも死亡診断書を書いてくれるのか」と いう質問ですが、それは事件性がないことが前 提ですよね?

○大濱先生 はい、そうですね。その通りです。

○名嘉氏 あくまで、医師が関わっている ことが前提ですよね。僕らのところでも急死さ れた方が昨年お二人おりました。訪問診療所 の先生方に来て頂き死亡診断書を書いて頂き ました。

○大濱先生 私が丁度、牧港の施設に往診に いっている時でしたが、前田の施設で急変があ りまして、そこに到着している消防の方と電話 でお話して、DNAR の同意書はありますし、施 設にもそのコピーがありますので見て下さい。 CPR はやらないでいいですといって、一先ず ストップしてもらいました。その際、消防の方 からどれぐらいでこれますかと聞かれたので、 何のことかなと思って急ぎ向かったところ、不 搬送(拒否)署名が必要といわれました。

○名嘉氏 救急隊が来たときはあったと言っていましたよね。

○大濱先生 そうです。ご家族はもうやらな いと約束したのに、彼女は過去に救急搬送にな り気管内挿管されたことがあるんですよね。そ の後抜管して1 年間生きたんです。

それから、施設の方がご家族に気管内挿管し たことを怒られたと聞きました。そして今度は 絶対やらないでくださいよと話をしてみんなわ かりましたということでしたが、職員が動揺し て救急車を呼んでしまったんです。

○名嘉氏 それはですね。繰り返しているん ですよ、食後だから誤飲と勘違いしてしまうん ですよ。1 度は私が全部吐き出させて意識も回 復したこともあるんです。

今回も食後だったので勘違いしたと思いま す。けれど、そのときは普段全部食べないのに 全部食べたということでした。だから最後の食 事だったんじゃないかという話しをしました。そういうことが2 例あるんですよ。それで介助 した人が食べ過ぎて亡くなったんじゃないかと 落ち込むこともありました。

○佐々木先生 そうですね。最後の晩餐ですよね。

○大濱先生 かなり痩せてきたし、発熱し、 よく誤嚥性肺炎を起こしました。呼吸不全で酸 素もしている。だからいつ亡くなってもおかし くなかった。でも食事は食べれるときは食べて いたんですね。

○名嘉氏 患者さんの中では同様な傾向がみられることがありますね。

○佐々木先生 消防はこのようなトラブルが 多いので高度なことはやらないで、最低限の事 はやると県のメディカルコントロールで2 年前 頃に決めてあるんですよ。なので、今日比嘉さ んの講話の内容は全県統一されています。

○比嘉氏 救急隊としては、示されてもこれが確認できないときにはやらざるを得ないことが実態です。先生方が現場にいたり、電話で確実な情報を取れれば問題ないんですが。

○佐々木先生 遺体の搬送についてもいろい ろ意見があって、亡くなってDNR(蘇生措置 拒否)なら運ばないという意見もあり、反対に 救急隊は税金で食べているのだからBLS(一 時救命処置)をやりながら全例運びなさいとい う意見もある。

○玉井座長 そうですね。難しいことですね。

立ち見が出たぐらいなので、300 名ぐらいの 参加があったのではないでしょうか。また、新 聞社も来ているので後日取材の依頼があるかと 思いますのでよろしくお願いします。本日はど うもありがとうございました。

意見交換会の様子

意見交換会の様子