沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 3月号

沖縄県産婦人科医会会長 佐久本 哲郎 先生

佐久本哲郎先生

女性医学をとおして次世代の健康増進に邁進しています。

Q1.沖縄県産婦人科医会会長に就任されて約1年が経ちますが、これまでを振り返ってのご感想と今後の抱負についてお聞かせ下さい。

また、「日本産婦人科医会沖縄県支部」か ら「沖縄県産婦人科医会」へ組織名が変更さ れた経緯について教えて頂けますでしょうか。

昨年の4 月から会長に就任しました。それま では4 年間、副会長を務めておりました。いざ 会長になると、医会のシステムや運営が分から ず困っておりましたが、理事の先生方にサポー トして頂きながら、なんとか年は越せた感があ ります。

会長に就任して早々、東日本大震災被災地へ の支援等に関する問題がありました。厚労省、 沖縄県、医師会から、制度的な問題は抜きにし て被災地の妊婦、特に福島県とその近隣の妊婦 をすぐにでも受け入れて欲しいという要請があ り、それが真っ先の仕事となりました。

また、被災地への義援金を募ったところ、本 県は九州各県の中で福岡に続き2 番目に多く集 まり、全国でもかなりの支援額になったのでは ないかと思っております。

それから、母体保護法指定医師については、 すべての都道府県医師会が公益法人に移行する 保証がないにも関わらず、母体保護法第14 条 には、「都道府県の区域を単位として設立され た公益社団法人たる医師会の指定する医師は、 本人および配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶 を行うことができる」となっており、一般社団 法人となった都道府県医師会は指定権限を失 い、母体保護法指定医師の空白地域の発生が懸 念されておりましたが、昨年の6 月には改正母 体保護法が成立し、従来通りの指定で落ち着 き、安心しております。

また、医会として課題が大きかったのは、周産期医療の問題です。

沖縄県は、県立中部病院、県立南部医療セン ター・こども医療センター、琉球大学、那覇市 立病院、沖縄赤十字病院が2 ・3 次医療とし て、患者を必ず受け入れるシステムが整ってお り、本土のようなたらいまわしはないのです が、妊産婦死亡率は全国平均より高く、毎年1 人の妊産婦が死亡する現状がありました。医 会・学会で話し合い、医療安全対策委員会で細 かく検討して、その内容を会員へ配布、注意喚 起に努めました。会員の先生方の多大なる努力 のおかげで、昨年は妊産婦死亡0 を達成できま した。今後とも更に、確実、安全、安心な周産 期管理の徹底で、トップレベルの周産期医療を 県全体で目指したいと思います。

今後の抱負については次のことを考えており ます。産婦人科医会は臨床医の集団です。日常診療において女性の健康の保持・増進を行って おりますが、そのことが次世代の健康、ひいて は沖縄県の健康の向上に寄与することにつなが ります。その中でも、お産の時期に限らず、思 春期、更年期、老年期、様々なライフステージ の健康に尽くしていくことが我々の仕事であ り、産婦人科学会と協力しながらシステムを構 築していくことが重要であり、それをUp To Date して、新しいものにしていくことが医会の 大きな務めだと感じています。

産婦人科医会は、もともとの設立は復帰前に 当時の優生保護法指定医師が全国的に組織して 日本母性保護医協会沖縄県支部としてスタート しました。その後、平成6 年に日本母性保護産 婦人科医会沖縄県支部、平成13 年に日本産婦 人科医会沖縄県支部となりました。

日本産婦人科医会はこれまで一般社団法人と いう形でしたが、平成20 年12 月に施行された 公益法人制度改革に伴い、昨年4 月に公益社団 法人日本産婦人科医会として認定されました。

これまで各都道府県では中央の支部として組 織していました。現在も公益社団法人日本産婦 人科医会の会員ではありますが、中央の公益法 人化に伴い、任意団体である本会は、これまで の支部と言う名称がはずれて「沖縄県産婦人科 医会」という組織替えをしたことになります。

中央とのつながりは、各県の会長が中央での 委員会に出席することにより、コミュニケーシ ョンがとられますので、従来とそう変わりはあ りません。

Q2.沖縄県産婦人科医会の事業について、最近の話題を含めてお聞かせください。

事業は多岐にわたりますが、一番大きい事業 が、妊婦健診の公費負担の事務的な処理が上げ られます。当初、当事業は年に2 回の公費負担 でしたが、5 回へ拡充し、3 年前からは14 回へ と矢継ぎ早に増えました。各市町村との交渉に ついては、産婦人科医会が各市町村の担当者と 決めて、やってきています。

沖縄県産婦人科医会は、沖縄産科婦人科学会 と共同で理事会を開催し、連携しております。 医学医療講演会を月1 回開催しています。

また、思春期のDV の問題について、各地区 の警察や教育委員会、市町村へ実情を話したり しています。出産だけではなく、配偶者のDV も女性の健康になりますので、産婦人科医も関 係してきます。

女性の健康に関するもので行政が絡むものに ついては、すべて医会が関係してきますので、 それに対して各担当理事で対応し、必要であれ ば医会全体で取り組んでおります。

最近の話題として、日本産婦人科医会が次 に取り組むのが、児童虐待防止になります。 児童虐待防止法が平成12 年に制定されてか ら、相談件数は一貫して増加し続けておりま す。平成21 年度では、年間の虐待死件数が67 名、年齢別でみてみますとその3 割が生まれて すぐの0 歳0 日時となっております。その背景 には望まない妊娠により、悩んだ挙句の出産 や、育児不安、産後鬱が見られる事が報告さ れております。

児童虐待に関する各市町村の取り組みは、 様々な組織が支援しようとしております。その 構成メンバーに小児科や精神科は入っています が、実は産婦人科が含まれていません。0 歳0 日時の虐待死の現状がありますので、昨年、厚 労省から、妊娠期からの相談体制の充実、情報 共有等の連携強化が必要と提言があり、各都道 府県に予算化されました。この事業については 産婦人科医会と相談の上あたってほしいという 厚生労働省の局長名で通達がありました。現 在、那覇市からは同事業への参画について要望 がありますが、今後は各市町村から同様な要請 が出てくると思いますので、各地区の先生方と 調整して進めていくことになるかと思います。 沖縄県の場合は「命どぅ宝」という精神があり ますので、0 歳児虐待死はないと思っています。

いずれにしても、児童虐待の問題については早急に取り組む課題と考えています。

このような状況を受け、早速今月、望まない妊娠の予防のための緊急避妊薬の講演会を予定しています。

Q3.高度生殖医療である特定不妊治療に対し、 国と地方自治体による医療費の一部助成に 併せ、不妊専門相談室事業が県看護協会と の共同で行われておりますが、その事業に ついてのご紹介並びにこれまでの実績につ いて教えて頂けますか。

同事業は、県が主体となり平成16 年度より 導入され、当時の医会の支部長であった糸数健 先生より、私に相談センター相談員の話があ り、現在中央保健所に相談室を設け、看護協会 と共同で相談事業をすすめております。

相談事業の内容は、看護師・医師による電話 相談、メール相談、医師による面談、その他、 年1 〜 2 回の講演会の開催です。

電話相談は多い年で280 件ありましたが、平 均200 件前後となっています。昨年は相談件数 が130 件と減少した一方、メール相談の件数が 増加しています。

面談については3 名の医師で対応していますので、月に3 回の面談です。年間30 〜 40 名で、週に1 名、多い時に2 名の面談を行います。

また、不妊症の啓蒙活動として、講演会を那 覇市を皮切りに、沖縄市、名護市、宮古、八重 山で開催してきました。離島は40 〜 50 名、本 島では約100 名の来場者数です。

また、体外受精や顕微授精等のいわゆる高度 生殖医療に対する助成について、特定不妊治療 は保険外診療の為、1 回あたり30 〜 50 万近く の費用がかかります。助成事業スタート時は、 年間2 回まで1 回につき上限10 万円の助成を 行っておりました。3 年前からは1 回につき15 万円の補助が出るようになり、昨年からは、初 年度は年3 回、2 年度目以降は2 回、通産5 年 間まで(但し回数は10 回を超えない)として おります。

当治療費については、保険適用にできるかは これからの問題になるかと思います。日本は体 外受精の件数が世界一多い国の為、病院のクオ リティの問題等も出てきますし、それをどうコ ントロールして保険適用までもっていくかはな かなか難しい問題です。

現時点で高度生殖医療をしている医療機関 は、施設基準をクリアすれば学会に登録され、 症例毎に報告する義務が生じます。報告件数は 全国で年間19 万件〜 20 万件となっています。 産婦人科学会のホームページで公表されていま す。しかし、全体の報告件数であって、医療機 関ごとのデータまではいっていません。

2008 年度のデータがすべて揃っています。 英語版の作成に当たっては私も関与しておりま す。今年から初めて日本の体外受精の成績が世 界に公表されています。

Q4.産婦人科医師不足の問題につきましては、 これまで様々な検討がなされておりますが、 先生のお立場としてご意見がありましたら、 お聞かせ頂けますか?

産婦人科医不足問題の解決は、産婦人科医師 を目指す若い医師がどれだけいるかということ です。まず、産婦人科医療の魅力を学生の間か ら充分に伝えていくことと、初期研修医の2 年 間で産婦人科の医療の意義、使命をいかに伝え ていくかが重要であります。

外科にも言えますが、3K(危険、きつい、 汚い)があってリスクを伴う科は敬遠される傾 向にあります。

全国的には産婦人科医が減少してきているも のの、幸いにして本県は、琉球大医学部附属病 院や県立中部病院、その他の施設において産婦 人科医が増加し、数年前まで140 〜 150 名だっ た産婦人科学会の会員数が、現在は200 名を越 えています。これは、産婦人科医の不足による 世の中の危機感から、逆に使命感を持った若い 医師がでてきただろうと感じております。

同じ3K でも良い方の3K(子ども、家族、希 望)という夢のあるものにしていくと、女性の ため、次世代のためにということで産婦人科医 になってくれる医師が多くなってくれるのでは と願っています。

Q5.県医師会に対するご要望がございましたらお聞かせください。

県医師会は、県の各医療分野の総合体であ り、その一分野に我々産婦人科医会がありま す。先ほども述べましたように、産婦人科は産 婦人科医療をとおして女性の健康を守り、それ がひいては次世代の健康へつながります。しか し、医会・学会の活動だけでは、不十分なこと もあります。

県行政とのタイアップの場合など、分科会の 一つだけではなかなか進まないことなどがあり ます。そういう場合は医会だけではなく、県医 師会と協働して物事にあたっていく、解決して いくよう取り組んでいきたいと思います。実際 に、母体保護法指定医の問題では医師会と医会 による強い働きかけにより、改正母体保護法が 成立し、母体保護法指定医師の空白地域の発生 は避ける事が出来ました。

そういう意味では、県医師会の対する役割は非常に期待しており、頼りにしておりますので、宜しくお願い致します。

Q6.最後に日頃の健康法、ご趣味、座右の銘等がございましたらお聞かせ下さい。

産婦人科という医学をとおして女性の健康、 次世代の健康、沖縄の健康に寄与することが、 日本或いは世界の健康につながると考えており ます。また私の専門である不妊治療に関して は、子供がほしいと思ったすべてのご夫婦に応 えたいと思っています。そのことから、夢とい う言葉を大事にしています。

健康法については、自宅の周辺を見回りと称 して、1 時間ほど6 キロ程度ウォーキングをし ています。また、17 時以降に営業部長として 実家の瑞泉を宣伝することです。

趣味はゴルフです。なかなかままならないです。いつもやっつけられていますが(笑)

この度は、インタビューへご回答頂き、誠に有難うございました。

インタビューアー:広報委員 玉城清酬