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日本の医療を守るための総決起大会

宮城信雄

会長 宮城 信雄

去る12 月9 日(金)、日本医師会館におい て、国民医療推進協議会(加盟40 団体)主催 による標記大会が開催されたので、その概要を 以下に報告する。

司会の今村聡日本医師会常任理事より開会が宣された。

挨 拶

主催者代表
原中勝征国民医療推進協議会長(日本医師会長)

平成18 年に患者の窓口負担が3 割と定めら れた際、これ以上の負担は決してないと約束さ れたはずだが、ご高承のとおり受診時定額負担 が提案されている。高額療養費制度の負担軽減 を図るために、受診者に対して受診する毎に 100 円を負担してもらう案となっているが、も しこの制度が導入された場合、徐々にその額を 上げていくのは明かである。私達は、高額療養 費に対する手当を施さなければならないことは 十分に分かっているが、その財源を受診者から 徴収することは本来の医療保険の制度から逸脱 していることから反対しているのである。導入 されて50 年経った国民皆保険制度が今、様々 な問題を抱えている。既に100 万人以上が保険 に加入しておらず、20 %が保険料を納めてい ない状況である。このような時に、私共は永年 にわたって継続可能な国民皆保険制度としてい くために、どのようなことをすべきか提案して きた。収入の高い方が協会健保の健康保険の納 める額と同じ額に改正することができれば、健 康保険制度はしばらくの間持続可能であり、そ の時がきたら再度検討していけば良いとの考え である。それが最良の道ではないかと考えてい る。受診毎に弱い立場にある患者に負担させる という考えには決して賛成できるものではない ことを改めて認識していただきたい。

また、TPP 問題については、関税の撤廃は やむを得ないとしても、非関税障壁において、国民皆保険制度が障壁となるとして改正するよ う提訴される恐れもある。これらを審理する裁 判所ではあくまで投資を円滑にする目的に沿っ た内容であるかを判断するものであり、世界に 冠たる国民皆保険制度がどうなってしまうのか 全く予測出来ない。

TPP 賛成の方には、国民皆保険制度をはじ めとする医療に関することだけは手を付けない ということを前提に交渉して頂きたいとお願い しているところである。

現在の少子・超高齢社会において、この制度 が崩れるようなことがあると、国内の治安は乱 れると思う。

現在の様々な不平・不満が犯罪に結びついて いることを考えたとき、国民が一生涯安心して 幸せな生活を送るための制度を死守しなければ ならないと心から感じている。

ここにお集まりの先生方は、全く自分達の利 益を考えず国民の平和のため、健康で長生きで きる社会を持続させるために心を一つにしてこ の制度に反対している。

医療関係団体の殆どを網羅する40 団体の集 まりである国民医療推進協議会が一つになり、 世界一の国民皆保険制度を堅持する合意がなさ れるよう祈念して挨拶に代えさせていただく。

野中博東京都医師会会長

受診時定額負担、TPP 問題など、日本の大 切な医療制度を揺るがす様々な提案が政府から 出されている。これまでに国民皆保険制度が何 をもたらしたかというと、等しく医療を受ける 権利を作っただけでは無く、共に助け合い、連 帯する精神によってこの立派な国が創られたの であり、その根幹にあるのが国民皆保険制度で あると思っている。ご承知のように国民皆保険 制度が出来て50 周年であるが、この制度が出 来る前は極端に言えば一家に病人が出れば医療 に掛かって破産するか、だまって死を待つかを 選択しなければならない方達がいた。しかし、 この国民皆保険制度により、やむなく病気を抱 えても等しく医療が受けられるようになった。 この制度がもたらしたのはただ単に健康を回復 するだけではなく、皆が共に助け合う連帯をつ くったことにこの制度の意義を感じている。昭 和20 年に日本が敗戦し、焼け野原から現在の 国に復興した。その復興の原点に国民皆保険制 度があったと信じている。また、弱者を切り捨 てないこともこの制度の意義である。経済が発 展することは当然として必要であるが、その発 展のために弱者を切り捨てて良いのか。少なく とも我が国はそのようなことをしないためにこ の制度が実施され、医療関係者、政治家は大事 に守ってきた。世界の経済がゆるぐ中で、米国 のように経済を優先し弱者を切り捨てるような 国に対して、むしろこの制度を広めていくこと が大事であると思う。そのためには、本日お集 まりの皆さんが心をひとつにして政治に働きか け、我が国の医療制度を守っていくことが、国 のあり方にとっていかに大事であるということ をご理解いただき、一致団結して行動しなけれ ばならない。

来賓挨拶

民主党筆頭副幹事長の鈴木克昌氏をはじめ、 多数の国会議員が挨拶に立たれ、国民皆保険制 度を中核とした社会保障を守っていく旨の挨拶 が述べられた。

また、司会の今村日本医師会常任理事より出席された国会議員の紹介が行われた。

趣旨説明

横倉義武日本医師会副会長

東日本大震災が3 月11 日に発災し、このよ うな時にこそ国民全体がお互いを支えあう国民 皆保険の精神を生かしていかなければいけな い。そのような中、7 月1 日に税と社会保障一 体改革の成案が閣議報告され、医療や介護に十 分な財源と人材を充てるべきであるとしてい る。正にそのとおりであり、やっと政治が医療 や介護という国民生活の基盤に目を向けてくれ たとの大いなる期待をもってその報告書を読ま せて頂いた。しかしながら、受診時定額負担という新たな問題が生じた。本来の保険制度から 逸脱した制度を皆保険制度に組み込まんとする 問題点がある。これを導入すれば、国民皆保険 制度の崩壊が始まる。

戦後の復興期に国民皆保険制度が出来てか ら、50 周年の節目を迎える本年に、この制度 を崩壊の道に進ませることがあってはならない という気持ちで本日はお集まり頂いている。ま た、TPP 問題については、野田総理が交渉参 加を表明した。この問題についても様々な将来 不安がある。国民が今後の生活に不安を抱えて いる。国民皆保険制度が崩壊の道を進まんとし ていることを国民に知らせ、理解をしていただ くことが我々医療人の責務として、この運動を 全国的に展開してきた。今回の署名活動では、 7,732,801 名もの署名を頂いた。過日、原中会 長以下代表の皆様方が衆議院議長、参議院議長 へ国民の声と共に強く要望したところである。

本日の大会にご参集の皆様方の熱い思いを政 治の場に訴え、何とか解決して頂くよう国会議 員の先生方にお願い申し上げる。

決意表明

大久保満男日本歯科医師会会長

本決起大会は受診時定額負担とTPP への反対を趣旨としている。

私は窓口負担が3 割になった時点で社会保障 の限度を超えていると考え、これまで反対し続 けてきた。我が国の社会学者がドイツを訪れ、 社会保障について議論した際、日本では患者の 窓口負担が3 割であることを説明すると、「それ でも公的社会保障制度と言えるのか」と問われ たとのことである。経済格差が進んでいる中で、 更に負担を求めることは、医療の現場で患者と 向き合っている我々にとって更に負担を求める ことは、理屈を超えた耐え難いものである。

共通したこの思いで皆さんと共に反対し続けていきたい。

医療関係者にとって当然のことであるが、医 療は提供者と患者との人間的な関係の中にのみ 存在する。同時に医療は、病院や診療所という 医療を提供する場を必要とする。そしてその場 において最も必要なのは、地域社会の中にしっ かりと根を張っていることである。病院や診療 所は地域において社会的存在として位置づけら れ、従ってその中にいる患者と我々提供者の関 係も社会的関係にある。我が国ではその関係に おいて、先達、政府、政治、国民がそれぞれ堪 え忍びながら努力し、今日の世界に冠たる国民 皆保険制度に育てきた。

そのような医療を、TPP というある種の仮 想空間に持ち込まんとすることは、医療にとっ て最も大事な地域社会あるいは国家における医 療の根を切り取り、市場という場に差し出すよ うなものである。

論理的にあり得ないことを強行しようとすれば、国家や地域社会にとって最も大事な国民の健康を破壊する矛盾が生じる。

そのようなことは絶対にさせてはならないと いう共通した思いを皆が抱いている。もし、 我々が育ててきた国民皆保険制度をTPP の場 において、これを崩そうとする意見が他国から 出た場合は、毅然として他国を戒めて頂きた い。それでも強引にこの議題を取り上げようと するならば、政府関係者は席を蹴って退出する 思いで臨んで欲しい。

児玉孝日本薬剤師会会長

我が国では東日本大震災の発災や、デフレ、 円高、不況等で先が見えず、国民からすれば困 難な時代である。そのような中で、ご承知のと おり日本の国民は絆という言葉を忘れずに、 日々一生懸命前を向いて努力している。

しかしながらその国民は、病気や、老後の生活保障に不安を抱えている。

社会保障制度における国民皆保険制度は、い つでもどこでも安心して医療に掛かれるありが たい制度である。しかし、この制度がいつまで 続くのかという不安を国民は持っている。その 不安を更に助長させているのが、受診時定額負 担とTPP である。この不景気において何とか 3 割負担を凌いでいる方々へ更に負担を求めるのは忍びない。TPP においては、貿易立国で ある日本が参加することについて議論すること は当然であると考えるが、医療分野において国 民皆保険制度が壊されるのではないかとの不安 がある。

医薬品を扱う立場から申し上げると、医薬品 アクセスの拡大という項目があり、医薬品の流 通障壁の軽減が述べられている。いわば日本の 薬価制度を壊すことに繋がり、国民皆保険制度 における医薬品はずし等の大きな危険性をはら んでいる。我々は当然の責務として日々、国民 の健康のために努力をしている。また、それと 同時に患者が安全・安心な医療に掛かれるよう な環境を提案し、それを守る責務もある。

本日ご参集の方々は特にそのような強い気持 ちをもってこの大会に臨まれており、皆さんと 共に最後まで頑張っていきたい。

決 議

山崎學日本精神科病院協会会長より決議文 の朗読説明があり、全会一致で原稿通り承認 された。

頑張ろうコール

最後に羽生田俊日本医師会副会長の音頭で頑張ろう三唱が行われ、大会の幕を閉じた。

決 議

このたびの東日本大震災は、未曾有の出来事であり、被災地の一日も早い復興を願うものである。

このような時こそ、明日の安心を約束する持続可能な社会保障体制を守ることが必要である。

今、患者にさらなる負担を求める受診時定額負担の導入を進める動きがある。

また、TPP 交渉のなかで、公的医療保険が対象となれば、医療の市場化を招く事態が強く懸念される。

これらはいずれもわが国の優れた公的医療保険制度を崩壊へと導くものである。

われわれは、だれもが等しく医療を受けられる国民皆保険を、これからも断固守り続けていく。

以上、決議する。

平成23 年12 月9 日
    日本の医療を守るための総決起大会