沖縄県立中部病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
崎浜 教之・梅木 寛
はじめに
アレルギー性鼻炎は鼻粘膜のT型ア レルギー疾患で、発作性反復性のくし ゃみ、水様性鼻漏、鼻閉を3 主徴とす る疾患で、近年増加傾向にあるとされ ています。
一般的にアレルギー性鼻炎には通年 性と季節性の2 種類ありますが、2008 年の全国的な疫学調査では、アレルギ ー性鼻炎の有病率は39.4 %、花粉症全 体は29.8 %、通年性のアレルギー性鼻 炎は23.4 %と、季節性の花粉症が多い とされています1)。しかしながら、知念 らの報告では、沖縄県のアレルギー性 鼻炎は12 月から2 月の冬期に増悪しや すく、またその主因のアレルゲンはハ ウスダストであり、他の地域より高率 であり、花粉飛散量が少なく花粉症の 有病率も低かったとされています2、3)。
近年、家屋の気密性は高くなってお り、季節を問わず通年性アレルギー性 鼻炎が発現しやすい環境になっていま す。今回はその通年性アレルギー性鼻 炎に対する薬物療法を述べたいと思い ます。
成人のアレルギー性鼻炎治療薬
アレルギー性鼻炎の治療薬は表1 のような薬 剤が主に用いられます。鼻アレルギー診療ガイ ドライン2009 年度では通年性アレルギー性鼻 炎の治療は重症度と病型に応じて行う事となっ ています(表2)。実際の診療に用いられる薬剤 としては、第2 世代抗ヒスタミン薬が多くなっています。
表1 アレルギー性鼻炎治療薬
表2 通年性アレルギー性鼻炎の治療
表3 ヒスタミン神経系の機能
脳内移行性の強い抗ヒスタミン薬は表3 のよ うなヒスタミン神経系の機能をブロックし、そ のため眠気、認知機能の低下、食欲の増進、痙 攣の誘発を引き起こすとされ4)、第2 世代抗ヒ スタミンは第1 世代と比較して脳内移行性(脳 内H1 受容体占拠率)は有意に低下しています が、中でもザジテン(R)やセルテクト(R)などは占 拠率が50 %を越えており鎮静性が強いといえ ます(表4)5)。現在、日本に於いて承認され ている抗ヒスタミン薬のうち、添付文書に「自 動車運転等の危険を伴う機械操作の禁止又は注 意」という記載がないのは、クラリチン(R)とアレグラ(R)に限られています。
表4 抗ヒスタミン薬の脳内H1受容体占拠率
抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジン D2 ・トロンボキサンA2 受容体拮抗薬は、鼻閉 型の場合、第1 選択となります。特徴として眠 気は少ないのですが、効果発現に1 〜 2 週間ほ ど必要とします。使用に際しては患者に十分時 間が掛かることを説明した方が良いでしょう。 またケミカルメディエーター遊離抑制薬、Th2 サイトカイン阻害薬、経口ステロイドも同様に 眠気、認知力低下を認めない薬剤ですが、前2 剤は効果発現が遅く、また効果も弱いため第1 選択薬とはいえません。経口ステロイド剤の効 果は強力ですが、副腎皮質抑制などの副作用の点から長期内服に向く薬剤ではなく、症状増悪 時に追加投与する薬剤という位置付けになると いえます。
鼻噴霧用ステロイドは、使用効果は強く、効 果発現も早く、副作用も少ない事から、単独投 与でも併用投与にも向く薬といえます。以前は 1 日2 回噴霧の点鼻薬が殆どでしたが、最近で はナゾネックス(R)、アラミスト(R)などの1 日1 回 噴霧の点鼻薬も出てきており、薬剤コンプライ アンスの面からも使いやすくなっています。
アレルギー性鼻炎における漢方治療
鼻アレルギー診療ガイドラインでは表1 のよ うに“その他”の内に“漢方薬”と簡単に記載 されていますが、最近では眠気など の副作用や、長期内服に対する不安、 薬価などの面から漢方治療を希望さ れる患者も少なくありません。アレ ルギー性鼻炎の初期治療に用いられ る薬としては図1 のような薬剤があり ます6、7)。第一選択薬としては小青竜 湯が挙げられます。我が国で二重盲 検ランダム化比較試験が行われた唯 一の漢方薬であり、鼻汁・くしゃ み・鼻閉に対して有効であると考え られています。漢方薬は全般的に西洋薬と比較して効果発現は30 分と早 いのですが、効果持続時間が短く、また効果に個人差があります。その ため、初期治療には有効なのですが、慢性期の 治療には不向きであるため、炎症を沈静化する柴胡剤(小柴胡湯、柴朴湯など)や西洋薬との 併用も提唱されています8)。
図1 鼻アレルギー漢方治療指針
小児の通年性アレルギー性鼻炎
疫学調査の結果では、小児におけるアレルギ ー性鼻炎の発症は低年齢化の傾向にあり、その 原因抗原はハウスダストやダニが圧倒的に多い とされています。また副鼻腔炎や喘息の合併頻 度が高いことが特徴です9)。以前は、小児適用 が認められているアレルギー性鼻炎治療薬は少 なかったのですが、最近は第2 世代抗ヒスタミ ン薬を中心に増えてきています。適応年齢にバ ラツキがあり、使用薬剤により確認が必要です (表5)。
表5 小児アレルギー性鼻炎治療薬一覧
以前は、抗ヒスタミン薬による眠気は成人と 比較して少ないといわれていましたが、最近は アレジオン(R)、アレグラ(R)とザジテン(R)の比較試 験では前2 者が眠気の頻度において有意に低い ことが小児においても確認されています10)。小 児アレルギー疾患で頻用されるザジテン(R)、ポ ララミン(R)、セルテクト(R)は表4 に示されるよ うに鎮静性が強く、眠気・認知力低下が生じう る可能性が否定できないといえます。
小児アレルギー性鼻炎では副鼻腔炎の合併頻度も高いので、改善困難なアレルギー性鼻炎に 対しては副鼻腔炎も考慮し、マクロライド療法 の併用も考慮した方がよいといえます11)。但し、 エバステル(R)、アレグラ(R)、クラリチン(R)、オノ ン(R)ではエリスロマイシンの血中濃度上昇の相 互作用を認めるため注意が必要となります。
まとめ
成人及び小児における通年性アレルギー性鼻 炎の薬物治療について述べました。薬物療法の みで症状改善が困難な通年性アレルギー性鼻炎 は、小児にとどまらず成人においても副鼻腔炎 の合併も考慮し、外科的治療が有効な場合もあ りますので、耳鼻咽喉科専門医へ相談して頂け ればと思います。
参考文献
1)鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレル
ギー診療ガイドライン2009 年度版(改訂第6 版),ライフ・サイエンス,東京,2008.
2)知念信男,他:沖縄県における鼻アレルギーの実態,琉大保医誌,3,387-394,1981.
3)知念信男,他:八重山地方における鼻アレルギーの実態,琉大保医誌,4,356-361,1982.
4)Cockburn IM,et al : Loss of work productivity due to illness and medical treatment.J Ocup Environ Med,41 : 948-953,1999.
5)谷内和彦,他:中枢ヒスタミン神経の解剖とその機能.アレルギー・免疫,12 : 264-269,2005.
6)内本栄光:花粉症に対する漢方療法.JOHNS,4 :321-326,1988
7)鎌田慶市郎:鼻アレルギーの漢方治療.現代東洋医学,9 : 24-31,1988.
8)荻野 敏:漢方薬〜耳鼻咽喉科アレルギー治療薬update 〜.ENTONI,104 : 27-31,2009.
9)岡本美孝:小児アレルギー性鼻炎の増加と問題点.小児耳鼻咽喉科,24(1): 25-28,2004.
10)奥田 稔,大久保公裕:塩酸エピナスチンドライシロ
ップの小児アレルギー性鼻炎における臨床試験ー第V層二重盲検比較試験ー.耳鼻臨床,補114 : 1-21,2004.
11)春名眞一:鼻・副鼻腔炎〜耳鼻咽喉科における小児へ
の投薬〜.ENTONI,79 : 55-61,2007.