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食物アレルギー診療のコツ
〜 2012年アレルギー週間に因んで〜

尾辻健太

沖縄協同病院 小児科 尾辻 健太

みなさん、こんにちは。寒い中、いかがお過ごしでしょうか。

今回はこどもの食物アレルギー患者さんを診 るときのコツを食材ごとに書いてみたいと思い ます。

食物アレルギーの総論に関しては、玉那覇先 生が当会報の昨年7 月号(vol.47 No.7)プラ イマリ・ケアコーナーに詳しく書いておられる ので、そちらを参考にして頂けたら幸いです。

<卵>

加熱の度合いによって食べられるかどうか大 きく異なってきます。例えば、ゆで卵1 個を平 気で食べられる子でも、卵かけごはん一口で蕁 麻疹が出ることもあります。また、加工品が食 べられる、と言ってもその程度はぴんきりです。 例えば、ケーキやカステラ、ドーナツをぱくぱ く食べているような子は、卵そのものもしっか り加熱していれば症状なく食べられることが多 いです。しかし、クッキー1 枚で症状が出るよ うな子は、卵そのものはしっかり加熱していて も少し食べただけで症状が出る可能性が高いで す。加工品も含めて長年完全除去をしているよ うな場合は、卵白IgE の値が低くても、気楽に 食べていいですよとは言えません。卵未摂取で 卵白IgE 陽性、過去に卵摂取でアナフィラキシ ーの既往がある、などの場合は、誘発症状の重 症度の予測がつかないので、卵白IgE がクラス 0 でない限りは病院での負荷試験を勧めていま す。負荷試験が難しい場合は、しっかりゆでた 黄身一かけらもしくは卵ボーロ一粒程度から自 宅で進めてもいいかもしれませんが、この程度 でアナフィラキシーを起こす子もいるので、見 極めが必要です。「卵」と名のつくものを全て 除去している方もいますが、卵殻カルシウムは 鶏卵アレルギーでも摂取可能な子がほとんどで す。鶏肉も、ほとんどの卵アレルギー患者さん は食べることができます。また、鶏卵アレルギ ーと魚卵アレルギーは何の関係もありません。

<牛乳>

卵と違って、加熱の影響はそれほど受けませ ん。様々な加工品に含まれるので、完全除去は 負担が大きいです。どのレベルの除去が必要な のか、具体的に指示してあげる必要がありま す。「乳」がつくので乳糖や乳化剤も除去され ている方がいます。乳化剤は乳とは全く関係な いので、通常は摂取可能です。乳糖は、極微量 の乳成分混入があるとされているので、牛乳1 滴でアナフィラキシーを起こすようなお子さん は注意が必要ですが、ほとんどの牛乳アレルギ ーっ子は摂取可能です。

<小麦>

加熱なしで食べることはないので、一般的に 加熱の度合いは問題になりません。しかし、発 酵の影響は大きく、ほとんどの小麦アレルギー 患者さんは味噌や醤油は問題なく食べることが できます。なので、小麦アレルギーの子を見た ら、「醤油はどうしてますか?」と聞いてあげ て下さい。「除去しています」と言われたら、 その旨を伝えてあげて下さい。日本人にとっ て、醤油を避けるのはなかなか大変です。小麦 は様々な加工品に含まれるので完全除去はかな り大変です。特異的IgE がクラス6 でも摂取可 能な子どももいるので、本当に除去継続が必要か、負荷試験などを通してしっかりと評価して あげて下さい。

<ピーナッツ>

今まで見てきた卵、乳、小麦は小さいうちは アレルギーがあっても大きくなるにつれて食べ られるようになる子が多いですが、ピーナッツ は逆に食べられるようになる子の方が少ないで す。また、症状が強く出る事も多く、アメリカ では食物アレルギーでの死亡原因No.1 となっ ています。沖縄は、ジーマーミ豆腐があったり ピーナッツバターを好きな人が多かったりする ので注意が必要です。

<魚>

サバアレルギーが有名ですが、青魚やサバが 特にアレルギーを起こしやすいわけではありま せん。白身魚も同じようにアレルギーを起こし ます。サバアレルギー、と言われる方の中に は、古いサバに含まれるヒスタミンに反応して いるだけの方もいます。魚は、特異的IgE があ まりあてになりません。クラス0 でも症状が出 る人がたくさんいますし、高値でも食べられる 人がいっぱいいます。また、いくつかの魚に反 応する人でも、シラスやツナ缶、かつおだしは 食べられる場合が多いです。

<甲殻類>

エビ・カニも魚と同様、特異的IgE があまり あてになりません。エビかカニどちらかを食べ て症状が出た場合、もう片方でも症状が出る可 能性が高いので注意が必要です。

以上、食材別にその対応のコツを少しずつ書 いてみました。特異的IgE が上がっているから 完全除去、と一律に指導すると、過剰な除去に なってしまいます。食物除去は患者さんやその ご家族、学校関係者などに大きな影響を与える ので、「必要最小限の除去」を常に考えながら 対応したいものです。患者さんやご家族が安全 に楽しく食事ができるよう、みなさんと一緒に 支えていけたらと願っています。食物アレルギ ーの事で何か分からないことがあれば、お気軽 にご相談下さい。