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最近の沖縄県産婦人科医会の情勢について

高良光雄

前日本産婦人科医会沖縄県支部長 高良 光雄

これまで沖縄県産婦人科医会に理事として長 年携わり、この度、4 年間の短期ではありまし たが産婦人科医会支部長の役務を辞しましたの で、当会にまつわる最近の情勢について報告さ せていただきます。

沖縄県における産婦人科医師団体組織は、琉 球大学産婦人科学教室を中心にした産婦人科学 会(会員数200 名・平成23 年3 月)と開業医 中心の産婦人科医会(会員数117 名)で構成さ れ、医会は医師会、周産期ネットワークで小児 科と連携し、助産師会と関わりながら、県や市 町村の健診事業や予防接種事業、性教育、性犯 罪で学校や警察と協力して多くの事業を展開し ています。また周産期に関わる産科医師や小児 科医師の絶対数の不足は長年改善されておら ず、沖縄県における周産期医療体制は薄氷を踏 む思いの診療体制が背景に在ると考えて良いか と思います。このような状況のなかで多くの制 度が持ち込まれ、公的事業が展開されました。

1.保助看法下での内診問題

平成16 年、保助看法に関する厚労省医政局 看護課長再通知で、産婦に対する看護師による 内診は、診療の補助行為ではなく、助産である と断定され違法とされたために、当該産科医は 罰金刑と医業停止の行政処分されたことが相次 いだ。警察の捜査介入を阻止するための法改正 は極めて困難なため、平成19 年3 月厚労省は 医政局長と分娩関係4 団体との会談で看護師は 自らの判断で分娩の進行管理はせず、医師、助 産師の指示のもとで補助行為を行うことを認め 合意した。

2.大野病院で医療事故による医師逮捕

平成19 年2 月大野病院産婦人科医師が業務 上過失致死と医師法21 条違反で逮捕された。 この事例は果たして過失致死にあたるかという 問題と、異常死として届け出義務が滞ったこと で医師法21 条違反とされた。医療行為に関連 した死亡を「過失の有無にかかわらず異常死と して警察に届け出る」という学会のガイドライ ン発表が根源になっている。届け出たら重大な 医療過誤を疑われ、業務上過失致死を問われる 危機感が全国的な運動へ広がり、平成20 年8 月、14 回の公判の後無罪判決が言い渡された。

3.県立看護大学別科助産専攻科の設置

平成14 年県立沖縄看護学校の閉校により助 産師不足の危機感が俄かにクローズアップされ た。関係する多くの団体の努力により、平成 20 年度より県立看護大学に別科助産専攻科と して併設され毎年20 人の助産師を養成するこ とが可能になった。5 年間の時限措置であった が更に猶予年間延長が認められた。

4.妊婦公費検診回数の拡大・充実

女性の社会進出により、高齢妊娠、出産とハ イリスク妊産婦の増加、少子化と共に社会問題 化され平成20 年度より公費による妊婦健診を 2 回より5 回に拡大した。公費は一般財源化さ れたため、予算の執行は各市町村の力量に伴 い、健診内容が全国的に大きな格差が生じた。 更に厚労省は安心して出産出来るように、健診 回数を全14 回と拡大した。費用は国庫補助と 地方財政処置で負担し医療機関が委託実施する 仕組みではあるが、健診内容が必ずしも安全な妊娠分娩をカバーしている訳ではない。

5.産科医療補償制度

平成21 年1 月より発足した産科医療補償制 度は、脳性まひ児が発生した時に殆ど100 %訴 訟が起き、裁判が長引き、そのうえ7 割以上が 敗訴となり、1 億数千万円に及ぶ賠償金が課せ られる場合もあり医師の受けるダメージは極め て高い。被害者を救済し、原因を分析し、再発 予防と早期解決から紛争を防止する事が急務と なった。産科における脳性まひ児のみを対象に した国の社会保障は不可能なため民間保険とす る。補償対象は妊娠28 週以降、2,000 グラム 以上で出生し、身体障害等級1 級、2 級に相当 する児で、児が20 歳に至るまでに総額2,400 万円が支給されることになっている。

6.分娩費の公的補助

平成21 年10 月、手元にお金がなくとも安心 して妊娠・出産が出来るような少子化対策は国 家100 年の大計として出産育児一時金39 万円 に産科医療補償制度加入の3 万円の計42 万円 が被保険者に支給される直接支払制度が発足し た。保険者は協会けんぽ、健康保険組合、国民 健康保険の3 者で、各医療機関は保険者に分娩 費用を代理申請し支払基金を通して各医療機関 に掛った費用分が振り込まれることになる。

7.公益財団法人おぎゃー献金基金及び公益社 団法人日本産婦人科医会がそれぞれ平成22 年10 月、および平成23 年3 月に公益化が認 定された。

○産婦人科医会の大きな事業の一つに重症心 身障害児救済支援のためのおぎゃー献金推 進事業があります。平成21 年度末には全 国の献金総額は52 億9 千万円に達し、献 金は障害児を収容する施設と障害発生を予 防する研究機関に贈られている。沖縄県で は正式には昭和41 年度より発足、総額1 億4 千600 万円のうち7 千400 万円が述べ 46 重症心身児施設へ贈呈されている。沖縄 県は会員当たりの献金額が全国的にトップ 3 という輝かしい実績が長年続いている。

○社団法人日本産婦人科医会は事務職員によ る不正経理が発覚したことから、当分の間 公益法人化は無理という認識が専らでした が、各界への精力的な働きかけで予想より 早く公益化が認定された。これにより各支 部の本部との切り離し、支部名称の変更、 定款の変更が余儀なくされた。

8.平成22年10月30 〜 31日、日本産婦人科医会九州ブロック協議会当地開催

9.母体保護法

産婦人科医会の最大の懸案であった改正母体保護法が平成23 年6 月に成立した。

この度の法改正で母体保護法指定医師指定 権が各都道府県の公益社団法人医師会が指定 権を有することになって、公益法人化が出来な い一般社団法人医師会には指定権がなく指定医 師のいない空白地帯が発生するという母体保護 上極めて憂慮すべき事態を招くことになる。法 改正は殆ど不可能なため、法改正施行の際に指 定を行っていたものを指定主体とし、指定医師 の業務報告を毎年厚生大臣に報告するという文 言を附則に追加することで最終的に双方の合意 が成立した。

10.その他

沖縄県の低出生体重児の出生率の高さは長年 に亘って改善されず、これらに関連するハイリ スク妊娠や分娩を扱うためには産婦人科医、小 児科医、那覇市医師会のNICU 空床情報の提 供など周産期ネットワークの強い連携で推進 し、中北部地区は県立中部病院を本拠地として 母体搬送、新生児搬送を滞りなく行って来た功 績は全国的に見ても誇れるものがあります。