南部地区医師会 会長 名嘉 勝男
地区医師会が抱える種々の問題・課題につい て話し合う当連絡協議会が11 月5 日(土)ロ ワジールホテル那覇にて開催された。
当連絡協議会は、地区医師会が輪番で主催し、 毎年1 回(過去に年複数回開かれていた時期もあ る)各地区並びに県医師会の役員が一同に会し、 意見交換を行いながら問題解決に導くと共に、 相互の連携と親睦を深めることを目的に行われ ており、今年は7 年ぶりに当会が担当となった。
議題は、那覇市医師会より提案のあった「在 宅医療についての現況について」と当会より提 起した「特定健診受診率向上に向けた取組みに ついて」の2 題についてご検討いただいた。
以下、今回の議題の提案趣旨及び各地区の意見回答を掲載する。
議 題
【提案趣旨】
国策として在宅医療が推進され、全国的にも 在宅医療を行う医療機関は徐々に増えつつある が、診療所間あるいは多職種での連携体制がま だ十分には整っていない状況である。
沖縄県においては本土に比べて在宅医療を担う 医師数も少なく、連携体制(在宅医療ネットワー ク)についても進んでいる状況ではない。
那覇市医師会においては定期的に在宅に関わ る多職種での在宅ネットワーク構築のための顔 合わせ会を開催している。また、平成22 年10 月より在宅療養支援診療所会を立ち上げ、副主 治医制の導入、市内の地域ごとにサブネットワ ークを作ることなどが話し合われてきた。本年 8 月からは定期的に在宅医療推進のための勉強 会を開催している。今後はさらに行政を含めた 多職種での連携をさらに進めて行くこと、関連 事業所、一般の方への啓発などが必要でありま だまだ課題が多い状況である。
地区医師会として在宅医療推進や連携システ ム構築のために取り組んでおられることがあれ ば現況をお聞かせ頂きたい。
【議題1)に対する各地区の意見回答】
北部地区医師会(大西弘之副会長)
北部地区での在宅医療の現状は、訪問診療を 行うドクターの数が少なく訪問看護ステーションにおいては、2 施設しかない現状である。
今年になり、初めて麻薬を処方できる薬局が出来た為、末期がん患者の家族負担が軽減された。
ネットワークに関しては、構築されておらずこれからの課題である。
中部地区医師会(西平守樹理事)
「在宅医療に於ける中部地区医師会の取り組み」
現在、中部地区医師会管内には在宅医療を行 っている医師は19 名いる。その他にも在宅診 療を行いたいが、なかなか実際に足を踏み出せ ない医師もいるようである。在宅診療に意欲が ありながら、現実に二の足を踏ませたり、現在 困っている問題は時間的制限である。学会参 加、病気による休業等の有事において一人で在 宅診療を行っていると、休みをとる事が出来な いという事情が多々にしてある。
このような事情は在宅診療のみならず、老人 ホームを含む介護付き高齢者住宅を診ている医 師も同様な事が起きている。
このように一人で患者を在宅や施設で診てい る医師の連携をはかり、互いにサポートする組 織を作ろうと現在準備を進めている。
在宅診療を行っている医師だけでなく、老健 施設を診ている医師、訪問看護ステーション、 訪問介護を行っている施設のネットワークを創 り、ネット上でサポートする医師を募る形が出 来ないかと検討している。その中に総合病院に も参加を呼びかけ、ALS や筋ジストロフィー 等で人工呼吸器を用いて在宅でケアしている患 者の停電が予想される有事にサポートするシス テムも含もうと考えている。
これらの制度を進めていく上で、いくつかの 問題点がある。一つにはサポートする医師への 報酬をどのように設定するか、二つ目にはその センターをどこに置くか、三つ目には個人情報 をどう保護するか等がある。これに対してセン ターは中部地区医師会訪問看護ステーションに 置く案があがっている。個人情報に関してもサ ポートする医師と主治医との間でサポート医師 が決まった段階で連絡し合う等の案があがって いる。
報酬の面では未だに意見の集約が出来ず、懸 案として残っている。長崎県医師会や他の医師 会の例を参考にしながら、さらに検討を進めて 行きたいと思う。
浦添市医師会(山里将進副会長)
浦添市医師会では、支援診療所11 クリニッ クが参加して、3 年前に浦添市在宅医療ネット ワークを立ち上げた。
主治医・副主治医・協力医師・病診連携で 在宅医療を推進している。
ネットワークでは、現在530 人程の管理を行 っている。3 割が自宅、7 割が居住系施設で在 宅医療を行っている。
介護・福祉事業所との意見交換会等を浦添市 の協力を得ながら行っている。
南部地区医師会(湧上民雄理事)
那覇医師会がご提案されているように国は在 宅医療を推進しているが、連携体制が十分機能 していない現状があると思われる。在宅医療の 普及が進まない原因として在宅医療連携ネット ワークが十分に機能していないことがあげられ ている。
当医師会は、現在、在宅医療ネットワーク関 連事業は取り組んでいない。そこで南部地区に おける在宅医療の現状を把握するために会員の 先生方に「在宅医療の現況」についてアンケー ト調査を実施した。
在宅医療を行っている11 の医療機関(診療 所)にアンケートを送り、10 施設から回答を得 た。回答された10 施設では24 時間対応の在宅 医療を行っており、平均して28.4 人の患者を診 ているとのことであった。また、意見・要望及 び問題点については多数のご意見を頂戴した。
連携については概ねうまくいっている施設も あるが、やはり不十分と感じている施設も多々 あり、今後、医師会が在宅医療連携ネットワー クに取り組んでいく意義があるのではないかと 思われる。
当地区医師会では在宅医療ネットワーク事業 を今後の検討課題として取り上げて行きたいと 考えている。
宮古地区医師会(下地晃副会長)
宮古地区の在宅医療の現況
5 施設(4 診療所、1 病院)で在宅医療を担っている。
1 病院:医療85 件、介護26 件の計111 件。
4 診療所はそれぞれ、21 件、91 件、4 件、145 件
合計で372 件の在宅医療を行っている。
連携体制(在宅医療ネットワーク)はほとんど進んでいない状況であり、今後の課題と思われる。
八重山地区医師会(上地国生理事)
・石垣島は在宅療養支援診療所は可動していない。
・訪問診療を行っている診療所3 施設
・在宅支援に向けて八重山圏域の「医療と介護 の連携パス」と題しケアマネージャー、訪問 看護NS と八重山病院、かりゆし病院、石垣 島徳洲会病院のメンバーで調整会議を2 月に 1 回行っている。
・看護要約、介護支援連携指導書、居宅支援事 業所の書類を八重山地域の医療機関で統一で きないか検討中である。
【提案主旨】
平成20 年度よりスタートした特定健診・保 健指導は、沖縄県医師会がリーダシップを発揮 され、全県を網羅した集合契約の締結実現によ り、多くの医療機関が実施協力機関となり、こ れまで円滑に運営されてきた。
前年度の第3 回沖縄県医師会マスコミ懇談会 でも「特定健診」が取り上げられ、保険者側か らの貴重なデータ等により、受診率の向上とそ の後の保健指導による予防活動が住民の健康保 持増進のためいかに重要かを理解したところで ある。また年々わずかながら受診率が向上して いることも報告されているが、2012 年(平成 24 年度)までの目標とされている65 %にはほ ど遠い状況にある。
ご承知のとおり、国は、5 年後の2013 年 (平成25 年度)から各保険者の達成率によって 「後期高齢者医療制度」の支援金を最大で10 % 加減算するとしている。つまり、目標を達成で きなかった保険者は健診を手抜きし医療費を上 げているとみなして罰則を与えようとしている のである。
こうした状況のなか、南部地区管内の市町村 においても受診率向上のため様ざま取組みがな されてきた。
南部地区管内では南城市の受診率が高く、そ の取組みが注目されている。特にボランティア 健康づくり推進員制を設けたことやナイト健 診、オートコールシステム(コールセンター) の設置などにより、昨年・一昨年度は41 %台 の高い受診率を維持している。
さて、当会では、受診率向上のため我々(医 師会)も何らかの取り組みが必要ではないかと 度々理事会等で話題になるが、具体的な対策の 提起には至っていない。
そこで、各地区医師会における受診率向上に 向けた取組み及び各管内市町村の取り組み(特 に受診率向上のために有効的と思われる取組 み)等をご紹介いただき、今後検討する上での 参考とさせて頂きたい。
なお、県が独自で進めている通院中の患者デ ータを利用した受診率向上のための取り組みに 対する各地区の対応及び見解についてもご教示 いただければ幸いである。
【議題2)に対する各地区の意見回答】
北部地区医師会(石川清和副会長)
特定健診データの活用
特定健診結果を持参させコピーしてカルテに添付
特定健診結果説明 特定健診、癌検診受診の確認
慢性疾患患者・急性疾患患者・就労時健診受診者・予防接種等すべての患者
子供の予防接種、親の付き添いで来た人も肥満者は確認
未受診者へは集団健診、個別健診いずれかに受診を勧める
※外来定期受診時に個別健診を行うと外来再 診料、外来管理加算122 点、初診料270 点 が請求できない
2009 年名護市産業祭りで頸動脈エコー検査・心電図・ABI を2 日間実施
検査データを持参してもらい保健指導
2010 年名護市産業祭りで
血糖、HbA1c 測定 特定健診未受診者の掘り起こし
特定健診結果改善者の表彰
2011 年10 月22 日・23 日 今帰仁村総合祭りで 頸動脈エコー、HbA1c 測定 特定健診未受 診者の掘り起こし
中部地区医師会(中田安彦副会長)
本会では特定健診を会員施設での「個別健 診」と検診センターによる「集団健診」とを実 施している。個別健診は年々、受診者が増加し ているが、集団健診が減少傾向にあるため、各 市町村の受診率は向上していないのが現状であ る。本会ではこれまで受診率向上の取り組みと して次の事を行ってきた。
以上、色々な手立てを行ったが、3)の取組み は地域によってバラツキがあるので、4)の取組 みのみ実施しているが、大幅な受診率アップにはなっていない。
今後の対策として、個別健診実施医療機関で 検診センターの検診車両を活用した、「ミニド ック(仮称)」と称して、1)特定健診2)胃がん 検診3)肺がん検診4)肝臓検診5)大腸がん検診6)乳がん検診等を個別健診実施医療機関敷地内で の同時実施に向けて調整しているところである。又、那覇市や浦添市で実施されている「保 険証兼受診券」への変更を市町村と調整を進めることにしている。
通院中の患者データーを利用した受診率向上 の取り組みは、ただ単に受診率を上げるためだ けに一般診療の検査結果を使用するため、通院 中の患者にとって特定健診を受診したという意 識は薄く、特定健診の意義が問われることにな り疑問である。
浦添市医師会(仲間清太郎副会長)
<医師会側の取り組み>
1.まだ特定健診を受託してない医療機関があ る。できるだけ多くの医療機関が受託しない と受診率は上がらない。したがってまだ受託 してない医療機関―特に通院患者の多い病院 に声掛けして受託するようお願いした。
2.医療機関の玄関前に、行政側から依頼のあ った特定健診ののぼりを立てた。また、ポス ターを待合室に張り出した。
3.診察時に医師・看護婦から特定健診を受け てない患者に、特定健診の必要性や意義につ いて説明し通院患者でも受けるよう指導した。
<行政側の取り組み〜聞き取り>
1.H21 年度から電話による勧奨。
2.H21 度から全世帯を個別訪問して受診勧奨。
3.H23 年度から詳細健診(心電図・貧血・眼底検査)について希望者全員を対象とした。
4.H23 年度から特定健診受診券と健康保険証
を一体化して、医療機関窓口での未受診者へ の勧奨をし易くした。
<受診率を上げるため、県独自で勧めている通院患者のデータを利用することに対する見解>
通院患者で特定健診を受けていない方が多いと言われている。浦添市でも、3,000 名以上。
色々な努力をしても受診率が上がらなけれ ば、通院患者のデータを利用することも一つの 考えと思う。このままの状況で行くと、受診率 65 %達成は、かなり難しく、通院患者のデー タを利用せざるを得ない。
那覇市医師会(田名毅理事)
那覇市の特定健診受診率は平成20 年度(実 績: 22.5 %/目標値: 33 %)、21 年度(31.5 % /41 %)、22 年度(33.9 %/49 %)、今年度 (H23)については前年度実績に基づき、現実 的に達成可能と考えられる40 %を目標として いる。
以下に那覇市医師会、那覇市が協働して取り 組んでいる内容を紹介する。
1.「特定健診・保健指導に関する連絡会議」の開催について
那覇市役所とは、平成20 年度より定期的 (年3 〜 4 回)に同連絡会議(実務者会議) を開催し、受診率の向上をはじめ各種の課 題・問題に取り組んでいる。
2.糖尿病講演会における「那覇市の特定健診に関する報告コーナー(5 分)」について
特定健診開始に合わせ、医師会会員の診療 連携の円滑化を目指し糖尿病治療検討委員会 を立ち上げた。当委員会主催の会員向け講演 会の冒頭で、那覇市の担当者(保健師等)が 特定健診の受診率の推移、把握できた疾患の 状況などについて情報提供を行っている。
また、この内容は那覇市医師会報にも投稿 してもらい講演会に参加できなかった会員に も周知している。
3.ラジオ番組「ROK ・医療ホッとライン」内での広報活動について
当会の広報ラジオ番組(毎週土曜日、9 時 50 分開始、10 分番組)の中でリスナーに対 して特定健診の受診奨励を行っている。
4.「のぼり旗」による受診率向上に向けて
那覇市が「特定健診を受けましょう」とい うロゴが入ったミニのぼり旗(H21.11 月) を作成し、特定健診実施医療機関に配布し た。各医療機関では受付カウンターにこれを 設置し、外来受診者に特定健診の受診勧奨を 行っている。
また、同様に平成23 年4 月には「のぼり 旗」を那覇市が作成し配布された。現在、実 施医療機関の玄関口に設置している。
尚、「のぼり旗」の文言は、次の二種類がある。
1)予約不要!当院にて「特定健診」実施中!(予約が不要な医療機関の場合)
2)当院にて「特定健診」実施中!(予約が必要な医療機関の場合)
5.「国保証+特定健診+がん検診」一体型の保険証の広報活動について
平成23 年度より那覇市は国保証を「特定 健診+がん検診」の受診券と保険証一体型に 変更し受診率向上を期待しているが、現時点 では市民への周知が不十分なため昨年度と比 較して受診率が低迷している。
そこで当会は、各医療機関受診者から一体 型の保険証について問い合わせがあった際に は利用促進につながるように十分に説明して 欲しいと、10 月3 日より各医療機関に協力依 頼文書を送付している。
6.受診期間の延長について
実務者会議等において那覇市に特定健診の 実施期間を長くするようにこれまでも提案し てきたが、今年度より「通年」に変更となっ た。同様に、がん検診についても通年に近い 形(5 月〜翌年3 月)で変更になった。
宮古地区医師会(下地晃副会長)
(宮古島市特定健診受診率向上の取り組み)
宮古地区医師会として現時点で特に取り組ん でいることはないが今後検討してみたい。以下 は宮古島市行政で取り組んでいる方法である。
1)受診券の発送時にパンフレット・集団健診も日程表及び個別健診医療機関掲載等のチラシを同封する。
2)行政連絡委員による特定健診パンフレット等の配布。
3)有線テレビ(宮古テレビ)によるCM 及び行政チャンネルによる文字放送。
4)宮古島市「広報みやこ」へ集団健診の日程表等折り込み。
5)宮古島市ホームページへの掲載。
6)未受診者への受診勧奨ハガキ送付。
7)広報車による各地区での広報活動。
8)各庁舎にて集団健診実施期間中の懸垂幕設置。
9)集団健診実施箇所付近での「のぼり」の設置。
10)新聞社(宮古毎日新聞・宮古新報)への受信状況等の記事掲載。
平成22年度の受診率: 37%
平成23年10月時点の受診率: 24.44%
H23年度受診率予想は: 42 %
現時点の内 訳:集団健診 1,590人(10月現在数値)
個別検診 1,343 人(8 月現在数値)
合計 2,933 人
八重山地区医師会(上原秀政会長)
八重山地区の医療機関での一例を紹介させて頂く。
広報を行った。
を、受付で未受診の方に配布した。(7 〜 8 月・配布完了)部数: 300 枚程度
(保険証の中に特定健診受信日記載欄があ り、そこで確認して配布)
4 〜 9 月の受診者は去年110 名が今年は 131 名と約19 %増であった。
以上のとおり提案議題に対する各地区の意見 回答についての発表が行われたが、時間の都合 によりこれら議題に対する具体的な結論(全体 の方向性)を示すまでには至らなかった。勿 論、結論が出るような議題ではなかったように も思われるが、しかしながら、各地区の取り組 みが確認できたことは今後それぞれの活動ある いは検討を行っていくうえで大いに参考となる ものと思われる。
最後に、ご参加いただいた各地区医師会及び 沖縄県医師会の役員並びに事務局の皆様には、 改めて感謝を申し上げると共に、当連絡協議会 での話し合いがそれぞれの地域医療・保健・福 祉の充実・発展につながれば幸いであり、期待 したい。
なお、当連絡協議会終了後に行われた懇親会 では、急きょ各地区医師会長はじめ県医師会長 よりご挨拶をいただき、また当会自慢の「南部 地区医師会報」に連載中の「スキ間de 美術館」 の筆者である吉川朝昭先生(よしかわ整形クリ ニック)を紹介するなど、終始和やかな雰囲気 に包まれ、盛会裡に執り行われたことを最後に ご報告申し上げたい。
協議会終了後の懇親会
翌日開催した地区医師会連絡協議会懇親ゴルフコンペ