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平成23年度第3回マスコミとの懇談会
「医療と消費税」について

玉井修

理事 玉井 修

平成23 年11 月17 日(木)、沖縄県医師会館 で第3 回マスコミとの懇談会が開催されまし た。今回のテーマは医療と消費税です。これま で医学的な内容での懇談会が多かったのです が、今回のテーマは2015 年までに消費税を 10 %に段階的に上げていくという政府の方針 によって医療界が受ける影響をしっかりとした 形で早い時期にマスコミに訴える必要があると 考えたからであります。正直に言うとこのテー マでマスコミが興味を示してくれるのか少々不 安であり、このテーマで行うことに対して非常 に不安でありました。しかし、今回のマスコミ との懇談会はマスコミ側の参加者も多く、質疑 応答もかなり盛り上がりました。TPP 交渉参 加問題など、医療と経済政策は非常に密接に 関連しており、医療を取り巻く環境は経済政 策の変化によって大きなダメージを受ける可能 性があります。しかし、この様な問題に関して 後手後手にメッセージを出していては我々の主 張が非常に利己的に映る可能性があります。経 済問題はお金の話をしなければならず、時間を 尽くし、言葉を尽くして理解を広げていく必要 があります。早期にこの様なテーマで懇談会を 開催し、理解を広げていくきっかけにしていく 事は、医師会の主張を正確に理解してもらい、 マスコミに正確に扱って貰うためには大切な事 であると思いました。今後も一見扱いにくいテ ーマであっても、必要があればしっかりと取り 上げてマスコミとの議論を深めていくことが重 要だと思いました。

懇談内容

マスコミとの懇談会出席者

懇談事項

医療の消費税 −何が問題か?−
沖縄県医師会副会長 玉城 信光
玉城信光

医療の消費税の問題 については、マスコミや 医師会の会員にもわか りづらいところが多いと 思います。

まず消費税が導入さ れたときに日本医師会 は患者さんの負担を増やしてはいけない、消費 税をとってはいけない、診療報酬に消費税はそぐわないと考えたようです。その上に消費税の 仕組みがあまりわからなかったと思います。そ れで診療報酬に消費税はかけなくてよいとしま した。これがすべての始まりです。

消費税をかけないとどうなるか。図1 を見て ください。仕入れ業者から100 万円の商品を買 った事業者は5 万円の消費税を仕入れ業者に払 います。これをお客さんに販売し、お客さんか ら10 万円の消費税を受け取ったときには差し 引き5 万円を税務署に消費税としておさめま す。事業者が消費税を負担することはないので す。お客さんが負担しているのです。

図1

図1

ところが図2 を見てください。保険証で診察 する診療報酬は診療に関わる材料、超音波の機 械などを仕入れたときに5 %の税金を払いま す。本来ならそれらを患者さんから5 %の消費 税をもらい差額を税務署に払うのですが、消費税が導入される際に、消費税はかけないとした ために、患者さんから消費税がとれず医療の収 益の中から業者に消費税を支払い医療者の自己 負担になっているのです。

図2

図2

図3 に示しておりますが、日本医師会が国民 の調査をしたときに患者さんと国民の中で消費 税が課税されていないと認識している人はわず か28 %前後です。40 %前後の人が消費税を払 っていると思っているのです。

図3

図3

表1 に消費税のかからないものが示されてい ます。まず保険証を使う診療報酬、その他埋 葬、火葬代、学校の授業料、アパートの家賃な どです。診療報酬を除く事業は自分で価格を決 定することができるのでアパートの修繕費が重 なると家賃を値上げして消費税分をカバーでき ます。医療は公定価格なので消費税分を自分で 値上げすることができません。

表1

表1

消費税が課税された頃には診療報酬に消費税 分を上乗せし診療報酬のアップが認められまし た。しかし、その後の診療報酬の削減で消費税 の上乗せ分は無くなってしまいました。日本医師会は診療報酬に消費税を課税するように要請 しています。しかし、課税するときには患者さ んの負担を軽減するために0 税率を課税しても らいたいと要請しています。消費税0 %を課税 すると病院が事業者に支払った5 %の消費税が 税務署から還付されるのです。医療の中から 5 %の収益をあげるのは大変難しいです。50 万 円の消費税を払うためには収益率が5 %だとす ると250 万円の収益を増やさなければなりませ ん。現在はそのようなことをして、機器購入の 代金、診療材料の購入、建物の賃貸料にかかる 消費税を払っているのです。もし消費税が 10 %になれば病院の改築も最新の医療機器も 購入できなくなります。

図4 に示すとおり消費税が10 %になったと きに患者さんの税負担を本当は0 %にしたいの ですが、おそらく0 %はないでしょう。患者さ んの負担が3 %になると病院は仕入れ業者に 10 %の消費税を払っていますから、7 %払い過 ぎなのです。それで税務署から7 %の消費税分 を還付できるのです。年間1,000 万円の収入が あったとすると、その7 % 70 万円を還付でき て70 万円の節約になります。そうでなければ 売り上げを350 万円増やさなければならないの です。消費税が還付されることで従来の仕事量 でも十分に経営が可能になるのです。

図4

図4

どうですか、医療の消費税問題はこんなに大 きな問題が含まれるのです。次期税制改正の時 には医療界は声を大きくして診療報酬に消費税 を付加すること、その場合には患者さんの負担を軽減することを要求したいものです。

質疑応答

○赤嶺氏(沖縄タイムス)

赤嶺氏(沖縄タイムス)

消費税が5 %上がった 時に医療の公定価格を 一部値上げしたとのこと だが、値上げされている 治療と値上げされていな い治療の違いや金額の差 はどうなっているのか。





○玉城副会長 医療費については、診療科や 医療機関の規模等にも関係してくるので、どの 部分で金額が値上げされたか、お答えすること ができない。例えば県立病院と中小医療機関の 入院費の比較をすると、1 日1 人約6,000 円県 立病院の方が割高となっている。

○玉井理事 人員を多く配置している県立病 院等の大規模病院については、算定基準がつく られているが、中小医療機関については算定で きない、またはマイナスの評価をしている。つ まり、大規模病院が儲かるようなシステムにな ってしまっている。

○深谷氏(エフエム那覇)

深谷氏(エフエム那覇)

医療と消費税の問題 は、非課税ではなく0 税率で運用を開始して いれば、特に問題にな らなかったと聞いてい るが、日本医師会は、 なぜ非課税にしてしま った過ちを認めないのか。それとも、過ちを認 められない事情があったのかお聞きしたい。





○宮城会長

宮城会長

過ちを認めない理由 として、当時日本医師 会は消費税の仕組み、 非課税の意味を理解し ていなかったため、政 府に対して非課税で良 いと回答した。そのため、医療と消費税については現在問題となって いるが、日常必要とされる医療に対して非課税 とするという考え方については正しいことであ る。ただ、仕組みについて問題があるため、政 府に対して是正しようと現在働きかけている。



○玉城副会長 減価償却等の税制用法につい ても、医療機関と民間企業で異なっており、医 療機関の税率が悪い現状である。本件について も、政府に対して改善されるよう意見している。

○仲宗根氏(週刊レキオ)

仲宗根氏(週刊レキオ)

大規模病院と中小医 療機関の入院費差額の 6,000 円については、保 険診療内となっている のか。保険適用外の費 用で差額が発生してい るのか。また、入院費 の差額が発生する理由や基準についてはどうな っているのか。





○玉城副会長 入院基本料については、大規 模病院については約12,000 〜 13,000 円とな り、中小病院(有床診療所)については、約 6,000 円で入院が可能となっている。その差額 の理由については、根拠がないのだが、看護の ケアの違いから差額が生まれているのだと考え ている。

○宮城会長 有床診療所と大規模病院のベッ ト差額が発生する基準については、施設基準 (人員配置)や病床数等で決定される。基準と しては20 床以上配置するのみではなく、7 対1 基準で看護師を配置する等人員についても基準 がある。

○仲宗根氏(週刊レキオ) 薬剤について、 市販の薬と薬局で処方される薬について消費税 が付与されるものとされないものの違いは何か。

○玉城副会長 医療保険が適用される薬につ いては消費税がかからないが、処方箋が出され ていない医療保険外の薬に対しては、消費税が 付与されることとなっている。

○仲宗根氏(週間レキオ) 高額療養者につ いては、当人の収入によっては医療費の払い戻しが適用される場合があるが、今後公定価格に 対して消費税が付与された場合、日本医師会と して収入によって税率を変えるという考えはあるのか。

○玉城副会長 元々、課税しない考え方であ り公定価格に対して消費税が付与されることは 考えにくい。健康保険組合においては、高齢者 の医療費が増加し解散する組合が多くなり、国 の健康保険に加入する企業が多くなっている。 高額療養者については、その影響もあり健康保 険とは別に国が負担する形となっており、健康 保険の運用が非常に難しい状況となっている。

国民健康保険は先進医療もカバーできている 中で、日本人は生命保険に加入している割合が 世界一(40 兆円規模)となっている。その半 分でも国の内需の拡大のため使用することがで きれば国が活性化し、そこまで厳しい運用にな らないと考える。

○城間先生

城間先生

各医療機関によって も消費税の影響は異な る。例えば、急性期病 院や手術を多く取り扱 っている病院について は、薬品や医療器具等 の購入が多くなるため、 必然的に消費税が高くなる。そのため、この消 費税問題が改善されないまま増税されれば、各 医療機関の経営が厳しくなることは必須であ る。マスコミ各社を通して一般の方に医療と消 費税の問題を広く周知して頂きたい。




○玉城副会長 経費削減は医療界では大切な こと。公定価格の中で人件費を変動させること は難しいことを考えると、医療機関において消 費税は大きな影響がある。消費税が増税される と医療機関の経営が厳しくなる。

○与儀氏(琉球朝日放送)

与儀氏(琉球朝日放送)

日本医師会として、 政策制度要求としては 消費税法の改正を要求 しているのか。また、 非課税と0 税率の違い で、ここまでの問題と なるのは政府側の不作 為で発生してしまったのではないか。





○宮城会長 政府から何度も非課税の運用に 対して意思の確認があったが、日本医師会は仕 組みを知らずに承認してしまった。

○玉城副会長 基本的には毎年、0 税率にし てほしいと政府に要求し、税金の還付を受けら れるよう働きかけている。ただし、患者さんに 対しては税金の負担をかけない形にしてほしい と訴えている。

○大城氏(エフエム沖縄)

大城氏(エフエム沖縄)

TPP についても、大 きな制度改革となる可 能性があると思うが、 医師会の立場としては 「反対」と聞いているが、 反対の理由をお聞きし たい。






○宮城会長 TPP については、関税の問題 ではなく国の在り方の問題である。日本では法 律で、ある程度規制されているが、今回混合診 療については合憲と判断されたこともあり、 TPP が導入されると混合診療が完全に解禁さ れ、海外の保険会社や製薬会社が自由競争を阻 害しているとして、日本の法律改正等の様々な 裁判が想定され、日本の皆保険制度の崩壊等に 繋がりかねないと懸念される。